という訳で清楚・項羽ルート開始!
水上体育祭の後にするか結構ギリギリまで悩んだんですが、とりあえずクローン組(義経除く)は六月中にフラグ回収する事にしました。
本当は義経と一子の会話回にするつもりだったんですが、ちょっと思うことがあったので保留しました。
「ふふ。あの二人、すごく相性が良いわよね」
「そうだね。性格も似ているし、目指す場所が一緒なのも大きいのかも」
二人とも差異はあるが、目指す未来の自分象は『人を惹きつけ支えられる人物』と言う事になる。
「目指す場所……かぁ」
清楚姉さんは茜色に染まる空を眺めながら呟いた。
その呟きと表情は、どこか寂しげだった。
「何かあった?」
心配になって清楚姉さんに尋ねると、困ったような笑顔で『なんでもない』と言われてしまった。
その仕草に盛大に溜息を吐き、清楚姉さんの頭を軽く小突いた。本当に軽くだ。
「いたっ。もう、女の子に暴力振るうなんて男の子として最低だよ」
清楚姉さんが頬を膨らませて抗議してくる。
「あんな『凄い困ってます』なんて顔されたら心配に決まっているだろ。そうは思わないかスイ?」
『はい、優季様に同意します。だがテメェーが清楚を殴った事は覚えとくからなガキ』
……相変わらず男には厳しい自転車だ。
因みにスイスイ号、清楚に関することや男が乗ろうとすると、このように物騒な言動になる事がある。声に迫力があるから普通に怖い。
「ユウ君、スイスイ号……」
「他人に話す事で見えてくるものもあるよ。もちろんそれは愚痴だったり弱音だったりも含まれる。まあ男の自分じゃ言い難い事もあるだろうから、そういう問題ならあずみさんに相談してみたらどうかな? あの人面倒見もいいし」
清楚姉さんは少し考え込むと、そうだね。と言って顔を上げた。
「むしろ今の悩みを相談するならユウ君が一番適任なのかもしれない」
「なら遠慮しないで言ってくれ。できる限り力になる」
「ふふ、ありがとう。それじゃぁちょっと愚痴になっちゃうんだけどね……」
そして清楚姉さんの口から悩みを聞かされる。
正体を知らない為に義経達のように武士道プランに積極的に携われない不安。
年下の義経達が頑張っているのに、年上の自分は手助けすらできないもどかしさ。
川神学園でみんな夢の為に頑張っているのに、自分だけ漠然と勉強や本を読んでいるだけでいいのかと言う疑問。
「やっぱり私、心のどこかで自分が何者か知らない事を不安に思っていたんだと思う。でも、今までは九鬼という限られた世界にいたから気にならなかった。けど……」
「夢の為に頑張る人達を見て、その不安が大きくなった?」
自分の言葉に、うん。と清楚姉さんが答えた。
「S組は優秀な人達ばかりだけど、それでも自分の得意分野を伸ばすために努力しているし、義経ちゃんだって今の内から勉強に特訓にと頑張ってる。なら私も勉強だけじゃなくて、自分が誰のクローンなのかちゃんと知って、何か得意な分野があるならそれを今の内に伸ばしたいと思うの……」
清楚姉さんが『どう思う?』と言った視線をこちらに向ける。
「……清楚姉さんは清楚姉さんだから、無理に誰のクローンなのかなんて、気にしないでいいと思う……」
彼女の問いにそう答えると、清楚姉さんは少し残念そうに俯く。しかし、自分の答えはまだ終わっていない。
「なんて、そんなのはそうなった事が無いから言えることだ」
「え?」
答えの次の言葉を聞いて、清楚姉さんは顔を上げた。
「自分の事なのに分からない。そんなの不安に思って当然なんだ。知りたいと願って当然なんだ。だから……」
ハンドルに添えられていた清楚姉さんの手を握りながら、しっかりと彼女を見据えて、最後の答えを伝える。
「清楚姉さんの知りたいと思う気持ちは、間違っていない」
「ユウ君……」
「丁度明後日からは土日で休みだ。自分なりに清楚姉さんの正体を色々調べてみる。だから、清楚姉さんも約束して欲しい」
清楚姉さんの手に添えていた自分の手に、少しだけ力を込めてしっかりと彼女の手を握る。
「例え正体が誰でも、自分自身を見失わないで欲しい。正体を知って、その事実を一人じゃ受け止めきれないときは、自分や他のみんなを頼って欲しい。な、スイスイ号」
『はい。私は清楚のパートナーですから』
かつて自分は、自分の記憶を追い求め、その結果に……自分を見失いそうになった。
そんな時に支えてくれたのがパートナーと戦友だった。
彼らのお陰で、自分は真実を受け止め、自分を信じて前に進む事ができた。
だから清楚姉さんにも知っておいて欲しかった。頼ってもいいということを。
清楚姉さんとしばらく見詰め合っていると、彼女は次第にいつもの優しい微笑を浮かべて、ハンドルから手を放して、添えていた自分の手を握り返した。
「うん、約束するね」
「じゃあ清楚姉さんのしばらくの目標は『自分探し』って事で」
「あはは、そう言われるとなんか恥かしいな。でも、頼りにしてるね、ユウ君」
「ああ。全力を尽くす」
「それじゃあ今日は子供の頃みたいに手を繋いで帰ろうか?」
「いいよ。なんか懐かしいな」
少し気恥ずかしかったが、清楚姉さんが嬉しそうだから、まあいいか。
お互いに手を繋いだまま、スイスイ号を交えつつ昔話に花を咲かせた。
◇
いつからだろう。ユウ君を頼もしいと思うようになったのは。
傷付いた逞しい手を握りながら、子供のように朗らかに笑う弟のように思っていた男の子を見詰める。
初めて島に来たときは、あんなにガリガリだったのにね。
ユウ君は島の施設及び私達を護衛する任を任された鉄さんの連れ子で、最初はこれから一緒に暮らす子として紹介された。
大人達がどんな取引をしたのかは分からないが、私は純粋に彼の存在が嬉しかった。
当時の私は義経ちゃん達とは距離を取らされていたから。
今考えると、多分義経ちゃん達の仲間意識を強化させるためだったのかもしれないわね。
そんな環境の為か、私とユウ君はよく二人でいることが増えた。
ううん。きっと私が傍にいたかったんだと思う。
身体の弱ったユウ君はリハビリの基礎体力訓練にもついていけずに、吐いたり倒れたりが当たり前だった。私はそんな彼を傍で応援し続けた。
勉強では一年もブランクがあった為、私が先生の代わりになって教えてあげた。
通常授業の後の二人での勉強会は楽しかった。
以前は自由時間になると他のみんなの元に向かっていたが、ユウ君が来てからは二人で本を読んだり、ユウ君のリハビリを手伝って過ごした。
それから一、二年くらいして義経ちゃん、弁慶ちゃん、与一君とも仲良くなって、四人で過ごす事が増えた。
その中心には間違いなくユウ君がいた。
あらら? もしかして最初から頼もしい男の子だった?
過去を掘り下げても出てくるのはいつも笑っているユウ君の顔と、大人びた微笑で自分に手を差し出すユウ君の姿。
む~お姉ちゃんとしてはちょっと複雑だわ。
年上として、姉として支えてきたつもりが、実は支えられ続けていた事実を確認することになった現実に、意識しなければ気付かれないような小さな溜息を吐く。
「どうしたの清楚姉さん?」
けれど、ユウ君はそんな溜息に気付いて心配そうな顔でこちらを伺う。
もうホント、他人の好意には鈍感なくせに、他人の不安には敏感なんだから。
「なんでもないわ。ユウ君も逞しくなったな~って、思っただけ」
「清楚姉さんが十分に甘えさせてくれたからね。特に島での最初の一年は凄く辛かった。清楚姉さんが優しく接してくれていたから、励ましてくれたから、あの一番ツライ時期を耐えられたんだと思う。ありがとう、清楚姉さん」
「ふふ、お姉ちゃんだからね」
そう言って優しく笑ってお礼を言葉にするユウ君を見た瞬間、顔が熱くなるのを感じて、視線を逸らした。
まったく、聞いているこっちが恥かしくなっちゃったじゃない。
元々素質っぽいところはあったが、このままだとユウ君は所謂プレイボーイになってしまうかもしれない。
なんせ頼り甲斐もあって優しく、子供のように素直で実直な子なのだ。長く共に暮らした身内から見てもモテると思う。
お姉ちゃんがしっかり監督しないと!
私は頬や身体の熱は使命感から来るものだと思い、今の私と同じ様に燃えるような赤い空を見上げて、繋いだ手に力を込めた。
「あ、あの、清楚姉さん? い、痛いんですが?」
そうと決まったら頑張るためにも、やっぱり自分の正体は知るべきね。
「いやホント、お姉様? 指、指がメリ込んで、うおあぁ!?」
なんかメキって音がした気がしたけど、きっと気のせいね。
「ユウ君、お姉ちゃん頑張るね!」
「あ、う、うん……」
「あれ?」
ユウ君の方に振り返るとユウ君が青褪めた顔で何かを我慢するような表情で笑っていた。どうしたのだろうか?
『青春ですね』
スイスイ号がそう言って笑うが、結局九鬼のビルに戻っても理由は分からなかった。
ユウ君の手を放した後、私の後ろで二人が、
『男気見せて貰ったぜ、ボウズ』
『これ、明日までに治るかねぇ?』
などと会話していた。もしかしてお腹でも痛かったのかしら?
と言うわけでフラグ建ちました。後は回収するだけです。清楚で建てて項羽で回収する。原作どおりですね。
実は当初のプロットでは清楚・項羽は最後のヒロインキャラ、クローン組も後半でのヒロイン予定でした(むしろ本編最後のイベントの締め担当だった)
しかしまじこいAでクローン組の出番や情報が増えたので九鬼サイドがメインになりました。
多分Aが出ていなかったら本編で軽く書きましたが、風間ファミリーに残留して風間ファミリーがメインになっていたと思います。