今後はちょいちょい一子がどのくらい強くなって行くのかは描写して行く予定です。
「はい、では一子君。今の勝負何故一子君は負けたのでしょうか?」
「はい先生、ユウの方が強かったからです!」
「うん。ノリが良くて先生満足だけど、その答えは0点です!」
「がーん!」
一子はノリ良く答えたが答えは言葉どおり赤点ですらない。
勝負を終えた後、最初に話し合ったように四人で座って話し合う。
「一子が勝てない理由の最もな原因は、技の錬度と自分の持ち味を活かせていない事だ」
「技の錬度と持ち味?」
一子が顔を上げて聞き返す。
「持ち味と言うのは自分自身の主軸となる武器だな。自分の場合はこの優れた『目』の動体視力だが、普段の身体能力だと、自分はこの目をフルに活かせない」
「そうなの?」
清楚姉さんの言葉に頷いて答える。
「身体の方が目に追いついてくれないんだよ」
「えっ。でもユウは私の攻撃をかわしたよ?」
「それは自分がこの目を活かすために『目で見て』から動いたんじゃなくて『目で感じた』瞬間に身体を動かせるように昔から今日まで、ずっと訓練をしているからだよ。それでも強化後に比べれば身体の動きの精度は七割程度にまで落ちるね」
三人は、そうだったんだ。と、驚いた表情でそれぞれ呟く。
「だから基本、自分の戦術はカウンター。相手の攻撃をじっと待つ、もしくは相手の攻撃を誘発させる。そうしてできた相手の隙を突いて攻撃を当てる。因みに自分が一子に追撃とかしなかったのは、もし腕や足なんかを一子に掴まれて間接技を決められたら、その時点で自分が負けるから」
「あ、だからユウは常に一定の距離を保っていたんだ!」
一子が問題が解けた子供のような笑顔で声をあげる。どうやら追撃しなかった事に疑問を持っていたようだ。
「そ。あと気を扱う才能もあったお陰でパワー不足は補えたが、自分の気の総量自体はまだまだ少ない。強化中に相手を倒せるかが勝負の分かれ目だな」
「義経もパワーが無いから手数やカウンターで戦う事を念頭において訓練している。一子さんが一番信頼するモノを考えるんだ」
自分の後に義経が続く。やはり義経自身も一子には思うところがあるのかもしれない。
「私が一番信頼できる……」
義経の言葉に一子の視線が自然と自身の足へと向かう。
「私が一番信頼しているのは、一緒に走り続けたこの足よ!」
一子は自信満々に顔を上げて拳を顔の前で握る。
「そうだな。義経との戦いを観る限り、間違いなく一子はスタミナとスピードはかなりのものだと思う。そこから戦術を練るんだ。スピードとスタミナ両方を活かすにはどういう戦い方がいいか、逆に自分の弱点は、伸ばすべき技術はと、色々考える事は多いが、こればっかりは周りの助言や自身で戦いを思い返したり見直したりして、常に試行錯誤して行くしかない」
「分かったわ」
笑顔で元気良く頷く一子につられて、こちらも笑顔になる。
一子には間違いなく他人を元気にする力がある。
人を教え導く職種に必要な要素を、一子は最初から持っている。
個人的にはこっちの才能をもっと伸ばして欲しいとも思うが、今は黙っておくか。
「それじゃあ次は技の錬度の説明だが、とは言っても特別な物じゃない。腕の運びや足の運びと言った基本動作で、一子は錬度が低いんだ」
「わ、私ちゃんと鍛えているわよ?」
困った表情で首を傾げる一子。その目は止めてくれ、寂しげな表情をする子犬のようで心が痛いです。
「一子、肉体の鍛錬には三つの種類に分かれる。精神鍛錬、技術鍛錬、肉体鍛錬の所謂『心・技・体』の心得だ」
「あ、それなら私も分かるわ」
「じゃあそれぞれどうやって鍛えるか分かるか?」
「肉体鍛錬は良く食べ、良く寝て、良く動く!」
「ま、間違ってはいないよねユウ君?」
自信満々に答える一子とは逆に、清楚姉さんが少し不安げに尋ねる。それ程までに当たり前な答えだった。
「うん正解。身体は運動すれば栄養と休息を求める。だから一子の考えは間違いじゃない。そして一番簡単に鍛えられるのが、鍛錬の回数を増やすやり方だ。だが」
ここからが大事なので改めて一子がしっかりと聞いているか確認してから口を開く。
「一子、この鍛錬方法には限界があるんだ」
「え!?」
「はい。義経答えてみて」
一子が驚いた表情で義経の方を見る。
「一子さん、肉体の成長には限界があるんだ」
義経が険しい表情で、それでもしっかりと一子に伝える。
「義経も前に一子さんと同じ様に鍛錬の回数やお時間を増やせば強くなれると思っていた時期があった。でも毎日の鍛錬に比べて強くはなれず、そんな時にお兄ちゃんに色々教えて貰ったんだ」
あの頃の義経は無理していたものな。
「肉体の成長って、私の身体能力はもう限界ってこと?」
一子が少し恐々とした表情で尋ねる。
「現状の肉体ではって事だ。一子の身体はこれからも成長して行くが、今の身体はもう完全に成長の余地が無いくらい成長を遂げている。今後は無理せずにゆっくり伸ばして行くといい。代わりに空いた時間を技術鍛錬や精神鍛錬に費やせばいい。無理をすればそれこそ体を壊して二度と武術に関われないなんて事にもなりかねない」
「成長の限界か……そう言えばルー師範にも勝手に回数を増やしたりして注意されたっけ」
まだ完全には納得していないようだが、思い当たる節もあるのか、一子は難しい顔で何度か頷いた。
「じゃあ次に技術鍛錬だが……見せた方が早いな」
立ち上がり、みんなが見ているのを確認してから軽く一足一倒の動きを行う。
軽い風を切る音を立てて掌底の中段突きが放たれる。
「一子、さっきの戦いの時と今、どっちの方が速かった?」
「戦っていた時の方がもっと速くてブレていたと思う」
一子の言葉に満足げに頷く。うん、ちゃんと相手を見えているな。
「今のが集中せずに振った技。そしてこれが……集中して放った中段突きだ」
再度構えを取り、足運びから手の平まで意識して、全力で振る。
先程よりも鋭くて早い空気を切り裂く音が響く。
「一回一回集中して全力で振るうということは、それだけ精神的にも肉体的にも疲れる。だが常に肉体の動作を意識して行うことで、動きは自然と最適化されてより速くなり、一撃の威力は増す」
一度軽く深呼吸して構えを解き、改めて座って続きを喋る。
「技術鍛錬は集中力の持続も鍛えられる。多分ルー師範が指定している回数は、一子が真剣に全力を出して取り組んでも、身体が壊れない回数なんじゃないか?」
普段の温厚な態度と苦労気質で目立たないが、ルー師範は百代と鉄心さんに『注意できる』存在なのだ。つまり二人はルー師範の強さを認めてる。
そして現在川神院にいる修行僧を補佐付きとはいえ、全員の面倒を見ている状態だ。教え下手である筈が無い。
「う、確かにそうかも」
一子が頷くのを見てから話を再開する。
「一子は元々集中力と感覚の精度は高いと思う、才能と言ってもいい。組手などで実際に戦闘の経験を増やして直感を鍛えた方が良いと思う」
実際話を聞くと犬笛が聞こえるということが分かった。間違いなく空気の流れを感知する感覚が鋭い。
「とりあえず今日話した内容をルー師範にも話しておくといい。きっと適切に指導してくれるはずだ。それと一子の適性なら気もすぐに扱えるだろうから、そっちに関しても相談するといいよ。気なら自分も多少は教えてやれるから、もし特訓に付き合って欲しい時とかあれば連絡してくれ」
「義経も手伝うから遠慮なく言ってくれ一子さん!」
「いや義経、お前もちゃんと休息取るんだ。疲れが動きに出ているから、みんな心配してる」
ついでとばかりに義経に注意しておく。
まあ『みんな』と言ったが、気付いているのは義経の戦いを観ていた自分とヒュームさん達従者部隊の人達だけだろうけど、こう言った方が義経には効果がある。
「そ、そうなのか? 分かった」
そして最後に、しゅんとしてしまった義経に苦笑を浮かべる一子に向けて、一番伝えるべき事を伝える。
「最後に一子、一番精神鍛錬に向いた修行方法を教えてやる。これを続ければもっと迅速に自分を集中状態にできるし、その集中を持続させられる」
「どんな修行!?」
一子興味心身な視線を向けるので、こちらも笑顔で答える。
「やるべき事をちゃんとやる。だ」
「やるべき事?」
「一子、お前授業中に寝ているそうだな?」
「うっ」
「まあ確かに今迄眠ってしまっていたのはオーバーワークのせいだろうが、今後はちゃんと夜に十分な睡眠をとってどんな授業もちゃんと起きて集中すること。これだけでも大分集中力に差が出る」
「そうなの?」
一子が落ち込みながら、半信半疑と言った感じでこちらを見上げる。
「ああ。授業中は集中、終わり次第解いて休憩、次の授業が始まり次第また集中と集中力の切り替え訓練になるし、どんな嫌な授業でも集中して聞く事で集中力の持続と忍耐も鍛えられる。他にも色々あるが、まあこんなところか」
こちらの言葉に多少は納得してくれたのか、一子が小さく頷く。
「まあ一子の場合修行うんぬんの前に、人に物を教える立場になるんだから授業はちゃんと起きて受けないとな。特に優秀な先生の授業の対応なんかは覚えておいて損はないよ」
例として梅子先生と宇佐美先生をあげる。
梅子先生は教える相手の事を考えて授業構成を立ってる知識と計画性がある。
宇佐美先生は生徒の質問には即対応しつつも伝えるべき事はちゃんと伝える経験と柔軟性がある。
「先生達も、色々考えて授業しているのね」
目から鱗とばかりに驚きの表情を浮かべる一子に苦笑する。
「そうだよ。目標がハッキリしているからこそ、ちゃんと学んでおきなさい。なんせルー師範や鉄心さんを見る限り、師範代の役職は教員免許必須っぽいからね」
「はっ確かに!!」
今日一番の絶望的な表情をして義経と共に落ち込む一子。そんな自分達のやり取りを見て清楚姉さんが笑う。
その声に触発されて自分が笑うと、義経と一子はお互いに見詰め合い、一緒に声を出して笑った。
「あはは! うん、ありがとうユウ、義経、葉桜先輩。あと、義経は私の事はできれば一子って呼んで欲しいな。改めて、これからよろしくね」
「あ、ああ! こちらこそよろしく、一子」
二人が握手した後、自分と義経、清楚姉さんは一子と連絡先を交換し、一子と義経は少し二人で話して行くと言うので、清楚姉さんと二人で九鬼のビルへの帰路に着くことにした。
一子は原作で技術と精神面の鍛錬不足、そして実戦経験の少なさやオーバーワークが明確に指摘されていたので、このような流れにしてみました。
実際本編の一子ルートで、精神的に強くなった彼女は、僅か十数日で『顎(アギト)』と呼ばれる振り上げ振り下ろしによる『高速同時攻撃』を取得しています。
欠点全部直せば間違いなく強者になれる才があるはず!
そして今後一子のパートナーは義経になると思います。
本編でも結構好きなコンビでしたので、これからはダブルワンコで頑張って貰います。