今回は原作のハクノンの観測眼がいかに優れていたかと具現武器での戦闘がメインの回。
グラウンドに出ると既に結構な数の生徒が集まっていた。
そばに立つクラウディオさんに話しかける。
「最悪10人しか相手しないかもしれないのに、よく集まりましたね」
「その辺りは事前に説明して皆さん納得済みです。それにその場にいなければ順番を繰り下げられてしまいますから」
「なるほど納得」
苦笑いを浮かべていると歴史担当の女教師の
梅子先生はヒュームさん達同様、個人的に尊敬している人の一人だ。
授業は理解しやすいし、生徒思いの優しい先生だからだ。
廊下で何度か腰に下げた鞭で素行の悪い生徒を叩いているのを見掛けたが、梅子先生は生徒一人一人に合わせて強さをちゃんと加減して叩いている。
言動は厳しいが、真面目で優しい先生なのは間違いないと思う。
「鉄に源、今日は生徒の要望に答えてくれてありがとう。今日は私とルー先生が審判を勤める」
「私が義経を小島先生が優季を担当するネー」
「了解しました。あの、これは稽古ですか? それとも決闘?」
梅子先生に尋ねると先生は少し考えてから口を開く。
「決闘だ。だから全力で挑んでいいぞ」
「分かりました」
その後グラウンドを義経と半分ずつ使うように言われ、ルールの説明を受ける。
制限時間は一人10分。
レプリカ武器の使用は有り。本物でも峰打ちなら自分の武器の使用も許される。
それ以外は特にルール無しで審判の采配に任せるとのことらしい。
どうやら好きな戦い方で戦っていいみたいだ。
「梅子先生、気の使用は有りですか?」
「一応学園長からお前の能力の詳細は聞いているし許可は出ているが、できれば符術は使わないでくれると助かる」
「了解です。武器の具現と強化は有りですか? もちろん刃は潰してあるタイプで具現します」
「それならば構わない。全力で挑めと言っておきながら、すまんな」
「いえ。威力の調整が出来るとはいえ、符術は危険ですから。梅子先生の配慮は間違っていません」
申し訳ないといった表情をする梅子先生に問題ないと笑って答える。
とりあえず相手に合わせて武器を出す事にするか。
「それじゃあ早速頼めるか」
「はい!」
前に出ると薙刀を持った一人の男子生徒も前に出る。
「始め!」
◆
「監獄城チェイテ!」
優季が黒い槍を生み出して構える。
「せい!」
「はっ!」
薙刀の生徒の振り下ろしを、優季は柄で巧くいなし、近付いて石突側の柄を横に振るって薙刀の生徒の頭を殴り飛ばす。
「干将・莫耶!」
「ぐあっ!」
「それまで!」
体勢が崩れた生徒に追い討ちとばかりに瞬時に武器を双剣に変えて強く腹を打ち、相手を倒す。
噂では体術であの川神百代を降したと言うが、体術以外も使えるのか。
梅子は関心したように優季を眺めながら終了の合図を送って次の生徒を呼ぶ。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
竹刀を持った一年生が一度頭を下げて竹刀を正眼に構えると、優季も頭を下げ、双剣を握ったまま自然体で立つ。
「はじめ!」
「せええええい!」
一年生が勢いよく飛び出して竹刀を勢いよく振り被ると、優季は双剣の内の一本を投げつけ、一年生の振り上げられた腕に当たる。
「あっつう!」
「せい!」
余ったもう一本の方で一年生の腹部を打ち抜いて倒す。
「それまで!」
気で出来た武器だからこその発想だな。武器を捨てても補充が利く利点を上手く活かしている。
「次!」
「せ、先生! あんなホイホイ武器変えたり出したり、武器放ったりはズルくないですか!!」
一人の生徒が優季の戦い方に抗議する。
「ズルくは無い。むしろ優季は符術を使わないハンデまで受け入れている。いいか、確かに鉄は自分で武器を生み出せるが、そもそもそれを習得するには並大抵の努力では不可能だ。鉄はそれだけの努力をしてこの『武器』を手に入れたと言う訳だ。それに気力も無限ではない、生み出す度に消費する。それとこれは決闘であることを忘れるな」
「自分は優季が素手だから勝負したいと思った訳で……」
一部の生徒が呼応するように頷く。
「ええいこの――」
「分かりました。では素手での勝負を望む方とだけは、こちらも素手で応じます」
梅子が軟弱者と続ける前に、優季が苦笑いを浮かべて提案する。
「いや、だがなあ優季」
「構いません。流石に武器縛りは無理ですが拳法は鍛えているので問題ないです。自身の体術の訓練にもなりますから」
だから大丈夫ですよと、優季が梅子に向かって笑って頷く。
なんというか、鉄の笑顔には相手を納得させてしまう安心感があるな。
「……分かった。お前がいいならそうしよう。では次の者前に出ろ!」
やって来たのは先程最初に抗議した三年の生徒だった。
「助かったよ優季、俺はボクシングをやっているからな。素手の勝負なら簡単には負けないぜ」
不敵な笑みを浮かべて独特のステップを刻む三年生の言葉が聞こえていた梅子は不快な顔をする。
年下相手に譲歩して貰って何を言っておるか!
と、鞭を振ってしまいたい衝動を我慢して開始の合図を行う。
三年生は素早く踏み込み、上体を屈めてボディを打ち抜こうと更に踏み込もうとした瞬間、
「へ?」
三年生は天地逆さまの状態で空中に放り出されてそのまま頭から地面に落ちて気絶した。
「足元がお留守です先輩」
にっこり笑って忠告する優季。
巧い。足が前に踏み込こもうとした瞬間に軸足を払い、腕を掴んで前に放ったのか。
梅子がそのあまりに自然な動きに感嘆する。
「い、今何したんだ?」
一部の生徒には気付けば既に優季の立ち位置が変わっている様に見えた。
別段優季は高速で動いた訳ではない。
ただ相手の身体の動きや力を利用したカウンターを何年も続けている内に『自然と動きが最適化』され、素早く動いたように見えただけだ。
「次!」
「よろしく頼む」
「こちらこそ」
今度現れたのは二年生。先程の三年と同じ格闘系だが三年と違って集中していた。
優季もまた相手に無礼が無いようにと無駄口を叩かず真剣な表情で相手を見据える。
なるほど。さっき笑っていたのは相手が真面目ではないからか。
相手の技量に関係なく真剣な相手には自分も真剣に答える。
そんな誠実な姿勢に、梅子は戦う者として正しい姿勢だと満足げに頷いた。
「始め!」
その後も武器を持つ物には変幻自在の具現武器で変則的に戦い。
また格闘戦ではその類稀な動体視力と経験で培った直感で動きを読んで相手の攻撃を逆手に打ち倒す。
そもそも地力が違う。
試合が進むに連れ、梅子は優季と学生達との圧倒的な地力の違いに気付く。
気を纏う事で筋力のハンデを覆す攻撃力と防御力。
相手の攻撃を見据え続けられる冷静さ。
勝機を掴むために死地に踏み込める胆力。
普通の、少なくとも部活動レベルの生徒では勝つことは不可能だろう。望みがあるとすればスタミナ切れと武器の扱いがまだまだ未熟な点くらいだろうか。
気付けば10人など疾うに過ぎ、優季は気付けば100人目を倒していた。
「ふう……今日はこのくらいで」
優季が汗を拭きながら梅子に頷くと、梅子も頷いて答えた。
「では、今日の決闘は終了だ。速やかに解散するように!」
梅子の号令の下、生徒は隣でまだ試合をしている義経の方に集まる。
その様子を屋上から、そしてギャラリーの中から見詰めていた三人の少女が頃合と見て優季の傍に向かう。
◇
「はあ、しんどい」
その場にへたり込んで溜息を吐く。
流石に100人抜きはしんどかった。
しかも結構強い人が多かったし、武器縛りだったら負けていたかも。気力も全快じゃなかったからかなり際どかったし。
「頑張ったな優季、良くやった」
「ありがとうございます梅子先生」
手を差し出してくれた梅子先生の手を握って立ち上がる。
「ふん。あれくらい出来てもらわねば困る」
「ああ、私に勝ったんだからな」
「カッコよかったよユーキ!」
百代と小雪とマルギッテが現れた。
なんかゲームの敵みたいな表現をしてしまった。
まあこの三人が同時に現れたら『逃げる』一択なわけだが……いや、そもそも『逃げられない』で強制敗北か。
「それにしても、私の時は具現能力を使わなかったのにコノコノ」
傍に寄ってきた百代が、笑いながら自分の脇を肘で突つく。
「武器を作り出せるからといって、武器の扱いが巧い訳じゃない。必ず隙になる。ならまだ戦える体術で挑むのは当然だろ?」
「確かに。観察していましたが、武器の扱いは精々基本動作が少しはこなせると言ったところでしたね。大振りな場面が幾つかありました」
「自分の具現武器は特殊能力使って始めて生かせるような部分もありますからね」
「前に見た病院で出した剣みたいに?」
小雪に尋ねられて一瞬なんの事か分からなかったが、両親から聞かされた話を思い出す。
「ああ
そう言ってその手に真紅の大剣を生み出す。
「そうそうこれ!」
「懐かしいな。触っても大丈夫か?」
「うん。少し暖かいけどね」
小雪と百代が刀身部分に触れる。
「あ、本当だ暖かい」
刀身に触れた小雪が不思議そうに何度も触る。
「ふむ。剣に熱気属性が宿っているということか」
マルギッテさんと梅子先生もやってきて剣に触る。
セイバーが使っていた大剣は、場合によって炎を出す燃える剣だったので、そこは剣に熱気属性を付加させることで再現した。
「まあ火は出ます。それ以外は企業秘密ってことで」
笑いながら武器を消す。
「面白そうですね。今度の決闘が楽しみだ」
「お手柔らかに」
獰猛な笑みを浮かべるマルギッテさんにそう言って苦笑した。
そうか、もうこの人の中では再戦が決まってるんだな。怖いわぁ。
その時、隣から一際大きな歓声が上がった。
「おっ。どうやら一子が戦っているみたいだな」
百代が立ち上がって隣の決闘を見詰める。
「一子か、どれ」
自称妹分である二人の戦いを良く観るために近場の木に飛び移って太い枝に座って観戦する。
一子はあの義経相手にいい勝負をしていた。ただ義経の動きが少し悪い、多分連戦による疲れだろう。
「……というか、一子の戦い方が意外だ」
一子はなんか余力を残している感じだ。個人的に初手から全力で行くタイプかと思った。
「……なんだろう、なんか……ちぐはぐな感じだ」
一子が考える戦闘スタイルと一子の肉体が上手く噛み合っていない気がする。
「って、なんでそこで攻撃止めて振り下ろし!?」
一子は動き回って薙刀を振り回し、前後左右上下から義経を手数で封じていた。そのまま例え小さくても小刻みにダメージを与えて倒すか、義経が痺れを切らしたところをカウンターで倒せばいい。
しかし一子が取った行動はわざわざ自分から離れてからの大振りの一発狙い。
結果、一子の攻撃に耐えつつ勝機を狙っていた義経のカウンターで一子は敗れた。
「よっと」
木の下でこちらの様子を伺っていた四人の元に戻る。
「どうだったウチの妹は?」
「いや、なんていうか……川神院ってちゃんと武道を教えているのかって思った」
「どういう意味だ鉄?」
梅子先生が怪訝な表情で尋ね、同調するようにマルギッテさんも小さく頷いた。
「百代の場合はまあ本気で戦えないから戦い方を厳しく注意できなかったとは思うんですが、一子は肉質や気性を見る限り、絶対『直感型の長期戦タイプ』です。しかし今の一子の戦い方は間逆だ。それを注意しないなんて武道を教える者として間違っている」
「えっとつまり?」
小雪が意味が分からないと言った感じの顔をする。
「動きから観た感じ、一子は感覚能力が優れていると思う。義経の身体の動きに瞬時に身体が反応している場面が幾つもあった。感覚が鋭いなら頭で戦術を練るよりも感覚を鍛えて直感で動く事を鍛えた方がいい」
「長期戦と判断した理由は?」
今度はマルギッテさんが質問してくる。
「一子はパワーが足りない代わりに、スタミナと初速のスピードはかなり優秀だと思う。実際今も平然としている。あれなら一定の力、それこそ全力で動いても一定ペースを保てると思う。粘り強く攻撃を繰り返して倒す戦法の方が良い」
そもそも強者同士が近距離で戦えば、戦闘時間は長くて10分から20分が良い所だ。
その間を力を損なわずに全力で戦えるなら立派な武器と言えるはずだ。
「しかし当の一子自身がその持ち味とは逆の動きをする。そもそも一子の性格からして最初から全力で行かないのもおかしい、まるで……」
百代みたいな戦い方だと考えた瞬間、百代の方へと顔を上げた。
「な、なんだ優季? そんなに私の事を熱く見詰めて」
なんか知らないが百代が頬を少し赤らめて満更でもないと言うような、はにかんだ笑顔を浮かべる。というかそんな熱がこもるほどの熱視線ではなかったと思うんだが?
首を傾げながらとりあえず思ったことを口にする。
「あいつもしかして、百代を模倣しているんじゃないか? しかも無意識に」
「私を?」
「お前は『計算型の短期タイプ』まあ感情度合いで全力の上限に差はあるが、間違いなくどんな状況も一発の力で逆転できちゃうから、そもそも長期戦になりようがない」
本来は良い意味で『オールラウンダー』なのだが、百代の現状の性格的には間違っていないはずだ。
「そう? 僕はモモ先輩も直感型だと思っていたんだけど」
「いや、戦闘時の言動は兎も角、百代は常にこっちの動きを観測し、予測して動いている。初見で技を見切られるのはそのせいだ。だから百代に使う技は『見切られても問題ない技』が一番効率がいい。自分の一足一倒が良い例だな」
そう考えると具現武器の特殊能力有りでも、なれない武器での戦闘は百代相手には分が悪かったかもしれないな。
そんなことを考えていると四人が黙ってしまったのでそちらに振り返る。
すると小雪と百代は驚いたような表情を、マルギッテさんと梅子先生は感心したような表情でこちらを見ていた。
「え? どうしたのみんな?」
「いや、お前が人間観察が大好きな変態だと言う事が分かってドン引きしているんだ」
「なんで!?」
個人的な分析をしただけなのにひどい事を言われた。何故だ!?
と言うわけで優季(というかハクノン)の観察眼が優秀だと言う事を説明する回でした。
そして一子の戦闘に関する設定は原作見て私が感じたオリジナル設定なので原作とは微妙に違います。というか犬笛聞こえる時点で五感は間違いなく優秀だと思う。
ただ一子を強化するのはいいが、それを活かせるイベントが思いつかない……やっぱクリと戦わせるべきか?