岸波白野の転生物語【まじこい編】【完結】   作:雷鳥

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という訳で本編です。
あの人がついに自分のポジション死守に本気になる。



【変化した日常】

「え? いつの間にあんな技を習得したのかって?」

 

「うん。お兄ちゃんがあんな物騒な技を使えた事が義経は驚きだ」

 

 朝の稽古に参加すると、その最中に義経達に技を開発した理由を尋ねられた。まあ開発したんじゃなくて、アサシンの技を可能な限り再現しただけな訳だが。

 

「一応対百代用にね。危ないから他の人には絶対に使わないよ。それに会得できたのは龍穴巡りで本場の八極拳と戦う機会があったのと、龍穴って大地の龍脈を感じやすいから、圏境や気の扱いを会得する為の環境としても恵まれていたのが大きかったかな。まあ最大の理由は……習得しないと死ぬから」

 

「どんだけ酷い旅だよ龍穴巡り……」

 

 与一が有り得ないと言った表情で呟く。

 うん。死に物狂いで修行して良かったと思う。というかそう思わないとやってられない。

 

「おい優季」

 

「あ、ヒュームさん」

 

 室内訓練場にヒュームさんが瞬間移動でやってくる。

 毎度思う。超高速で移動していると本人は言うが……なんでドアの開け閉めまで超高速になるのだろう? 

 同じ超高速と言っても、一足一倒とは桁違いの速度に違いない。

 

「学校に行く前に話しがある」

 

「はい、なんですか?」

 

 ヒュームさんが真剣な表情をしていたので、汗を拭くのを止めて姿勢を正す。

 

「お前と百代の戦いだが、公式試合では無いのと、昨日のお前のインタビューのお陰で多少だが報道規制を敷くことができた。他県や各国的にはそれ程大きな問題にはならんだろう」

 

「そうですか良かった。ほぼ不眠で働いた甲斐がありますね」

 

 苦笑を浮かべて答えた。

 

 百代と別れてすぐに、自分は記者のインタビューに答えながら、お忍びでどこかの国のお偉いさんの側近や、声の渋い現日本の総理大臣と話し合ったりと大忙しだった。お陰で寝不足である。

 

「だが……流石に川神に住む、特に川神学園の学生達は騒ぐ可能性はあるから十分に注意しろ」

 

「……ですよね~」

 

 地味に引き攣った笑みを浮かべて項垂れる。

 なんせ自分の勝利が世間に露見した結果、外部の挑戦者は勿論だが、特に川神の学生の申し込みがかなり増えたらしく、どう対応するかで九鬼内で少し揉めたくらいだ。

 

 一応外部の挑戦者に関しては、百代自ら『挑戦者は今までどおり自分が受け持ってもいい』と提案してきた事で、今後も外部挑戦者はまず百代と戦う事になった。

 

 百代には後で何かお礼をしないとな。それにしても、ただ百代と戦っただけなのにこの騒ぎとは、世の中色々複雑だと、改めて思い知らされた。

 

 

 

 

「と言う感じの日々だった」

 

「武神に勝ってその反応は冷め過ぎだろ」

 

 朝、多馬大橋で葵ファミリーと合流して自分の現状を説明した。

 

 登校時間は自由なのだが、結局義経達と自分、そして清楚姉さんは全員一緒に登校することになった。そして昨晩小雪からメールが来て、一緒に登校しようという誘いがあったので受ける事にした。

 

 大所帯で橋を渡りながら、周りからの視線に心の中で溜息を吐く。

 

 やはり百代との事が広まっているせいか、生徒達がこちらを伺うように遠巻きにチラ見してくる。幸いここまで誰かに話しかけられる事は無かったが、ちょっと、いや結構、居心地が悪い。

 

「義経さん達は毎回この時間に登校するんですか?」

 

 冬馬が話題を変えるようにこちらに話を振る。

 気遣いも出来るとか、やはりパーフェクトイケメン! 憧れるね!

 

「できれば義経はもう少し早く登校したいんだが、二人があまり早いと一緒に行ってくれないんだ」

 

「いや、自分も嫌だよ義経」

 

 なんかさらっと自分は一緒に登校するような言い方だったので、流石にツッコんでおく。

 

「そんなお兄ちゃんまで!?」

 

 義経が落ち込んでしまったので頭を撫でて慰める。しかし貴重な休息時間を削られるのは勘弁なので意見を変えるつもりは無い。

 

「葉桜先輩は自転車持ちなんスね」

 

「うん。帰りはスイスイ号に乗って帰るの」

 

『お任せ下さい清楚』

 

 突然喋り始めた自転車に、三人が目を見開いて驚く。

 

「しゃ、喋ったよ!」

 

『初めまして皆さん。私スイスイ号と申します。以後お見知りおきを』

 

「流石九鬼だな。まさか喋る自転車とは」

 

「やっぱりビックリするよなぁ」

 

 三人に共感するように頷く。

 

『皆さんのお話の邪魔はしませんからご安心を』

 

「紳士的なのですね」

 

「でも男が乗ろうとすると怖くなる」

 

「エロ自転車じゃねえか!」

 

『ハハハ、優季様は冗談がお上手だ』

 

 楽しくお喋りしながら橋を半分渡り終えたその時、一瞬頭上を影が通り過ぎたので、顔を上げて確認する。

 

「天から美少女登場!!」

 

 なんか聞き慣れた叫びと共に見知った少女が目の前に着地する。うむ、黒か。百代はアダルトな下着が似合うよなぁ。ナイスパンチラ!

 

「よう優季、登校するなら連絡くらいくれてもいいだろ」

 

「……百代、お前はあれか? なんか叫ばないと出てこれないキャラなのか?」

 

 ラッキースケベに感謝しつつ、朝からテンション高い百代の奇行を注意していると、百代はまあまあと言って当然の用に自分の横に並んだ。

 

「「むっ」」

 

 弁慶と小雪が面白く無さそうな顔でこちらを睨む。な、何故?

 

「私の方にも記者が来たぞ。いや~あいつらウザイくらい質問してきたな」

 

「なんだ百代の方もか」

 

 百代が歩きながらそんな感じで話題を振ってきたので、自分も歩きながら話す。

 必然的に他のみんなと少し離れてしまったが、まあみんなすぐに追いつくだろう。

 

 

 

 

「おいユキ、何してんだ追うぞ!」

 

「はっ! 僕としたことが!」

 

「追うよ義経!」

 

「あ、うん」

 

 百代が意図的に優季を連れて行ったと気付いた小雪と弁慶が、二人を追いかけようとしたその時、百代が小雪と弁慶の方をチラ見し、そして……勝ち誇ったように笑った。所謂ドヤ顔である。

 

「「……」」

 

 二人の中で何かがキレた。

 

「上等だよ先輩……本来その位置は『私と義経』の位置なんだよ」

 

「あははそうだ~今度は物凄く強いけど一日でズタボロになった英雄の絵本を書こ~」

 

 弁慶と小雪の二人から黒い波動を伴って闘気が溢れ出る。

 

「ひ、久しぶりにダークユキが降臨した!」

 

「ここまで怒っているユキは確かに久しぶりですね」

 

「べ、弁慶?」

 

「ガクブルガクブル……」

 

「よ、与一君が蹲って声でガクブル言いながら青褪めてる!!」

 

 朝から多馬大橋こと変態橋はカオスな空気に包まれた。

 

 

 

 

「にしても、モモ先輩が恋とはねぇ」

 

 翔一は『おもしれー!』と笑いながら呟いた。

 

「ちくしょうなんだよユウの奴! しっかりフラグ回収しやがって。フラグは折れるもんじゃねぇのかよ!!」

 

 岳人は心の底から叫んだ。

 

 数分前、みんなの前に現れた百代は、自信に満ちた表情で告げた。

 

『しばらくは自分を鍛え直すためと、優季を落すために時間を割くから、付き合いが悪くなるかも知れない。まあ金曜集会には出るから安心してくれ』

 

 そう言って百代は清々しい笑顔で去って行った。

 

「なんていうか、モモ先輩の発言の衝撃が強過ぎて、負けた事の印象が薄らいじゃったね」

 

 卓也が苦笑を浮かべながら百代が去った方を見詰める。

 

「でもね。お姉様、朝の修行とか凄く真剣に取り組んでいるのよ。納得行かないと回数にカウントしなかったり、技の動きを確認するように何度も繰り返したり。それになんていうか、落ち着いたって言うのかな?」

 

「分かります。あれだけ荒かった闘気も落ち着いているようですね」

 

「鉄先輩マジでパネェぜ」

 

 一子の言葉に由紀江が頷く。

 

「まあまあ、私達はモモ先輩の恋を応援しよう」

 

「京がそんなことを言うなんて珍しいな」

 

(一番のライバルがいなくなったからな!!)

 

 クリスの言葉に京は心の中で答えながら、大和の背中を怪しい瞳で見詰める。そして大和は寒気を感じで肩をビクつかせた。

 

 

 

 

「にょほほ、おはようなのじゃ」

 

「えっと不死川さんだっけ、おはよう」

 

 教室に入ると既に数名の生徒がノートを広げて勉強していた。凄いなみんな。

 

 そんな中、興味深げな目で話しかけてきたのは着物姿で頭の左右に丸く髪を結ってツインテールのように伸ばした不死川心(ふしかわこころ)さんだった。

 

「それにしてもお主、転入早々凄い事をするのう。あの武神を倒すとはのう」

 

 相変わらず独特な喋り方だ。そう言えば日本史の、正直苦手な白塗りの先生も似たような喋り方をするけど、親戚なのだろうか?

 

「やっぱもう話題になっているのか」

 

 というかヒュームさんの話じゃ元々は川神学園の掲示板から情報が漏洩したんだったか?

 

「……ふっ、武力が凄くてもね」

 

「「むっ」」

 

 勉強していた生徒の言葉に、小雪と弁慶が面白くない顔をするが、彼の言い分はもっともだ。武力だけでは世の中渡っていけないのが現実だ。

 

「そうだね。学生の本分は勉強だしね」

 

「ふん」

 

 こちらが笑顔で答えると、男子生徒はつまらなそうな顔をしてまた勉強に戻った。無理に話す必要は無いので、不死川さんに別れを告げて自分の席に座る。

 

「なんというか、優季君は大らかですね」

 

「そう? 普通だと思うんだが?」

 

 首を捻って冬馬に応えると、何故か小雪達が苦笑しつつ肩を竦めた。何故だ?

 

 

 

 

 放課後になると俺はしばし席に突っ伏して一時の安らぎを堪能していた。

 なんせ廊下を歩けば生徒に押しかけられて質問攻めだ。

 

 まあ自分がたいして勝った事をひけらかしていないお陰か、一度質問した生徒はさっさと去ってくれるから助かったが、ガクトに血涙を流さんばかりの勢いで『どうしたらフラグ建築士になれるんだ!』と訳の分からない事を言われたのだけは物凄く印象に残っている。

 

 最近、というか前世でも良く言われたが……フラグ建築って、なんぞや?

 

 そんな事を考えていると、傍で物音がしたので前を見ると、義経が忙しなく動き出した。

 因みに自分の横が弁慶で、前が義経、そして弁慶の前が与一で隣が義経と、四人一纏めの席順になっている。

 

「どうした義経?」

 

「ああお兄ちゃん、これから校庭で決闘なんだ」

 

 あっ。そういえばそんな話が来てたっけ。ここしばらく忙しくて忘れていた。

 

「他の皆様にも申し込みがあります。特に優季には多数、いかが致しますか?」

 

「「うお!?」」

 

 急に現れたクラウディオさんに、自分と、自分の席でラノベを読んでいた与一が驚いて肩をビクつかせる。

 

「って、弁慶は?」

 

「弁慶さまは早々に退室いたしました」

 

「流石姉御、逃げ足が速い」

 

 本人がいない時は強気だよね与一、まあ同意だけど。

 

「そもそも自分達への決闘の申し込みって、何人くらいなんですか?」

 

「皆さま全員分を合わせれば、在校生の半分以上ですね」

 

「……流石にそれ全員は厳しくないですか?」

 

 あまりの人数に唖然として、クラウディオさんに尋ねる。

 

「ですので皆様の体力面を考慮して、クローン及び優季との決闘可能人数は一日最大10人までとしました。在校生の中には強者もおりますので。勿論それ以上相手して頂いても構いません」

 

「義経はとりあえず体力に余裕のある間は戦うことにしている。二人も義経と一緒に行こう!」

 

 来て欲しそうな顔でこちらを見詰める義経、可愛いなぁもう。

 

「パス。ただでさえ朝稽古があるのに面倒だ。放課後くらいは好きに過ごさせてもらうぜ」

 

 あ、与一がマジで拒絶してる。そう言えば楽しみにしていたラノベの続きを買ったと喜んでいた。多分今読んでいるのがそれだろうな。なんせ教室で読み始めるくらいだ、相当楽しみだったに違いない。

 

「そうだな。与一の言い分ももっともだ。今日は自分と義経が相手すると伝えてください」

 

「かしこまりました」

 

 クラウディオさんが一度お辞儀して消える。

 

「悪いな兄貴」

 

「気にするな兄弟。男には一人の時間が必要だ。特に心の安らぎを得ている時には」

 

 与一にサムズアップしていい笑顔をする。

 

「ふっ。流石兄貴は分かっているな。それじゃあ俺はしばらくここで英知の声無き声を楽しんでいるとしよう」

 

 与一もサムズアップして微笑と共に自分の席に戻った。

 そんな与一と別れて義経と一緒に教室を出て校庭に向かう。

 その途中で義経は困惑した表情でこちらに尋ねてきた。

 

「お、お兄ちゃん、与一は何をしているんだ?」

 

「ただの読書だ」

 

「そ、そうなのか。義経は偶に与一の言っている事が分からない」

 

「分からなくていいよ」

 

 義経の頭を優しく撫でながら二人で校庭に向かう。

 

 ただ、何か対策は考えておかないとな。二人の立場もあるし、義経や自分が全部相手にする訳にも行かないし。

 

 色々考えながら心の中で小さく溜息を吐いた。

 




タイトルと前書きのわりに中身は普通の日常回。
しばらくは日常回が続くと思います。


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