百代との戦いのその後です。
今回は周囲の反応です。百代フォロー回は次回辺りになると思います。
「二の打ち要らず?」
「そうだ。優季が放った最後の技は八極拳の基本の中段突き。まあ優季は掌底だったが、多分八極門の祖である李書文と呼ばれる八極拳最強の使い手に肖った技だと推察できる」
九鬼のビルに戻った義経達は、優季が百代と戦った後に気絶した事を知ると、詳細を知るためにヒュームに詰め寄って説明を求めた。
「結局どういう技なんだ?」
「ただの打撃だ。事実、一足一倒という技と同じ構えだったしな」
「え?」
「李書文は全力ではない初撃でも相手を打ち砕いたとされている。つまり技ではなく打撃そのものが『必殺』というわけだ。事実、多少強い程度の者ではくらった瞬間に死んでもおかしくない技だ。お前らは真似するなよ」
ヒュームが睨みつつ忠告する。あれは相手を殺す技だと。
正直に言えば義経達は未だにそんな危険な技を優季が他人に対して振るった事に納得できなかった。
「……で、その前に使ったって言う一瞬消える技は?」
弁慶が話題を変えるように別の話題を振る。
「あれは強烈な気の気配を放ち続けていたところを、一瞬にして気を完全に閉ざした結果、相手に一瞬だけ消えたように錯覚させた。といったところだろう。達人同士であればある程、気配の読み合いは鋭敏になる。その隙を突いた良く練られた技だ。もっとも、言うほど簡単にはできんがな」
ヒュームは楽しげに笑うが、義経達はそれどころではない。
ヒュームの説明は車で言えばトップスピードで駆けていた所を急停止するようなものだ。その上優季はその後すぐにまたトップスピードに戻した。肉体への負担は相当なものだろうと、戦う術を学んでいる義経達はすぐに理解した。
「それでユウ君は大丈夫なんですか?」
今にも部屋に向かいたいといった表情で、清楚がヒュームに尋ねる。
「ああ。最初に精根尽きて気絶しただけと言っただろう。体力と気力がある程度回復すれば目覚める。まあしばらくは酷い筋肉痛で身体を動かすのもキツイだろうがな」
ヒュームのその言葉に義経達が安堵する。
「それにしても、兄貴はなんでいつもの魔術師スタイルで戦わなかったんだ?」
「ふっ。言ってしまえば男の意地の様なものだ」
事情を知っているヒュームは小さく笑って答えた。
「それにしても今日は驚きの連続で疲れた」
義経が溜息を吐いて肩から力を抜く。
「だね。後でユウ兄には何か奢って貰わないと」
「武神に勝った兄貴にたかるとか流石は姉御きちってええええ!!」
呆れ顔で呟いていた与一に、弁慶は容赦なく源氏式コブラツイストをかける。
「なんか言ったか与一?」
「な、何も言ってないです!」
「ふふ。ユウ君が起きたらみんなでまた遊びましょうね」
「それじゃあみんなでお兄ちゃんの様子を見に行こう!」
楽しげに話しながら義経達は優季の部屋へと向かった。
◆
「優季大丈夫かな……」
「まあ学長が大丈夫って言ったのなら大丈夫だろ」
「英雄からも休めば問題ないと、先程連絡を貰いました。きっと大丈夫でしょう」
小雪は冬馬達を自宅に招いて今日あった事を話し、溜息を吐いた。
「はあ~。折角放課後一緒に遊べると思ったのに~」
「まあ、あの武神を相手にしたのですから仕方ありませんよ」
「むしろ俺は勝っちまった事に驚きだ。それより小雪、その場には一般人はお前しかいなかったんだよな?」
「え、うん。マルギッテも居たけど気付いたら居なくなってた」
小雪が首を傾げると、準が携帯で掲示板の書き込みを小雪に見せる。
『武神が負けたってよ!』
『マジ? 相手誰!?』
『武士道ブランの鉄だってさ』
「ええ!! なんで!?」
小雪が準の携帯を掴んで叫ぶ。
「マルギッテ……は流石に無いか。偶々見ていた奴がいたって事か?」
「まあ河川敷ですからね、ありえなくは無いでしょう。ですが確か人払いがされていたような……これは一悶着ありそうですね」
◆
鉄優季、まさかあれ程の力を隠していたとは、何よりもあの勝利への飢えが素晴らしい。
マルギッテは上官であり、クリスの父でもあるフランク・フリードリヒ中将にクローン達の報告書を纏めている所だった。
あれ程の精神力を持った男に、私は未だかつて会った事がない。
マルギッテは今迄自分に挑んできた男達を思い浮かべる。
自分が女だからと戦いの最中に下種な考えを持つ者。負けた際に性別を言い訳にする者。そもそも勝つことに拘らぬ軟弱者。マルギッテが接して来た多くの男がそんな存在だった。
しかし優季は戦いの最中、自分と相手以外は眼中に無かった。ただ相手の全てを認め戦っているように見えた。
「私が異性で認めたのは中将以来だな」
マルギッテは昔から自分を知る父親のような存在である中将を心の底から信頼していた。だがそれは幼い頃から積み上げた信頼である。そういう意味では他人で始めて異性に興味を抱いたのは優季が初めてだった。
ああ自分も、もう一度彼と戦いたい。武神と同じ様に真剣に……。
全力をぶつけて戦う優季の姿が、マルギッテの脳裏に焼きついて離れなかった。
まるで恋したように優季の事で頭が一杯だったマルギッテ、そして彼女は気付かない。
報告書の内容の八割が優季に関する内容となってしまっていたことに。
◆
「お姉様が……負けた?」
「うむ」
一子は信じられないとばかりに己の耳を疑った。
帰宅した一子は実家である川神院の院内がいつもより騒がしい事に気付いて祖父である鉄心に事情を尋ねていた。
「事実じゃ。わしがこの目で確認したからのう」
「誰に負けたんですか!」
驚きの中に一子の心に僅かな憤りの火が灯る。
しかしそれは親しい相手を傷つけられた結果のものであり、一子自身は真剣勝負と聞いているので、その気持ちで相手をどうこうするつもりは微塵も無かった。
「鉄優季じゃよ」
「ユウが!?」
かつては百代に負けてばかりいた優季が、最強と言ってもいい姉を打ち負かした。
それは先程まで一子に灯っていた、敬愛する姉を倒した相手への僅かな憤りの火を吹き飛ばすのに、十分な理由だった。
「ど、どうやって!!」
「うむ。まあ一子ならよいか」
鉄心が戦いの詳細を告げると、一子は一語一句聞き逃さないように集中して聞く。
優季の話を聞く内に一子の感情は驚きから興味へ、そして歓喜へと変わる。
優季の結果は日々努力する一子が思い描く理想の結果であり、ここ最近負け続けている自分の心に宿った『努力しようと勝つ事は出来ない』という弱音の根底を否定してくれたように感じたからだ。
「あれだけの技術、才能云々以前に並大抵の努力では得られぬ。限られた時間を濃密に努力したのじゃろうて」
「やっぱり努力すれば、頑張れば、報われるんだね!!」
一子は本当に久しぶりに、心の底から嬉しそうに自身の信条を言葉にする。
以前なら鉄心は曖昧な気持で頷いていたが、今は素直に頷く。
「そうじゃのう、奴は努力するのが巧かった。一子、お主一度優季に教えを請うて来るがいい」
「ユウに?」
「うむ。あやつがどのように努力して来たのかを知るのはお主の今後に必ずプラスになるじゃろう」
「分かったわ。でも、お姉様は大丈夫かしら?」
「大丈夫じゃろう。あやつも武道家、負けを受け止める強さくらいは持ち合わせておるはずじゃ」
鉄心は心配する一子の頭を撫でながら、二人は百代の部屋のある方を見詰めた。
◆
「え? 武神負けちゃったんですか!?」
『うむ。それでお主の意思を聞こうと思って連絡したのだ。もちろん平蜘蛛の開発費用は出すが、こちらに転入する理由は無くなった。それでも川神に来るか?』
「そうですねぇ。まあ西じゃあこれ以上家名の名を上げられそうに無いですし、そういう意味では東進も有りかな」
『では……』
「ええ。予定どおり、
と言う訳で燕先輩も転校してきますが……基本メインで絡むのは当分無いと思います。
なんかホント西勢の出番が殆どなくなっていく……。