岸波白野の転生物語【まじこい編】【完結】   作:雷鳥

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ようやくかつての友人達との再会。



【再会】

「ユーーキーー!!」

 

「おぶふ!?」

 

 一限目が終了した途端、小雪が豪快なダイブと共に抱きついてきた。

 なんとか抱き止めて踏ん張ることに成功する。

 

「本物だよね! 偽者じゃないよね!」

 

「あはは、一応本物のつもりだ。それにしても小雪も美人になったな」

 

 そう言って小雪の頭を撫でる。

 

「えへへ、懐かしいなあ」

 

 人懐っこい笑顔で腕の中で照れる小雪、可愛い。

 

「ああ昔はよくこうしたもんな」

 

 なんて感じで二人で昔を懐かしんでいると、肩を叩かれたので振り返る。

 

「おうっ!?」

 

 後ろには義経となんか微妙に不機嫌な顔の弁慶がいた。

 

「ユウ兄、その人は?」

 

「あ、ああ。前に話した幼馴染で文通していた一人の小雪だ。まあお互い、というか自分が病気で引っ越したから、本当に久しぶり過ぎて他に自己紹介のしようがないんだが」

 

「おやおや、さっそく賑やかですね」

 

 昨日小雪と一緒に居た眼鏡の男子生徒が、スキンヘッドの陽気そうな男子生徒と共にやってくる。

 

 特徴から見て、小雪の手紙に良く書かれていた幼馴染の二人かな?

 確かこっちのイケメンが葵冬馬で、こっちの色んな意味で明るそうなのが井上準、だったか?

 

「まあ無理もないだろ。なんせユキの『初めての人』だからな」

 

 井上がとんでもない爆弾を落としていきやがった。

 

「ほほう、それは興味深い。ぜひ聞いてみたいなぁ~」

 

「弁慶さん何故錫杖を私めに向けているのでしょうか? 先端が微妙に刺さって痛いのですが」

 

 なんか更に怖い顔になった弁慶が錫杖の先で頬をツンツンしてくる。いや、マジ痛いです止めてください。

 

「もう! わざと紛らわしい言い方しないでよ準! この頭部不毛地帯!」

 

「ヒドイわ!!」

 

 小雪が怒って井上の綺麗に輝く頭を何度も叩く。

 

 ……そっか、小雪にもあんなことができる友達ができたんだな。

 

 手紙で仲が良いのは知っていたが実際に目の当たりにすると、時間の流れというのは凄いと感心する。そして微妙に不機嫌な弁慶を宥める方法を模索する、そんな午前だった。

 

 

 

 

「もぐん。つまりお兄ちゃんは榊原さんの命の恩人って事か」

 

「うん。ちゃんと自分の口でお礼を言いたかったんだ。あと僕の事は小雪でいいよ」

 

 昼休みに教室で小雪の仲良しグループと一緒に教室で食事を取る。

 因みに両隣が小雪と弁慶で、何故かお互いにチラチラ相手を意識している。

 何かあったのだろうか?

 

 それとあまりに義経達を見ようとする生徒が多いため、放課後になるまで休み時間の度に2-Sの通路にマルギッテさんが立って生徒達の通行を禁止している。後でお茶を振舞っておこう。

 

 特に義経達への決闘の申し込みが多く、今はクラウディオさんが何かしらの対策を講じているらしい。 

 

「それにしても優季君がウチの病院に入院していたとは、いやはや世間は狭いですね」

 

「そうだな葵、というか手で太股撫でるの止めてくれるか」

 

「冬馬でいいですよ優季君」

 

 それとなく小雪の隣から手を伸ばして太股を撫でる冬馬に注意する。

 小雪曰く、冬馬は男も女もイケる人らしい。セイバーと同じ人種だ。

 

 冬馬は自分が子供の頃に入院した葵紋病院の院長の息子さんで、そのうえ英雄の言うとおり一年の頃からずっと学年一位を死守しているらしい。ファンクラブもあると聞いて納得してしまった。

 

 性格も良くて勉強も出来てルックスも抜群だもんなぁ。そりゃファンクラブも出来るわ。

 

「そういえば井上は何処に行ったんだ?」

 

 昼休みになった瞬間、井上は教室を勢い良く飛び出していた。

 彼は自分でお弁当を作っていると言う事だが、持って来るのを忘れたのだろうか?

 

「ただいま。いやぁ~やっぱ紋さまはすっばらしいな~♪」

 

 なんか物凄い笑顔で帰って来た!?

 

「何しに行ってたの準?」

 

「紋さまに忠誠を誓ってきた。その時に頭を踏んで貰ったぜ!」

 

 え、何がそんなに嬉しいのか理解できない。

 

「準はロリコンなんですよ」

 

「……ああ、なるほど」

 

 冬馬の助言で理解する。そしてなんと言っていいか分からない顔で満面の笑みを浮かべる井上を見詰めた。

 

「なあ弁慶、ろりこんって、なんだ?」

 

 意味が分からなかったのか、義経が弁慶に尋ねていた。

 

「与一の中二病と同じ精神の病気だよ。しかも中二よりも性質が悪い。下手したら周りに被害がでる」

 

 弁慶が呆れたような溜息を吐いて冷めた視線を井上に送る。

 

「失敬な。俺はただ、穢れ無き幼子達の笑顔で心の疲れを癒したいだけだ」

 

「男の子でも?」

 

「俺はショタコンじゃないからパス」

 

「最悪だな」

 

 あの与一にツッコまれるとは相当だな。

 因みに与一は無理矢理残らせた。その為にお弁当を人数分作ってきたのだ……自分がな!

 何故かは分からないが、自分のお弁当は身内では好評なのだ……普通の庶民派弁当なんだがな。

 

「それにしても、お前も自分で弁当を作っているとは、仲間ができたみたいで嬉しいぜ。あ、俺の事は準でいいぜ。俺も優季って呼ばせてもらうからな」

 

「分かった。それと自分が弁当を作るのは節約の為さ。武士道プラン関係者だからって甘やかされてないからね。他のみんなもちゃんと自炊してるんだぞ」

 

 まともに料理ができるのは自分と弁慶と清楚姉さんだけだが……。

 

「おや、それは意外ですね」

 

 本当に以外だったのか、冬馬の言葉に小雪と準も頷く。

 

「質素倹約。英雄である以上、みんなのお見本であれって事らしいからね」

 

 弁慶が補足説明してくれる。

 

「小遣いの額もその年齢が貰ってる平均額だしね。態々調べてるんだから無駄に凄いというか」

 

「自分も親から貰っているのは必要最低限だけだな。ただ九鬼は門限自体は緩いから夜のバイトもOKなんだよ。まあバイトするにも色々大変だが」

 

「兄貴はバイトするつもりなのか?」

 

「兄貴? そう言えば朝礼でそんな話題が挙がっていたような気が?」

 

 与一の言葉に小雪が首を傾げる。

 

「ふっ。兄貴はこの俺と同じ闇の脅威を知る者だ。同い年だがその落ち着いた雰囲気は兄貴と呼ぶに相応しい。故に兄貴だ」

 

 与一が箸を置いて手を顔の前に持って行って『ふっ』と、顔を右斜め45度に傾ける

 

「ああ、兄貴分って意味か。確かに優季は同年代よりも落ち着いているから兄って感じだよな」

 

「同い年なのに年上の魅力も併せ持つ、魅力的で素敵ですね優季君は」

 

「む~、いくらトーマでもユーキはダメだよ!」

 

 そう言って横に陣取っていた小雪が抱きついて自分の所有物だと主張する。微笑ましい。

 

「ええ分かっていますよ。ユキに嫌われたくないですから」

 

 つまり冬馬は小雪が好きなのか?

 と思ったがその表情を見て違う部類の好きだと判断する。

 あれは家族を見るような笑顔だな。自分が義経達や小雪に対するのと同じか。

 

 一人で納得してうんうんと首を縦に振る。

 

「まあ前途多難というか、色々大変だろうが、俺達はお前を応援しているから、頑張れよユキ」

 

 準が自分の弁当を持って冬馬の隣の席に座ると、苦笑交じりに小雪に告げた。

 小雪も何かやっているのだろうか? 

 

「けどユウ兄、バイトするって具体的にどうするんだ?」

 

 何故か自分のお弁当箱からおかずを強奪しながら、弁慶が話を戻す。なんの罰ゲームだ。

 

「まあ朝の訓練の参加とSクラスの維持の条件さへ守れば、必要最低限の衣食住の面倒は九鬼が見てくれると言っていたから、急いでいる訳じゃないんだけどな。今までの小遣いも結構残っているしね」

 

「お兄ちゃんは昔からあまり物を欲しがらないよね?」

 

「映画なら弁慶が借りてくるから一緒に観ているし、本関係は与一と清楚姉さんが貸してくれる。みんなで遊ぶ系のボードゲームなんかは義経が率先して買うしね。みんなの誕生日プレゼントとか、減った分の日用品の補充くらいにしか使い道が無いんだよ」

 

 義経の問いに答えつつ、持って来た水筒から紙コップにお茶のおかわりを注いで一息入れる。因みに他のみんなにもお茶を振舞ってある。

 

「ホント同年代かってくらい落ち着いてるな」

 

「自分としては普通のつもりなんだけどね」

 

 井上に答えつつ窓から差し込む暖かな日差しを感じていると、急にS組の扉が開いた。

 

「お、いたいた。おーいユウ!」

 

 頭に赤いバンダナを身に着けた男子生徒を筆頭に、数名の生徒がこちらにやってくる。

 その内の何人かは子供の頃の面影が残っていた。

 

「もしかして、キャップか!」

 

「おう! 覚えていてくれたか!」

 

「てことはデカイのがガクトで、そっちのひょろっとしたのがモロで、生意気そうなのが大和だな!」

 

「おうイケメンに成長しただろ!」

 

「はは、久しぶりだねユウ」

 

「俺、生意気そうな顔してるか?」

 

「たまにね」

 

 大和が自分の顔を指差して隣の一子に尋ねると、一子が素直に頷いた。

 

「一子は東西交流戦で見かけていたから気付いたけど、思った程みんな子供の頃と変わってないな」

 

「いや、お前が変わりすぎだろ」

 

 ガクトに笑いながらツッコまれる

 

「ははは、違いない。死にそうな目にも何度も遭ったからな。死にそうな目に何度も遭ったからな!」

 

「二回言うくらい酷かったんだ」

 

 モロが苦笑しながらツッコむ。うん流石はファミリーのメインツッコミ。

 

「あ、あのお兄ちゃん、その人達は?」

 

 振り返ると風間ファミリーのノリに取り残された義経達がいた。

 

「ああすまん。彼らは自分の子供の頃の友達だ。丁度いいからお互いに自己紹介しようか。自分の知らない仲間も増えているし」

 

 と言うわけでお互いに自己紹介をして親睦を深める。

 

 その過程でどうしてみんなだけがクラスに来れたのか分かった。

 マルギッテさんはどうやら風間ファミリーに新しく入った今年川神に留学しに来たクリスティアーネさんの護衛で、彼女とは子供の頃からの知り合いで姉妹のような仲らしい。

 

 ……マルギッテさんは身内に甘いって事は分かった。

 因みに本人がいいと言うので、今後はクリスと呼ぶことになった。

 

 そして残った椎名さんは、こちらと必要以上に仲良くするつもりは無いらしい。

 挨拶が物凄く事務的だった。まあ初対面だしな、仕方ない。

 

「やっほーユウ! 久しぶり!」

 

「おう一子、東西交流戦見たぞ。随分と強くなっちゃって、まあそれは小雪にも言える事なんだけどさ」

 

 一子の頭を撫でながら小雪に視線を送ると、何故か嬉しそうに『そんな~』と言って照れていた。いや小雪さん、そこで強さを認められると、兄貴分としては将来が少し心配です。

 

 義経達もそれぞれ紹介しあった。

 義経と一子は初対面とは思えないくらい、お互いに親しそうに喋り、何故か椎名は弁慶を警戒し、与一にいたってはその中二病の前に大和が悶え死んだ。

 

「やれやれ、一気に賑やかになったな」

 

 なんて言いながら軽く溜息を吐くと、また扉が開いた。

 

「よっしつっねちゃーん、戦おうぜー。あとついでに優季も」

 

「ついでかい!」

 

 現れたのは傍若無人の女王、川神百代だった。

 

「はは冗談だ。与一は遠距離だから別にいいが、義経と弁慶とお前、全員と()りたい」

 

「何故だろう。モモ先輩が言うと色んな意味で如何わしく聞こえる」

 

 ガクトが少し腰を下げて照れた様な変な笑みを浮かべた。

 そうか? 自分には物騒な意味にしか聞こえないんだが。特にあんな爛々とした目で見られたら。

 

「えっと、確か川神百代先輩ですよね? 義経達は他にも決闘の申し込みを受けているからすぐには戦えない」

 

「ははは……それで私が諦めるとでも?」

 

 途端、百代から一気に闘気が溢れ、義経を庇うように弁慶と与一が前に出て、冬馬を庇うように小雪と準が前に出る。

 

 ……あれ? 風間ファミリーの奴ら止めないのかよ!

 

 風間ファミリーはいつもの事と呆れていると者、そもそも止められないと諦めている者の反応に分かれて傍観していた。

 

「こりゃ、転校生をイジメんな!」

 

「あいたっ!」

 

 仕方ないので残った自分が百代の後頭部をチョップする。

 

「ふ、ふふ。いい度胸だな優季、まずはお前からか? というか元々お前から戦おうと思っていたところだ」

 

 百代の狂気を孕んだ様な瞳が俺を射抜いた。

 その目は、相手をぶちのめす事しか考えていないような目だった。

 

「……百代、お前大丈夫か?」

 

「何がだ?」

 

 自分が今、どんな目をしているのか分かっていないのか?

 

「お待ちください川神百代様」

 

 緊迫したこの場に相応しくない落ち着いた声と共に、クラウディオさんが現れる。

 

「確かクラウディオさんでしたっけ?」

 

 百代がクラウディオさんに視線を向けると、クラウディオさんはいつもの穏やかな笑顔で一度お辞儀した後に喋り始めた。流石クラウディオさん、どんな時も礼節を忘れないパーフェクト執事!

 

「はい。先程ようやく義経様達への決闘の申し込みの整理を終えたところです。つきましては武神と謳われる川神百代様にお願いがあって参りました」

 

 クラウディオさんがいつもよりも矢継ぎ早に説明する。

 なんでも学校内の生徒だけでなく外部からの決闘の申し込みも多く、その相手を百代にお願いしたいらしい。そして百代が戦って見込みがあると思った者は後日改めて義経達と戦わせる。という流れだ。

 

「なるほど構いません。むしろ大歓迎です」

 

「では……」

 

「条件として今日、優季と戦わせてもらいます。それと私が卒業する前に義経達と戦わせて貰う。この二つが条件です」

 

「それは……」

 

 クラウディオさんがこちらに視線を送ってきたので頷いて答える。

 できれば百代とはこちらの手の内が色々露見する前に一度決闘するつもりでいた為、こちらとしてもありがたい申し出だった。

 

「結構です。ですが先にこちらの依頼を片付けていただきますが、よろしいですかな?」

 

「ええ。場所は?」

 

「多摩大橋の傍の河川敷でいかがでしょうか?」

 

「構いませんよ。と言うわけだ優季、放課後多摩川に集合だ」

 

「やれやれ了解だ。久しぶりの決闘だな」

 

「ああ、楽しみにしている」

 

 百代は笑みを浮かべて去って行った。

 その後姿を見据えながら、テレビ越しでは気付かなかった百代の変化に気付いて眉をひそめた。

 

「百代、お前今、戦うのが楽しくないのか?」

 




なんだろう。百代が原作よりもあぶない人になってしまった気がする。


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