今回でゲーム開始前の話が終了。
次回からゲーム時間軸での話しになります。
「お、お兄ちゃん大丈夫?」
「心身共にボロボロって感じだね」
「兄貴、一体どれ程の冥府魔道の旅を……」
「あ、挨拶なら別に明日でもいいんじゃない?」
「あ、まだ大丈夫だから、むしろ寝たら暫く起きれそうにないから、先に挨拶とか済ませないと」
龍穴巡りのゴールである川神の大扇島にある九鬼家のビルに乙女姉さんと一緒に辿り着いた自分を待って居たのは、出迎えたヒュームさんによる強制連行だった。
連行先はシャワー室で、達成感に感動する暇もなく、ただ唖然としながらヒュームさんに状況を尋ねると、どうやら
なけなしの気力で旅の泥を洗い流し、川神学園の制服に袖を通し、そして今に至る。
「うむ。よくやり遂げたな優季、お姉ちゃんは嬉しいぞ」
「あ、乙女姉さっうお!?」
九鬼家のみんなが待っている部屋の傍で待機していた乙女姉さんが、こちらにやって来て、自分を抱きしめて褒めるように優しく頭を撫でる。
「褒めてやるぞ。よしよし」
「あはは、乙女姉さんの指導のお陰です」
流石にみんなの前では恥かしかったが、乙女姉さんとも暫く会えないし、まあいいか。と、そのままされるがままにする。何故か一瞬、背後から殺気を感じたが、気のせいか?
「さて、それじゃあ私も実家に戻る。揚羽に頼んで携帯電話に番号を入れておいて貰ったから。困った事があったら連絡しろ」
「了解です」
それはそうと、乙女姉さん、ちゃんとメール打てるようになったんだろうか?
乙女姉さんは重度の機械音痴で、携帯も以前人伝に聞いた時は電話としての機能しか使っていなかったはず。まあ自分もメールと電話でしか使っていないから、殆ど大差ないか。
お世話になった乙女姉さんに頭を下げ、義経達と一緒に改めて入室する。
その時視界に入った清楚姉さんの笑顔がちょっと怖かったのは、きっと気のせいだろう。だって怒られる様な事してないし。
デカッ!!
入って最初に感じた感想がそれだった。
高級そうな装飾品が並ぶ室内に大きなテーブル、そして幾つも並ぶ豪華そうなイス。
それら全てが余裕で収められる広さのある部屋だ。驚いても仕方ないだろ?
……多分偉い人とかを呼んで食事会とかする部屋なんだろうなぁ。でも一人二人で食べるとなると広く感じそうだ。
そんな部屋で先に来ていた数名の人達が自分達を出迎える。
九鬼の三人の兄弟と揚羽さんの専属従者の武田小十郎さんと忍足あずみさんだ。
「見事やり遂げたな優季。金平糖をやろう」
「あ、ありがとうございます揚羽さん」
最初に労いの言葉と共に揚羽さんが金平糖の入った小さな、しかし豪華そうな刺繍と生地を使っていそうな巾着を手渡してくれる。
揚羽さんは相手を褒める時に一緒に金平糖をくれる時がある。量は出来次第。巾着で渡されたのは初めてだ。揚羽さんがくれる金平糖は美味いんだよなぁ。
「戻ったか優季、小雪の言うとおりだったな」
「小雪が?」
「お前が川神学園に通うことになった事を伝えておいたのだ」
「そっか。ありがとうな英雄」
一応同い年で武士道プラン関係者という事で、義経達だけではなく自分も英雄の呼び捨てを許されている。そこそこ信頼関係はあると思うが、誰に対しても英雄は態度を変えないので正直分からない。
「うむ。お前が気にしていたようだからな。民の憂いを払うのもまた、指導者の勤めよ」
こういうことをサラッと言えて実行できる辺りは、流石は英雄だと思う。
喋り方や生き様が若干ギルガメッシュに似ているが、彼よりは融通も利くし性格も丸いと思う。
「フハハー! 最後は我である。優季、しゃがむがいい!」
「はい。紋さま」
その場に片膝を付いて紋さまと目線を合わせる。
最後にやってきたのは小学生と見紛う程の小柄な
額に他の兄弟と同じ様にバツ印の傷跡があり、他の二人とは違って和服を着ている。
本当は『紋ちゃん』と呼びたいのだが、そう言うとヒュームさんがやって来て電撃ツッコミをいれてくるので、ボロが出ないよう心の中でも紋さま呼びをしている。
一応本人から普段どおりに喋っていいとは言われているので、口調だけは普段どおりにしている。
「良くぞ姉上の期待に応えてくれたな。なでなでしてやろう!」
紋さまがやって来て、頭をなでる。その際に撫でやすいように更に頭を下げておく。
「ありがとう。紋さま」
頭を撫で終えられてから、顔を上げて笑顔でお礼を言うと、紋さまも満足そうに頷いて自分から離れる。
「うむ。やはり優季は惜しい人材だな。九鬼に就職せぬか?」
「う~ん本格的な九鬼への就職は、まだ検討させてくれるかな。でも育ててくれた恩は返すから、恩を返し終えるまでは九鬼の仕事を手伝うよ」
「そうか。惜しいな」
紋さまの趣味は人材スカウトだ。
趣味といっても同時に仕事でもある。
九鬼家の三人の子供はそれぞれ別の分野で活動して行く事が既に決まっている。
揚羽さんが軍事関連、英雄が商業関連、紋さまが政界に進出し政治関連を統べるらしい。
それらを活かすのはやはり人材であり、その人材の発掘に一番長けているのが紋さまと言う訳だ。
まあ確かに三人には人を惹き付け、従いたくなるオーラみたいな物がある。
前世で出会ったレオと同じ様な人達だよな。生まれながらの王者の気質という奴だろう。
ただ唯一、紋さまの欠点を上げるなら我侭を言わないところだろうか。
九鬼の兄弟仲は凄く良い。だが、どこか紋さまが遠慮している部分がある。
そして他の二人もそういう控えめな部分に思う事はあるみたいだが、自分からは踏み込もうとしない。理由は分からないし、それを教えて貰えるほど、今の自分は紋さまとも親しくない。
うん。九鬼への恩返しのためにも、義経達同様、出来る範囲で彼女を支えてあげよう。
「さて、とりあえず挨拶は済ませたな。次にお前達の入学だが、六月の頭には既に入学扱いとなっている」
「ん? という事はもう私達は川神学園の生徒なのか?」
弁慶が川神水を飲みながらヒュームさんに尋ねる。
「書類の手続き上はな。だがお前達が表舞台に立つ以上、周囲への情報開示は必須だ。それに川神学園でも六月に催しがあるのでな。お前達の入学はその後になる」
「催し?」
「うむ。東西交流戦だ」
英雄が腕組みしながら頷き、ヒュームさんの説明を引き継ぐ。
英雄の話を纏めると、今週末に西の
一日目が一年の試合。
二日目が三年の試合。
三日目が二年の試合となっている。
武器はレプリカか峰撃ち、鏃は潰してクッションがついた矢、火薬系は量を減らす。
大将が倒された時点で負け。
それ以外はルール無用の何でも有りなんだから、どっちの学園も物騒極まりない。
「状況次第では東西交流戦への乱入も考えている。と言う訳で東西交流戦がある間は九鬼のビルで待機していろ」
最後にヒュームさんがそう締めて、この日の説明会は終わり。その後は自分の帰還祝いというこで高級そうな料理をみんなで食べた。そして部屋に付いてベッドに倒れるとすぐに睡魔に襲われたため、そのまま眠りについた。
次回は東西交流戦なんですが……西方十勇士とは関わらないです。
正直あの戦いに主人公は介入させにくいので。
燕先輩といい、私の作品は西勢が不遇な立ち居地にありますね。