今回から五月の間は九鬼家以外のメインキャラの説明回のような話しが続きます。
「全員合格だよ」
四月の末に、マープルさんが編入テストの結果を持ってやってきた。
後ろには従者部隊0番のヒュームさんと3番のクラウディオさんも一緒だ。
因みに何故か自分だけ胴着を着ろと言われて、ヒュームさんに手渡された胴着を着用して結果を聞いていた。
「おめでとうございます皆さん」
メガネをかけた老紳士のクラウディオさんが、自分の事の様に微笑む。
「ふん。このくらいは出来て当然だ」
クラウディオさんとは対照的に、厳つい表情で鋭い眼光のヒュームさんが、ふん。と鼻を鳴らして小さく笑う。相変わらずの恥かしがりやである。
因みにマープルさんを合わせた三人は、年も近く昔から九鬼に仕えてる重鎮だ。
ヒュームさんに至っては年老いても『最強』の看板を背負っているくらい強い。
執事としての仕事もそつなくこなせる。
クラウディオさんは紳士学校を首席で卒業し、執事としての仕事の手際はヒュームさん以上だ。ヒュームさん以下とはいえ、武力も高い。
二人とも今は九鬼家の末娘である
「五月には本格的に大扇島の九鬼財閥極東本部のビルに住んで貰うよ」
大扇島は川神にある人工島だ。そこに九鬼のビルがあることは知っていたが、まさか極東本部だったとは。
「フハハハ、
良く通る声と共に、銀髪の長髪で額にバツ印の傷跡をつけた九鬼家の長女である揚羽さんが、リュックを持って部屋にやってきた。
揚羽さんは九鬼家の子供中では一番武道に精通している人で、ヒュームさんから直々に手解きを受けている。そのうえ既に世に出て仕事を行っていて、九鬼家の軍事関連を取り仕切っている。武道派らしく明朗快活で話していて気持ちの良い人だ。
「失礼します!」
揚羽さんの後に続いて、彼女の専属従者である序列999番で、赤いバンダナを額に巻きつけた
元気に跳ねた髪を表す様に、本人の性格も暑苦しいくらいの熱血漢で純情な優しい人だ。
揚羽さんに絶対の忠誠を誓っていて、どれだけ揚羽さんに殴られても傍に使える従者の鏡だ。まあ殴られる理由の殆どが本人のポカとか、空気の読めない発言のせいなので自業自得とも言える訳だが。
「失礼します」
そして小十郎さんの後に、青い髪で大きく強気な瞳が特徴的な、胴着を着た見知った女性が入ってくる。
「揚羽さんと、
「久しぶりだな優季。元気にしていたか」
「はい。乙女姉さんも学業お疲れ様です。先生を目指しているんですよね、確か?」
「ああ。私は人に物を教えるのが好きだからな」
乙女姉さんはこちらに近付くと、手を伸ばして自分の頭を撫でる。
正直気恥ずかしいが、昔から良くしてくれているし、何より姉さんが出来たみたいで嬉しいので、そのまま撫でられるままにする。
鉄乙女さん。俺の従姉で、子供の頃に実家に帰省した時は、よく乙女姉さんの弟の琢磨君や従兄のレオさんと一緒に面倒を見て貰った……よく馬役や子分役をやらされたなー。
乙女姉さんは日本でも武に抜きん出た四人を表す『四天王』と呼ばれる称号を得た武人の一人だ。因みにもう一人は揚羽さんで、更にもう一人は百代だったりする。
そんな二人が一緒に居る……何故だろう。嫌な予感がする。特に乙女姉さんが自分と同じ胴着姿なのが気になってしょうがない。
「四天王が二人も揃ってどうしたんですか?」
弁慶が訝しげな表情で揚羽さんに尋ねる。
「ああ、用があるのは優季の方なのだ」
「自分ですか?」
自分を指差すと二人が頷く。
「うむ。優季、我はお前を評価している」
自信たっぷりな視線と共にまずそう告げられた。
「最初は衰えた肉体で義経達の訓練に付いて行けるか心配で観察していたが、お前はそんな現状に嘆かずに柔術や合気道、八極拳といった筋力が少なくても戦える技術を習うことで自身のハンデを克服した」
自分が格闘訓練の最初の指導でお願いしたのが所謂カウンターや見切りを中心とした戦術の訓練だった。なんせもう筋力なんて殆ど無い状態だ。故に相手の攻撃を利用する格闘技を中心に学んだ。
「学業も聞く恥を厭わず周りの者に助言を求めて学力を向上させた」
いやそれは普通のことだと思いますよ揚羽さん。分からないままじゃどうすることも出来ないですし。
「更にここ数年で自分の武器である気を鍛え上げ、今では八極拳と柔術を基礎とした体術と、気の能力を駆使した技で義経達とも渡り合えるようになった。そんな努力家なお前の成長を見るのが、いつしか我の楽しみとなっていた」
そう言えばまだ学生だった頃の揚羽さんとは、よく一緒にヒュームさんと鍛錬していた気がする。しかしそこまで評価してくれているとは思わなかった。なんかこそばゆい。
「あ、いえ、そんな」
あまり武術の面で褒められた事がないため、照れる。
「故にだ。そろそろ『本格的』に身体を鍛えても良いと我は思うのだ。乙女と同じ鉄の遺伝子を受け継ぐお前だ。きっと強くなれる。乙女も可愛い弟分の為ならと、快く承諾してくれた」
「……え゛」
背中に冷たい汗が流れた。
「差し当たって六月の頭まで付きっ切りで見て貰えるらしい。良い姉を持ったな優季」
「私も今後は先生になるための準備で時間を取られてしまうからな。鍛えられる時に集中的に鍛えるつもりだ。なに、琢磨は寮に入ったし、レオも一人立ちしたから気兼ねする事はない。お姉ちゃんがしっかり鍛えてやるからな」
乙女姉さんに物凄い力強い笑顔と共に、肩を捕まれた。
いやあああああああ!?
心の中で絶叫する。
だって鉄家の修行って滅茶苦茶なモノのが多いんだもん!
というか自分は鉄の生まれじゃないです揚羽さん!
乙女さんが知らないのは仕方が無い。自分以外で血の繋がりがない事を知っているのは両親と乙女さんのお祖父さんだけだからだ。しかし九鬼家がその辺りを調べていない事が意外だった。
それだけ父さんが信頼されていたって事かな?
そう考えると少しだけ誇らしかった。
って、思考を他所に向けている場合じゃない。
「で、でも乙女姉さん。大学を一ヶ月も休むのはまずいんじゃ?」
「私は課題提出も出席日数も問題ない」
ですよねー。真面目で優秀な優等生だもんね乙女姉さん。
「では五月中は優季は私と一緒に世界に48箇所ある龍穴巡りに向かうぞ。必要最低限の物は揚羽が用意してくれた」
あのリュックはそのためか! そう言えば乙女姉さんも同じ様なの背負ってるよ!
「乙女姉さん、移動は?」
なんとなく答えは分かるが一縷の望みをかけて尋ねる。
「基本己の肉体のみだ!」
……死ぬんじゃね?
「勿論常に移動する訳じゃない。休憩も挟むし組手稽古の時間も取るから安心していいぞ」
死んだね。間違いなく。
もはや笑うしかな。
「では行くとしようか優季」
「……ウッス」
どこか悟ったような微笑を浮かべながら、従順に揚羽さんからリュックを受け取る。
逆らう? この場で死ねと?
「我の期待に見事応えて見せよ優季!」
「はい。頑張ります」
頑張ろう。頑張るしかない。死なない為に。
「頑張ってくださいね優季」
良い笑顔ですねクラウディオさん。その笑顔が今はツライ。
「ふっ。少しはましな赤子になって戻ってくるんだな」
「相変わらずツンデレですねヒューって、イタイ!」
最後かもしれないので思った事を言ったら電撃込みで背中を平手打ちされた。
ヒュームさんなりの激励だと思おう。でないと悲しい。
「ま、がんばんな優季ボーイ。今の内から語学を勉強しておくに越した事はないよ」
こんな時も勉強ですかマープルさん。言ってる事がもっとも過ぎて泣ける。
「あ、揚羽さま、いきなりでは優季君も戸惑うのでは?」
「お、お兄ちゃん大丈夫か?」
「ユウ兄、顔から汗が凄いんだが」
「兄貴、あんたもまた恐怖を抱く者だったのか」
「え、えっと、無理に旅に出る必要は無いんじゃ」
義経達と小十郎さんだけはやんわりと今回の件に否定的な態度を示して抗議してくれる。
や、やっぱりみんなええ子やぁ。
「私の
「うむ。義経達も我と共に信じて待つと良い。この男はやれば出来る男だ」
……ダメだ。お姉様方二人は既に武人モードだ。
ええい腹を括れ!
「ま、任せろみんな! お前達の兄貴分であり弟分は強くなって帰ってくるとも!」
「よく言った。それでこそ鉄の一族だ。まずは日本の龍穴だ!」
「了解です!」
やけくそとばかりに笑顔を浮かべて頷き、そのままの笑顔でみんなと別れて乙女姉さんの後に続いて部屋を出る。さて、まずは本土に向けて遠泳かな。
と言う訳で乙女さんの登場でした。
折角ですからつよきすでの修行も追加(色々変更してます)。