幼少期編のスタートです。
自分の最初の記憶は病室の天井だった。
大声で泣く自身の声とは裏腹に、冷静に思考を巡らせる自分がいた。
自分は自身の知識から、自分が所謂『転生者』なのだと悟った。
数分後。看護士に抱かれて、自分は分娩室から新生児室に移された。
その間、自分は生前の自分について考えていた。
しかし思い出せたのは自身が生前得ていたであろう知識のみで、個人的な記憶などは一切思い出せなかった。
簡潔に説明するなら『本の内容は知っている』が『その本を何時、何処で、誰と読んだのか』を思い出せない。と言った感じだ。
しかも願いを叶える月だの。電子世界に精神だけダイブさせるなどという変な知識まである。
自分はあまりにもSFな前世に、小一時間ほど生前の自分を問い詰めたい衝動に駆られた。
結局、暖かな布に包まれている内に眠くなってきたので、『まあいいか』と思い。眠りに着いた。
生まれてからしばらくは新生児室で過ごした。
その間、硝子越しに何名かの夫婦を見かけたが、誰が親かも分からない自分は、早くここから出たいと思っていた。
そんな日々を送る中、看護士さん同士の会話で明日には母親の元に移される事が分かった。
その日は二度目の人生と、親との対面に、興奮と期待を抱きながら眠りに付いた。
「っ!?」
意識が突然感じた寒気に驚いて覚醒する。
目覚めると何故か外にいた。それも雨の中だ。
確かに昨日は病院で眠っていたはずなのに。
訳が分からなかった。
一応身体は布に包まれているが、今は濡れているせいで逆に不快に感じた。
その時、視界の隅にフード付きの雨合羽を来た誰かを捉えた。
フードを目深に被っているのと、雨で視界がボヤけているせいで顔は良く見えない。
しかし、その人物の言葉だけは雨音が強く響く最中、何故かはっきりと聞き取れた。
『悪いけど、あんたを育てる余裕なんてないの』
その言葉を耳にした瞬間、理解した。
ああ……自分は捨てられたんだ。
雨合羽の人物が車に乗って遠ざかって行く。
吼えた。ただただ声を張り上げて吼えた。
別にあの雨合羽の人物を呼び戻したかったからじゃない。怒りに吼えたのだ。
そしてその怒りも自分を捨てた人物にではなく、生まれてすぐに迎えた危機に何も出来ない己の弱さが悔しかったからだ。
自分は何のために転生したというのか!
例え神の気紛れであったとしても、こんな結末は許せない!
故に吼える。
自分は死にたくない!
否。自分という存在は、まだ始まってすらいない!!
故に吼える。
雨が口や目に入ろうとも吼え続けた。他にできる事が無いから。
赤子の身では、この残酷な運命に対して行える、唯一の抵抗だったから。
ついに布の内側まで完全にびしょ濡れになった頃に、自分は死を覚悟した。
それでも吼え続けた。
せめてこの声が枯れるまでは、最後までこの運命に逆らい続けようと思った。
自分がそう覚悟したその時、何故か雨が止んだ。
いや違う、傘だ。誰かが自分に傘を差してくれたのだ。
「声が聞こえると思えば、やれやれ随分と酷い事をする」
「大変! すぐにお湯の用意をしますね」
誰かが自分を布から取り出して、顔を拭いてくれた。
はっきりした視界で視線を移すと、不憫そうにこちらを見詰める男性と目が合った。
「よしよし。今すぐ暖めてやるからな」
男性がそう言うと、自分を抱く彼の両手から、温かい何かが身体に入って来るのを感じた。
……とても気持ちが良い。
自分の体内に心地良い熱が広がり、先程までの怒りや悲しみも薄らいで行くようだった。
「貴方。お湯の用意ができましたよ」
「うむ。気で活力を与えておいたから大丈夫だとは思うが、しばらくは様子を見るとしよう」
自分は夫婦に連れられて彼らの家へと迎え入れられた。
それから数日後。
自分は
ははは、まさかまじこい要素よりも先につよきす要素が出てくるとはお釈迦様でも気付くめぇ。
プロットの段階では九鬼家に拾われる予定だったんだよ~。