田中太郎 IN HUNTER×HUNTER(改訂版)   作:まめちゃたろう

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第五話 【原作前】

「おはよう、タロー。体調はどうですか?」

 

 起きてダイニングへ向かうとすでに師匠が朝食の準備を整えて待っていた。

 

「おはようございます、師匠。とってもいいです」

「それは良かった。では朝食が終わったらタローに起きた現象の説明をしましょう」

「わかりました」

 

 今日の朝食は純ジャポン風。白いご飯に筍の甘煮、塩鮭にダシ巻き卵とこれでもかと俺の好物が並んでいる。味噌汁をすすり、ご飯を口に入れると幸せが広がった。

 これだよ、人間の食い物って本来こういう物だ。

 寄生虫だらけのウサギの肉なんて……カイトにもわけてやりたい。まだアレ食ってんだろうな。

 食事が終わり片づけがすむと開口一番、師匠が切り出した。

 

「一言でいうなら念といいます」

「念……?」

「タローの体の中には体液とは別にオーラと呼ばれる生きていく為の源とされる水があります」

「水ですか……」

 

 えらく大胆な説明だ。

 お水ときたか。

 

「そうです誰しもの体にもこの水があり、大小大きさは人によって違いますが体の中にこの水が湧き出るバケツが存在し、フタがしてあります。このフタが精孔と呼ばれています。

 普通はバケツのフタが閉まっていますが、バケツからはいつも水が湧きでていますので少しづつですが体の外へ出てきてしまいます。頭のてっぺんから足元へと……この現象を垂れ流しといいます」

 

 

 用意されていた大きな紙に分かりやすい絵と文字で解説される。

 

「このバケツ実は底が不安定になっていて、他人の垂れ流している状態以外の水が当たってしまうと、簡単に倒れてフタが開き中に入っている水が体中から溢れ出て行ってしまいます……この現象を精孔が開くといいます。この現象はとても危険で、水は命の源なのにバケツは倒れてしまいどんどんあふれ出てきています。この水がバケツの中から全て出てしまうと人は死んでしまいます。タローはどうすればいいと思いますか?」

「水を戻せばいい?」

「そうですね。体から離れてしまうととても危険です。溢れていく水を体の周りに集めバリアの様な薄い膜を作り、それ以上水が外に出ないようにします……これを纏と言います」

「俺はバリアはちゃんと張れているんでしょうか?」

「まだまだいびつですが馬鹿のせいで混乱しながらやり遂げたと考えれば立派な物です その纏の流れを良くしていきましょう」

「今日は纏を練習するんでしょうか」

「その通りです。纏は歩くことに良く似ています、歩き方を一度覚えれば何も考えなくても歩けるようになります」

 

「倒れてしまったバケツは2度と戻りませんが、フタを閉め直すことはできます。水が1滴も漏れないようにギュっと閉めますと絶、バケツから湧き出ている水の源の穴を一気に広げて、通常以上量の水を体の外へ出す事を練と言います。ここまでは理解できましたか?」

「はい」

「この水の形を変えたり体の外へ出して操ったり、人によって様々現象は違いますがこれを発と呼びます。いわゆる必殺技です これは攻撃という手段だけには留まらず、人を癒したりはたまた遠くの場所へ行ったりする事もできます。水を操る技術の事を念といい操る人の事を念能力者と言います 纏・絶・練・発 この4つを合わせて念の基本四大行といいます」

「四大行に必殺技ですか……」

 

 やっぱり師匠の教え方は分かりやすい。

 

「タローも男の子ですから必殺技には惹かれますか?」

「ものすごく!!」

「実際見せた方が早いでしょう これが僕の発です」

 

 少し離れた所に立つと師匠はビックリしないで下さいねといいならがら、巨大な真っ白い本を出現させた。

 

「デカ!!」

 

 高さだけでも俺の目線くらいある。

 なんか凄そうな念だ。

 さすがというかやっぱり本なんですね。

 師匠は具現化した本に体重を乗せつつ、更に説明を続けた。

 

「発はむやみやたらに作る物ではありません。いきなり出来てしまう時もありますが、一生付き合っていくことになりますし駄目だったら作り直すということもできません」

「師匠はその本を作るのにどれだけかけたのですか?」

「20年ほどです」

「……ッ」

 

 思わず絶句する

 20年って……。

 

「変な顔になってますよ」

「変な顔にもなりますって!」

「アハハハ。僕は色々な念能力者を長年見てきましたが念を覚えて1年以内に作った発はほぼ失敗します。ですからタローも1年は発を作るのは禁止です」

「……わかりました」

 

 たった1年、されど1年。能力づくりを楽しみにしていただけに言葉に不満が籠った。

 

「焦ってはいけません。タローの人生は長いのですから」

「はい」

「タローには僕がいます 完璧な師匠という訳ではありませんが年を食っているのでちょっとしたずるも知っています。気長にやりましょう」

「了解です!!」

 

 ビシっと手をまっすぐ上に上げて元気良く返事をする

 

「それでは纏から始めましょう」

 

 そう言って渡されたのは銀ぶちの眼鏡。かけるようにうながされ装着してみるとガラリと景色が変わった。

 

「おおっ」

「僕とタローの周りにもやが見えるでしょう?」

「はい。これがオーラなんですね」

 

 同じオーラと言っても印象は全く違う。

 師匠のオーラは肌にピタリと薄い膜を張っているのに対し、俺のはねぐせのようにあっちこっちに跳ねまくりひと時もじっとしていない。今も形を変え続けている。

 

「タローのオーラが凸凹しているのは分かりますか?」

 

 黙って首を縦に振る。

 

「タローは上手くオーラを循環させることができず、オーラが体の外へ出て行こうとする力に負けてしまっているせいです」

「だから俺の纏がいびつだといったんですね」

「その通りです。ベットに寝て体の力を抜き、目を閉じなさい」

 

 俺が楽な体勢を作るとぬるま湯に使ったような感触が全身を包んだ。

 

「今感じている感触は僕のオーラです。一点だけ得に存在を感じる部分があるのがわかりますか?」

 

 集中すると左の指先の辺りに感じる事ができた。

 

「左の指先でしょうか?」

「その通りです。ではゆっくりその部分を移動していきますのでタローはその感触を意識で追っていって下さい」

 

 師匠のオーラは心臓からつま先、そして頭頂部へと血の巡りと重なるように動いていく。

 しかし、師匠のオーラが気持ちよすぎてついうとうとしそうになる。

 

「タロー、寝たらお仕置きですよ」

「ネ……ネテマセンヨ」

 

 ちょっと危なかったけど……。

 師匠は有言実行なので寝たら確実に恐ろしい目にあわされそうだ。

 焦った心を落ち着かせ、ゆっくりと師匠のオーラを感じる作業に戻った。

 

 

 

 お昼まで纏の修行は続いた。

 本当に危険な修行だった。主に眠気的な意味で。何度も意識が飛びそうになったので、皮膚に爪を立てて耐え忍んだ。

 昼食後、鏡を見てみると凸凹部分がだいぶマシになっていた。

 こんなにすぐ効果が表れるとは思わず、正直ビックリしている。

 

「次は絶と身体トレーニングです」

「さすがに2つ同時は……というかすぐには出来そうにないですよ」

「普通は無理ですね。でもこの腕輪があれば問題ありません」

 

 はめてみなさいといわれ、先ほどのメガネと同じようにつけると自分のオーラがすっと消えた。

 

「え?」

「それが絶です」

「その腕輪やメガネは念具と呼ばれる道具で色々な種類があります。念がこめられた道具だから念具、メガネはオーラを見えるようにする効果があり、腕輪は強制的に絶状態となるものです」

「なるほど、だからこんなに簡単に……」

「念は体で覚えていくものです。いくら頭に知識があろうとも体が覚えなければ決してマスターはできません」

 

 体力や傷の回復も早くなるって読んだし絶は大切だろう。

 しかし念で絶が使えるようになったからか、今までの修行内容より一段と厳しいメニューが用意されていた。

 ジンさんの修行内容と違い命の危険はないが、1セットの回数はいきなり100回から3倍の300回に増やされ、消化スピードも上げるよう指示された。

 少しでも余裕ができたと判断されれば容赦なく回数が上乗せされ、文字通り悲鳴を上げながら取り組むハメになった。

 

 そして新たに体術が組み込まれた。

 体術といっても最初は反射神経の訓練といった感じで、師匠が操るロープを右へ左へと避けていく。

 これも慣れてくれば本数を増やされ、半年が経った今では総数は10本になっていた。

 ここまで増えるといくら広いとはいえ、逃げ場はあまりにも少ない。

 必死に隙間をかいくぐる。

 

「ぐっ……!」

 

 死角から襲ったロープが後頭部を直撃し、前方につんのめった。その隙に左右から襲われ思わず上空に飛び上る。

 

「悪手ですね」

 

 師匠の言葉と共に雪崩のようにロープが前後左右から向かってくる。逃げ道は上か下。

 しかし、宙に浮いているせいで方向転換ができず床へ叩きつけられた。

 肺が圧迫され呼吸が阻害される。だが師匠の手はゆるまない。

 ダン、ダンとリズミカルな音を響かせて威嚇をしながらロープが近づいてくる。

 早く立て。そう言っているのだ。

 気合いを振り絞って両手をつき身体を起こす……が、わずかに間に合わず身体を弾き飛ばされ壁に激突した。

 残っていた体力の全てを削りとられ床に倒れこんだ。

 

「ここまで、ですね」

「ハア、ハア……ありが……とう……ございましたー」

 

 ようやく発せられた終了の声。

 心臓が早鐘を打ち、額からは滝のように汗が流れ落ちた。

 念を覚えてからの修行は正にスパルタだ。いや、それまでのが楽すぎたんだろうが。

 

 体力を使い切って動けない俺を師匠が抱えて風呂に放り込む。

 ミミズのように這いつくばりながら服を脱ぎ冷たいシャワーを浴びるとだんたん四肢に力が戻ってきた。

 ざっと体と頭を洗い湯船につかる。

 このまま湯船に懐いていたい気持ちで一杯だが、修行の合間の風呂は10分と決められている。

 時間を僅かでも過ぎればノルマが倍増されるのだ。

 師匠は有言実行。

 以前、つい居眠りをしてしまった時は地獄だった。何度謝っても許してもらえず、泣く泣くノルマをこなした。ちなみに終わったのは夜中の4時だ。

 

 

 風呂から上がると座学の授業。

 絶の効果は素晴らしく、風呂から上がる頃には授業を真面目に聞くことができるくらいまで回復している。

 念ってマジチートッス。

 

 朝は纏てん、昼から夕食までを絶と身体トレーニング。夕食後には座学。そして寝る前にまた纏てんと半年ほど続けた今では腕輪を取った状態でも師匠に完璧といわれるような纏てんと絶が出来るようになった。

 

 褒められた時はうれしくて舞い上がったけれど、よくよく考えればかなり習得スピードが遅い事に後から気がついた。

 ゴンとキルアって確か1日でクリアしてなかったけ……?

 チートの1日が俺の半年か。少し目頭が熱くなった。

 




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