トリッパーと雁夜が聖杯戦争で暗躍   作:ウィル・ゲイツ

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第22話 サーヴァント集結(聖杯戦争五日目)

 次の日、朝食を食べて少し経った後、みんなで集まって打ち合わせを開始した。

 

 もっとも、最初にしたことは、精神世界での約束通りメドゥーサに対して、僕、タマモ、真凛、真桜が血液を提供したんだけど。

 当然と言うべきか、吸血方法は首筋への噛みつきだった。

 痛覚を一時的に麻痺してから吸血してもらったので痛みはなかったが、正面から噛みつく為に抱きしめられた格好になったのはちょっと恥ずかしかった。

 ……これで僕の体が少年なら恰好がつくんだけど、今の僕は幼児だからなぁ。

 なお、噛み跡はすぐに魔術刻印が自動的に治癒してしまったので、全く問題なかった。

 

 で、吸血を終えたメドゥーサの感想はというと、

『真桜>真凛>>僕>>>タマモ』

という結果だった。

 

 詳細を確認すると、

「やはり、受肉したサーヴァント、それも少女の血はおいしいですね。

 リョウの血も魔力は多く、普通なら十分に美味しい血なのですが、……比較対象が真桜たちではかなり劣ってしまいます。

 体が小さいゆえに、飲める血の量が少ないのも減点材料です。

 タマモは、 ……意外にもと言ったら失礼なのでしょうが、予想以上に魔力の量は多く、血の質も良かった。

 ただ、……」

「ただ、何ですか?

 所詮血の味のことですから、遠慮なく感想を言ってください」

「では、遠慮なく。

 やはり私の好みは人の血であって、狐の血ではありません」

 

 ああ、なるほど。

 いくらタマモが優秀な使い魔であり、今は人の姿に変身していると言っても、やはり素体が狐である以上、メドゥーサの好みには会わなかったか。

 

「好みに合わないんじゃ、仕方ないですね。

 では、私は血を提供しなくていいんですね」

「はい、三人の血で十分な魔力を回復できました。

 特に、真桜と真凛の血は素晴らしい。

 毎日飲めれば、魔力が十分貯まるでしょう」

 

 メドゥーサは珍しく饒舌でハイテンションだった。

 吸血行為は、メドゥーサにとってかなり重要な行為だったみたいだな。

 

「二人とも、献血量とか大丈夫か?」

「はい、これぐらいなら、……一日もあれば十分に回復できます」

「そうね、この量なら特に問題ないわ。

 ……まあ、戦闘後とかで出血した後とか、疲れている時は勘弁してほしいけど」

「さすがにそこまで欲しいとは言いませんよ。

 戦闘などがなく、体調が万全のときだけで結構です。

 ……まあ、『魔力供給がメインで、ここに籠りっきりの人』には、ぜひ積極的に献血してもらいたいところですが……」

 

 そう言ってメドゥーサは意味ありげに僕の方へ視線を向けた。

 いくら空気が読めない僕でも、ここまであからさまにアピールされれば、彼女が言いたいことはすぐに分かった。

 

「了解。

 魔力切れにでもなってない限り、僕の血はできるだけ提供するよ。

 ただし、この体はまだ6歳時で血液の量は少ないんだから、それを忘れないでくれよ」

「ええ、もちろんです。

 ……一時の満足のために、ずっと続く幸せを自ら破壊するほど私は愚かではないですよ」

 

 それって、言葉は飾っているけど、「ずっと血をもらうつもりだから、殺すなんてもったいない」と言っているのと同じだと思うけど。

 ……まっ、いっか。

 どんな理由であろうとも、『メドゥーサが自主的かつ積極的に僕を守る気になった』のなら、歓迎するべきことだしな。

 

 なにせ、今の真凛と真桜は『受肉化したサーヴァント』であり、自分自身が己のマスター(の一人)でもある。

 極論を言ってしまえば、この二人に僕やタマモは必要ない。

 それは、この二人をマスターとしているメディアとメドゥーサも同じだからなぁ。

 メディアについては今さら言うまでもないが、メドゥーサも『本気で怒らせる』とか、『敵認定される』ことがあったら、あっさりと縁を切られてしまう可能性が高い。

 油断せず、増長せず、慎重に関係を築いていかないといけない。

 

 

 ともかく、こうして(メドゥーサだけだが)新しい魔力回復手段も見つかり、戦力強化や戦闘準備、敵の監視、そして修行を行っていた。

 

 なお、時臣陣営は警戒レベルを最大にしたらしく、教会の周辺で『円』を使ってもアサシンを見つけることはできなかった。

 メディアの予想では、『教会の中から外部の警戒をしているのでは?』ということだった。

 確かに、メディアの予想通りに警戒をしていれば、メディアから探知できない状態で最低限の警戒網は構築できる。

 さらに、(建前上は)不可侵の場所である教会の中まで入ったことがばれると、原作の青髭みたいに『教会認定のターゲット』にされかねないから、こちらは襲撃できないわけか。

 実際、あれ以来アサシン(の分身)狩りはできていない。

 

 

 そして、ここまでくると予想通りと言うべきか、原作の流れよりも早くディルムッドが出陣してきた。

 盗聴した限りでは、『ディルムッドの剣』が見つかる見込みはまだないらしい。

 しかし、ホテルの要塞化も終え、ケイネスが少しでも早くデビュー戦を行いたいと考えた結果、今日出陣することになったらしい。

 

 ……予想はしていたが、やっぱりこいつは『戦争童貞』かつ『戦争の戦術知識が皆無』なんだろうなぁ。

 ディルムッドの能力は高く、『特殊効果の詳細がばれても防ぐのが難しタイプの宝具』を持っているので、積極的に戦闘を求めるのは間違っていない、……と思う。

 しかし、一対一ならともかく、サーヴァントを複数呼び寄せて当然の状況で、『自分はディルムッドの近くに待機する予定なのに、サーヴァント相手に最後まで隠蔽魔術で姿を隠せる』と思っている時点で、完全に終わっている。

 『この時代の魔術師が使う隠蔽魔術など、サーヴァント、特にキャスターのサーヴァント相手なら全く無意味』だとか考えないのだろうか?

 実際、出陣した後、『ディルムッドから距離を取って移動する隠蔽魔術で隠れた(つもりの)ケイネス』を、『円』を使うことなくメディアがあっさりと見つけてしまった。

 もちろん『メディアの影を使った探索』であり、本体は拠点にいたままの状態でだ。

 

 これで、ケイネスの命は、僕……じゃない、メディアの掌の上である。

 『ディルムッドがアルトリアと戦って、アルトリアがピンチになる事態』があっても、その時点でケイネスの命をネタに脅迫すれば、ディルムッドを撤退させることも可能だろう。

 

 

 その後、ディルムッドが一日中街中を練り歩くのを使い魔で監視していたが、夕方になっても誰も接触しようとしなかった。

 そして日が落ちたころ、メドゥーサが街を歩く美女と男装の美少女のペアを発見した。

 僕も影を飛ばして美少女のパラメータを確認したが、間違いなくアルトリアだった。

 ……ついでにいえば、原作と完全に同じパラメータだった。

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    セイバー

真名     アルトリア

マスター   衛宮切嗣

属性     秩序・善

ステータス  筋力 B  魔力 A

       耐久 A  幸運 D

       敏捷 A  宝具 A++

クラス別能力 【対魔力】:A

       【騎乗】:A

保有スキル  【直感】:A

       【魔力放出】:A

       【カリスマ】:B

宝具     【風王結界 】:C

       【約束された勝利の剣】:A++

 

 よかった。

 さすがにバタフライ現象はアルトリアまで影響していなかったか。

 当然、隣にいる美女はアイリスフィールだろう。

 茶番が起きるのが早かったせいか、アルトリアたちが冬木市に来る時期も早まったようだな。

 

 しかし、このパラメータでは、……アルトリアがディルムッドに勝てる可能性はないだろうなぁ。

 努力でカバー可能な能力差を超えている可能性が高い。

 そんなことを考えていると、アルトリアがディルムッドの気配に気づいたらしく、ディルムッドの方へ移動していった。

 そして、最終的にはディルムッドが待ち構える倉庫街へアルトリアとアイリスフィールは向かった。

 

 となると、切嗣ももうすぐこの近くに来るはずだな。

 切嗣と舞弥はまだ発見できないが、マスターを狩るために必ず戦場が見える場所へ来るはずだ。

 そこで見つけて今後常に監視をすれば、少しは危険度を下げることができるだろう。

 

 なおイスカンダルとウェイバーは、マッケンジー邸を出発したときから、事前に配置してあった複数の使い魔を使って遠距離監視を行っており、今は二人が橋の上にいて観戦中なのも確認済みだ。

 後は作業クレーンの上にアサシンが来れば、役者は全員揃う。

 

 今回は練習もかねて、僕たちは全員それぞれの使い魔や影で偵察を行うことにした。

 偵察人員を増やすことで、イレギュラーな事態が発生してもすぐに発見して対策をとることができるだろう。

 

 

 おっと、そろそろ雁夜さんとも相談しておいたほうがいいな。

 雁夜さんのところに置いてある使い魔経由で会話をしようとしたところ、雁夜さんの方から使い魔を通じて連絡があった。

 

「八神君、気づいているとは思うが……」

「はい、ランサーとセイバーが倉庫街へ向かっていますね。

 ライダーも様子を伺っていますし、アーチャーも近くにいる可能性が高いです。

 ……雁夜さんのバーサーカーはどうしますか?」

「そうだな、アーチャーがそう簡単に負けるとは思わないが、……念のため俺の分身と一緒に倉庫街の近くに待機させておこう。

 ……戦闘に参加するかどうかは状況次第だな。

 今のところバーサーカーは僕の制御下にあるが、戦闘中や狂化中でも制御できるかどうかは一度試さないとわからない。

 いざというときに制御できないと問題だから、余裕があればバーサーカーに短時間でいいから戦わせたいと思っている」

 

 雁夜さんには、予知で見たサーヴァントの能力はすでに伝えてあり、『ディルムッドがとんでもなくパワーアップしていること』も、『ディルムッドがランスロットと相性が悪いこと』も理解している。

 しかし、ランスロットもまたパワーアップしているので、『倒すことはできなくとも、逃げることなら十分に可能』だと思っているのだろう。

 ……まあ、ランスロットが霊体化して全力で逃げれば、ギルガメッシュ以外には捕まらないし殺されないと思う。

 

「わかりました。

 僕たちは偵察がメインで、何があっても真凛と真桜は戦場に出さないつもりです」

「その方がいいだろう。

 何かあれば俺のバーサーカーを使う。

 君たちは偵察に専念してくれ。

 ……そうだな。

 何か重要なことが起きたら、連絡してくれると助かる」

「わかりました。

 何かあればすぐに連絡します。

 雁屋さんも気を付けてください」

「ああ、任せてくれ」

 

 これでよし。

 後はアルトリアたちの状況をしっかり確認しておくだけだ。

 ちょうどそのとき、倉庫街の道でディルムッドとアルトリアが対峙して、会話を始めたところだった。

 

「よくぞ来た。

 今日一日、街を練り歩いてきたが、穴熊を決め込む腰抜けばかり。

 ……俺の誘いに応じた猛者はお前だけだ」

 

 ディルムッドはそう言ってアルトリアを讃えた後、すぐに問い質した。

 

「その清澄な闘気……セイバーとお見受けしたが、如何に?」

「確かに私はセイバーだ。

 ……そういうお前はランサーに相違ないな?」

「その通りだ。

 ……これから死合おうという相手と、尋常に名乗りを交わすこともままならぬとはな。

 興の乗らぬ縛りがあったものだ」

「是非もあるまい。

 もとより我ら自身の栄誉を競う戦いではない。

 お前とて、この時代の主のためにその槍を捧げたのであろう?」

「フム、違いない」

 

 二人が本当に意気投合しているのは、見ているだけでもよく分かった。

 しかし、『栄誉を競う戦いではない』と分かっているのなら、どうしてあんな結果になったのだろうか?

 ……ああ、栄誉は競わなくても、『騎士の誇り』は大事だったってことか?

 しかし、揃いも揃って『騎士の誇り』を認めてくれないマスターだったのが、悲劇の始まりだったということか。

 そういう意味では、『貴族としての誇りと矜持を持つ時臣師』に召喚されていれば、最後には自害させられるけど、それまでは『騎士として相応しい扱い』をしてくれたんだろうなぁ。

 ……だが、殺し屋の切嗣ならともかく、名門出身のはずのケイネスが『騎士の誇り』を理解できないものなのだろうか?

 ……ああ、ケイネスは『魔術師の名門』であっても、『貴族の名門』ではなかったかということか。

 

 つくづく思うのが、マスターとサーヴァントの相性は特に重要だってことだ。

 僕たちの場合、真凛と真桜との相性は全く問題無く、メディアとメドゥーサもお互いに納得できる関係を築いていることもあり、このままでいけば……アルトリアの扱い以外では多分問題は起きないと思う。

 くれぐれも、『アルトリアの処遇を巡って仲間割れ』ということがないように気を付けておこう。

 

 そんなことを考えているうちに、アルトリアも蒼銀の鎧を武装し、「この私に勝利を!」というアイリスフィールの言葉を受けて、ディルムッドへ突撃した。

 

 次の瞬間、超高速の剣戟が始まり、僕の目には残像と剣戟で発生する光しか見えない状態になってしまった。

 仕方なくメドゥーサに解説を頼むと、予想通りディルムッドが有利に戦いを進めているらしい。

 アルトリアの風王結界(インビジブル・エア)で剣の形状、間合いが分からないのは原作と変わらないが、アルトリアを圧倒的に上回る速度によって、予想される剣の最大射程範囲以上の間合いを常に保ち、その外側から槍で攻撃することで、アルトリアを一方的に攻撃しているらしい。

 まだ様子見なのか、アルトリアは何とか無傷で躱しているらしいが、ディルムッドが本気になればすぐに大ダメージを受ける羽目になるだろう。

 ……確かに、原作よりも一回り強いディルムッドが間合いの大きい二槍を使って攻撃すれば、アルトリア相手なら十分アウトレンジ攻撃が成立するんだろうな。

 そんなことを考えていると、いきなり二人は動きを止めていた。

 二人とも無傷ではあるが、ディルムッドは涼しい顔でいるのに対して、アルトリアは肩で息をしていて、どっちが優勢かは一目で分かる状態だった。

 しかも、僕の予想が正しければ、ディルムッドはまだまだ余力があると思う。

 そして、アルトリアは全力で戦ってこの結果だとしたら、……ディルムッドが全力を出した瞬間に、決着がついてもおかしくない。

 

 その頃、メディアによる偵察によって、あっさりと切嗣と舞弥が発見されていた。

 ……倉庫街の近くにいると分かっていて、かつ『アルトリアたちを(望遠鏡で)視界に納められる場所』を探しただけで、あっさりと見つけてしまったらしい。

 やっぱり、原作知識チートって恐ろしいものがあるな。

 とりあえず、二人にはメディア特製の使い魔が監視につくので、今後は強力な結界内に入らない限り、常に情報が手に入るだろう。

 

 さらにクレーンの上にアサシン(の分体)が姿を現し、いよいよ舞台は整いつつあった。

 

 

「名乗りもないままの戦いに、名誉も糞もあるまいが……」

 

 ディルムッドはいつでも戦える状態を維持しつつ、アルトリアに声を掛けた。

 

「ともかく、賞賛を受け取れ。

 様子見とはいえ全ての攻撃を躱すとは、……女とは感じさせない優れた騎士だ」

「無用な謙遜だぞ、ランサー。

 貴殿の名を知らぬとはいえ、それだけの技量を持つ者からの賛辞……私には誉れだ。

 ありがたく頂戴しよう」

 

 戦闘中、刃を向け合った状態だったが、間違いなくこの二人は理解し合い、意気投合していた。

 ……本当に誇り高いんだろうなぁ。

 まあ僕の場合、そういうシーンを見ても『こっちに迷惑を掛けないなら好きなだけどうぞ』と考えるタイプだが、そういうことを全く理解できない、理解しようとしない人もいるわけで、

 

「戯れ合いはそこまでにしろ、ランサー」

 

と野暮なことを言う人もいるわけだ。

 

 

「ランサーの……マスター!?」

 

 アイリスフィールはその声に驚いて辺りを見渡すが、当然見つかるはずもない。

 そのまま、(隠れているつもりの)ケイネスはディルムッドに指示を行った。

 

「様子見は終わりだ。

 貴様の実力を隠したままでは、セイバーを仕留められない。

 全力を以って、速やかに始末しろ。

 ……宝具の開帳も許す」

「了解した。

 我が主よ」

 

 そう答えると、ディルムッドは左手に持っていた必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)を放り捨てると、破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を構えた。

 

「……そういう訳だ。

 ここから先は()りに行かせてもらうぞ」

 

 ディルムッドはあえてただの突きを放った。

 そして、アルトリアによる剣の防御を誘い、風王結界(インビジブル・エア)破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)で無効化することで、約束された勝利の剣(エクスカリバー)の姿を露わにした。

 これにより、アルトリアの剣の刃渡りを理解したディルムッドは、次の瞬間から積極的な攻めを開始した。

 

 原作と同様に、ディルムッドは破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)のみでアルトリアを攻撃しているが、『本気になった槍使い』に『技量は互角だが、能力で劣り、リーチでも負けている剣使い』が勝てる道理は無く、さらに破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)で鎧まで無効化され、あっという間にアルトリアは数か所も深手を負ってしまった。

 戦闘の合間にアイリスフィールがすぐに治療をするが、アルトリアに余裕は一切ないように見えた。

 事前の予想通り、『原作より大幅にパワーアップしたディルムッド』に、『原作と同じ強さのアルトリア』では勝ち目がないようだな。

 約束された勝利の剣(エクスカリバー)の真名開放を命中させることができれば、間違いなくアルトリアの勝利だろうが、……どう考えても『真名開放に必要な時間をディルムッドが作らせない』か、『真名開放の攻撃をあっさりと避けてしまうこと』が容易に予想できてしまう。

 原作でも、メドゥーサを約束された勝利の剣(エクスカリバー)の真名開放で倒せたのも、メドゥーサ自身がアルトリアを攻撃するために向かってきたいたという要素が大きかったらしいし。

 同じことをアルトリアも考えたのか、無言で甲冑を解除して、一撃必殺、捨て身の一撃の構えを取った。

 

「ずいぶんと思い切ったものだな。乾坤一擲で来るつもりか。

 その勇敢さ。潔い決断。捨て身の覚悟。

 決して嫌いではないがな……」

 

 ディルムッドはあえて挑発するような言葉と足取りで、その位置を変えていった。

 

「この場に限って言わせてもらえばそれは失策だぞ、セイバー」

 

 ディルムッドのそんな挑発とも忠告ともとれる言葉に対して、アルトリアは一切答えず、表情すら全く変えなかった。

 しかしそれは、ディルムッドの言葉を無視したのではなく、次の一撃に全神経を集中し、余計なことを一切考える余裕がないことは僕にも理解できた。

 ディルムッドもそれを悟ったのか、それ以上言葉を掛けることもなく、軽快なフットワークで移動を続けた。

 と、わずかに、ディルムッドの足運びが鈍った。

 

 次の瞬間、アルトリアは剣を振りかぶり、その剣から大気の噴流を放ち、その反動と魔力放出の相乗効果で、超音速の弾丸となってディルムッドへ突撃した、と思う。

 何せ僕の目には、アルトリアがものすごい速さで剣を振りかぶったと思ったら、次の瞬間大音量と共に姿が消えたようにしか見えなかったのだ。

 その直後、そこにはすれ違って背を向け合うアルトリアとディルムッドの姿があった。

 しかし、ディルムッドは無傷だったのに対して、アルトリアは左腕から大量の血を流していた。

 ディルムッドの前に、必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)が転がっているのを見ると、原作と同じくアルトリアの捨て身の攻撃は必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)で迎撃されたらしい。

 ……ただ、ディルムッドはそのアルトリアの捨て身の一撃さえ、無傷で躱したらしい。

 さすがは、敏捷:A++。

 アルトリアが甲冑の魔力を移動に回し、さらに風王結界(インビジブル・エア)で加速しても、ディルムッドにとっては無傷で躱せる速度でしかなかったわけか。

 

「殺せたと思ったが、……奪えたのは片腕だけか。

 あの状況から、それだけの傷で防ぐとはな。

 ……さすがはセイバー、ということか」

 

 ディルムッドは一撃でけりをつけられなかったことを悔やむ様子もなく、凄惨な笑みでアルトリアを見据えた。

 対照的に、アルトリアは苦痛と焦燥を隠せずにいた。

 

「……アイリスフィール。申し訳ありませんが、再度治療を」

「かけたわ!

 かけたのに、そんな……」

 

 アイリスフィールは、アルトリアへの治療が効果を発揮しないことに狼狽しきっていた。

 宝具には『傷が治らない呪い』を持っているものも結構あるのに、全然思いつかなかったか、……いや初陣かつ想定外の状況に動揺しきっているのだろう。

 

「治癒は間違いなく掛けたのよ。

 セイバー、あなたは今の状態で完治しているはずなの」

 

 それを聞いたアルトリアは、自身の左腕を凝視した。

 それは、出血もさることながら、傷も深く、どうやら左手の腱を完全に切られたらしく、左手が開いたまま全く動いていなかった。

 

 うわ~、今のでアルトリアが死ななかったのは良かったけど、左手が完全に使えなくなったのかよ。

 ……これは決まったな。

 この状態では、アルトリアは絶対にディルムッドには勝てない。

 たとえ、何らかの突発事態が起きてディルムッドが必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)を失うことになっても、……やはり結果は同じだろう。

 

 その様子を見ながら、ディルムッドは必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)を拾い上げて、アルトリアに声を掛けた。

 

「我が『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』の力を見抜き、鎧が無意だと悟ったところまでは良かったがな。

 ……だが、鎧を捨てたのは早計だったな。

 そうでなければ、『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』は防げていたものを」

 

 ディルムッドは嘯きながら、右手に破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を、左手に必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)を持ち、それぞれ翼のように大きく掲げて構えた。

 

「成る程……『一たび穿てば、その傷を決して癒さぬ』という呪いの槍。

 もっと早く気付くべきだった……。

 フィオナ騎士団、随一の戦士……『輝く貌』のディルムッド。

 まさか手合わせの栄に与《あずか》るとは想像もしていませんでした」

「確かに、聖杯戦争がなければ、このようなことはありえなかったな。

 ……だが、誉れ高いのは俺の方だ。

 時空を超えて『英霊の座』にまで招かれた者ならば、その黄金の宝剣を見れば真名などすぐに分かる。

 かの名高き騎士王と鍔迫り合って、左手を奪えるまでに到ったとは……どうやらこの俺も捨てたものではないらしいな」

 

 ディルムッドは皮肉ではなく、本気で喜んでいる様子だった。

 

「さて、互いの名も知れたところで、ようやく騎士として尋常なる勝負を挑めるわけだが、……それとも片腕を奪われた後では不満かな?」

「確かに、貴方相手では、この状態の私が勝てる可能性は低いだろう。

 ……しかし、だからといって最後まで諦めるつもりはない。

 貴方が万が一にも手加減するつもりならば、それは私にとって屈辱だ!」

 

 アルトリアは自分の状況と、勝てる可能性について冷静に判断しているようだが、闘気は全く衰える様子を見せなかった。

 

「それでこそ、誉れ高き騎士王。

 安心しろ、セイバー。

 手加減など一切するつもりなどない。

 次こそは獲る」

「それは私に獲られなかった時の話だぞ、ランサー」

 

 両者は不敵な挑発を交わしながら、少しずつ間合いを詰めていった。

 いよいよ決着の時か、というときに、予想通り雷鳴の響きが二人へ向かって轟いていった。

 当然それは、イスカンダルとウェイバーが乗った神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)

 空を駆け抜けると、アルトリアたちの上空を旋回した後、二人の間に降り立った

 

「双方、武器を収めよ。

 王の御前である!」

 

 降り立っていきなり吼えた大音量は、凄まじいものだった。

 それに加えて、イスカンダルの眼光は、影経由で見ている僕ですらとてつもない圧力を感じるぐらいとてつもない威圧感を発していた。

 

「我が名は征服王イスカンダル。

 此度の聖杯戦争においては、ライダーのクラスを得て現界した!」

 

 いきなり発せられたイスカンダルのとんでもない宣言に、居合わす全員が呆気にとられてしまった。

 事前に知っていた僕たちでさえ、思わず苦笑してしまったぐらい、明らかに常識外れの宣言だった。

 当然それを許せるはずがないウェイバーが非難したが、イスカンダルのデコピン一発で沈んでしまった。

 

「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが……矛を交えるより先に、まずは問うておくことがある。

 うぬら各々が聖杯に何を期するのかは知らぬ。

 だが今一度考えてみよ。

 その願望、天地を喰らう大望に比してもなお、まだ重いものであるのかどうか」

 

 イスカンダルの言葉に、さっそくアルトリアが不審を感じたらしく、すぐに問いただした。

 

「貴様……何が言いたい?」

「うむ、噛み砕いて言うとだな」

 

 イスカンダルはいきなりくだけた口調に切り替えて続けた。

 

「ひとつ我が軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか?

 さすれば余は貴様らを朋友(とも)として遇し、世界を征する悦楽を共に分かち合う所存である」

 

 あまりにも突拍子もない言葉に、今度こそ全員が呆れかえってしまった。

 ちなみに、隣にいるメディア達ですら呆れ顔を隠そうとしていない。

 

「先に名乗った心意気には、まぁ感服せんでもないが……その提案は承諾しかねる。

 俺が聖杯を捧げるのは、今生にて誓いを交わした新たなる君主ただ一人だけ。

 断じて貴様ではないぞ、ライダー」

「……そもそも、そんな戯言を述べ立てるために、貴様は私とランサーの勝負を邪魔立てしたというのか?

 戯れ事が過ぎたな、征服王。

 騎士として許し難い侮辱だ」

 

 まあ、当然だわな。

 これが、『メディアとメディアを第五次聖杯戦争で召喚したマスター』の組み合わせだったら、……いやそれでも無理か。

 ここでサーヴァントが独自の判断で裏切ったら、速攻でマスターが令呪を使って、サーヴァントが裏切った罰(十中八九、自決命令)を受ける羽目になる。

 イスカンダルのスカウトを成功させるためには、『サーヴァントがスカウトに同意する』だけでは『マスターとサーヴァントをセットでスカウトする』か、『イスカンダルがマスターの令呪を短時間で無効化する手段を持っている』、あるいは『サーヴァントがスカウトに同意した瞬間にマスターを抹殺する』ことが必須条件となる。

 それ以前に、どう見ても騎士の二人が、忠誠を誓った主(マスター)を裏切るはずがないだろうに。

 ……やっぱりイスカンダルって、ただの馬鹿なんじゃないか?

 

「……待遇は応相談だが?」

「「くどい!」」

 

 当然、二人からはこれ以上ないぐらいきっぱりと拒絶された。

 

「重ねて言うなら……私もまた一人の王としてブリテンを預かる身だ。

 いかな大王といえども、臣下に降るわけにはいかぬ」

「ほう? ブリテンの王とな?

 こりゃ驚いた。名にしおう騎士王が、こんな小娘だったとは」

「……その小娘の一太刀を浴びているか? 征服王!」

 

 さすがにその発言は許せなかったアルトリアは、剣の構えを取った。

 が、イスカンダルは全く気にしていなかった。

 

「こりゃ~、交渉決裂かぁ。勿体ないなぁ。残念だなぁ」

「ら、い、だぁぁぁ……。

 ど~すんだよぉ。征服とか何とか言いながら、結局総スカンじゃないかよぉ……お前、本気でセイバーとランサーを手下にできると思ってたのか?」

 

 やっと復帰したウェイバーが当然の質問をしてきたが、イスカンダルは何ら悪びれずにあっさりと答えた。

 

「いや、まぁ、『ものは試し』と言うではないか」

「『ものは試し』で真名ばらしたのかよ!?」

 

 逆上したウェイバーは、イスカンダルの胸にポカポカ両手で連打しながら泣きじゃくっていた。

 いきなり発生した場違いな突っ込み漫才を終わらせたのは、ケイネスの冷たい、凍りつくような声だった。

 

「そうか、よりにもよって貴様か。

 一体何を血迷って私の聖遺物を盗み出したのかと思っていれば……よりにもよって、君自らが聖杯戦争に参加する腹だったとはねぇ。

 ウェイバー・ベルベット君」

「あ……う……」

 

 今まで泣きじゃくっていたのが嘘のように、ケイネスに剥き出しの恨みや憎しみをぶつけられたウェイバーは動揺しまくっていた。

 

「残念だ。実に残念だなぁ。

 可愛い教え子には幸せになってもらいたかったんだがねぇ。

 ウェイバー、君のような凡才は、凡才なりに凡庸で平和な人生を手に入れられたはずだったのにねぇ」

 

 しかし、ケイネスって本当にねちっこいというか、性格が悪いというか、……普通に抹殺宣言してやればいいのに、何でそこまで嫌味を言うんだろう?

 

「仕方ないなぁ、ウェイバー君。

 君については、私が特別に課外授業を受け持ってあげようではないか。

 魔術師同士が殺し合うという本当の意味……その恐怖と苦痛とを、余すところなく教えてあげよう。

 光栄に思いたまえ」

 

 どこまでも嫌味たっぷり、かつ殺意を込められた台詞にウェイバーは怯えていた。

 ……いや、良く考えれば、僕もいきなりあんなものをぶつけられたら怯えてしまうかもしれない。

 『怒らせると怖い』という意味では、メディアとメドゥーサの二人で散々味わっているから、今ではそこそこ怒気や殺意の耐性は得たと思うけど。

 

 しかし、そんな怯えるウェイバーの肩に、イスカンダルは手を置いた。

 

 

「おう、魔術師よ。

 察するに、貴様はこの坊主に成り代わって余のマスターになる腹だったらしいな。

 だとしたら片腹痛いのう。

 余のマスターたるべき男は、余と共に戦場を馳せる勇者でなければならぬ。

 姿を晒す度胸さえない臆病者なんぞ、役者不足も甚だしいわ」

 

 ケイネスはそれに反論できず、怒りの気配を振りまくだけだった。

 ……いや、まあ、僕も姿を晒す度胸は欠片もないんだけどね。

 ケイネスとかウェイバーだけならともかく、切嗣や綺礼が敵にいる状況で姿を晒すのはどう考えても自殺行為だし。

 

 それはともかく、『サーヴァントの主であろうとするケイネス』と『自分の意志にしか従わない征服王』という二人は完全に水と油だから、ケイネスがイスカンダルを召喚できていたとしても、絶対に激しい対立が起きていただろう。

 『イスカンダルを従わせようとするケイネス』と『歯牙にもかけないイスカンダル』という姿が簡単に想像できる。

 その結果、すさまじい争いが勃発し、良くて相討ち、下手すればケイネスがイスカンダルに殺された可能性もあっただろう。

 ソラウがいれば、イスカンダルの現界には支障ないというわけで、イスカンダルもケイネスを殺さない理由もあまりないし。

 『そういう意味では、ウェイバーに感謝してもいいぐらいではないか?』なんて僕は考えてしまった。

 ……ケイネスは絶対に認めないだろうけど。

 

「おいこら!

 他にもおるだろうが。

 闇に紛れて覗き見をしておる連中は!」

「……どういうことだ? ライダー」

 

 疑問に思ったアルトリアがイスカンダルに尋ねたところ、イスカンダルは満面の笑みで答えた。

 

「セイバー、それにランサーよ。

 うぬらの真っ向切っての競い合い、まことに見事であった。

 あれほどに清澄な剣戟を響かせては、惹かれて出てきた英霊が、よもや余独りということはあるまいて」

 

 イスカンダルはそこで口調を替え、あたりに響き渡る大声で挑発を行った。

 

「情けない。情けないのぅ!

 冬木に集った英雄豪傑どもよ。

 このセイバーとランサーが見せつけた気概に、何も感じるところがないと抜かすか?

 誇るべき真名を持ち合わせておきながら、コソコソと覗き見に徹するというのなら、腰抜けだわな。

 英霊が聞いて呆れるわなぁ。

 んん!?」

 

 そしてイスカンダルは、ひとしきり豪笑した後、最後に一際大声で強く言い放った。

 

「聖杯に招かれし英霊は、今、ここに集うがいい!

 なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!」

 

 その熱弁は、辺り一帯に響き渡った。

 生で聴くと、本当に半端ない挑発である。

 これを無視できる人は、『本当に精神的に強い』か、『イスカンダルを歯牙にもかけていない』人でないと無理だと思わされるぐらいだ。

 

 そして、この挑発を見過ごせない英霊が即座に登場した。

 

 

 黄金の光が街灯のポールの上に現れた。

 当然それは、黄金の甲冑に身を包むギルガメッシュだった。

 

「我を差し置いて『王』を称する不埒者が、一夜のうちに二匹も涌くとはな」

 

 ギルガメッシュの最初の言葉は、傲岸不遜かつ冷酷非情なものだった。

 

「難癖つけられたところでなぁ……。

 イスカンダルたる余は、世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが?」

「たわけ。

 真の王たる英雄は、天上天下に我ただ独り。

 あとは有象無象の雑種にすぎん」

 

 ものすごいことを本気で言い放つところは、さすが英雄王と思えるが、……隣にいるメディアの気配がものすごく怖くなっているんですけど。

 

「そこまで言うのなら、まずは名乗りを上げたらどうだ?

 貴様も王たる者ならば、まさか己の威名を憚りはすまい?」

「問いを投げるか?

 雑種風情が、王たるこの我に向けて?」

 

 普通に考えれば当然の問いに対して、ギルガメッシュの反応は彼ら全員にとって完全に予想外のものだっただろう。

 本当に『こいつは思考回路が違いすぎる』と理解していないと、気が狂っているとしか思えない反応だよな。

 

「わが拝謁の栄に浴してなお、この面貌を見知らぬと申すなら、そんな蒙昧は生かしておく価値すらないわ!」

 

 時代が昔過ぎて肖像画なんて残っていないのに、無茶なことを堂々と宣言したギルガメッシュは、左右の空間に剣と槍を出現させた。

 当然、イスカンダルを殺すために出したのだろう。

 

 

 一方、イスカンダルの挑発の直後から、僕たちはイスカンダルたちの様子を確認しつつ、念話であることを確認していた。

 

「一応確認しておくけど、真凛と真桜はあそこに行く気はないよね」

「もちろんよ。

 侮蔑されるのは正直むかつくけど、今の状態で出ていくなんて自殺行為そのものだし、それ以前に私たちの存在を隠した方が絶対に有利だわ」

「私も同意見です。

 終盤ならともかく、今の状態で今顔見せする必要はないと思います」

「了解。それで頼むよ」

 

 うん、賢明な意見だな。

 その結論を出してくれて僕はとても嬉しい。

 

「……で、メドゥーサの意見は?」

「別にイスカンダルにどう思われようと、私は一切気にしません」

 

 メドゥーサはクールに、イスカンダルの侮蔑を切って捨てた。

 さすがはメドゥーサ。

 敵認定した相手の言葉など歯牙にもかけていない。

 

「最後に、メディアの意見を聞きたいんですけど……」

「私があんなことを言われて、黙って隠れていると思うかしら?」

「いいえ、全く考えられません」

 

 念のため聞いてみたが、やはりメディアは黙っていられないようだった。

 誇り高いメディアが、あんな挑発されたら当然やり返すに決まっているよなぁ。

 

「よく分かっているじゃない。

 ……安心なさい、私自身が行くつもりはないわ」

「そうですか、それはよかった。

 ……でも黙っていないって、一体どうするつもりなんですか?」

 

 顔は見せなくとも、挨拶代りに魔術の爆撃でもするのだろうか?

 ものすごく物騒ではあるが、挨拶には間違いない。

 ……倉庫街にいるほとんどのサーヴァントを敵に回す可能性が高いので、できれば避けてほしいけど。

 

「私の影を送るわ。

 影とはいえ、私自身の姿であり、私の一部。

 征服王といえども、文句は言わせないわ」

 

 メディアがそう言った瞬間、イスカンダルたちの前にメディアの影が出現した。

 そのタイミングは、ちょうどギルガメッシュが剣と槍を出現させ、イスカンダルを狙ったときだった。

 

「おお、キャスターも来たか。

 これで、バーサーカー以外は揃ったな。

 ……しかしその体は、……もしかすると偽物か?」

 

 視線はギルガメッシュに向けたまま、それでも豪胆にイスカンダルはメディアに質問をぶつけてきた。

 

「ええ、対魔力スキルを持つサーヴァントが多いこの聖杯戦争において、魔術師である私は最弱の存在。

 おまけに、魔術を完全に無効化する「対魔力:A」のサーヴァントが二人もいる状況では、残念ながら影で顔を出すのが精一杯ですわ。

 ……征服王には軽蔑されるかもしれませんけど」

「いやいや、余は『ここに集うがいい』と言ったのみ。

 よって、影であろうとお主はここに集ったのだから、余に文句はないぞ。

 無論、己自身がここへ来た方が高い評価なのは事実だが、……お主の言う通り魔術師の天敵が揃っておる状況を冷静に分析し、影だけの派遣に留めたお主の判断も余は評価しよう。

 それにな、挑発に対して感情的にならず、冷静に対処できるお主なら参謀として頼りになりそうだ。

 どうだ?

 参謀として、余の部下にならぬか?」

 

 ……さすがは征服王というべきか。

 この切迫した状況でメディアの判断をお世辞抜きで肯定して、即座に参謀としてスカウトするとは。

 メディアの登場に気が削がれたのか、ギルガメッシュもイスカンダルへの攻撃を中断し、二人の会話を黙って聞いている。

 

 征服王が見抜いた通り、僕も『メディアは参謀として戦略や謀略を考案するのが適役』だと思う。

 もっとも、魔術のレベルは桁違いだが、実戦経験が少ないのが原因か、詰めが甘いところがあるように感じる。

 それも、イスカンダルのような実戦経験豊富な指揮官の部下になれば、その弱点も消え、最強のコンビとなるだろう。

 ……まあ、原作のFateで『油断から失敗を招くシーン』を嫌と言うほど見て、『凛に殴り倒される』という衝撃シーンまで見ているわけだから、この世界では油断しないとは思うけど。

 

「そこまで私を評価していただいたのは光栄ですが、マスターを裏切るわけにはいきません。

 よって、断らせていただきます。

 それと、キャスターと呼ばれるのは個人的に好みません。

 強制するつもりはありませんが、できればプリンセスと呼んでいただけないでしょうか?」

「すると、お主?」

「ええ、生前はとある王家の一員でした。

 私にとっても、ずいぶんと昔の話ですが……」

「ふむ、するとお主は、『王家の出身』で『キャスターとして召喚されるほどの知名度と魔術の技量』を持ち、さらに『参謀としての能力』も兼ね備えた人材というわけだな?」

「……大体合っていますが、それが何か?」

「うむ、そのような人材は参謀とするだけでは勿体ない。

 どうだ?

 参謀だけでなく、今生の余の嫁にならんか?」

 

 イスカンダルの『とんでも発言パート2』に、再び全員が呆れてしまった。

 

「何言ってんだよ、お前!

 いきなり敵のサーヴァントにプロポーズするなんて、お前正気か?」

「うむ、余は本気だぞ。

 優れた才能を持ついい女に出会ったのだぞ。

 ならば、その女を口説くのは、男として当然ではないか!」

「ふ……ふふ、あはははははは!」

 

 メディアは大爆笑していた。

 それほど、イスカンダルのプロポーズが大うけしたらしい。

 なお、隣の本体まで大笑いしている。

 しばらく笑った後、何とか笑いを堪えてメディアは返答した。

 

「……ここまで、率直かつ気持ちのいいプロポーズは生まれて初めてね」

「そうか、では!?」

「残念だけど、私は男が嫌いなの。

 特に筋肉ダルマの男はね。

 そういうわけで、例え受肉できたとしても、当分結婚するつもりはないわ」

 

 よかった。きっぱりイスカンダルのプロポーズを断ってくれた。

 メディアの幸せを祈らないわけではないが、……征服王イスカンダルと参謀兼魔術師のメディアがコンビを組んで世界征服を始めたら、本気で誰も止められなくなってしまうのは間違いない。

 さらにいえば、メディアと僕は同盟関係であり、同盟破棄されたからといって令呪で自害を命じる権利はないので僕にもメディアを止められない。

 ……第一、メディアが僕たちに敵対でもしないかぎり、真凛が『メディアの自害』を令呪で命じるはずもないしな。

 

「そうか、残念だのう。

 ……もしかすると、生前はよっぽど男運が無かったのか?」

「余計なお世話よ!」

 

 メディアが怒りを込めて言い返したが、イスカンダルはマイペースに言葉を続けた。

 

「まあ、よい。

 この戦いを通じて、余が『お主の嫌う男ども』と全く違う存在であることを理解すれば、気が変わることもあろう。

 ……しかし、男嫌いの元王女で、『キャスター』と呼ばれるのが嫌いとな?

 一つ、思い当たる名前が出てきたぞ。

 ……もしかすると、男だけでなく神も嫌っておるか?」

 

 さすがは(原作において)ギルガメッシュの真名に気づいたイスカンダル。

 今までの会話から、メディアの真名も気づいたらしい。

 ……まあ、時臣師にすでにばれている以上、真名の隠蔽はそれほど重視していなかったから当然かもしれないけど。

 

「……どうやら私の真名に気づいたようね。

 だったら、私を口説くことが無謀だと理解したのでは?」

「何を言う。

 お主はやり返しただけだろう?

 同じような状況に置かれることがあれば、余も絶対に復讐する。

 ……無論、余が知っている伝承がどこまで事実かは知らんがな。

 余は部下に対して、相応しい地位と報酬を必ず提供する。

 戦いで死者が出ることは避けられないが、部下を裏切ったり使い捨てたり、ましてや無駄死にさせるような真似は絶対にやらん」

「……貴方のような人と生前に会えていれば、……私も少しはましな人生を送れたかもしれなかったわね」

「では!?」

「残念ですが、お断りします。

 あなたと比較すれば、遥かに小者で魅力もほとんどありませんが、それでも私を受け入れ、私が望む待遇を与えてくれているマスターがいます。

 『身の程をわきまえているだけ』とも言えますが、『英霊を召喚し令呪を持っているだけ』で、『サーヴァントより偉い』とか、『サーヴァントは自分の道具』だと考えているマスターが多い中ではありがたい存在です。

 マスターが私を裏切るようなことがない限り、あなたのスカウトはお断りします」

 

 なんか、物凄く貶されたような気もするけど……、ともあれ、メディアがきっぱりとスカウトを断ってくれて何よりだ。

 なお、それを聞いたウェイバーは、傷ついた表情を見せた。

 自分もそれに該当すると自覚したのかな?

 しかし、当然と言うべきか、イスカンダルは諦めが悪いようだ。

 

「うむ、その忠義はあっぱれである。

 では、お主はマスターごとスカウトするとしよう。

 次に会うときには、マスターも一緒に連れてくるがいい。

 ……おお、さすがにマスター本人が来いとは言わんぞ。

 お主と同じく、影で構わん」

「いい加減にしろ、ライダー!

 聖杯戦争でサーヴァントをスカウトしようなんて、無理な話なんだよ!!」

 

 ペシッ

 ウェイバーはしごく当然のことを言ったのだが、再びイスカンダルのデコピン一発で沈んでしまった。

 

「不可能と言われることに挑戦し、実現してみせることこそ我が覇道。

 一度や二度失敗したぐらいで諦める余ではないわ!!」

 

 さすがは、全ての国民が憧れる存在であろうとした征服王。

 カリスマと器の大きさ、そして自らの遺志を貫き通す力は大したものだ。

 ……ちょっと、いやかなり破天荒だとは思うけど。

 

「わかりました。

 その言葉を、マスターに伝えておきます。

 影で会うだけなら、あのマスターでもさすがに断らないでしょう。

 ……それと、一応言っておきますが、マスターが同意したとしても私が認めるのはスカウトまでです。

 プロポーズまでは受けるつもりはありません」

「うむ、余は無理強いするつもりはない。

 お主が参謀となった後、時間を掛けて口説くつもりだから、安心するがよい」

 

 ちょっと待て!

 そこまで言われて会わなければ、僕は『とんでもない臆病者であり、メディアに恥をかかせ、イスカンダルの招待を無視した無礼者』ってことにならないか?

 まいったな、この時点で会わないという選択肢はなくなってしまったな。

 『生き残るためならプライドを捨てることは平気な僕』でも、『影で作った分身で会う』という『僕本体へ危害を加えられる可能性が低い招待』すら断るのは、さすがに気がひける。

 ……イスカンダルと直に会話したいという願望もあるのは否定しないけど。

 

 隣にいるメディア(本体)の方を見ると、にっこりと微笑んできた。

 多分、『危険は少ないから僕自身が直接イスカンダルに会って、スカウトをきっぱりと断れ』って意味かな?

 

 ……しかたない。

 『王の宴』のときにでも、メディアと一緒にゲスト枠で参加させてもらうか。

 元王族のメディアなら、たぶん宴への参加は許可されるだろう。

 もっとも、『自分とその仲間が幸せならそれで十分な僕』が『世界征服を目指すイスカンダル』の部下になることはありえないけどね。

 

 

 と、そんなことを考えていると、雁夜さんから連絡が入ってきた。

 

「まさか、プリンセスまで現れるとはね。

 まあ、ライダーにあんなことを言われれば、顔を出さないわけにはいかないのは分かるけど……」

「ええ。まあ、そういうことです。

 で、バーサーカーはどうしますか?」

「元々一回は戦闘させるつもりだったし、何より彼が知性を失っていなければ、ライダーの挑発に応えてあの場に現れていたのは間違いない。

 俺としても、できるだけ彼の誇りを汚したくないから、バーサーカーもあの場に呼び出すよ」

「わかりました。

 気を付けてください」

 

 次の瞬間、漆黒の全身鎧を身にまとったバーサーカーが彼らの前に現れた。

 サーヴァントたちにとってこの状況でバーサーカーまで現れるとは完全に予想外だったらしく、バーサーカーに対して最大限警戒していた。

 そんな中、我が道を行くイスカンダルは、全く空気を読まずにその場にいる全員に声を掛けた。

 

「おお、バーサーカーも来たか。

 これで、すでに破れたアサシン以外の6クラス全てのメンバーが揃ったな。

 皆のもの、余の呼び掛けに応じてくれて感謝する」

 

 ……本当ならキャスタークラスなのは真凛と真桜の二人であり、メディアは本来アサシンクラスではあるが、……確かに、6クラスのサーヴァントが集まったわけだから、勢揃いと言っても過言ではないだろう。

 

「……で、征服王。

 アイツには誘いを掛けないのか?」

 

 ランスロットを警戒しつつ、ディルムッドは軽い口調でイスカンダルに尋ねたが、イスカンダルは顔を顰めて答えた。

 

「誘おうにもなぁ。

 ありゃあ、のっけから交渉の余地がなさそうだわなぁ。

 ……で、坊主よ。

 サーヴァントとしちゃ、どの程度のモンだ?

 あれは」

「……判らない。

 まるっきり判らない」

 

 イスカンダルにランスロットの強さを尋ねられたウェイバーだったが、彼は呆気にとられたまま否定することしかできなかった。

 ……やっぱり、サーヴァントのパラメータとかを隠せるのはかなり有利だよな。

 まあ、一度戦えばパラメータは大体想像できちゃうんだろうけど。

 

「何だぁ?

 貴様とてマスターの端くれであろうが。

 得手だの不得手だの、色々と『観える』ものなんだろ、ええ?」

「見えないんだよ!

 あの黒い奴、間違いなくサーヴァントなのに……ステータスも何も全然読めない」

 

 予想外の事態にウェイバーは狼狽しきっていた。

 いや、英霊をこの世に召喚していて、英霊と宝具って本気で何でもありなんだから、いちいち驚いていたら身がもたないと思うけどなぁ。

 ……まあ、僕自身もイレギュラーな事態がたくさん起きて(起こして)、驚き慣れしているというのもあるけど。

 

「さて、すでに敗退したアサシンを除く6人のサーヴァントがここに揃った。

 つまり、この中で最後の一人になるまで生き残ったものが、聖杯を手にするわけだが……」

「たわけ、それは我に決まっておる。

 お前たちは全力で戦い、我と戦うだけの資格を持っているか命を掛けて証明してみるがいい」

「で、資格があったものだけお主は戦うわけか?」

「無論だ。

 ただし、まだ我の目に適う者はおらぬ。

 もっと本気で戦い、我を楽しませるがよい」

 

 

 イスカンダルとギルガメッシュが上から目線の会話をしていたとき、それはいきなり起きた。

 

「……ar……ur……ッ!!」

 

 地獄の底からわき出したような呪いのごとき叫びと共に、ランスロットはアルトリアへ向かって突進を開始した。

 僕は、慌てて雁夜さんに事情を聞くことにした。

 ……まあ、ランスロットの叫び声から何が起きたかは大体予想できたけど。

 

「雁夜さん、何が起きたんですか?」

「バーサーカーがセイバーを認識した瞬間、いきなり暴走した。

 止めようとしたんだが、……この感じだとすぐにはバーサーカーを制御できそうにない!」

 

 おいおい、原作より遥かにパワーアップした雁夜さんでさえ、バーサーカーを制御できないのかよ。

 ……あ~、そういえば、ランスロットも雁夜さんのおかげでパワーアップしていたから、力関係はあんまり変わらないのか。

 で、アーサー王を認識したランスロットは現在暴走&攻撃中、と。

 

 アルトリアは必死で防御しているが、左手が使えないこともあり、ランスロットの猛攻を防ぐのが精一杯に見える。

 

 

 ちなみに、ランスロットが両手に持っているのは、『剣の形をしたただの鉄の塊』である。

 『ランスロットにとって持ちやすい形』でさえあれば、後は彼が持つだけでランクD相当の宝具になるわけだから、形以外は一切手を加えていない物を複数個作ってランスロットに持たせたのだ。

 それで、約束された勝利の剣(エクスカリバー)を持つアーサー王を追い詰めているんだから、本当にランスロットってチートな存在だな。

 それと、ギルガメッシュは目の前の戦いに興味がわいたのか、ポールの上で笑みを浮かべたまま観戦を続けているので、彼の介入は考えなくて良さそうだ。

 

「雁夜さん、幸いにもバーサーカーが攻撃しているのはセイバーだけです。

 しかも圧倒的に有利みたいなので、バーサーカーが落ち着くか、ダメージを受けるまでは放置しませんか?

 この状態で制御しようとすると、雁夜さんが相当疲労するでしょうし。

 ……魔力量は大丈夫ですよね」

「ああ、この日のために魔力を貯めてきたから、まだ十分余裕はある」

 

 さすがは魔術回路を作る修行をずっと続け、さらに魔術回路を全開放した雁夜さん。

 バーサーカーが暴走してもまだ余裕があるとは、大した魔力量だ。

 

「……わかった。

 しばらくは、バーサーカーに任せよう。

 しかし、ランスロットとアーサー王の因縁は伝説で知っていたが、……まさか理性を失ったバーサーカーが一瞬で暴走してセイバーに襲いかかるとは!

 ……完全に予想外だったな」

「そうですね。

 でも、早めにそれが分かって良かったじゃないですか。

 それと、暴走すると狂化していなくても制御が難しくなるということもわかりましたし」

「そうだな。

 それは確かに重要な情報だな。

 後は、バーサーカーが無事に撤退できることを祈ろう」

 

と、そこへ第三者から雁夜さんへのメッセージが加わった。

 

「それと、セイバーは可能なら私のものにしたいから、止めを刺す前に必ずバーサーカーを止めなさい」

「……だ、そうです」

 

 メディアは本気でアルトリアを自分のものにしたいようだ。

 ……破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を幻想魔術具で作れる見込みは立ったのだろうか?

 あれがないと、アルトリアをものにするのは不可能に近いと思うけど……。

 

 雁夜さんもメディアに逆らう愚を理解しているらしく、素直に承諾していた。

 

「わかりました、プリンセス。

 バーサーカーがセイバーを殺す寸前まで追い詰めることがあれば、最悪令呪を使ってでも撤退させます」

「そうして頂戴。

 時臣には、『魔力切れになりそうだったから撤退させた』といえば問題ないでしょう」

「了解しました」

 

 こうして、ランスロット vs アルトリアの戦いは続くことが決まった。

 ランスロットの二刀流の攻撃により、アルトリアは防戦一方だった。

 アルトリアは左手が使えない上、ランスロットは二刀流で技量は上なのだから当然と言えるだろう。

 そのため、アルトリアは全く反撃できないまま、どんどん追い詰められていった。

 

「セイバー……ッ!」

 

 切羽詰まったアイリスフィールの声が掛けられたが、アルトリアは返答すらできないほど切羽詰まっていた。

 『これは雁夜さんが令呪を使うしかないか?』 と思ったとき、いきなりランスロットの剣が切り落とされ、もう一本の剣は黄色い槍で防がれていた。

 

「悪ふざけはその程度にしておいてもらおうか、バーサーカー」

 

 そう、介入してきたのはディルムッドだった。

 

「そこのセイバーには、この俺と先約があってな。

 ……これ以上つまらん茶々を入れるつもりなら、俺とて黙っておらんぞ?」

「ランサー……」

 

 ディルムッドのその騎士道にアルトリアは感動していた。

 ……ディルムッドって、顔だけじゃなくて行動もかっこいいんだよなぁ。

 ディルムッドって、『モテ過ぎて不幸になる男』のいい例か?

 

 もっともバーサーカーとなっているランスロットに言葉が通じるはずもなく、邪魔をするディルムッドを排除するためランスロットは攻撃を開始し、それを撃退すべくディルムッドも攻撃を開始した。

 こうして、ダメージが大きすぎて戦線離脱中のアルトリアを置き去りにして、ランスロット vs ディルムッドの戦いが始まった。

 ……が、本当に相性は最悪の戦いだった。

 ディルムッドの破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)によって、一太刀で鉄剣は切断され、ランスロットの鎧もまた無効化されてしまう。

 ランスロットがいくら強くても、二槍流の達人相手、それも宝具の効果や鎧を無効化する槍を持たれていては、勝ち目は薄いとしか思えなかった。

 

 

 戦いが続く中、ディルムッドとランスロットが偶然距離を取ったとき、ケイネスからディルムッドへ詰問があった。

 

「ランサー、貴様はセイバーよりもバーサーカーを倒すことを優先するのか?」

「はっ、セイバーとは一対一で決着をつけたいと望みます。

 ゆえに、それを妨害するバーサーカーを倒すか、撃退させる許可を」

「……セイバーに圧勝した貴様の実力は理解しているが、……バーサーカーもまたセイバーに圧勝している。

 そして、バーサーカーのステータスの詳細は今も見えない状態だ」

「ご安心を、我が主よ。

 いくらステータスが優れようとも、理性を失ったバーサーカーなど私の敵ではございませぬ」

「……よかろう。

 ランサーよ、さっさとバーサーカーを仕留め、続けてセイバーに止めを刺せ」

「はっ、承知しました」

 

 原作では、ケイネスは令呪を使ってまでアルトリアを殺そうとしたが、この世界のケイネスの判断は違ったようだ。

 多分、この世界ではディルムッドとランスロットが、アルトリアより明らかに強く、まず倒すべきはランスロットだと判断したのだろう。

 実際、ケイネスの言う通り、アルトリアはディルムッドに負け、(負傷しているとはいえ)ランスロットにボロ負けしている。

 『ディルムッドならいつでもアルトリアを倒せる』と判断してもおかしくないだろう。

 実際、僕も同じ判断だし。

 ……もっとも、神(原作者)によれば、『一番相性が良くて、かつ強力なランスロットは最後まで倒さず、ランスロットに他のサーヴァントを倒させて、残り二人になった時点でディルムッドにランスロットを倒させる』戦略が一番有効らしいけど、……やっぱりケイネスには気付けないんだろうなぁ。

 まあ、原作知識を持って、かつこうやって傍観者の立場だからそういう発想ができるわけで、現地にいて原作知識なしでそれを考え付けと言われても、……やっぱり僕でも無理だろうな。

 どうしても、『倒せる時に強敵を倒せ』って発想になるだろうし。

 ……切嗣ならすぐに気づきそうだけど。

 

 

 ケイネスの許可が出た為、ディルムッドはランスロットとの戦闘を再開した。

 『両手に鉄剣の切れ端しかないランスロットでは勝ち目は無いから、そろそろ撤退を助言したほうがいいかな?』と思っていたのだが、いきなりランスロットが叫びだした。

 そして、ランスロットは今まで以上の勢いで鉄剣の切れ端と鉄剣で切りかかり、ありえないことにディルムッドと互角の戦いを始めてしまった。

 

「……そう、ランスロットを狂化させたのね。

 魔力の消耗は激しいけど、……この状況では正しい判断ね」

「あ~、なるほど。

 雁夜さん、ランスロットを狂化させたんだ。

 ……確かにそれぐらいしないと、このディルムッドと互角に戦うのは不可能ってことか」

 

 もちろん、狂化しようと破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)とまともにぶつかれば、武器である鉄剣を切り裂かれてしまう。

 僕の目では確認できないけど、多分破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)の穂先とぶつかることを避けることで、武器を失うことを避けているのだろう。

 それを可能としたのは、狂化することでディルムッドと互角まで上げた敏捷のおかげだろう。

 

 ……って、おいおい、『パワーアップ&狂化のランスロット』と互角って、ディルムッドって本当に強いんだな。

 こいつに真っ向から戦って確実に勝てるのって、……やっぱり、ギルガメッシュか『固有結界を使ったイスカンダル』だけか?

 いくらディルムッドでも、物量で攻められれば最後には力尽きると思う。

 

 

 しかし、狂化したランスロットでもディルムッドを倒せなさそうだし、長期戦になれば間違いなく雁夜さんの魔力が足りなくなるだろうから、……今度こそ雁夜さんに撤退を助言するときかな。

 そう思ったとき、いきなり彼女は現れた。

 

 現れたのは、黒髪でバイザーのような黒い仮面と漆黒の鎧を纏った少女だった。

 片手には漆黒の剣を持っている。

 ……って、髪の色を除けば、どう見てもセイバーオルタ(通称:黒セイバー)じゃないか!?

 

 一体何が起きたんだ!?

 メディアが何かしたのかと慌てて振り返ったが、メディア達も驚愕の表情をしていた。

 どうやら、彼女たちも何も知らないらしい。

 ……慌てて影経由で注視するとパラメータが見えたことから、彼女もまたサーヴァントであることは間違いないらしい。

 しかし、確認できたパラメータはさらに混乱させるものだった。

 

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    セイバー

真名     アルトリア

マスター   不明

属性     秩序・悪

ステータス  筋力 A+ 魔力 A+

       耐久 A 幸運 B

       敏捷 B 宝具 A++

クラス別能力 【対魔力】:B

       【騎乗】:-

保有スキル  【直感】:B

       【魔力放出】:A

       【カリスマ】:E

宝具     【約束された勝利の剣】:A++

 

 

 やっぱりセイバーオルタじゃないか!?

 だけど、ステータス、そして髪の色が違うとか、一体何が起きているんだ?

 

 

 傍観者である僕たちが混乱しているのと同様に、セイバーオルタが現れた戦場でも絶賛大混乱中で、ディルムッドもランスロットと距離をとってセイバーオルタを警戒していた。

 特に、闇色の約束された勝利の剣(エクスカリバー)を見たアルトリアとか、パラメータを見たらしいウェイバーは驚愕の表情で声も出せないでいる。

 イスカンダル、そしてギルガメッシュは面白そうにセイバーオルタを観察していた。

 

 『僕ごときに聖杯戦争を完全にコントロールできるとは考えていなかった』けど、……さすがにこれは想定外だ。

 ただ、間違いなく言えることは、新しい、そしてイレギュラーな登場人物が加わり、これからの戦闘がますます混沌としてきたということだ。

 

 イレギュラー要素とバタフライ効果の相乗効果なんだろうけど、……一体何がどうなっているんだ!?

 

 ……本当にこの聖杯戦争、無事に終わるのだろうか?

 そろそろ本気で不安になってきた僕だった。

 




 続けてのまともな戦闘シーンです。
 うまく表現できているといいんですが。

 話が長くなったので、ものすごく中途半端ですがここまでで切りました。
 次話で、セイバーオルタの正体が明かされる予定です。
 楽しみに待っていてください。


【改訂】
2012.09.29 本編の表現を少し修正しました。


【聖杯戦争の進行状況】
・雨生龍之介は警察に捕まり、青髭を召喚できないで退場
・原作登場人物全員(龍之介と青髭除く)の冬木市入りを確認 NEW
・サーヴァント11人召喚済み(セイバー2人、キャスター2人、アサシン3人)NEW
・アサシンの分体(最大80体)のうち、7体死亡確認(生贄:2体、茶番:1体、マキリの聖杯への取込:4体)
・セイバーオルタの登場 NEW


【八神陣営の聖杯戦争の方針】
・真桜に悪影響がない範囲で、マキリの聖杯にサーヴァント取り込み
 (現時点で、アサシンの分体を4体、魔力に変換済み)
・アルトリアを配下にする(メディアの希望)
・アルトリアの血を吸う(メドゥーサの希望)
・遠坂時臣が死なないようにする(真凛と真桜の希望)
・遠坂時臣の半殺し(メディアの決定事項)
・間桐臓硯の殲滅(メディアの決定事項)
・遠坂家の女性陣と間桐滴の保護(絶対目標)
・八神陣営の全員の生き残り(絶対目標)
・アンリ・マユの復活阻止(絶対目標)


【設定】

<サーヴァントのパラメータ>
クラス    セイバー
真名     アルトリア
マスター   不明
属性     秩序・悪
ステータス  筋力 A+ 魔力 A+
       耐久 A 幸運 B
       敏捷 B 宝具 A++
クラス別能力 【対魔力】:B
       【騎乗】:-
保有スキル  【直感】:B
       【魔力放出】:A
       【カリスマ】:E
宝具     【約束された勝利の剣】:A++

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