第19話 サーヴァント召喚(聖杯戦争開始)
臓硯によって起こされた事件から早くも十ヶ月が経ち、とうとう聖杯戦争が始まる時期となった。
すなわち、いよいよサーヴァント召喚が行われる時が来たのである。
すでに、ウェイバーがマッケンジー邸に住み着いており、『令呪を手に入れたことを喜んでいる声』が盗聴器から聞こえている。
原作通りの展開なら、時期的にはすでにアサシンが召喚済みのはずだ。
当然、言峰綺礼の命令で、アサシンはすでに遠坂邸や教会で防諜を行っていると予想される。
メディアやメドゥーサが魔術を使えばアサシンの存在を確認するのも不可能ではないだろうが、メディアたちの存在がばれる可能性も高く、デメリットの方が多いので何もしていない。
まあ、綺礼には一切接触していないので、問題なくアサシンが召喚されているはずだけど。
ウェイバーの監視を始めた翌日の夜、ウェイバーは鶏を籠に入れて外出し、雑木林の奥の空地へ向かった。
そして、ウェイバーは意外にも手際よく鶏を始末すると、呪文を唱えながら鶏の血で魔方陣を描き始めた。
そう、ついにライダーの召喚が行われるのだ。
今頃、アインツベルン城と遠坂邸でも同様にサーヴァント召喚の準備をしているのだろうが、それを見れないのは本当に残念だ。
そんなことを考えながらウェイバーの様子を見ていると、ついに魔方陣が完成した。
ウェイバーは縁の品である『イスカンダルのマントの切れ端』を魔方陣の傍に置いて、召喚の呪文を唱え始めた。
「――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ――
――誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者、汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」
呪文を唱え終えると同時に、風と光が乱舞し、魔方陣が凄まじい光を放った。
次の瞬間、魔方陣の中央には筋骨隆々の大男が出現し、ウェイバーに向かって言葉を放った。
「問おう。
貴様が余のマスターか?」
そこにいるのは、間違いなくライダーのイスカンダル。
今の僕は令呪を持っているだけでまだマスターではない。
そのため、『サーヴァントの能力を解析する透視能力』がないから絶対ではないが、この外見と迫力から言って間違いないだろう。
さっそく、ウェイバーとイスカンダルの会話が始まっていたが、詳細は後で『さっきから記録している録画映像』を見て確認することにして、僕は急いで雁夜さんに『ライダーが召喚されたこと』を使い魔経由で連絡した。
すでに、『今日の深夜にサーヴァントたちが召喚されること』を連絡してあった雁夜さんは、サーヴァント召喚の準備を終えて、僕の連絡を待っていた。
そして、僕の連絡を受けてすぐ、雁夜さんは魔方陣から離れた場所でランスロットの分霊の降霊を行った。
無論、魔方陣から離れたのは、『降霊術行使の際に間違ってサーヴァントが召喚されないようにするため』だ。
雁夜さんはランスロットの降霊状態を維持したまま魔方陣の前へ移動し、サーヴァントの召喚の詠唱を開始した。
もちろん、バーサーカー召喚用の呪文である。
「――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
されど、汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。
汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る。
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」
次の瞬間、ライダー召喚と同じ現象が起き、そこには底知れぬ闇を纏ったバーサーカーの姿があった。
雁夜さんはランスロットの召喚に成功した。
もっとも、僕以上の魔術回路と魔力量、そしてマキリの魔術刻印と令呪を持った雁夜さんが、ランスロットの兜と分霊まで用意してサーヴァント召喚に臨んだのだから、失敗することなどありえないけど。
「やったぞ、八神君。
君の言った通り、俺はランスロットの召喚に成功した」
「おめでとうございます、雁夜さん。
後は、以前相談した通り、魔力を使いすぎないレベルで『バーサーカーを制御する訓練』と、『ランスロットの分霊とバーサーカー召喚の相乗効果の調査』などをお願いします。
……ああ、今日はサーヴァント召喚で魔力切れでしょうから、気絶する前に寝て、調査とかは明日した方がいいですよ。
これで、残るクラスはランサーとキャスターだけのはずです。
……時間が惜しいので、僕もすぐにキャスター召喚を始めます」
「そうか、気を付けてくれよ。
……本当に俺がフォローしなくて大丈夫か?」
「はい、心配してくれるのは嬉しいですけど、メディア達がフォローしてくれるから大丈夫です。
それに、雁夜さんもこれからは他のマスターたちから監視されるでしょうし、使い魔経由の連絡以外は全く会わない方がいいですし」
ちょっと調べれば、『間桐臓硯は行方不明』、『間桐鶴野と慎二は海外逃亡中』で、『雁夜さんが冬木市へ戻ってから行方不明』ということはすぐにわかるだろうから、間違いなくマスター候補として雁夜さんは警戒されているだろう。
そんな雁夜さんが僕たちのところへ来れば、『いざというときにバーサーカーで対応してくれる』というメリットは大きいが、それ以上に『他のマスターたちにこの拠点の場所がばれてしまう』というデメリットの方がもっと大きい。
……ちなみに、万が一にも情報が漏洩することを避ける為、大聖杯のある大空洞に僕たちの本命の陣地を構築したことは、時臣師はもちろん、雁夜さんにも内緒にしているのである。
ここに拠点を作れば、魔力も集めやすいし、敵に見つかりにくいし、何より大聖杯が側にあるので、大聖杯を傷つけるような攻撃はできなくなる、はずだ。
「……そうだな。
分かった。
それじゃあ、サーヴァント召喚が無事に終わったら連絡を入れてくれ。
……幸運を祈っているよ」
「はい、ありがとうございます」
雁夜さんとの連絡を切った後、僕は周りを見渡した。
ここは、約1年掛けてメディアとメドゥーサが構築した本命の陣地であり、場所は大聖杯がある柳洞寺地下の大空洞。
僕の目の前には、すでにサーヴァント召喚用の魔方陣が作成済みであり、魔方陣の向こうには『エルトリアの神殿から発掘されたギリシャの古い地母神縁の物品にあたる鏡』と『コルキスにあったメディア縁の文献』が置かれている。
いずれも原作において、メドゥーサとメディアを召喚した際に使われた縁の品であり、準備は万全だ。
この時点で、ランサー(ディルムッド)が召喚済みかどうかは定かではないが、この縁の品でランサークラスの英霊が召喚される可能性はないはず。
……ならば、少しでも早くメディア達をキャスターとして再召喚して、キャスターのクラススキルを使えるようにするべきだと僕たちは考えていた。
そうすれば、強力なクラススキルの『陣地作成』と『道具作成』を使って、拠点やアイテムの強化が可能になる。
この意見は皆にも賛同され、サーヴァントのランサークラスとキャスタークラスだけが残っていると推測される状況で、僕たちがサーヴァント召喚を行うことに決めていた。
縁の品の後ろには、(影の体の)メディアとメドゥーサが佇んでいる。
そして、僕の右側にはキャス孤モードのタマモが、珍しく緊張した面持ちで立っている。
まあ、それも無理はない。
これから行う召喚の結果によっては、僕たちの運命が大きく変わってしまうんだからな。
僕も不安が無いわけではないが、ゴルゴンさえ召喚されなければ問題はなく、ゴルゴン召喚阻止についてはメディアたちが色々と対策してくれたので、僕はただサーヴァント召喚を遂行すればいい。
そして、僕たちの後ろに真凛と真桜が立っていて、この二人とタマモと僕の計4人が、現在『八神版令呪』を持っている。
メディアの協力により、『八神版令呪』はオリジナルの令呪と同等の能力を持つまで改良され、現在の令呪(オリジナル&八神版)保有数は、僕:3画、タマモ:3画、真凛:1画、真桜:1画まで増えている。
……さすがに、オリジナルと同等まで高性能化した八神版令呪は、作成に大量の魔力が必要であり、聖杯戦争の準備やらホムンクルス作成やらに魔力を大量に消費したため、結局これだけしか作ることができなかった。
僕やタマモ以外にも、真凛と真桜に令呪を持たせているのはいざというときの予備&保険である。
……僕やタマモが令呪を4画以上持っていることがばれることがあれば、面倒なことが起きると考えていることもあるけど。
ちなみに、真凛と真桜は、現在メディアが作成したホムンクルスの体を使っており、自力での魔力回復が可能になっている。
当然令呪は、このホムンクルスの体に持たせてある。
ホムンクルスの肉体を成長の時間があまり取れなかったせいで、『Fate/stay night』と同じ年齢、つまり真凛は17歳、真桜は16歳の肉体年齢のホムンクルスの体を使っているが、……まあ問題ないだろう。
サーヴァント召喚の準備は問題なし。
……いよいよ、僕とタマモによるダブルキャスター召喚が始まる。
この召喚は、『ダブルキャスターを召喚する』だけでなく、『メディアとメドゥーサをサーヴァントとして再召喚する』ことも目的としている為、時臣師が改造した魔方陣をさらにメディアがかなりカスタマイズした。
メディアによると、かつて僕の
以前二人に確認した際には、次のような説明をしてくれた。
「システムを解析してカスタマイズするのには時間が掛かっても、一部の機能を停止させるのはずっと容易だわ。
具体的には、サーヴァントが人格を持たない状態で召喚するだけ。
元々、普通の降霊術では召喚した分霊に自意識を持っていないわ。
聖杯戦争において、『自意識を持った英霊をサーヴァントとして召喚できること』の方が異常なのだから、その『自意識を持たせる機能』だけを止めれば、『自意識のないサーヴァント』が召喚されるわ。
『自意識の無いサーヴァント』と『自意識を持った分霊である私たち』をライン経由で直接接続すれば、かつて分霊が融合したように、私たちもサーヴァントの体に融合しようとする現象が起きるはず。
その瞬間に令呪を使って、『サーヴァントの全力を持って、マスターにダメージを与えないように、自分の分霊を
「そうですね。
メディアと私の魔術技術、そして大聖杯から読み取ったサーヴァント召喚システムの情報を元にして構築したシステムですから、この方法が成功する確率はかなり高いでしょう」
そう、メディアとメドゥーサはひたすら『サーヴァント召喚システムのカスタマイズ(一部の機能停止)の研究』を進めて、理論上は『僕の
まあ、聖杯システムのカスタマイズなんてできるのは、『神代の魔術師であるメディアとメドゥーサだけ』なんだろうけど。
これが成功すれば、メディア達は『分霊』から『サーヴァント』へと体が変化するが、精神や記憶はそのまま継続するので、『自分が消える』とか、『別の自分と融合して新しい自分が生まれること』は起きない。
やはりメディア達も、今の記憶と人格が消えるとか変わってしまうことは嫌だったらしい。
それと、実は『ダブルキャスター召喚』の方も問題が残っている。
かつてエーデルフェルトの姉妹が行ったのは、『善悪両方の側面から同一クラスでサーヴァントを二体召喚』であり、それを元にメディアたちがカスタマイズした『縁の強い二人の英霊をサーヴァントとして同一クラスで召喚』を試すのは、当然今回の聖杯戦争が初めてである。
時臣師がベースを作り、メディアとメドゥーサの二人がさらに手を加えたが、試すことはできない為、当然ぶっつけ本番である。
おまけにメディアとメドゥーサは、『縁が強い』といっても『生前直接会ったこと』はないという弱点がある。
まあ共通点は意外と多く、『ギリシャ神話に登場する、ギリシャの女神に恨みを持つ反英霊』であり、『平行世界において第五次聖杯戦争で召喚されたサーヴァント』であり、『この時代において同時に召喚され、術者の
とはいえ、メディアも『メディアとメドゥーサの召喚に失敗することもありえる』とは考えており、その場合は二回目に行うサーヴァント召喚の時に『自分(メディア)を善悪両方の側面からキャスタークラスで二体召喚』することになっている。
これは、『メドゥーサを善悪両方の側面からキャスタークラスで二体召喚』すると、『元女神』と『邪神クラスの魔物であるゴルゴン』が召喚できてしまう可能性もあり、そうなってしまえば破滅しか待っていない為だ。
この件については、メドゥーサ自身も『聖杯戦争でゴルゴンが召喚されるのは危険』だと考えていたのですんなりと決まった。
なお、メディアを善悪両方の側面から召喚する場合。メディアは『魔女』の自分と融合を行い、『王女』の自分は自意識ありで召喚するつもりらしい。
……そんな器用な真似が成功するのかは分からないが、まあ僕にはメディアを信じることしかできない。
そして、いよいよその成果が試されるときが来た。
僕はメディアとメドゥーサに向かって頷き、二人が頷き返すのを確認すると、タイミングを合わせてタマモと一緒に召喚の呪文を唱え始めた。
「「――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」」
召喚の呪文を唱えている最中に僕が考えていたのは、やっぱりダブルサーヴァント召喚のことだった。
元々エーデルフェルトが行った裏技は、『善悪両方の側面から同一クラスでサーヴァントを二体召喚』である。
ちなみに、『hollow ataraxia』の世界では、青セイバーと黒セイバー(セイバーオルタ)の姿を取っていた。
確かに、『騎士王』と『黒い影に汚染されて黒化した騎士王』なら、善と悪、光と闇の組み合わせと言えるだろう。
……となると、『セイバーを黒い影で黒化させた黒桜』も、当然悪であり、闇の存在と言えるだろう。
その場合、黒桜の対となる存在は、『凛の姉妹愛と士郎の愛によってアンリ・マユから解放された聖杯の力を持つ間桐桜』か?
それとも、『桜を救った衛宮士郎』か?
……いや、それよりももっと対に相応しい存在が、……。
そこまで考えが及んだ時、ついに詠唱が終了した。
「「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者、汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」」
次の瞬間、魔法陣から眩い光が溢れだした。
よしっ!
凛じゃないけど、間違いなく『強大な存在を召喚した手応え』があった。
この手応えなら、間違いなくサーヴァントを、それもダブルサーヴァントの召喚に成功したはず。
後は、メディアとメドゥーサがサーヴァントとして召喚されたことを確認して、すぐに令呪を使って『分霊との融合』を命令しないと……。
「えっ!?」
そんなことを考えていた僕は、光が収まった魔法陣を見た時、そんな言葉しか出てこなかった。
なぜなら、魔法陣には誰も、そう誰もいなかったのだ。
……遠坂凛のアーチャー召喚時のように、別の場所に召喚されてしまったのだろうか?
慌てて魔方陣の向こう側を見ると、驚愕の表情を張り付けるメディア達がいた。
なんでそんなに驚いているかと不思議に思い、反射的に後ろを振り向くと、いきなり何かが僕の視界に表示された。
慌てて確認すると、……それは、サーヴァントのパラメータだった。
<サーヴァントのパラメータ>
クラス キャスター
真名 遠坂凛
マスター タマモ&八神真凛
属性 秩序・中庸
ステータス 筋力 D 魔力 A
耐久 E 幸運 A+
敏捷 C 宝具 EX
クラス別能力 【陣地作成】:A
【道具作成】:A
保有スキル 【魔術】:A
【中国武術】:E
【魔法】:A
宝具 【七色に輝く宝石剣】:EX
【宝石】:A
<サーヴァントのパラメータ>
クラス キャスター
真名 間桐桜
マスター 八神遼平&八神真桜
属性 混沌・悪
ステータス 筋力 E 魔力 A(A++)
耐久 B(A) 幸運 E
敏捷 E 宝具 -
クラス別能力 【陣地作成】:B
【道具作成】:-
保有スキル 【魔術】:D
【蟲使い】:C
【再生】:B(A)
【黒い影】:B(A)
【マキリの聖杯】:EX
宝具 なし
備考 【マキリの聖杯】スキルを得た代償に、道具作成スキルは失われている。
【マキリの聖杯】スキルの未使用時は、一部のステータスとスキルは弱体化する。
そう、召喚されたサーヴァントはダブルキャスターではあり、目的の一つは達成された。
……されたのだが、あろうことか召喚されたのは、英霊リンと反英霊サクラだった。
どうやら、『Fate/stay nigth』の桜ルートの『黒桜』と『宝石剣使いの遠坂凛』がサーヴァントとして召喚されてしまったらしい。
……ま、まあ、ここは『アンリ・マユがいる大聖杯が近くにある』し、『桜の記憶と人格をコピーして作られた仮想人格の真桜』が『桜の遺伝子を元に作られたホムンクルスの体』を使っているし、『同じ状況の真凛もいる』わけだから、……ありえない話ではなかったか。
つまり、『悪(闇)の象徴である黒桜』と、その対となる『善(光)の象徴となる宝石剣使いの遠坂凛』が姉妹セットで召喚されたわけか?
確かに、『世界を滅ぼしかけた存在』なら反英霊として『英霊の座』に登録される資格は十分だろうし、『アンリ・マユの誕生を阻止した存在』もまた、英霊として『英霊の座』に登録される資格は十分にあるだろう。
ああ、そういえばここって、『宝石剣を持った凛』と『黒桜』の決戦の場所でもあったな。
……あ、あはははは、ヤ、ヤバすぎる事態だ。
現実逃避したかったのはやまやまだったが、何とか精神を立て直して、二人の様子を観察してみた。
英霊リンと反英霊サクラは、どうもサーヴァントの体がホムンクルスの体と憑依・融合しているように見える。
「二人とも大丈夫か?」
『とりあえず、本人に状況を確認するべきだ』とやっと思いついた僕は、慌てて二人に問いかけた。
「え、え~と、これって、……もしかして、この体にサーヴァントが融合した?」
「一体、何が起きたんですか?
……って、姉さん、ものすごい魔力を放出していますよ!」
「何言ってるのよ!
そっちも、すごい魔力を出しているわよ。
……というか、真桜の髪の毛が真っ白よ。
おまけに影で作った服まで着て、まるであの世界の黒桜じゃない!」
状況を少しは理解しているようだが、真凛と真桜はプチパニック状態になっているようだ。
……無理もない。
とはいえ、『サーヴァントの体を操作(支配)しているのは真凛と真桜だ』ということが確認できたのは、まずは安心材料である。
『英霊リンが自意識ありで召喚』されても問題ないが、『反英霊サクラが自意識ありで召喚』されたら、速攻で令呪を使って自害を命じなければこっちの命が、いや下手すると全人類の命が危ない。
原作ではそういうルートはなかったけど、『大空洞で凛が黒桜を殺した(止めを刺した)世界』も十分ありえるわけで、その世界の凛と黒桜が対峙すれば、どう考えても双方が状況を理解した瞬間に戦闘が始まるのは避けられない。
二人がここで戦闘を始めただけでも、僕たちが生き残れる可能性は限りなく少なくなってしまう。
メディア達の方を振り返ると、メディアは頭痛を堪えるような表情を見せている。
メドゥーサは気が付くと真桜の前に移動しており、さっそく魔術を使って真桜の調査を始めている。
全員が落ち着いて『とりあえず命に別状はないこと』と『緊急の危険性はないこと』を確認した後、改めて状況の整理が行われた。
その結果は次の通り。
・ダブルキャスターとして、英霊リンと反英霊サクラが召喚された。
・英霊リンのマスターは、タマモと真凛の二人。
・反英霊サクラのマスターは、八神遼平と真桜の二人。
・英霊リンと反英霊サクラは、それぞれホムンクルスの肉体に憑依&融合状態となっており、『受肉したサーヴァント』と言っていい状態。
・凛と桜の遺伝子情報から作ったホムンクルスの体の為か、拒絶反応などは今のところ確認されていない。
・ホムンクルスの体が生命活動を停止した場合、『サーヴァントとして分離する』のか、『英霊の座に戻ってしまう』のかは現時点では不明。
・真凛と真桜の仮想人格は、僕やタマモの
『仮想人格が
・英霊リンと反英霊サクラは『自意識を持っていない状態』で召喚されており、融合した真凛と真桜の人格だけが存在している。
・反英霊サクラと融合した直後に、真桜が『無意識のうちに大聖杯とのリンクを切断した』ため、反英霊サクラは大聖杯からの魔力供給はない。
これにより、反英霊サクラの体が大聖杯の中にいるアンリ・マユに汚染・影響される可能性は低くなっているが、大聖杯からの魔力供給はないため、マスターから供給される魔力のみ使用可。
・反英霊サクラの【マキリの聖杯】スキルを使えば無限に魔力を得られそうだが、精神汚染などが怖いので現在スキルを封印中の為、パワーダウン発生。
……なんだろう、これは?
『真凛と真桜がサーヴァントの体を得て、さらに受肉化して自力での魔力回復が可能になった』のは喜ばしいが、色々あって全力を発揮できない状況のようだ。
「考えてみれば『ダブルサーヴァントを召喚する』という時点ですでに相当イレギュラーなことをしていたわけだから、さらに私とメドゥーサと言う『直接関わりの無い存在』を一緒に召喚しようというのが無理と言えば無理だったわね。
その点、リンとサクラなら、姉妹でもあり、善と悪、光と闇という対照的な存在であり、ここで第二魔法と第三魔法を使って戦った世界もあるわけだから、ある意味召喚されるべくして召喚されたとも言えるわね」
しかし、メディアが言った理由も大きいだろうけど、僕は召喚呪文を唱え終わる瞬間に、ちょうど『黒桜』と『宝石剣使いの凛』のことを考えていたんだよなぁ。
まさかとは思うが、その思考が『凛と桜を召喚する最後の一押し』になってしまったのか?
……『降霊術に特化した才能』と言われている身である以上、全く否定できない。
……まあ、メディアが言った理由もあるし、色々な要因が重なり合ってこんな結果になったんだろうな。
うん、そういうことにしておこう。
まだまだ色々と調べたいことや聞きたいことはあったが、僕とタマモはサーヴァントを、それもダブルサーヴァントを召喚したことによって魔力切れ寸前でくたくたであり、そろそろ意識を保つのは限界に近づいていた。
そこで、後の事と雁夜さんへの連絡をメディアたちに任せると、この大空洞内に(メディアとメドゥーサが魔術で)作った家の中に入って、そのままベッドへ倒れこんだ。
キャスター二人の召喚は予定通りだが、何と『真凛と真桜がサーヴァント化』という、予想外の事態になってしまった。
『桜と真桜が幸せならそれで満足なメドゥーサ』ならともかく、『自分の体を得ること』と『
……メディアと契約した内容はきちんと守ってきたし、失礼なことも可能な限りしてこなかったから、……さすがに離反されることはないと思うけど。
明日起きたら、真凛と真桜の状況確認と、メディアの考えと今後の方針を聞いておかない、と。
そこまで考えるのが限界で、僕は夢も見ないほど深い眠りへと落ちていった。
お待たせしました。
いよいよ聖杯戦争開始です。
とはいえ、主人公陣営はいきなりイレギュラーなことが起きてしまいました。
真桜が登場した時点で、この状況を予想された方もいるとは思いますが。
詳細は次話で明らかになりますが、様々な問題も抱えており、主人公は四苦八苦する羽目になる予定です。
ダブルキャスターのパラメータは、下記の通り設定しました。
能力、スキル、宝具などについて、ご意見、ご感想、修正案などがありましたらお知らせください。
【改訂】
2012.08.19 英霊リンのスキルに『【中国武術】:E』を追加
2012.08.30 英霊リンと反英霊サクラのパラメータを修正
【聖杯戦争の進行状況】
・ケイネス、ソラウ、衛宮切嗣、アイリスフィール、舞弥、アルトリア以外は冬木市入りを確認
・サーヴァント8人召喚済み(キャスター2人) 注:アルトリア召喚は原作知識
【八神陣営の聖杯戦争の方針】
・遠坂時臣が死なないようにする(真凛と真桜の希望)
・遠坂時臣の半殺し(メディアの決定事項)
・間桐臓硯の殲滅(メディアの決定事項)
・遠坂家の女性陣と間桐滴の保護(絶対目標)
・アンリ・マユの復活阻止(絶対目標)
【設定】
〇英霊リンのパラメータ(オリジナル設定)
<詳細>
第五次聖杯戦争において、世界を滅ぼすアンリ・マユを産みだそうとした間桐桜(黒桜)を、衛宮士郎と共に阻止して世界を救った。
その為、反英霊サクラと対となる存在として英霊の座に登録された。
<能力>
クラス キャスター
真名 遠坂凛
マスター タマモ&八神真凛
属性 秩序・中庸
ステータス 筋力 D 魔力 A
耐久 E 幸運 A+
敏捷 C 宝具 EX
クラス別能力 【陣地作成】:A
【道具作成】:A
保有スキル 【魔術】:A
【中国武術】:E
【魔法】:A
宝具 【七色に輝く宝石剣】:EX
【宝石】:A
備考 遠坂凛の人格は無く、代わりに八神真凛の仮想人格と融合済み
<技能>
【魔術】:A
得意な魔術は魔力の流動・変換だが、戦闘には適していないために戦闘には魔力を込めた宝石を使用する宝石魔術を得意とする。
属性は『五大元素』。遠坂の一族が得意とする転換の他に強化の特性を身に着けている。
遠坂家の魔術刻印を所持する。
【中国武術】:E
八極拳の達人である言峰綺礼に10年間師事して身に着けた武術。
遠坂凛は『今時の魔術師は、護身術も必修科目』と言っているが、少なくとも衛宮士郎は知らなかった。
なお、『hollow ataraxia』において、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと初めて喧嘩した際には、遠坂凛の初撃の崩拳をかわされた後、バックドロップで反撃されてわずか13秒でKO負けをくらっている。
このことから、(接近戦を得意とする)武闘派魔術師と比べると遠坂凛の武術のレベルはそれほど高くないと推測される。(注 ルヴィアとの喧嘩では、魔術は双方とも未使用)
【魔法】:A
第二魔法である、並行世界の運営。
本来は、無数に存在する平行世界を観察し、自己の同一性を保ったまま任意の世界間を行き来する、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグの魔法。
遠坂凛の場合、宝具【七色に輝く宝石剣ゼルレッチ】を使うことで、無限に列なる並行世界に門は開けられないものの、(多重次元屈折現象で)ごくわずかな隙間を開き、大気に満ちる魔力程度ならば共有を可能とする。
<宝具>
【七色に輝く宝石剣ゼルレッチ】:EX
第二魔法の能力を持つ、限定魔術礼装。
ゼルレッチの弟子の家系だけが使用可能。
並行世界への門は開けられないものの、向こう側を覗く程度の干渉を可能とし、大気に満ちる魔力程度なら互いに分け合う事さえ可能とする。
宝石の由来は、その多角面が万華鏡に似ていることから。
【宝石】:A
遠坂凛が長期間魔力を移し続けた宝石。
これを使えばA判定の大魔術を一瞬で発動できる。
個数制限あり。
〇反英霊サクラのパラメータ(オリジナル設定)
<詳細>
第五次聖杯戦争において、衛宮士郎がセイバーオルタを殺せず、その結果衛宮士郎と遠坂凛が間桐桜(黒桜)に敗れた世界の間桐桜のなれの果て。
アンリ・マユを産みだし、世界を滅ぼそうとしたため、反英霊として英霊の座に登録された。
<能力>
クラス キャスター
真名 間桐桜
マスター 八神遼平&八神真桜
属性 混沌・悪
ステータス 筋力 E 魔力 A(A++)
耐久 B(A) 幸運 E
敏捷 E 宝具 -
クラス別能力 【陣地作成】:B
【道具作成】:-
保有スキル 【魔術】:D
【蟲使い】:C
【再生】:B(A)
【黒い影】:B(A)
【マキリの聖杯】:EX
宝具 なし
備考 【マキリの聖杯】スキルを得た代償に道具作成スキルは失われている。
【マキリの聖杯】スキルの未使用時は、一部のステータスとスキルは弱体化する。
間桐桜の人格は無く、代わりに八神真桜の仮想人格と融合済み
<技能>
【魔術】:D
マキリの業は覚えていない(教えられていない)。
そのため、『己の負の面を表に出して魔力をぶつけること』、『吸収』、『使い魔作成&制御』のみ可能
【蟲使い】:C
蟲をある程度制御可能。
マキリの蟲限定で、制御力向上。
【再生】:B(A)
肉体の再生能力。
ランクAの場合、自分の心臓の即時再生も可能となる。
【黒い影】:B(A)
桜が作り出した影の使い魔。
サイズを大きくすることや、同時に複数体作り出すことが可能。
黒い影に取り込んだサーヴァントはそのまま殺すことも出来るが、黒化させて使役することも出来る。
【マキリの聖杯】:EX
アイリスフィールの聖杯の破片を触媒として生み出された刻印虫を埋め込まれ、それにより間桐桜はマキリ製の聖杯として改造された。
アインツベルン製の聖杯より性能は落ちるが、サーヴァントの魂を格納することが可能。
無尽蔵ともいえる魔力を聖杯から汲み出すが、一度に放てる魔力は一千ほど。
【マキリの聖杯】スキルは、使えば使うほど精神が汚染されて(黒化して)いく可能性がある。
このスキルを使うと、無限に魔力が供給される。
【マキリの聖杯】スキルを未使用時、間桐桜のステータスとスキルは下記の通りパワーダウンする。
【耐久】 :ランクA→B
【魔力】 :ランクA++→A
【再生】 :ランクA→B
【黒い影】:ランクA→B&サーヴァント吸収能力の弱体化