トリッパーと雁夜が聖杯戦争で暗躍   作:ウィル・ゲイツ

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第08話 仮契約の実施(憑依六ヶ月後)

 僕の秘密がばれ、僕が聖杯戦争に参加することが決まってから、さらに一ヶ月が過ぎた。

 

 『前世の記憶持ち』だとばれたおかげで時臣師の前では演技をする必要がなくなったので、メリットがないわけじゃなかったけど。

 もっとも、今までも子供を演じるのが面倒だったので、時臣師の前では寡黙な子供のふりをしていただけなんだが。

 

 聖杯戦争に参加する対価として、『凛と桜に八神遼平とラインを繋げることを二人に頼む件』は、『愛する父であり敬愛する師でもある時臣師の為』という理由により即答で了承が得られた。

 あとは、『キスによるライン構築の魔術』を時臣師が完成させるだけだったのだが、先日ついに完成したらしい。

 今日はその魔術の説明をしてもらえることになっている。

 いつも通り、僕と雁夜さんと時臣師の使い魔が揃い、時臣師の説明が始まった。

 

「私が新しく作り出した簡易式のライン接続の魔術は、専用の魔法陣の上で契約する二人がキス、つまり粘膜接触をすることで、一定期間レイラインを構築することが可能になった。

 まだ改善の余地はあるが、これが完成すれば画期的な魔術となるだろう。

 他にも、期間限定の制約を外せないか、より機能を追加できないか、今後も研究を続けるつもりだ。

 これほどの成果が短期間でできたのも、八神家の降霊術の技術があればこそだ。

 そのことには、八神君に感謝している」

 

 なるほど、原作にはなかった『遠坂家による八神家の魔術(降霊術)取り込み』と『僕の提案』が新しい魔術を産み出したのか。

 しかしこれって、まさに例のマンガの『仮契約(パクティオー)』だよな。

 期間の制約がなくなれば、『本契約』ともいえる。

 さすがに仮契約(パクティオー)カードはないようだが、あれはこの世界の魔術では再現するのは多分無理だろうし。

 カードを魔力で作るのは投影魔術に含まれるだろうから、作れたとしても長時間は維持できないし、ましてやアーティファクトを呼び出すなんてできるはずがない。

 まあ、サーヴァント(の宝具)を具現化させている技術を流用できれば、カードを具現化しつづけ、宝具(魔術具)を召喚することも可能かもしれないけど、どれだけ大変か想像もつかない。

 それが実現できれば、封印指定になれるぐらいの偉業かもしれないな。

 

 

「なお、葵に事情を説明して了解を得た上で試したところ、私と葵との間にレイラインを構築することに成功した」

「葵さんとか?

 葵さんは魔術回路を持っていないと、お前自身が言っていたんじゃないか!?」

「そのとおりだよ。

 この魔術は、二人のうちどちらかが魔術回路を持っていれば、レイラインを接続できる画期的なものだ。

 もちろん、葵は魔術回路を持っていないため、ラインを繋いで念話をするか、私の方から一方通行で魔力を送るぐらいしか使えないが、それでも十分な価値があるだろう」

 

 どうやら雁夜さんは、時臣師が葵さんとラインを繋げたことに嫉妬しているようだ。

 しかし、夫婦がラインを繋げるのはある意味当然だから、どうしようもないよな。

 それにしても、魔術師と一般人でもラインが接続可能とか、ますます『仮契約(パクティオー)』化しているような。

 ……僕がアドバイスした訳じゃないんだけど、偶然とは恐ろしいものだ。

 ちなみに、この魔術の名前を『仮契約(パクティオー)』と呼ぶことを駄目元で提案したところ、まだ命名していなかったらしく即座に承認されてしまった。

 

 それから、聖杯戦争が終わり次第、代理人を通じて魔術協会へ『仮契約(パクティオー)』の魔術を特許申請するようにアドバイスして、これも了承された。

 聖杯戦争前に公開して『アイリスフィールから魔力供給を受けた切嗣とセイバー』や、『ケイネスとソラウの二人分の魔力供給を受けたディルムッド』と戦う羽目になるのは絶対に嫌だったから、了承されて何よりだ。

 まあこの程度のことは、言われなくても時臣師も分かっていたと思いたいけど。

 しかし、もしかすると『仮契約(パクティオー)』って、遠坂家の名が世界中の魔術師に轟くぐらい偉大な発明なんじゃないか?

 何せ今までは『性行為など簡単には接続できなかったライン接続を簡単に行える』というのだから、世界中で『仮契約(パクティオー)』が大流行りしそうな気がする。

 

 しかし、まあ、今回の『仮契約(パクティオー)』といい、『念能力方式の魔力操作』といい、この世界でも実現可能かつ有効なネタアイデアが結構ありそうだ。

 近いうちに思い付く限りリストアップして、色々試してみよう。

 

 雁夜さんも説明を聞いて同意し、僕は遠坂邸に帰った後、仮契約(パクティオー)を行うことになった。

 そして現在、遠坂邸の地下室に描かれた魔法陣の上に、僕と桜ちゃんが立っている。

 どっちから先にするか正直迷ったのだが、「こんやくしゃのわたしがさき」という宣言で桜ちゃんが先になった。

 なお、折角なのでカメラを用意し、タマモに撮影するように頼んである。

 すでにカメラは固定してあり、シャッターボタンを押すだけならタマモでも問題ない。

 

「じゃあ、よろしく、桜ちゃん」

「うん、わかったわ」

 

 やっぱりキスの重要性というか、大切さを理解していないらしく、全く屈託のない笑顔だった。

 まあ、3歳児ならこれが当然だろう。

 仮契約(パクティオー)実施と言うことでちょっぴり緊張しつつ、桜ちゃんの肩に手を置いて、ゆっくり唇を触れ合わせた。

 唇が重なった瞬間、魔法陣が光を放ち、わずかに風が起きた。

 次の瞬間、自分が他の存在と繋がったのがわかり、そこから声も伝わってきた。

 

『これがりょうくんとのライン?』

『そういうこと。

 これからもよろしく』

『うん、こっちこそよろしくね』

 

 こうして桜との仮契約(パクティオー)は問題なく終了し、次は凛ちゃんが進み出てきた。

 

「わたしのまりょくをあげるんだから、おとうさまにめいわくをかけちゃだめよ」

 

 さすがに「お父様を守って」とは言わないか。

 同い年の子供相手なんだから、当然と言えば当然だな。

 だけど、この約束なら最後まで破らずに済みそうだから、かなり気が楽になるな。

 ……何せ僕は、時臣師の生存よりも、アンリ・マユ復活阻止を重視しているしなぁ。

 

「わかってるよ。

 僕の全力を尽くして、時臣師に迷惑を掛けないように努力することを約束する」

「ぜったいだからね」

 

 凛ちゃんはそう言うと、予告なしでいきなりキスをしてきた。

 先出し癖はこんな幼児期からだったんだな。

 僕は凛ちゃんとキスをしながらそんなことを考えていた。

 先ほどと同じく別の存在と繋がった感覚があり、しかし感じられる魔力量は桜ちゃんより遥かに多かった。

 

「これで、おねえちゃんとおそろいね。

 りょうちゃん、おとうさまのおてつだい、がんばってね」

 

 まだ凛ちゃんとキスをしていたが、ライン経由で僕と凛ちゃんの仮契約(パクティオー)成立を理解した桜ちゃんが抱きついた。

 その瞬間、焼き付くような感触が右手の甲に感じられた。

 慌てて手の甲を見るとそこには、『「ダイの大冒険」の竜の紋章もどき?』が描かれていた。

 とっさにそれが何か、僕は理解できなかった。

 しかし、時臣師はすぐにそれが何か気づいたようだった。

 

「驚いたな。

 まさか、娘たちとの仮契約(パクティオー)を行った直後に令呪を得ることは。

 聖杯もまた、八神君が娘たちと共に歩むことを祝福しているというわけかな?」

 

 っておい、竜の紋章(3画のため、一部変形バージョン)の形をした令呪かよ。

 そりゃ、ダイの大冒険は大好きだったし、剣と魔法の世界において最強のイメージの一つではあるけどね。

 いくら前世が筋金入りのオタクだからって、これは予想外だ。

 ……それとも僕らしいと言うべきか?

 

 それにしても、いくら凛ちゃんたちとラインを結んだからって、いきなり令呪ゲットとかありえないだろ!?

 そりゃ、『前世の記憶、それも異世界(上位世界、観測世界)の記憶を持っている』し、『原作知識として、この世界のかつてありえた未来の可能性を知っている』し、『ご先祖様が命を賭けて作った規格外の使い魔に加えて、聖杯御三家直系の天才幼女二人とラインを繋がっている』し、『聖杯戦争に参加して、何としてでもアンリ・マユの復活阻止を決意している』けど……。

 ……ああ、ここまで揃えば、逆に令呪をゲットできない方がおかしいかもしれないか。

 綺礼も時臣師に魔術を習う前に令呪を手に入れていたわけだし、ある意味僕も綺礼と同じく特別扱いで令呪を手に入れたのかもしれない。

 全っ然、嬉しくないけど。

 

「おめでとう、八神君。

 令呪を手に入れることができた以上、あとはサーヴァントを召喚し、サーヴァントの現界を維持できるだけの魔力、そして可能ならばサーヴァントを制御下におけるだけの魔術技術を身に着けることに努力したまえ。

 ……そうだね、君が召喚するサーヴァントの縁の品も探す必要があるが、何か希望はあるかな?」

 

 いずれは召喚候補を決めるつもりだったが、この時点で質問されることになるとは予想外だった。

 キャス孤の召喚は無理そうだし、そうなると……誰を召喚しよう?

 原作キャラ以外だと、性格や能力、そして宝具が(正確には)わからないからリスクが大きすぎる。

 そういう意味では詳細な情報が分かっている原作キャラを呼ぶのが無難なんだろうけど、従ってくれそうも無かったり、性格の不一致でトラブルが起きそうだったりする存在ばかりだ。

 ……メドゥーサなら第五次聖杯戦争の記憶がない存在であろうとも、桜の事情を話し、桜を守るために協力を求めればある程度従ってくれそうな気もするが、キャスター枠で召喚可能だろうか?

 

「今思いつく限りでは、ギリシャ神話で有名だった英霊が強力そうですが、……そういえば、僕はどのクラスのサーヴァントを召喚したほうがいいのでしょうか?」

「そうだね。

 綺礼君はアサシンを、雁夜君はバーサーカーを召喚し、私はギルガメッシュを召喚する。

 『ギルガメッシュを召喚する際に該当するクラスが残っていない』などという事態を万が一にも起こさない為にも、八神君には……ライダーかキャスターを召喚してもらいたい」

 

 時臣師が言った理由以外にも、多分『ライダーやキャスターなら、誰が召喚されようとギルガメッシュの敵ではない』と思い込んでいるのだろう。

 いやまあ、メディアが『セイバールートではあっという間に殺されてしまってギルガメッシュの敵ではなかった』のは事実だったし、『青髭も怪獣を召喚しない限りギルガメッシュに対抗できなかった』だろうしな。

 もっとも、あの怪獣ですらギルガメッシュが本気になっていたら、あっという間に滅ぼされていただろうという恐ろしい事実もあるんだけど。

 ライダーの方は、『今までの聖杯戦争では、最終決戦まで生き残れなかった』という不名誉な実績しかないらしいし、問題ないというところかな。

 

 ……まあ、これ以上の原作崩壊は避けたいから、僕はキャスターを召喚するつもりだ。

 とはいえ、縁の品の選択肢が多い方が助かるのは事実か。

 

「ではお手数おかけしますが、時臣師のつてで『ライダーやキャスターとして召喚可能そうな英霊の縁の品』を探していただけないでしょうか?

 入手可能な縁の品のリストを見せていただき、それを元に検討したいと思います」

 

 いくら僕が希望を言おうとも、縁の品を入手できなければ意味がないし、ギルガメッシュ(とついでにランスロット)の縁の品入手に注力している今、僕用の縁の品の探索にはお金も時間もあまりかけられないはずだ。

 

「わかった。

 ギリシャ神話で登場する英霊を中心にして、縁の品となりそうなものが市場に出回っていないか調べてみよう。

 最悪召喚に使わずとも、降霊術に使うこともできるから、色々当たってみるとしよう」

 

 そう言って、時臣師は地下室から出ていった。

 

「よかったわね、りょう」

「よかったね、りょうくん」

 

 凛ちゃんと桜ちゃんも、僕が令呪を手に入れることを純粋に喜んでくれている。

 

「ありがとう、疲れただろうから、早く上に戻ろうか?」

 

 二人を引きつれて一階に戻りつつ、どの英霊を召喚するべきか僕は悩んでいた。

 ……とりあえず、この時代の士郎を探し出しておいて、保険として髪の毛を密かに入手しておくか。

 最悪、偶然召喚できたことにして、キャスタークラスでエミヤを召喚することにしよう。

 

 

 葵さんに挨拶をして自宅に帰ると、今度はタマモが話しかけてきた。

 

『マスター、至急報告することがあります』

『一体なんだ?』

 

『マスターが令呪を手に入れたことで、私に掛けられた封印が一部解除されました。

これにより、私は新しい機能が使えるようになりました。

 

『マスターが令呪を手に入れたことで、封印の一つが解除されました。

 これにより、封印されていた機能が起動しました』

『何の機能なんだ?』

 

 『令呪獲得をキーとして自動的に動き出す機能』とは、嫌な予感がするなぁ。

 

『解析プログラムです。

 マスターが手に入れた令呪について、すでにライン経由で解析を開始しています』

 

 ……もう驚かないぞ。

 

『どうせ用意周到すぎるご先祖様が、子孫がマスターになったとき、令呪の秘密を暴くために用意していたやつなんだろ?

 令呪の絶対命令権は、冬木の大聖杯で召喚されたサーヴァントにしか効果がないらしいけど、それでも

・どうやって、サーヴァントに絶対命令権を刻み込んでいるのか?

・どうやって、令呪を作り出しているのか?

とかが分かれば、それは役に立ちそうだしな』

『ええ、その通りです。

 ですが、正確に言えば、解析機能が対象としているのは聖杯戦争に関わる全てのことです。

 現在の解析対象は令呪のみですが、マスターがいずれサーヴァントを召喚すれば、サーヴァント召喚の儀式、そしてサーヴァントそのものの解析も行うでしょう。

 サーヴァントは対魔力を備えた存在が多いですが、さすがにマスターのライン経由ならばそのようなセキュリティが働かない場合が多いかと』

 

 なるほど、『英霊に聖杯戦争の仕組みやその土地の歴史や言語などの知識を渡した方法』や『クラスに応じた能力を与える方法』までも解析するつもりか。

 ……本当にご先祖様は計り知れないほど貪欲な研究意識を持っていたんだろうな。

 まあ、子孫としては助かるから嬉しいけど。

 

 相当の魔力は必要となるかもしれない、いやその可能性は高いけど、自力で令呪が複製できるようになればそれは強力な武器となる。

 あと、さすがに無理だとは思うが、『サーヴァントにクラスに応じた能力を与える方法』を解析し、それを人や使い魔にも使えるようになれば、その効果は計り知れない。

 

『わかった。

 その解析機能で何か分かったらすぐに教えてくれ。

 ……もちろん、時臣師にも、雁夜さんにも内緒だぞ』

『当然です。

 全ての成果はマスターのものです。

 解析機能が正常に動作しているか、私もチェックしておきます』

『任せたぞ、タマモ』

『はい、任せてください』

 

 僕にできることはないが、がんばってくれ、タマモとタマモの解析機能。

 

 タマモ自身が嬉しい意味でびっくり箱のような存在で、本当に頼もしい限りだな。

 そんなタマモを残してくれたご先祖様には、ただただ感謝の一言だ。

 




【にじファンでの後書き】
 なんかすごい勢いで物語が浮かんできて、わずか二日で更新できました。
 内容に矛盾とかがなければいいんですが。


【備考】
2012.05.10 『にじファン』で掲載

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