タマモと契約したその夜、妙な夢を見た。
なお、タマモが一緒に寝たそうだったので、きちんとタマモの体を洗った後僕の部屋に連き、タマモはそのまま枕元で丸くなっていた。
そして僕は眠りについた、はずだった。
最初は真っ暗闇で何もなかったが、すぐにここは夢だと悟った。
夢の中での対処方法をマンガなどで知っていた僕は、前世の自分の部屋を想像してみた。
すると、すぐに周りの風景はかつての自分の部屋に変わった。
自分の体は、想像した通り前世の自分の体、贅肉はないが筋肉などもほとんどない細身の体だった。
そして、目の前には……獣耳、いや狐耳に色気たっぷりの改造着物姿の少女、って『Fate/EXTRA』の玉藻御前?
呆然とする僕を気にすることなく、目の前にいる狐耳少女は僕に向かって挨拶をしてきた。
「初めまして、マスター。
今後ともよろしくお願いしますね」
「待て待て待て、お前は誰だ?
私にはサーヴァントを召喚した記憶はないぞ?
……それとも、覚えていないだけで、無意識とか夢の中で召喚したのか?」
体に引きずられてか、口調も前世モードに戻っているな。
「いいえ、安心してください、マスター。
私は貴方の使い魔のタマモです。
事後承諾となって申し訳ありませんが、マスターの記憶から一番私に合っているイメージを探しだし、その姿を使っているだけです」
「私は『ナインテールのタマモ』から名を取って、お前をタマモと名付けたんだが?」
「あんな、妖狐としての力をほとんど失い、色気もない小娘の姿なんて却下です。
封神演義の妲己なら色気たっぷりですが、あれは妖狐であっても玉藻御前様とは別の存在です。
そういうわけで、この姿で決定です!
……何故かはわかりませんが、この姿になることで私の力も増してきましたし」
そりゃ、『Fate/EXTRA』の玉藻御前は、『
よって、それと同じ姿をとった狐が『稲荷明神』からバックアップを受けてパワーアップしても、不思議ではない、か?
……下手すると、罰当たりな行為として天罰が降ってもおかしくない危険な行為ではあるけど。
「で、その性格はなんだ?
寝る前までは、ライン経由でも何も話せなかっただろ?
……一応、私の言葉は理解していたようだけど」
「もちろん、たった今作り上げた人格ですよ。
姿と同じく、マスターの記憶から『Fate/EXTRA』に出てきた玉藻御前様の性格を読み取って、マスターの記憶と情報を使ってそれに近い記憶を再構築したわけです。
といっても残念ながらマスターの記憶には、玉藻御前様の性格や会話に関する記憶が少ししかなかったので、玉藻御前様によく似た性格だと評価されていた琥珀の性格も参考にしています。
……自分で構築しておいてなんですが、予想以上にしっくりくる人格になりましたね」
……なるほど。
『契約した最初の夜に、ライン経由でマスターの記憶を読み込んで、最適な姿(夢の中限定)と人格を構築する仕様の使い魔』だったわけか。
『アクセル・ワールド』のブレインバーストプログラムみたいなことをする奴だ。
……もっともあれは、劣等感やトラウマを元に構築するという悪趣味なことをしているから、タマモの方が全然ましだが。
それにしても、たった今作り出した人格だと思えないぐらい板についてるな。
……というか、琥珀さんの性格を参考にしたって、どの琥珀さんまで参考にしたんだ?
『月姫』の琥珀さんだけでも結構ヤバいのに、それ以降の作品の琥珀さんだとヤバいどころじゃないぞ!
「そういうわけで、今の私は玉藻御前様の姿と人格を借りた存在ですが、……あくまでもマスターの使い魔である『タマモ』です。
間違っても、『玉藻御前』あるいは『玉藻の前』とは呼ばないでくださいね。
恐れ多すぎるというか、絶対にバチが当たっちゃいます」
……一応タマモも、ある程度は玉藻御前様に配慮しているらしい。
しかし、「姿や性格を無断で借りるのはいいのか?」と突っ込みたかったが、それはタマモは全く気にしてなさそうなので、私は空気を読んで何も言わなかった。
って、さっきから平然と話しているけど、私の前世の記憶を読んだということは、『Fate』関連の記憶も見たってことだろ。
……というか、さっきタマモ自身が『Fate/EXTRA』とか発言しているし。
「おい!
私の記憶を見たって、どこまで見たんだ!?」
「もちろん全部ですよ。
一生を共に過ごす使い魔なんですから、マスターのことは全部理解していないと。
でも、さすがは私のマスターです!
『この世界を観測可能な上位世界の記憶』を持っているなんて、本当に最高です!!」
タマモは、本当に感激しているようだった。
こいつは!!
……いや、怒るだけ無駄か。
とりあえず、今の私が言うべきことは、
「……わかった。
終わったことは、もういい。
分かっていると思うが、私の前世のことは絶対に、絶対に誰にも言うなよ」
「わかっていますって。
師である遠坂時臣や、同盟者である間桐雁夜にもほんの一部しか教えていませんものね。
ふふふ、私とマスターだけの一生ものの秘密。
……ああ、なんて素敵な響き」
タマモは完全に陶酔していた。
……こいつ、本当に大丈夫か?
なんで、私の記憶から構築された人格がこんなやつなんだ?
『私の人格は、実はマスターのアニマですよ』とか言ったら、本気で死にたくなるぞ。
……もしかして、子狐に『タマモ』という名前を与えた時点で言霊に縛られて、神様の分霊である玉藻御前様の影響を受けまくっているのか?
それとも、ご先祖様がまたなんか変な仕掛けとかしてないだろうなぁ。
……全く否定できる要素がない。
ものすごく不安だ。
……あっ、タマモの予想外の姿と性格に忘れていたけど、もっと重要なことがあった。
タマモは『歩く八神家の魔術書』らしいから、早く事情を聞かないと。
時臣師によると、封印が順に解除されていくらしいから、ラインが繋がったことでさっそく解けた封印があるのかもしれない。
「お前の姿と性格のことはもういい。
現実世界ではお前はその姿を取れないし、私以外とは話せないからな。
……そうだよ、な?」
「ええ、今の私は変身も幻術も使えないので、この姿は精神世界限定です。
すごく残念ですけど。
それと、私の発声器官は狐のままなので、人の言葉を発声できません。
ですから、会話できるのはライン経由でマスターだけですよ。
……そうですね、マスターがどなたかとラインを繋げれば、そのライン経由で話すことは可能でしょうし、肌が接触していればラインを繋げていなくても念話ができると思います」
いわゆる、接触通信(お肌の触れ合い通信)か。
いざというときは使えそうだが、とりあえずは封印したほうが賢明だな。
「とりあえず、お前が話せることは内緒にしといてくれ」
「わかりました」
「で、ご先祖様の遺書によると、お前は八神家の情報を記録しているらしいが、それは事実か?」
「はい、その通りです。
もっとも、マスターの成長具合に応じて情報の封印が解けるように設定されていますので、現時点では私以外についてそれほど教えられる情報はございません」
「それで十分だ。
まずは、お前のことを教えてくれ」
「マスターったら、そんなに私のことを気にしておられるのですね。
わかりました。何でも聞いてください。
マスターの望みなら全て教えてさしあげます」
さっきからちょっと感じていたが、こいつ何か勘違いしていないか?
一生もののパートナーであり、私の全記憶を見ている以上、私があらゆることを話せる唯一の存在なのは間違いないのだが。
……まあ、その辺の確認は後でいいか。
「まず知りたいのは、お前がどうやって作られ、どんな能力を持っているか、だな」
「そうですね、まずは八神家の伝統から説明させていただきますね。
八神家において、魔術刻印を譲った後の元当主は、死期を悟った時あるいは生きることに飽きた時などに、人生最後にして最大の魔術を実行して、最高傑作の使い魔を作る伝統がありました」
いきなり、ものすごく嫌な予感がしてきたな。
「なぜ人生最後かといいますと、『八神家で品種改良し、降霊術と八神家の魔術回路への適性を高めてきた特別な獣』を元にして作られた使い魔に対して、『最後の大魔術』に必要がない全ての魔術回路を移植し、残った魔術回路を全て焼切る覚悟で大魔術を行って、特殊な能力を持たせた使い魔を作るのです。
……まあ、元当主ですから魔術刻印も持っていませんし、魔術を行使するのは衰えた体と精神ですから、できることには限界がありますけど。
当然、そんな無茶をすれば、良くて一生魔術が使えず半身不随、普通は死ぬことになります」
「……ということは?」
「はい、私もまた使い魔として作られた後、マスターのご先祖様の魔術回路を移植され、人生最後の大魔術を掛けられることで特別性の使い魔となりました。
ただし、それまでの元当主に作られた使い魔とは違って、『八神家の魔術刻印を持った状態の当主』によって私は作られましたので、歴代の使い魔の中でも私はさらに特別性です。
そして、事前に作られていた封印用の魔術具に封印され、八神家の魔術刻印などと共にマスターに出会うまで眠りについていたのです」
……何と言うか、『刀崎家の魔術師版』とでも言える、ものすごく物騒な家系である。
刀崎家の刀匠は、『普段は鉄で刀を鍛えるが、これは、という使い手に出会った時には自分の腕を差し出して、その骨で作刀する』とか設定にあったが、それにかなり似ているな。
まあ、自分の命まで掛けている分、こっちの方が桁違いに物騒だけど。
「もちろん、全ての方が行うわけでも、できるわけでもありませんが、多くの方がそうやって使い魔を作られてきたそうです。
そしてその使い魔は、次代かその次の代の後継者に預けられ、後継者と共に成長してきたのです」
「……ちょっと待て!
そんな強力な使い魔がいたのなら、何でご先祖様は敵に負けたんだ?」
「残念ですが、いくら強力で特殊な能力を持とうとも、素体が所詮ただの獣である以上絶対に寿命が存在します。
マスターに仕えるために作られているので、大体人と同じか、少し短いぐらいの寿命ですね。
ご先祖様が敵に襲われた当時、その特製の使い魔は『遺書を残されたご先祖様』のパートナーである1体のみが生きていました。
しかし、敵も当然その存在を知っていましたので、宣戦布告の攻撃において使い魔は殺され、マスターのご先祖様は逃げることしかできなかったそうです」
……考えてみれば当然か、そんな物騒な使い魔なんぞ、いの一番、実力を発揮させる前に倒すのは当然と言える。
そして、封印指定クラスの魔術師ではないから、残念ながらレンみたいに数百年生きられる使い魔は作れなかったというわけか。
時臣師に聞いた話では、八神家は降霊術以外が『降霊術のサポート』レベルだったはずだが、使い魔作成や育成、改造の技術もかなりのものだったらしい。
同じ機密漏洩の過ちを起こさない為、魔術書すら使い魔に関する記述を最小限にしたのだろうか?
いや、それらの魔術がサポートレベルでしかないほど、降霊術のレベルが突出しているということなんだろうな。
それにしても、八神家のご先祖たちは随分思い切ったことをしていたものだ。
自分の体に降霊させる場合、強すぎる存在を召喚すると限界を超えて魔術回路が焼き切れたりしかねない。
また、肉体の限界を超えないように気を付ければ、当然降霊した英霊のほんの一部の力しか使えない。
しかし、降霊術専用に特化させた使い魔を作れば、遠慮なく降霊術の実験台にできるし、何か失敗して最悪使い魔が死んでしまっても、また使い魔を作り直せばいい。
そして、『魔術回路を焼き切らせて、神経をズタズタにして、それでも魔力を回転させていけば奇蹟に手は届く』と凛が原作で言っていた通り、人生の最期にあえてその無茶を行い、生涯最高傑作の使い魔を作り、子孫のパートナーとしてきたわけか。
壮絶ではあるが、ある意味資源の有効活用とも言えるだろう。
ロードス島シリーズとか、ソードワールドシリーズとかでも、『死期を悟った高位神官が『コール・ゴッド』を実行して己の体に神を降臨させて、命と引き換えに神の奇蹟を起こす』という話は結構よくある話だったしな。
確かレイリアも、『死期を悟ったらマーファを降臨させて、カーラの意識が宿った呪いの冠を封印する』とか考えていたし。
普通の魔術師の家系では、『後継者に残すことができる重要なもの』は魔術刻印、一族秘伝の魔術といったものだが、 八神家の場合はそれに加えて、八神家オリジ ナルの使い魔が加わるのか。
壮絶ではあるが、後継者にとってはありがたい伝統だよな。
……ということは、私もいずれ後継者を育て上げた後に死期を悟ったら同じことをしなければいけないんだろうけど、その時に命を賭けて使い魔を作れるのだろうか?
ま、まあ、それを決断するのは当分先の話だから、今は保留にしておこう。
「お前はその、八神家の技術と伝統の集大成というわけか」
「その通りです。
私の一族は、先祖代々八神家に飼われて、使い魔として尽くしてきた血統書付きともいえる存在なのですよ」
実験動物として先祖代々ずっと使われていたという見方もあるが、少なくともタマモはそれに誇りを持っているらしい。
ならば、パートナーである私はその意見を尊重するべきだろう。
「そうか。
じゃあ、改めてよろしくな、タマモ」
「はい、任せてください。
マスターが望む限り、ずっと一緒です」
色々と不安要素や未確認情報があるが、こうして本当の意味でのタマモとのファーストコンタクトは終了した。
あと、情報の封印は、八神家の魔術の習得状況や、魔力量や魔力の制御力など、一定の条件を超えるごとに解除されていくらしい。
それを認識するのはタマモだが、深層意識に埋め込まれた命令らしく、タマモ自身の意志では変更できないとのこと。
まあ、地道に私ががんばっていけばいいだけの話だ。
幸いにも、この夢の世界というか精神世界は、寝てる間はもちろん、私が望めばいつでも来ることができて体や脳に負担を掛けずに精神修行ができるそうなので、ぜひとも有効に使わせてもらおう。
……しかし、タマモは教えてくれなかったが、タマモ自身に掛けられた魔術の内容、そして降霊術で召喚された存在とその効果は一体何なんだろうか?
魔術回路の一部を移植した後とはいえ、『ご先祖様が魔術回路を焼き切らせて、神経をズタズタにして、それでも魔力を回転させて起こした奇蹟』。
一体どれだけの奇蹟を起こしたのやら?
【にじファンでの後書き】
タマモの設定もそうですが、タマモの性格も少々無茶しました。
批判が多ければ改訂します。
ニコニコ動画で(一部ですが)キャス孤ルートを見たんです。後は察してください。
PV11万、お気に入り登録件数900件達成しました。
どうもありがとうございます。
【備考】
2012.05.06 『にじファン』で掲載
【改訂】
2012.05.16 『ただし、それまでの元当主に作られた使い魔とは違って、『八神家の魔術刻印を持った当主』によって私は作られましたので、歴代の使い魔の中でも私はさらに特別性です。』を追記しました。
2012.08.13 『ご先祖様が魔術刻印ごと腕を切断した後』という誤った説明を『魔術回路の一部を移植した後とはいえ』に修正しました。