ラスボスハイスクール 完結   作:ケツアゴ

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さて、なんとか完成!このままどんどん伸びてくれ!


聖女が泣いてしまいました

「おにーちゃーん!あそんでー」

 

幼い柳の下に妹が駆け寄ってくる。傍に寄ってくるなり飛び掛ってきた

 

「だーめ!今から友達の家に行くんだから」

 

柳は妹を抱きとめ、床に下ろすと、そう言い聞かせて靴を履いた。しかし、妹は地団駄を踏んで駄々をこねる

 

「え~、また~?あそんでー!あそんでー!」

 

「はぁ~。わかった、わかった。朱乃ちゃんの家から帰ったら遊んでやるから」

 

「ほんとう?やくそくだよ!」

 

「ああ、約束だ」

 

これが柳が最後に妹と交わした言葉だった

 

 

 

 

場面が代わり、闇に包まれた空間に居る柳の前には血まみれの妹が居た。妹は口から血を流しながら柳に語りかける

 

「ねぇ、おにーちゃん。なんで、あそんでくれなかったの?いえにいてくれたら、たすかったかもしれないのに」

 

「ごめなさい、ごめんなさい」

 

「かえったとき、すぐに二かいにきてくれたら、わたしだけでも、にがせたかもしれないのに。……わたしがしんだのは、おにーちゃんのせいだよ」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

柳はうずくまり、ひたすら妹に謝り続けた……

 

 

 

 

「はっ!?」

 

柳が飛び起きると、そこは自分のベットの上だった。柳の顔色は悪く、ビッショリかいた汗で寝巻きが肌にくっついている

 

「……また、あの夢ですか。何年経っても立ち直れそうにありませんね。羽衣さん達が支えてくれているというのに……」

 

柳が時計を見ると学校へ行く時間はとうに過ぎている。普段なら起きている時間だが、毎年、この日だけは起きられず、同じ悪夢を見るのだった

 

「学校へは今日休むって言ってますし、シャワーでも浴びてゆっくりしましょうか」

 

柳はそう呟きながら風呂場へ向かい、服を脱いで浴室へと向かうとノズルを捻る。柳が汗を流し、一息ついていると、突如、浴室の扉が開いた

 

「何だ、起きていたのか。……酷い顔だな。またあの夢か?」

 

「……ええ。って!出て行ってください、ゼノンさん!」

 

柳の目の前にいるゼノンはシャワーを浴びる積りだったのか、タオルすら纏っていない。それどころか、前を隠そうともせず、浴室に入ってきた

 

「我はシャワーを今浴びたいのだ。……丁度良い、我の背を流せ」

 

ゼノンはそう言うと強引にスポンジとボディソープを渡してきた。これまでの付き合いから何を言っても無駄だと理解した柳は、ゼノンの裸体を極力見ないようにしながら背を流していく

 

「……終わりましたよ。流石に前は自分でどうぞ。私は、もう上がりますので」

 

顔を真っ赤にしながら出ていこうとした柳だったが、

 

「まぁ、待て。我の背を流した褒美だ。我直々に背を流してやる」

 

ゼノンに手を捕まれ、強引に引き寄せられた。最初は逃れようとした柳だったが、腕力差から逃れれず、仕方なしに諦めるのだった

 

「……じゃあ、お願いします」

 

「任せておけ。我にとってこの程度、造作もない」

 

そう言って柳の背を流し始めたゼノンだったが、その途中でポツリと呟く

 

「柳。あまり一人で背負い込むな。我等がついているぞ」

 

柳はその言葉を黙って聞いていた……

 

 

 

「そういえばゼノンさんがこの時間に起きているなんて、珍しいですね」

 

柳の疑問に対し、ゼノンは胸を張って答える。その時に大きめの胸が揺れ、柳は思わず目を逸した

 

「甘いな。先程まで徹夜でゲームをしていた所だ。寝る前に汗を流そうと持ってな」

 

「……自信満々に言う事ではないかと。羽衣さんは学校でしょうが、ミラとアーシアさんはどうしましたか?」

 

柳がそう言って部屋を見渡と、突如ミラの部屋のドアが開き、

 

「柳さん。お早う御座います!」

 

ミラが元気に駆け寄って来、

 

「お、お早う御座います」

 

続いて、シスター服ではなく、年頃の女の子の様な服装のアーシアが降りて来た。どうやら羽衣の普段着を借りたようだ

 

「二人共、お早う御座います。アーシアさん。よくお似合いですよ」

 

「あ、ありがとうございます。羽衣さんにお借りしたのですが、本当に似合いますか?」

 

「ええ、とてもお似合いです。とても可愛らしいですよ。さて、朝食にしましょう。どうやらお待たせしてしまった様ですね」

 

柳が食卓に目をやると、4人前の食事がある。先に出かけた羽衣以外のメンバーはまだ食べていないようだ。柳に促された3人は食卓につき、食事を始める。その間中、アーシアの顔は真っ赤になっていた

 

「か、可愛らしい!?服が、じゃなくって、私がですよね?」

 

そう呟きながら……

 

 

 

「そういえば、ミラの部屋から出て来たって事は、アーシアさんの着替えを選ぶのを手伝ってあげたのですか?」

 

「……ええ、この人普通の服の事を少しも知りませんから、組み合わせから私が考えたんですよ。シスター服を洗濯している間は別の服を着て貰わないといけませんからね」

 

「ご、ごめんなさい。私、シスター服以外、着た事なくって」

 

不満そうに答えたミラに対し、アーシアは縮こまって謝った。まだ居心地が良くないようだ。初めて会った時から、アーシアに対するミラの態度は悪かった

 

「こら、そんな言い方はいけませんよ」

 

その光景を苦笑しながら見ていた柳はミラをたしなめ、食事を続けた。食事も終わり、柳が休んでいると、突如、ミラがこんな提案をしてきた

 

「柳さん。このまま家に閉じ込っているのも良くありませんし、何処か出かけてきたらどうですか?アーシア……さんもずっと家にいる訳ですし」

 

その提案に対し、柳は暫し考えてから頷いた

 

「……そうですね。アーシアさんも町に出かけますか?案内いたしますよ」

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

アーシアも緊張しながら了承し、二人は町へと出て行った

 

 

 

 

「……さて、後を付けるかのぅ」

 

「はい!」

 

「やれやれ、面倒だ」

 

その後ろを付ける三人に気が付かないまま……

 

 

 

 

 

「はわぁ~、凄い人通りですね」

 

アーシアが柳に連れて来られた通りは大勢の人でごった返していた。その光景を見てアーシアは目を丸くしている

 

「ええ、此処は町一番の通りですから、平日の朝でも人が多いんです。逸れないように気を付けてください」

 

「は、はい!」

 

そう返事をしたアーシアだったが……

 

「……困ったな。こんなに早く逸れるとは。仕方ないですね。気を探りましょう」

 

柳は意識を集中させ、仙術を発動させた。それによりアーシアの気をつかめ、柳はその場所へと急いだ

 

 

 

「あう~、柳さんと逸れてしまいました。此処、何処でしょう?」

 

アーシアは辺りを心配げに見渡し、柳の姿を探すが見えず、

 

「あ、あの!」

 

「え、えいご?え~っと、のーきゃんすぴーくいんぐりっしゅ?」

 

周囲の人に道を尋ねようとしても、前回の様に言葉が通じない。アーシアが途方に暮れていると

 

「アーシアさん、やっと見つけましたよ!」

 

柳がアーシアの姿を見つけ、近寄ってきた。アーシアは安堵のため息をつき、柳に頭を下げる

 

「ご、ごめんなさい。ご迷惑かけてしまって」

 

「いえいえ、注意していなかった私にも責任がありますから。はい」

 

柳は笑顔で手を差し出す。アーシアはそれを見て驚いている

 

「えっ!?」

 

「逸れないように手を繋いで行きませんか?」

 

「は、はい!」

 

アーシアは真っ赤になりながらも差しだされた手を取り、再び歩き出した。その途中、柳は懐かしそうに呟く

 

「懐かしいですね。昔は妹とこうして歩いてものです」

 

「妹さん。……ミラちゃんですか?」

 

「……いえ、別の子です。ミラは妹のような存在ですから。私には居たのですよ。血の繋がった大切な妹が。10年前に死んでしまいましたが……」

 

アーシアの問いに対し、柳はそう呟く。アーシアがふと柳の顔を見ると、その顔は寂しそうな表情だった

 

 

 

 

「あー!手なんか繋いでますよ!私だって直ぐに繋いで貰えなかったのに!」

 

「会った当初のお主は柳を嫌って居たじゃろうが。それに、あの時とは精神状態が違うじゃろ」

 

「……我等も変わったな。当時の我等では此処まで仲良くなるなど考えられなかった。奴との10年間は悪くなかったな。全てに裏切られ続けた我でも奴なら信用しても良いと感じる」

 

「ふふ、そうじゃな。……10年か。妾等には短くとも、柳は成長したのぅ。昔はミラの方が大きかったのにの。このまま柳が年をとっていけば、やがて別れの時が来るのじゃな。あと、たった80年くらいか?」

 

「……80年」

 

人には長く、彼女らには短いその年月に対し、寂しそうな表情を見せる二人に対し、ゼノンはそっと呟いた

 

「……任せておけ。たとえ、奴が嫌がっても我が奴を悪魔にする。この世界の弱小悪魔などより、はるかに長生きする悪魔にな。柳に恨まれようとも、別れが早く来るよりはましだ」

 

「すみません。その時はお願いします」

 

「すまん。お主には憎まれ役をかって貰う事になるの。妾らの力はこの世界では大きすぎる。奴が望む平穏な生活が出来かねるほどにな・・・・・・。柳も異世界への移住は了承しておるし、出来るだけ早めに悪魔に……いかん!二人ともあんな遠くに行ったぞ!」

 

「追いますよ!」

 

慌てて三人は尾行を再開する。共に生きたい家族を見失わぬように……

 

 

 

柳とアーシアが暫しの間小物や服を見て回った頃、ちょうどお昼時になり、二人は一軒の蕎麦屋の前まで来ていた

 

「あの、ここは?」

 

「私の行きつけのお蕎麦屋さんです。私はあまりファーストフードは食べませんし、ここの店主は知り合いなので平日の昼間から入っても詮索はしませんよ。お蕎麦は嫌いでしたか?」

 

「い、いえ。食べた事がないだけです」

 

「それなら良かった。……厳さん、お久しぶりです!」

 

「……おう。いらっしゃい」

 

 

 

 

柳が暖簾を潜って入った先では、いかつい男が蕎麦を打っていた。目つきが鋭く、角刈りの頭には鉢巻を巻いている

 

「見た目は怖くて愛想は悪いですが、性根と腕は良い人ですよ。すみません、天ざる二つ。蕎麦湯もお願いします」

 

「……少し待ってな」

 

 

 

蕎麦ができる間、座って待っていた二人だったが、アーシアがふと聞いてきた

 

「あの、柳さんって、ミラちゃん達以外のご家族は?」

 

「……居ません。ついでに言うなら、あの三人とは血が繋がっていないんですよ」

 

その言葉を聞き、アーシアは慌てて謝る

 

「ご、ごめんなさい!悪い事聞いて。……お若いのに苦労しているんですね」

 

アーシアのその言葉に対し、柳は柔かな表情で首を横に振った

 

「いえいえ、苦労とか思った事はありませんよ。家族の支えがありますから。……血が繋がっていても、いなくても、家族にはなれますから。……そう言えば日本には、同じ釜の飯を食ったものは家族って言葉がありますし、アーシアさんも家族になりますね?」

 

柳が嬢案を言った途端、アーシアが涙を流し始める。慌てて慰めようとする柳だったが、

 

「違います。か、家族って言ってもらえて嬉しくって、つい。私、家族とは無縁でしたから……」

 

「アーシアさん……」

 

それからアーシアが語った人生は悲惨なものだった。両親に捨てられ、教会に拾われた彼女はシスターとなるべく修行を続けていた。しかしある日の事、とある事から神器を発動させたアーシアは『聖女』として崇められる事となる。聖女としての生活は窮屈で、友達の一人も居らず、誰もアーシアをアーシアとして見てくれなかった。そして、ある日から彼女の生活は一変する事となる

 

「ある日、怪我をしている悪魔と出会ったんです。敵だと教えられてきましたが見捨てられず、私はその傷を癒しました。でも、それを教会の人に見られてしまい、今度は『魔女』と呼ばれ、教会を追い出されたんです」

 

「……それで、堕天使の所に来たんですね」

 

柳の言葉に無言で頷いたアーシアの目には、今までの辛い記憶が蘇ったのか,再び涙が滲んできている。柳が慌ててハンカチを渡そうとした時

 

「……お待たせ。柳、女の子を泣かしたのか?」

 

「え!?い、いや、これは」

 

「……違うようだな。だが、もし泣かせたら麺棒で伸ばすからな」

 

「どこをですか!?」

 

「あの~、どうなされたんですか?」

 

日本語がわからないアーシアは二人の会話が分からず、困っていた。自分が関係している事は何とか分かったようだが……

 

「私がアーシアさんを泣かせたと思ったみたいです。あの人英語分かりませんから。誤解は解きましたが、もし泣かしたら麺棒で伸ばすそうです。さっ!食べましょうか」

 

「ふふふ、じゃあ、泣かないようにしないといけませんね。あれ?この緑の何ですか?」

 

アーシアが指差した先には既におろされたワサビがあった。どうやら、外国人のアーシアの為に食べやすいようにおろして出したようだ

 

「それはワサビって言いまして、少しだけつけて食べるんです。って、つけすぎですよ!?」

 

柳が止める暇もなく、アーシアは大量のワサビを口に運び、

 

「っ~~~~!?」

 

慌てて水を飲み込み、鼻を押さえている。暫くして落ち着いたものの、アーシアはすっかり涙目になっていた

 

「に、日本食って変わってるんですね。……ふふふ、泣いちゃいました。柳さんが麺棒で伸ばされてしまいますね」

 

「全くですね。さ、バレる前に涙を拭いてください。ふふふふふ」

 

二人は暫し顔を見合わせ笑い合っていた……




意見 感想 誤字指摘お待ちしています

ゼノンの人間の悪魔化については、2のエンディングで人間に戻ったハナコがエトナの子分になったあとの顔グラで、耳がとんがったままだった事と、3でアルマースが悪魔になっていった事から、ある程度の力の持ち主ならできると判断しました

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