ラスボスハイスクール 完結   作:ケツアゴ

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昔は何度も死にかけました。…÷・あっ、今も修行で

「……さて、色々と状況が飲み込めぬが、襲ってきたのだから殺される覚悟くらいしとるよなぁ?」

 

「ガ……カッ……」

 

羽衣狐は目の前の異形の首を絞め上げつつ状況を見定めようとしていた。自分は確かに愛する息子である清明に地獄に落とされた筈。なのに気が付いたら棺桶の中に入っており、隣には自分より遥かに大きい力を持つ人に化けた龍と魔の者が居て、彼女らも状況が飲み込めないようだ。

 

「(……後はあの小僧じゃが、流石にアレが死者を呼び出すような術が使えるとは思えぬし)」

 

羽衣狐が目をやったのは部屋の隅でガタガタ震えている幼子。どう見てもそんな高尚な術を使えるとは思えず、仕方なく目の前の奴を殺したら知っている事だけでも吐かせよう。そう思った時、既に死に体の意表が悔しそうに何やら呟きだした。

 

「ち、ちくしょう。バラキエルを上手く騙せて……、これで……人間が食えると……思ったのに……。まさか神器持ちとはよ……」

 

「ふむ? まぁ、良い。もう死ね」

 

羽衣狐はその言葉に首を傾げるも別に言いかと判断し尻尾で刺し殺す。合計十本の尻尾が異形を貫き殺した。

 

「(尻尾が増えておる? しかもこの力、今までとは比べ物に……)」

 

彼女はこれまで転生を繰り返し、その度に力と尻尾の数を増やしてきた。その事からやはり自分は転生をしたのだと確信した彼女は幼子に向き直る。

 

「(先程の奴は神器がどうとか言っておった。先ほど妾が出てきた柩。……少々興味がわいた)」

 

やはり目の前の幼児が何か関係している。そう判断した彼女が問い詰めようとした時、今の力を持ってしても身の毛のよだつ様な力を感じその場を飛び退く。見ると魔の者と思しき女が手に力を込め、それを幼児に向けていた。

 

「我は孤独なる者……。貴様も殺す」

 

女性は赤く光る目から涙を流しながら幼児を殺そうとし、その力は確実に羽衣狐さえも巻き込んで消し飛ばす。

 

 

「(……ああ、今世は短かったのぅ)」

 

羽衣狐は諦めて目を閉じ終わりをジッと待つ。しかし、何時まで待ってもその時は来ず、恐る恐る目を開けると女がうずくまっていた。

 

「何故だ……!? 何故コヤツを殺す気が起きん!?」

 

「(確かに妙じゃな。妾もこの小僧を殺す気が湧いてこん。……何かの術にかかったか?) おい、そこの二人。どうやら妾達はその小僧に対する好意を植えつけられたようじゃ。……気に入らんがそれが解けるまで小僧は殺せん。我が名は羽衣狐じゃ。ここは手を組まんか?」

 

「……ロザリン、いや、我の名はゼノン。魔王神ゼノンだ。……良いだろう、もう我は全てを失った。この手で自ら大切な者達を……。もう、敵だのなんだのどうでも良い……」

 

彼女の目に宿っているのは『虚無』。大切な存在を自ら破壊してしまった事で完全に心が壊れてしまっていた。

 

「そこの小娘はどうする気じゃ?」

 

羽衣狐は先程から黙って話を聞いている少女の姿をした龍に話しかける。だが、その少女はつまらなそうに鼻を鳴らした。

 

「下らぬ。この世で唯一存在価値を有する我が何故、貴様ら塵芥と手を組まなければならぬ。……だが、そこの小僧に対して植えつけられた行為は非常に不愉快だ」

 

そう言って少女は幼子の首を掴むと軽々と持ち上げた。

 

「おい、小僧。名前は?」

 

「や、やなぎ……」

 

息苦しさと恐怖に耐えながらも幼児、柳は絞り出すような声で名乗り、それを聞いた少女は獰猛そうな目を彼に向け、呪いをかけるかのような声で囁いた。

 

「よく聞け、柳。いつかこの鬱陶しい好意を消し去り、貴様を食い殺す。我が名はミラボレアス。黒龍ミラボレアスだ。貴様はすぐに殺せるように傍に置く。覚悟しておけ!」

 

そして柳と三人は一緒に行動する事となった。家族を全て失った柳にとって三人は恐怖の対象であると同時に一緒に居てくれる存在であり、次第に彼女らに依存していく。それは一種のスットクホルム症候群のようなものなのかも知れない。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人は植えつけられた好意は消し去ったが、その時にはデレていた。

 

 

 

子に裏切られた羽衣狐。全ての存在を否定してきたミラボレアス。そして大切な存在を前世の記憶で混乱した事で自ら壊したゼノン。彼女らが柳に抱く好意もまた依存から来るものなのかも知れない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の前に現れる時は事前に連絡を入れろと言っていたはずだ! 貴様ら全員殺されたいか!」

 

柳の口調は普段のような丁寧なものではなく激高したものであった。その様子にバラキエルを睨んでいた朱乃も唖然とした顔で彼を見ていた。

 

「む、むぅ、此処は落ち着いて……」

 

「五月蝿いなぁ。柳さんはコイツに話してるんですよ?」

 

オーディンが間に入って仲裁しようとするもミラに威圧され黙らされる。バラキエルはプレッシャーで息が詰まりそうになりながらも口を開いた。

 

「最近裏切り者が続出してな……。先程其方に連絡が行っていない事が分かったばかりなのだ。決して、約束を違える気は……」

 

「其れは其方の都合でしょう? ……これ以上騒ぐと店にご迷惑がかかるので此処は見逃します」

 

柳が横目で見た先では、

 

「店の中で騒ぐな」

 

と言いたげな顔の厳が柳達を睨み、手の中の緑色の高エネルギー体が光を放っている。これ以上騒ぐと其れを放たれると判断した柳は料金をカウンターに置くとミラと共に店から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

「……助かったの」

 

「……申し訳ございません、オーディン様。私の問題に巻き込んでしまいました」

 

 

「……フリードさん。行きましょう」

 

「お、おい!? 引っ張るなって」

 

バラキエルがオーディンに謝罪する中、朱乃は彼を避けるようにフリードの手を引きながら店から出ていこうとしていた。

 

 

 

 

 

「おい、待て朱乃!」

 

「……貴方が私の名前を呼ばないで下さい」

 

「朱乃……」

 

朱乃は拒絶するようにそう言い放つと店から出ていき、バラキエルはその場で呆然として固まっていた。

 

 

 

「……ロスヴァイセや。ディナーの予約は出来ておるんじゃろうな?」

 

「は、はい。この後直ぐに取り掛かろうと……」

 

気不味さからオーディンと護衛のロスヴァイセが話題を変えた時、その話が耳に入った厳の眉がピクリと動いた。

 

 

 

 

「……カカロット?」

 

 

 

 

 

 

柳の神器である『反英雄の柩』で当たりとされているのはミラ達を含む5人である。ただ、それはあくまで確認されている中に過ぎず、とある男が過去に記憶喪失の状態で召喚され、そのまま結婚している。結婚相手の名は『厳 茜』。その後、記憶が戻るもすっかり気性が穏やかになった男の名は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それにして貴女達を呼び出した時からは想像できませんよね。あの頃は命の危機に陥ってばかりでしたから……」

 

家に帰った柳は羽衣の髪を編みながらシミジミ呟く。丁寧に髪を編んでいき漸く三つ編みが出来上がった頃、羽衣は読んでいた本から目を離すと柳に顔を向けた。

 

「……何かあったのか? お主が妾達の髪を弄る時は何か嫌な事があった時じゃからな」

 

「……バラキエルに会いました」

 

「……そうか」

 

羽衣は本を閉じ、柳の目をジッと覗き込んで言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のぅ、柳や。もうこの世界を捨てんか? 既にゼノンが支配した異世界の統合は済んでおる。後はお前の返事次第じゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は少し遡りヴァーリが連絡を受ける少し前、一誠はグレモリー家所有の訓練施設でイリナに見守られながら精神を集中させていた。そして手の持っていた赤いドロリとした液体を一気に飲み干すと口を開き呪文を口にする。

 

『我、目覚めるは――』




意見 感想 活動報告のアンケート 誤字指摘待ちしています

超脇役の厳さん その正体は ……一回限りのギャグです 多分今後出番なし

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