「じゃあ、行ってきますね。……二人っきりで」
「おお、楽しんでくるが良い。昼餉は何か頼むのでゆっくり行って来ても良いぞ」
ミラは羽衣に勝ち誇ったような表情を向け、柳と共に家を出た。しかし、彼女は自慢のつもりで言ったのだが既に肉体関係を持っている羽衣からすればデートの一回程度など別に羨ましくなくっと言うより柳がデートだと思っていないのを知っている為に平然と送り出した。
「こうして二人で出掛けるのも久しぶりですね♪」
ミラは柳と手を繋ぎ、心底嬉しそうな顔しながら歩く。その連れ添って歩く姿は甘えん坊の妹と兄のように見え見ていて微笑ましいものがある。だが、ミラの目を見た人は違和感を感じるかも知れない。それは兄に妹が向ける目ではなく、恋する乙女の目であった。……言っておくが柳はロリコンではない。ミラにキスをしたことはあるが断じてロリコンではない。彼の好みはバランスのとれたスタイルの女性であり、断じてツルペタストンではない。
「ミラはどんな服が良いですか? いつも頑張っていますから、好きな服を買ってあげますよ。……たまには女の子らしい服にしましょうか」
「え~、長ズボンでいいですよ~」
そう言って柳はミラの服に目をやる。今着ているのはTシャツにオーバーオールといった服装で、いつもの服装と同じくボーイッシュな雰囲気だ。正体が正体だけに服装に特に拘りのないミラは動きやすさを重要視し、スパッツや半ズボンを好んで着るがスカートやフリルなどのヒラヒラした服は好まない。柳は常々それが惜しいと思っていた。
「もう少しお洒落した方が良いですよ。折角の美少女なんですから」
「私、お洒落します! ふふふ、今日は邪魔者無しで二人っきり~♪ ……また奴らと会わなきゃ良いですが」
人はそれをフラグと呼ぶ。
「あらあら、此れなんかどうですか?」
「……よく似合っています」
「次はこのワンピースを着てみてくれ」
「こっちにはドレスが置いていましたわ」
そしてフラグとは回収される物。ミラは偶然会った邪魔者達の着せ替え人形にされていた。柳とミラがデパートに着くと其処には偶然を装って合流したレイヴェルを連れたヴァーリ達が居て、更にフリードとデート中の朱乃とも合流したのだ。
「あら、奇遇ですこと。今日は服を買いに?」
「ええ、ミラの人化の術が解けてきて、太ももの鱗を隠せる服を探しているんですよ」
そして、先程の会話に戻る。とりあえずと柳とミラが選んだ服のセンスのなさに呆れた女性陣が自分たちが選ぶと言い出し、最初は渋っていたミラだが、
「ミラが可愛い服を来ている所を見てみたいです」
っという柳の言葉によりあっさりと承諾。流石付き合いが長いだけのことはある。女性陣が服を選ぶ中、残さされた男性陣はペンチに腰掛けて終わるのを待っていた。既に過ぎた時間は一時間。まだまだ終わりそうにない……。
「……長ぇな。まっ、俺は買い物済ませてたから良いんだがよ。ヴァーリはどうなんだ?」
「……君たちと合うまで、ずっと下着売り場の試着室に連れ込まれて……。覇龍が無かったら貞操を失っていた。なんで悪魔の女の子は彼処まで積極的なんだ?」
「まぁ、良いじゃないですか。貴方は立場も血筋も良好ですし、三人とも娶ったらどうです? それにしてもミラのあの様な格好は新鮮でいいですね」
フリードの手には結局買った夫婦茶碗の袋が下げられており、ヴァーリは心なしか痩せこけている。そんな中、柳は遠目で着替えさせられたミラの姿を見て楽しんでいた。更に人外化が進んだ事により、人間離れした視力になった彼の目には服のシワでさえハッキリと映ってるのだ。
「なぁ、ヴァーリ。アイツって、ロリコ…」
「……それ以上は言わないほうが良い。ミラさんは彼への侮辱を絶対に許さないからね。……っと、メールか」
ヴァーリはフリードの命をあわやという所で救い、携帯をチェックする。すると急に彼の顔色が変わった。
「……あの馬鹿、何をやっている!? すまない、俺は行く所が出来た!」
ヴァーリはそう言うと何処かへ駆け出していき、その頃になって漸くミラは着せ替え人形から解放される。オーフィスと同等の力を持つ邪龍は心労ですっかり疲れきっていた。
「や、柳さ~ん。おんぶ~」
「はいはい、ミラは甘えん坊ですね」
「えへへ~♪」
柳はそう言ってミラを背負い、ミラは嬉しそうに微笑む。やはりこの二人はどう見ても仲の良い兄妹にしか見えなかった。
「……そろそろ昼食の時間ですね。ヴァーリは緊急事態が起きたので帰りましたが皆さんはどうします? もし宜しければ良い店をご紹介しますよ」
「俺っちは構わねぇが朱乃はどうだ?」
「ええ、ご案内よろしくお願いしますわ」
その後、ヴァーリのストーカー達は今後の行動の為に話し合いをすべく別行動する事となり、柳はフリード達を連れてお気に入りの店を目指した。
「あっ! あのペットショップでウサギが安売りしてます! あれ買ってください!」
「はいはい、良いですよ」
ミラは柳に背負われたままペットショップを指差す。そこでは今、可愛いウサギが外から見れるように売られており、それを見たミラは指差してそれを柳にねだる。その様子をフリード達は微笑ましそうに見ていた。
「あれ見てるとあの餓鬼が邪龍だなんて信じられねぇな」
「うふふ、そうですわね。それにしても可愛いウサギだこと。特にあの白い子を私も飼いたくなりましたわ」
「……ちょっと待ってろ」
フリードはペットショップへと走って行き店員に何かを話し、お金を渡している。どうやら朱乃が言ったウサギの予約をしているようだ。柳もまた丸々と太ったウサギを買い、こちらも予約をしていた。
「ありがとうございます、フリードさん」
「……まぁ、いつも飯作ってもらってる礼だ。んで、名前は決めてんのか?」
「ええ、貴方の髪の毛にそっくりだからフリードちゃんと名付けようかと思いますわ」
フリードはこの時、自分が飼われるような気分がしたらしい。なお、朱乃は究極のドSである。あながち外れでもないかもしれない……。
「そういえばミラちゃんはウサギさんが好きなのかしら?」
「ええ! 大好きです! 特に丸焼きが一番好きですね」
「ミラ、それはないでしょう……」
ミラの発言に柳は溜息を吐く。その言葉にフリード達は同感だと言わんばかりに頷き、
「ウサギは鍋が一番です! それに丸焼きにしたら他の料理が出来ないじゃないですか!」
「「そっち!?」」
柳の続いての発言に大声でツッコミを入れてしまった……。
「……おう。いらっしゃい」
「久しぶりです、厳さん。私は裏メニュー、ミラは何時のをお願いします」
柳が二人を連れて行ったのは行きつけの蕎麦屋。ここの店主の蕎麦が柳達のお気に入りだった。なお、並行世界の半裸もこの蕎麦屋がお気に入りである。
「じゃあ、私もその裏メニ……」
「辞めとけ! コイツの味覚は変だってヴァーリが言ってたぞ! コイツが迷いなく注文した奴だけは辞めとけ! 俺はお前を失いたくねぇ!」
「フリードさん……」
二人は見つめ合い、次第にその距離が狭まる。そして唇が段々近寄っていき……、
「イチャつくんなら外でやれ!」
「「は、はい! すみませんしたぁぁぁぁっ!!」」
店主の怒号と共に面きり包丁が二人の間の壁に深々と突き刺さった。二人はその後天ざるを頼み、少し待つと食欲を誘ういい香りのするトレイ、そして噎せ返る程に辛そうな匂いの鍋が柳とミラの前に運ばれてきた。柳が蓋を開けると目に染み、喉が痛くなるような香りが店内に充満する。
「……カツ丼特盛、天丼特盛、親子丼特盛と、激辛炎獄鍋焼きそば、お待ち。そこの二人もすぐ持ってくるから待ってな」
「……柳さんてそれ気に入ってますけど、絶対味覚おかしいですよね。オーフィスが出前のソレを勝手に食べて痙攣してましたもん」
無限の龍神をノックアウトさせる食べ物を平気で食べる柳もおかしいが、一番おかしいのはそんなメニューが有るこの蕎麦屋だろう。やがてフリードたちの曽芭も運ばれて来て四人が舌鼓を打っている時、新たな来客があった。
「ふむ、このような店も良いのぅ」
それは北欧の主神オーディンの声。一応お得意様の一人なので挨拶しようと笑顔で振り向いた柳であったが、急にその表情が不快げに歪む。隣のミラも静かに殺気を放ち始め、その目は龍の目となり店が振動し出した。
そして、朱乃の表情からも不快さが見て取れるようになる。その三人の視線はオーディンの後ろにいる厳つい男性に向けられていた。
「……なんで貴方がこの街に居る。これは私への宣戦布告と捉えて良いのですか? バラキエル!」
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厳さんの戦闘力は……スカウターが!?