ラスボスハイスクール 完結   作:ケツアゴ

70 / 87
あの程度、彼女の敵ではありません

「……受け取れ。我は寝る。騒いだら殺すぞ。柳、膝枕をしろ」

 

ミリキャスを連れ帰ったゼノンは彼をサーゼクスに投げ渡し、柳の膝を枕にしてスヤスヤと寝息を立てだす。そんな彼女の頭を柳がそっと撫でると気持ち良さそうな声が聞こえてきた。

 

「……にしても、先程までとは大違いだね。好きな相手の膝を枕にして眠る姿と先程までの圧倒的な力で暴れる姿。その何方も彼女なのだからね。……正直言って恐ろしいよ。彼女達に慕われる彼の気紛れ次第で僕達は滅びるんだからね」

 

「……ああ、そうだな」

 

サーゼクスとシェムハザがそんな会話をしながら見つめる先には柳の膝枕で眠るゼノンと、その場所を奪う機会を伺っている羽衣とミラの姿があった。ちなみにオーフィスは一人でお菓子をモキュモキュと食べている。二人がそんな事を話している間にもゲームフィールドに張られた結界の解除は進み、あと少しでリアス達の転送も始まる、そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

「ぐふっ!?」

 

 

 

 

サーゼクスの腹をシャルバの腕が貫き、彼の腹から手を抜いたシャルバは再びゲームフィールドへ転移していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ヒヒ、フヒヒヒヒヒッ! 殺す、ころす、コロス! サーゼクスの身内は全て殺してやる!」

 

血走った目でそんな事を喚く彼は明らかに正気ではなく、その腕には桁違いの力を放つ『龍の手』が嵌められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日いきなり知らされた自分の出生。そして妻子を人質に取られて過ごした悪夢の日々。それはある日突然終わりを告げた。ベルゼブブ家の軍は反乱分子たちに追い詰められ、彼の家族を人質にとって彼にシャルバを演じさせていた者達は逃げ出した。此処に残っているのは自分の正体を知らない兵達のみ。逃げ出した幹部と違い、彼らは忠義の為に残っていた。

 

「私は一旦引いて体勢を立て直す。お前らは此処で時間を稼いでくれ」

 

だから、絶望的な状況で告げられた命令にも忠実に従う。此処で死ぬ事になると分かっていても……。

 

 

彼らにも帰りを待つ家族がいるだろう、共に語り合う友人がいるだろう。そんな事が頭を過ぎり、逃げ出そうとする彼の足を竦ませる。だが、彼は妻子と共に生き残る事を望んだ。反乱が成功すれば自分は確実に殺される。二度と愛する家族に会えなくなる。彼は心の中で謝りながら妻子が捕まっている牢屋を目指す。

 

 

 

「パパッ!」

 

牢屋の前に向かうと痩せこけた娘が自分に向かって手を伸ばすのが見えた。鍵は既に見つけてある。戦いの音が激しくなってきたから、この砦も長くは持たないだろう。彼は急いで鍵を開けて娘に向かって手を伸ばし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、目の前を赤色の魔力が通りすぎた。彼の右手の膝から先と彼の家族が居た場所は綺麗に消え去り、横を見ると遠くに人の姿をしたナニカが見える。それが先程の魔力を放ったと気付いた時、彼を激痛が襲い、その意識を刈り取った。

 

次に彼が目を覚ましたのは知らないベットの上。意識を取り戻した彼は知らない老人に泣いて謝られる。我々は負けて辺境へと追放されたと。自分たちを倒したサーゼクスがルシファーを名乗りだしたと。……彼にとってそんな事どうでも良かった。全てを失った彼は死人のような顔のまま暮らし、ある日、一つの記事を目にした。それは彼の家族を殺したサーゼクスへのインタビューであり、そこで彼はこう語っていた。

 

 

 

『私は冥界の平和の為に尽力する。全ての民が幸せになれる様にしたい』

 

 

そんな事が書かれていた。

 

 

 

 

「……ざけるな。巫山戯るな、ふざけるな、フザケルナ! 貴様らが反乱を起こしたせいで俺の家族が巻き込まれたのに! 貴様が俺の家族を殺したのに! 殺すっ! 絶対に殺してやるっ! 絶対に貴様にも俺と同じ思いを味あわせてやるっ!」

 

数年後、彼はゲオルクと出会い、復讐の為に彼と手を組むことにした。利用されるだけなどと知りもせず……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははっ、はははははっ! あの厄介な化物は去った! 後は隙を見て奴の力に誘き寄せられたグレートレッドにこの『龍喰らい(ドラゴン・イーター)』の血を喰らわせれば・・・・・・」

 

遠くから水晶玉で彼の様子を見ていたゲオルクはほくそ笑みながら小瓶を取り出す。その中には真っ赤な血が入っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……暇ね。ディオドラは死んでるし、ミリキャスはゼノンに助けられたって連絡があったし。……転送まで一時間ですって」

 

最奥の神殿でリアスは欠伸を噛み殺しながらそんな事を話していた。後ろではゼノヴィアがデートの待ち合わせの時の予行練習とヴァーリをどうやって良い潰すかの思案を始め、ギャスパーは崩れた壁の欠片を影から出た腕で削り、ロードローラーの形にしている。その横では小猫が自分が放った気弾を操り、自分に当てていた。彼女曰く修行らしい。朱乃はそんな様子を見て、あらあらうふふ、と微笑んでいる。

 

「……今日の反省会でもします?」

 

そう提案したのは祐斗。彼はキリキリ痛む胃を押さえながらそう言うだが、リアスは彼が何を言っているのか分からないという顔をしていた。

 

「今日の反省? 今日は普通に戦って、普通に勝ったじゃない。何も反省する事なんかないし、思い出す事もないわよ?」

 

「そうですね!」

 

「そうそう! いやぁ~、今日は至って普通の戦いだったよな! 普通すぎて思い出す必要はないぜ!」

 

三人は現実逃避をしながら笑い合った。そんな時である。突如神殿が揺れ、シャルバが降り立った。右手は義手を着けており、左手には『龍の手』を装着している。

 

「……サーゼクスの妹だな? 貴様には此処で死んでもらう。……ヒヒ、フヒヒヒヒヒヒッ! 殺す、ころす、コロスゥゥゥゥゥッ!」

 

シャルバは狂った様にそう叫び、左手を上に向ける。すると彼の力が尋常でないほど上がった。それは既にサーゼクスさえも遥かに超えており、その威圧感だけでリアス達は膝を着き、息すら満足にできなくなっていた。

 

『相棒! 気を付けろ。やつの手に嵌められているのは普通の『龍の手』じゃない! 彼処からは数十体の龍の魂を感じる。おそらく数十回分の倍加を一度に行う物だろう。……その命と引き換えにな。あの男、すぐに死ぬぞ。あの様子じゃ誰かに操られてるな。捨て駒か……』

 

ドライグの言葉の通り、シャルバの体は徐々に崩れ出している。もはや一分と持たないだろう。

 

「皆! アイツはもうすぐ死ぬ! それまで時間を稼ぐんだ!」

 

一誠のその言葉と同時にリアスが滅びの魔力を放ち、一誠が禁手を使って最大まで倍加されたドラゴンショットを放ち、祐斗は地面から聖魔剣を生やし、小猫は無数の気弾を放つ。そしてゼノヴァイが聖剣のオーラを放ち、ギャスパーはシャルバの時を停めようとする。

 

 

 

 

だが、その全てが彼が手で振り払っただけで霧散する。その時の風圧で壁に叩きつけられたリアス達が見たものは彼の手に込められた膨大な魔力の塊。そして、それを放とうとし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五月蝿くて眠れん。……死ね」

 

突如後ろに現れたゼノンの手によって魔力ごとあっけなく消滅した。彼女はリアス達を一瞥すると転移しようとし、不意に空を見上げる。バチバチという音と共に空間に大きな穴が空き、そこから巨大な赤い」ドラゴンが姿を現した。

 

「……虫螻の力に引き寄せられたか」

 

『ガァァァァアアアアアアアアアアッ!!』

 

ゼノンの呟きに答えるかの様にドラゴンは大きな声で鳴き、その声は周囲に響き渡たる。空間がそれだけで震え、神殿が崩れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……喧しい!」

 

『ガァッ!?』

 

そして次の瞬間、その声より遥かに大きい、赤い竜がゼノンによって上空へ蹴り飛ばされる音が周囲に響き渡った。

 

 

 

 

 

「……なぁ、ドライグ。あのドラゴンは?」

 

『……グレートレッド。『真なる赤龍神帝』と呼ばれる世界最強の存在……だったのだがな』

 

一誠が見上げる先ではゼノンに抵抗もできずにやられているグレートレッドの姿があった。

 

 

 

 

「喧しいぞ、赤トカゲ!」

 

上空に蹴り上げた巨体を今度は前方に殴り飛ばし、回り込んで斜め上に蹴り飛ばす。そして今度は上に回り込むと踵落としで下に吹き飛ばし、再び上に蹴り上げる。それを何度も繰り返し、最後に上に回り込むと一気に落下して行き、脳天に拳を叩き込んだ。グレートレッドは地面に頭から埋まり、ピクピクと動いている。やがて、地面から起き上がった彼は逃げる様に去っていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を観覧席で見ていた一同は空いた口がふさがらないという顔をしていた。

 

「……彼女の睡眠は絶対に邪魔しないでおこう」

 

「我もそう思う。ゼノン怒らせたら、我も死ぬ」

 

オーフィスはそう呟くと去って行き、ようやくリアス達を脱出させる準備が整う。幸いサーゼクスの怪我は柳が有料で治したので大事には至らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日後、柳はアーシアに呼び出されていた。

 

「……気持ちの整理は出来ましたか?」

 

「……はい。やっぱり私は貴方が好きです!」

 

「……そうですか。では、気持ちは受け取っておきます。まぁ、頑張って私を落としてみてください。……私は手ごわいですよ?」

 

「望む所です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、アーシアが柳に改めて告白していた時、ヴァーリは一人部屋でうなだれていた。床にはある番組の企画書が散らばっている。それにはこう書かれていた。

 

 

 

 

『ケツ龍皇しりドラゴン』、と。もうアルビオンどころか中の思念体すら一ヶ月の間、反応してくれなかった……。




意見 感想 誤字指摘お待ちしています


なお、ゲオルクはゼノンにビビって来ませんでした

これで6巻終了 次は魔法使いと貴公子を書きつつ7巻の構想を練ります オーディンとは仲が良い描写を入れてたからなんとか介入させれる?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。