ラスボスハイスクール 完結   作:ケツアゴ

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白髪の友人が心配です

―――青年は自分の父親を知らずに育った。彼が育ったのは冥界の外れにある小さな村。戦争を再開しようとする現政府と戦争に反対する貴族達との戦いも、この様な村には関係ない。青年は愛する妻と大切な娘と暮らせればそれで幸せだった。だけど、その幸せは突如終わりを告げる。関係無いはずの戦いによって……。そして、幸せを失う代償に彼は自分の出生の秘密を知る事になる。たとえ、その様な事など望んでいなくとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天界からの出向? まぁ、そういえば天界の人員は居なかったわね」

 

リアスはそう言って部室内を見渡す。其処に居るのは自分の眷属と堕天使側から出向してきたヴァーリとアーシア。それと総督を最近辞めたアザゼル。部屋の外では追加人員のフリードが用務員としての仕事をこなしている。天界もバックアップはしていたが、自分達も誰か送るべきだと判断したのだろう。リアスが手にした書類には人員の詳細が書かれていた。

 

 

「紫藤イリナ。……何処かで聞いた名ね。皆は覚えてる?」

 

リアスは聞き覚えのある名前に首を傾げ、他のメンバーに問いかける。だが、誰も思い出せない様子だった。

 

「別に良いじゃないか、部長。詐欺師同然の天界からの人員なんて私は興味もない。……これまで捧げた人生を金に換算すると、どれだけの賠償金が取れるだろうか? もし取れたら、ヴァーリと暮らす家の建設費に……」

 

「まぁ、思い出せないならそんなに重要じゃないわね。あっ、次のライザーとのデートは何時だったかしら?」

 

ゼノヴィアはメンバーの中でも特に興味がなさそうにし、先程から小猫と共にヴァーリの膝の上に乗り、身を摺り寄せている。ヴァーリも、もう慣れたのか特に気にした様子もなく平然としている。ちなみにリアス他、オカ研メンバーは彼らを気にしない事にしていた。

 

「……やっぱり尻が一番だね。胸なんか不要だよ」

 

既に頭がどうにかしてしまった彼がそんな事を呟いてはいたが、気付いているのもダメージを受けているのもアルビオンだけだから特に問題はないだろう。こうして謎の人物、紫藤イリナの事をリアス達が忘れようとした時、ドアがノックされ、柳が入ってきた。

 

「アーシアさんを迎えに来ました。ストーカー(ディオドラ)が変な事をしてきたら大変ですから一人にさせられませんしね。……先程の話、部屋の外まで聞こえていましたが、紫藤さんはゼノヴィアさんの元同僚ですよ。さっ、行きましょうか。帰りに何処かに寄って行きます? 甘味以外なら奢りますよ」

 

「はい! 何処か寄っていきましょう。では、お先に失礼します」

 

アーシアは嬉しそうに柳と共に帰って行く。その姿を見送っていたリアスはポツリと呟いた。

 

「……彼もやるわね。自然にデートに誘ったわ。ライザーも友人なら少し見習ってくれないかしら」

 

「いや、部長。あれは自覚ないでしょ。あ~、コカビエルの時の子か。そういえば途中から姿見なかったな。何処行ってたんだ? あれ? イリナって子と俺は知り合いだった様な・・・・・・気のせいだな!」

 

どうやら一誠は謎の少女であるイリナの事を思い出したらしく、相棒だったゼノヴィアに尋ねる。すると、どうやら彼女も思い出したらしく、ポンっと手を叩いた。

 

「気付いたら何故かエアーズロックに居たそうだ。常識外れの味覚音痴しか食べれない激辛のパイとクソ不味い青汁が置いてあったとも言ってたな。まぁ、既にどうでも良い」

 

ちなみにそのパイと青汁は柳の好物である。もしこの発言を従者に聞かれていた場合、冥界は滅びていただろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、疲れたぜ。今日も一日頑張りましたっと」

 

用務員の仕事を終えたフリードはそんな事を呟きながらアパートに帰っていった。正式なグリゴリの構成員である彼だが、コカビエルとの関係等の点からリアス達と同じ学生ではなく、用務員として学園に所属する事となった。エクソシストの訓練を受けた彼なら体力的には大丈夫でも、慣れない仕事で精神的な疲労がたまっているようだ。フリードはポケットから鍵を取り出し、鍵穴に刺した所で違和感に気付く。出かける時に確かにかけた鍵が空いていた。

 

「ちっ! 侵入者かよ!」

 

フリードは聖剣を創り出すと室内に突入して気配を探る。すると、キッチンの方から物音と気配がした。フリードは一気にキッチンに突入して侵入者に飛びかかり、押し倒した侵入者に馬乗りになって剣を突きつける。

 

 

「おら! 大人し……何やってんだ、テメェ?」

 

「あらあら、急に押し倒すなんて大胆ですわね。でも、今はおあずけですわ」

 

侵入者の正体は朱乃。冥界での事件以来、フリードに好意を抱いた彼女はお弁当を用意するなどアピールを続けていた。どうやら今もフリードの為に夕食を用意していたらしい。

 

「……どうやって入ってきた? って言うか、その格好は何なんだよ!?」

 

「合鍵はアザゼル先生に頼んで頂きましたわ。この格好は殿方が好むとヴァーリさんが教えてくださったのですが……」

 

朱乃は白いエプロンを着ている。それだけなら問題ではないだろう。ただ、下に水着しか着ていないことを除けば……。彼女が着ているのは布面積が非常に少ないビキニ。色々とはみ出し、彼女の豊満な体型と合わさって非常に刺激的だ。エプロンからはみ出て見える胸元にフリードも思わず釘付けになる。

 

「うふふ、別に触ってもよろしいんですわよ」

 

「マジッ!? じゃあ、早速! うっ!?」

 

フリードの視線に気付いた朱乃は悪戯気に微笑みながら誘惑するかの様な言葉を吐き、フリードも欲望のままに手を伸ばす。しかし、フリードは急に寒気を感じて手を止め、朱乃の上から退いた。朱乃はそんな彼の様子を見て少々残念そうに首を傾げる。

 

「どうかしまして?」

 

「……いや、ちょっとな。それに、冷静になったら辞めた方が良い。バラキエルのオッサンが知ったら……」

 

「あの男は関係ありません!」

 

バラキエル。その名を聞いた途端、朱乃の顔から余裕がなくなり、怒りをあらわにする。そのことに驚いたフリードを尻目に朱乃は転移していき、後には呆然とするフリードだけが残された。

 

「……オッサンの名を出したのは拙かったか」

 

フリードは気不味そうにそう呟く。そんな彼を遠くから監視する者が居た……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははは! あの女、拒否されてるよ! 僕のフリードを誘惑するからだ! ……許せない。ゆるせない。ユルセナイ……」

 

遠くからフリード達の様子を監視していたのはフリードと同年代の少女。金髪を短く切り揃え、ボーイッシュな雰囲気を持つ中々の美少女だ。だが、その目は酷く濁っている。耳にはイヤホンが付けており、フリードの部屋の音が聞こえて来る事から盗聴器が仕掛けてあるようだ。そして、腰には六本の剣が携えられていた。彼女がフリードの監視を続け、着替えを除いて興奮しだした時、後ろから呆れたような声がかかってきた。彼女の後ろに立っていたのは同じ位の年代の青年。魔術師らしき服装をしており、体の周りに霧を纏っていた。

 

「……何をやってる、ジークフリート。くだらない事をやっていないで……」

 

「……くだらない? 僕が愛しいフリードを見守る事がくだらないって? もう一回言ったら、殺すよ?」

 

ジークフリートは腰に携えた剣、魔帝剣グラムを抜くと彼に切りかかる。しかし、その一撃は彼の霧によって阻まれてしまった。ジークフリートは舌打ちしながらもう一本の魔剣を抜く。

 

「バルムンク!」

 

其の剣はドリル状のオーラを纏っており、突き出す事で竜巻状の破壊の渦が放たれる。その渦は周囲を破壊しながら青年に向かっていき、

 

 

 

 

「……くだらん」

 

青年がそう呟いた途端、彼の目が光りって渦が停められた。そして、彼が腕を振るうと無数の魔剣が地面から現れ、ジークフリートを取り囲む。

 

「さぁ、帰るぞ。貴様には反乱分子の粛清を頼んでいただろう。まったく、何故あの男に其処まで執着するのだ……」

 

「聞いてくれる!? じゃあ、話してあげるよ! 僕と彼の愛の物語を!」

 

「えっ、いや……」

 

「あれは僕が訓練施設に入った頃だった! 見てのとおり美少女だった僕はゲスな神父共に目をつけられてね。陵辱されそうになったんだ。其れを助けてくれたのが彼さ! そして、……」

 

「……もう良い。分かったから……」

 

青年は止めようとするが彼女は話を続ける。彼が地雷を踏んだと後悔していると、話はおかしい方向に進んでいった。フリードの下着を盗んだとか、彼の入浴を除いたとか、毎日彼を待ち伏せしたとか、ストーカーじみていき……、

 

「そして、僕はついに愛の告白をしたんだ! 僕が一生面倒を見るから、手足を切り落として僕以外に会いに行けなくして、僕だけのものになって、ってねっ!」

 

「(何でこんな奴を勧誘したんだろう……)」

 

余りの猟奇的な発言に青年は虚しい気持ちがこみ上げてきた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……久々に一人で寝ると落ち着きませんね」

 

その日の夜、柳は一人で床についていた。何時もは気を送る為二三人と一緒に寝ているのだが、この日は体にじっくり馴染ませる為にと送り込まない事となったのだ。羽衣は良い酒が手に入ったからと一番中飲む事にし、ミラはオンラインゲームが良い所だからと熱中し、ゼノンは昼寝をしてから未だに起きてこない。そして、何時も自分だけ一人で寝ているからと一緒に寝たがったアーシアだったが、

 

「わ、私も柳さんと一緒に寝たいです!」

 

「……諦めてください」

 

「ど、どうしてもですか?」

 

「……どうしてもです」

 

「うぅ……」

 

「……泣いたって駄目です」

 

結局、アーシアを説得するのに時間が掛かり、今度5人で一緒に寝る約束をする事となった。なお、この約束のせいで三人とひと悶着あるのだが、それは別の話である。そして、その日の深夜。柳の部屋を訪ねの者が居た。

 

「どうかしましたか? ゼノンさ……ゼノンさん?」

 

「……」

 

柳の部屋を訪れたゼノンは無言で彼に抱きつくとその顔を彼の胸に埋める。その瞳は泣きはらしたのか赤くなっていた。柳は直ぐに彼女を椅子に座らせると紅茶を差し出す。ゼノンはそれを無言で飲み干した。彼女が少し落ち着いたのを見て柳は隣に座り話しかける。

 

「また昔の夢を見ましたか?」

 

「……ああ」

 

柳の問いにゼノンは搾り出すような声と共に軽く項いた。

 

 

 

魔王神ゼノン。それが彼女の嘗ての呼び名である。その圧倒的な実力で数多の世界の魔王を虐殺した彼女は敵だけではなく味方からも恐れられ、尽く裏切られた。それは己に忠義を誓った部下であったり、幼い頃からの友であったり。そして、戦いを嫌ったゼノンは自らの力と記憶を封印し、とある世界に転生した。

 

だが、ゼノンに恨みを持つ魔王の手によって産まれた里を滅ぼされ、転生したゼノンは何も知らないままその魔王が魔王神ゼノンであり、自分の父であると信じ込み慕っていた。ロザリンド。それがこの時の彼女の名である。そして、魔王はゼノンを名乗ったままその世界を侵略し始め、ゼノン打倒を志す青年にゼノン召喚の儀で呼び出されたロザリンドは一度も会ったことのない父に会うために旅に同行。彼の弟妹とも仲良くなり、多くの仲間に囲まれて幸せに包まれていた。

 

だが、偽ゼノンとの戦いの時に記憶が完全に復活。人間の良心を吸い取ることで何度でも復活する彼を完全に滅ぼす。この時、彼は娘にしたゼノンに父としての愛情が芽生えていた。復讐の為に娘として飼い殺しにする。そんな理由だったが、長い月日の内に彼の心に変化が訪れていたのだろう。

 

そして、完全に記憶を取り戻したゼノンは仲間を殺し、やがて柳に召喚された。

 

元々、世界さえ簡単に吹き飛ばすほどの力を持つ異界の魔王の中でも並外れた力を持つゼノン。その力は修行により嘗ての力も軽く凌ぐ。だが、その精神は脆い。そして、彼女には許せない事がある。それは『裏切り』。今は少々温厚になった彼女だが、彼女の目の前で裏切りを行った場合、柳の制止以外で止まらない。世界すら軽く吹き飛ばして余りある力で全てを滅ぼし尽くすまで……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当だね!? 次のゲームの時に協力すればアーシアを僕にくれるんだね!?」

 

「ああ、約束しよう」

 

そして今、とある愚か者が自分の死刑執行許可書にサインをしようとしていた。彼の名はディオドラ・アスタロト。魔王ベルゼブブを輩出したアスタロト家の次期当主である。彼はアーシアを手に入れる為に彼女を陥れ、何食わぬ顔で近づいた。彼はそれを彼女が知った時にどんな絶望の表情をするのかと心から楽しみにした。既に自分の悪事が彼女に知られている事を知りもせずに……。




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