ラスボスハイスクール 完結   作:ケツアゴ

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三人からの修行はつらかったです

ここは神田家のリビング。ただし、この世界の柳が呼び出したのは魔王神達でも、慢心王でもなく、人面沢庵という謎生物に傾国の悪女に永遠の次回作の主人公だった。ここの柳が今やっているのは格闘ゲームだ。そして、今、柳が隣の謎生物が操っているキャラにトドメの一撃を与えようとしたその時、

 

「や~な~ぎ~!!」

 

後ろから飛びついて来た少女により、ゲーム機ごと吹き飛ばされた。テレビには飛んでいったゲーム機が刺さり、謎生物には画面の破片が刺さっている。柳も壁に頭を打ち付けて痛がっているが、少女はそんな事にも気づかず、柳の胸に頭をグリグリと押しつけていた。

 

「聞いて! また別の柳が禁手使ったんだけど、目の前でイチャつかれた! 私は最近仕事で会えなかったのに、目の前の奴らは私を隠しキャラって言った上に、ラブラブだった!! ……うえ~ん!!」

 

「はいはい、アサギさんは十分主役級ですよ」

 

「……本当?」

 

泣き叫ぶアサギに対し、柳は慣れた様子で頭を撫でて慰める。ようやく彼女が泣き止んだ頃、玄関が開く音がして、一人の美女が家に入ってきた。露出が高く、派手な格好をした彼女はとても言葉では言い表せない魅力を持ち、とてつもない色気を放っていた。ただ、今の彼女はとても酒臭い……。

 

「ただいまぁん♪ 柳ちゃん、妲己ちゃんが帰ったわよ~」

 

「……妲己さん。朝帰りもほどほどにしないと、お肌が荒れますよ。それに、また朝まで飲んでいましたね? 全く、幾らお金なら沢山あるといっても限度がありますからね。っていうか、贅沢しすぎて国滅ぼしましたよね?」

 

「あ~ん、柳ちゃんったら、厳しいわぁ。う~ん。少し汗かいちゃったからお風呂に入りたいわん。お風呂は沸いているかしらん?」

 

「ええ、何時もの事ですから。……それでこれも何時もの事なんですよね」

 

柳はアサギと妲己に腕を捕まれ、浴室に引っ張られていく。どこか諦めたような声を出す彼に対し、アサギはどこか不満そうだ。

 

「なによ。美女二人と混浴よ。健全な男なら喜びなさいよ。私達が隅々まで洗ってあげるのよ?」

 

「さぁ、柳ちゃんには代わりに私達の体を洗って貰わないとねぇん。お風呂の後は私の手料理が待ってるわ。うふふ、私が食べさせてあげるわ」

 

「「ただしつけもの(ちゃん)、アンタ(アナタ)は駄目よ(よん)」」

 

「!」

 

こうして、この世界の柳の休日は過ぎていった。なお、二人が漬物にキツく当たるのは平常運転である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!? アーシアの悩みをあっさり肯定しただぁ!? ……それ本当か!? っち! クソガキが! 俺の部下になったからには手出しさせねえぞ! 柳、お前も頼むぞ。出来るだけ彼奴を守ってくれないか? ああ、俺の方で何とかしておくから、今は傍に居てやってくれ」

 

「アザゼル、どうかしたのかい?」

 

アザゼルが柳から受けた連絡に対して大きな声を上げていると、気になったらしいヴァーリが寄ってきた。それに対し、アザゼルはどう言って良いか分からず、困っている様だ。

 

「……まぁ、色々あってな。ちょっと、ある野郎が胸糞悪い事をしてやがったみたいなんだが、九分九厘合っているだろうがよ、明確な証拠がない今、俺の口からは不用意な事は言えん」

 

「……そうか。まぁ、俺に出来る事があったら言ってくれ。仲間の為なら、誰とだって戦ってやる。さぁ、今は未熟な生徒達の修行だな。アイツも参加するんだったっけ?」

 

二人がそんな事を話しながら向かったのはグレモリー家の屋敷の庭。そこには既にリアス達が集まっていた。

 

「よし! お前ら集まったな。近い内にあるシトリー眷属とのゲームに備えて今から特訓だ。俺なりにお前らに足りないものを考え、修行を決めてきた。言っておくが俺が決めたメニューは将来的なものだ。すぐに効果が出ない奴もいる。その辺を心しておけ。では、まずリアスだが……」

 

アザゼルはそうやって一人ひとりにメニューを伝えていき、朱乃の番がやってきた。

 

「自分の体に流れる血を受け入れろ。今のまま『雷』だけじゃ、いつか壁にぶち当たる。光を乗せ、『雷光』を操ってみせろ」

 

「わ、私はあんな力なんて……。それに、あの人のせいで……」

 

朱乃はアザゼルの言葉に目をそらし、弱々しく答え、途中で言い淀む。これ以上何も話したくないとでも言うように。しかし、アザゼルは冷たい声で続けた。

 

「……それは、朱璃の事か? それとも、柳の家族の件か?」

 

「ッ! ……両方です」

 

「……そうか。でもな、柳の家族の件で使わないってのはアイツに対する侮辱だぞ。アイツはあんな事があったにも関わらず、バラキエルを殺さず、悪魔ともある程度の関係を築いている。アイツの事を友達だと思ってんなら、言い訳に使うのは止めろ。なぁ、朱乃。辛くても苦しくても自分を認めてやれ。他の誰が認めてくれなくったって、自分で自分を認めてやらなくってどうするんだよ」

 

アザゼルの言葉に朱乃は俯き、黙り込んでしまう。続いてアザゼルは小猫にも同じような事を告げ、最後に一誠の番がやってきた。

 

「イッセー。お前に足りてないのは基礎能力と実戦経験だ。それを伸ばせば禁手の持続時間も伸びる。それでだ、お前の修行に相方を用意した。まぁ、二人で頑張れよ。おい、出て来い、フリード!」

 

「フ、フリード!?」

 

アザゼルに呼ばれて出てきた少年を見て一誠は驚愕の声を上げる。いくら同盟を結んだり、彼の過去を知ったとは言え、一度は殺されかけた相手だからだ。しかし、そんな彼の心中など関係ないと言った様子でアザゼルの話は続いていく。

 

「……でだ、お前らに打って付けの師匠を用意した。おっ! 来た来た!」

 

アザゼルが視線を向けた方から現れたのは巨大なドラゴン。彼は二人を見ると静かに口を開く。そんな中、フリードはドラゴンに見覚えがあるのか、じっと彼を見つめていた。

 

「アザゼル。こいつらを鍛えれば良いんだな? おい、小僧ども。俺の名はタンニーン。今からお前らを……」

 

 

 

 

「ああ、思い出したぜ。黒いドラゴンに一撃でやられていた奴だ。総督が見せてくれた映像で見たんだったな。……泣いてんのか? なんか、ゴメン」

 

「……ぐすっ。泣いてなどおらん!」

 

「いや、今も泣いてるじゃ……」

 

「泣いてなどおらんと言ってるだろうが! さぁ、行くぞ!」

 

タンニーンは涙を堪えながら一誠とフリードを掴み、何処かに飛んでいった……

 

 

 

 

 

 

「……ところで、アーシアは?」

 

「ああ、柳達と遊んでいるよ。まぁ、気晴らしだな」

 

 

 

 

その頃、柳達は冥界中の観光名所を回っていた。

 

「これが今話題のジェットコースターですよ。乗りましょう」

 

「は、はい! (や、柳さんの隣……)」

 

まず、5人がやってきたのは遊園地。その中でも、今人気のジェットコースターだ。柳の隣に座ったアーシアは、後ろから感じる寒気に怯えながらも動き出すのを待っていた。すると、ようやくアナウンスが流れだした。

 

『今日は超絶叫阿鼻叫喚ジェットコースターにご搭乗くださり、誠にありがとうございます。なお、このコースターの迫力で心臓発作を起こされましても、……当園は一切の責任を負いません! では、レッツゴー』

 

「えぇっ!? や、柳さん!? あんな事言ってますけど!?」

 

「ははは、喋ってたら舌噛みますよ。それに大丈夫ですよ」

 

「そ、そうですよね。幾らなんでもそこまで迫力が……」

 

「心臓発作を起こしても蘇生致しますから!」

 

「いや、ちっとも大丈夫じゃ……って、キャァァァァァァァァァァァァっ!!」

 

ジェットコースターが終わった時、アーシアの口からは彼女の魂がはみ出ていた……。

 

 

 

 

 

 

 

「あらら~、やっぱりこの人はお間抜けさんですね。あの程度で気絶するなんて」

 

「は、はぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

 

ジェットコースターから降りたアーシアはまだ具合悪そうにベンチに座り、ミラはその様子を可笑しそうに見ていた。

 

「まぁ、この小娘は戦士ではない。柳のように腕を切り飛ばされたり、腹に大穴開けたり、体の半分以上を炭にされたりしておらんからの。まぁ、簡単に言うと、修行が足らん。さて、一人で勝手にバイキングに行ったゼノンは放っておくとして……飲み物を買って来る」

 

「あ、はい。ご一緒します。柳さん、待っていてくださいね」

 

羽衣と一緒に飲み物を買いに行った柳はアーシアの隣に座る。その顔はトラウマが蘇ったような暗い顔をしていた。そんな中、柳はようやく目を覚ましたアーシアに気づき、話しかける。

 

「……アーシアさん。色々と辛い事もあったでしょうが、過去は過去です。人は過去無くして生きていられません。でも、過去だけを向いて生きてもいられません。……一つ聞かせてください。聖女として生活と今の生活、どちらが幸せですか? そんな単純な話ではないとは思います。でも、よく考えてみてください。もう一度訊きます。聖女としての貴女とただのアーシアとしての貴女。どちらが幸せですか?」

 

柳のその問いにアーシアは声を絞り出す様に答えた。

 

「……今です。ずっと欲しかったお友達が沢山できて、皆さんが私の事を聖女としてでなく、アーシアとして見て下さって。柳さんと知り合えて、私、今が一番幸せです! ……柳さん。再会した時からずっと言いたかった事を言わせてください。私、貴方の事が好きです! たとえ、貴方に好きな人がいても、その人とどんな関係でも、私は貴方が大好きです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、ミラよ。あの小娘と柳を一緒にしておいて良かったのか? 我やゼノンと違い、お主はまだ、恋愛対象として見られておらんじゃろ? 奴に先を越されるかもしれんぞ」

 

「ふっふっふ! 大丈夫ですって。アイツが柳さんに惚れているのは吊り橋効果でしょう? たとえ告白して受けられても、柳さんの鬼畜外道な面を知れば勝手に離れていきますよ。そして、友人が離れていった事に傷心の柳さんに私が優しく接し……きゃっ♪」

 

「……上手く行くと良いがのぅ」


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