「糞共がぁ!! 隠れてないで出てきやがれぇ!」
森中にヨマの怒鳴り声が響き渡り、彼が手当たり次第に放つ光の矢によって木々は吹き飛ばされていった。ヨマは元々我慢強いタチでなく、残酷でチンピラのような性格をしている。
なぜ、彼はそうなったのか。それは、彼の幼少期にまで遡る。父親が罪人であり、強大な魔力を持って生まれた彼は村の大人達から恐れられ、ろくに食事も与えられず、暗い蔵に閉じ込められて育つ。そして、夜の間だけ開けられた窓からは、満月になると城がよく見えた。そして、彼はこう思った。親を殺したい、あの城に住みたい、と……。
そして、数年後、ある男と女神を名乗る女性の手によって彼は魔法の力を手に入れ、部下にした二人の魔法使いと共に世界中の城を襲い、それを手に入れてきた。彼が恐るのは『闇』。城は其れから彼を守る鎧だったのだ。彼は光の魔法使い。ゆえに、夜を恐る。彼に魔法を与えた男によって月の存在を忘れさせられたまま……
そして、彼は男の手によって月の存在と魔法の真の名前を教えられ、不死の魔法使い達と戦い、敗れ去った。絶対的と思われた回復能力を破られて……。
「それで、奴を破る術とは?」
「ああ、奴の回復能力は君の回復能力とは違い、回復魔法が自動で掛かっているうというものだ。ならば、フェニックスの涙でそれを上書きし、効果が続いている間に涙の回復力以上のダメージを与えれば良いっ!!」
ヴァーリの出した答え、それは確かに正解だろう。奇しくもヴァーリの策は、ヨマが不死の魔法使いに倒された方法と同じだった……。
そして、二人が作戦を決行しようとしたその時、ヨマの側でも自体は動いていた。
「……もう、良い。出てこないのなら、森全てを打ち抜いてやる!! ディスパイア・レイ!!」
ヨマの両手に宿った光が膨張し、無数の光の矢となって森に降り注ごうとしたその時、ヨマの背部を衝撃が襲い、振り向くとそこにはヴァーリとレイヴェルの姿があった。
「待たせたな、ヨマ! さぁ、勝負をつけよう!」
「今度こそ負けませんわ!」
「ふんっ! 雑魚共がこそこそ隠れていたかと思うと、調子に乗った顔して出てきやがった。なにか作戦でも考えてきたのかよ?」
「……直ぐに分かるさ。さぁ、行くぞ!」
ヴァーリはそう言うとヨマに向かって突撃していく。その手にフェニックスの涙の入った小瓶を忍ばせながら……。そして、ヨマに手が届くといった直前で、それをヨマに振り掛ける。そして、
「読めてんだよ、バーカ」
「なっ!? がぁっ!?」
「きゃっ!?」
ヨマは涙をあっさりと避けるとヴァーリの背後に回り込み、光の矢でヴァーリの腹を貫くと、その体をレイヴェル目掛けて蹴り飛ばす。そして、ヨマの手が強く輝きだし、そこから極太の光の波動が放たれた。
「ダイヤモンドプラズマ!!」
光は悪魔の体にとって猛毒。強力な魔力を込めた光をモロに食らった二人は戦闘不能に陥り、転移していった。
「けっ! この俺が一度やられた方法を喰らうかよ。……ん? なんだ、この紙は?」
消えていく二人を見下した目で見ていたヨマの頭上から一枚の紙が落ちてくる。それを読んだヨマは面倒くさそうに叫んだ。
「お~い、アナウンス。あの罠でばらされた事が可哀想だったから、観覧席のオーディエンスで半数とったら、賞品をくれてやれってよ。ちなみに、ここの賞品はバトン位、変なもんだぜ」
その瞬間、観客達の心は一つになり、ほぼ全員が賛成のボタンを押した。それは、彼らに同情したのか、グレイフィアの変なアナウンスを聞きたかったのか。本人以外にそれを知るすべはない。
『……分かりました。さぁ、今回の賞品は、『肉球グローブ』と『ニャオの猫耳』だニャニャニャ! ネコネコネッコ、ネコネコネッコ、ネッコネッコ! この猫耳は凄い耳! 一度嵌めると魔力がアップ! 賢さアップ! 試験中には使わないでね。って、猫耳つけて試験が受けられるか~い!にっくきゅうグローブは、攻撃力は皆無だよ♪ で・も・ね♪ 殴った相手に毒と麻痺と術封印と睡眠を与える効果を追加してるよ! やった♪ あと、一撃で天使を堕天させる効果は自重しました。肉球パンチで、皆のハートをノックダウン✩』
最後にグレイフィアの今までで最大級にキャラが崩壊したアナウンスが響き、三勢力対抗の宝探しは終結した。多くの者の心に傷を残して……。
ちなみに、このあと柳はグレイフィアがものすごい表情で威圧してきたのに臆し、アザゼルとサーゼクスが賞品ゲット時のアナウンスを考えた事を喋ってしまい、しばらくの間、三人の姿は何処かへ消えてしまっていた。
なお、余談ではあるが、イベントの後に表彰式が行われ、猫耳を付け、肉球グローブをつけたヴァーリと魔女っ子のステッキを持ったサイラオーグの姿が大勢の目に晒され、二人は、
「「死にたい」」
と零していたらしい。
「いや~、三人共、お疲れ様でした。イベントもやっと終わりましたし、後はノンビリするだけですね」
イベント後、柳達はフェニクス領の外れにある温泉を貸し切り、のんびりと温泉に浸かっていた。もっとも、余裕綽々だった三人と違い、柳は其処ら中が痛そうにしていたが。そんな様子を見かねたのか、羽衣がそっと近づき、肩を揉みだした。
「まったく、今の自分より強い異世界の自分の技は負荷が大きいと言っているじゃろう。……でもまぁ、強くなったのぅ。呼べる数が増えていたではないか」
「そうですよね! 昔は全部で9人くらいだったのに、増えてましたもん」
「ええ、最近、頑張りましたから。ああ、もっと右お願いします。そう、其処です」
「……」
柳が羽衣の按摩に恍惚とした表情を浮かべる中、先程からゼノンだけは黙ったまま、何やら考え事をしていた。
「あれ? どうかしましたか、ゼノンさん」
「いや、ちょっと思いついてな。我ら二人と個別に交わった時に妖力や魔力を流し込んで此処まで強化されたのなら、同時に交わればどうなるのかと思ってな。それに、頑張った褒美をくれてやらねばな」
「……なる程。しかも、二人同時ならあの時の雪辱を果たせるだろうしのぅ。さて、柳。妾らが気絶するまで続けたお主じゃ。まさか、断らんよなぁ?」
柳は、ジリジリと近づいてくる二人から逃げながら叫んだ。
「待ってください! 此処にはアーシアさんもいらっしゃるんですよ!?」
「は、はぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
柳の視線の先には水着を装着して温泉に入っているアーシアの姿が有り、その顔は真っ赤に染まっていた。それを見て、ゼノンは楽しそうな表情をし、羽衣は興冷めといった表情をする。
「ふふふ、見られているからこそ、興奮するのではないか! さぁ、柳! 貴様も水着を脱いでしまえ」
「……落ち着けい、馬鹿者が。さて、小娘。わざわざ我らに話があるといって来たのだ。こうして温泉に入りながらでも問題はあるまい? 話してみよ」
「は、はい! ……実は、アナさん。あ、アナスタシアさんがグリゴリを抜ける前に総督と話していたのですが、私が追放されたのは罠に嵌められたんじゃないかって事なんです。そして、今回のイベントで柳さんが戦っていた悪魔さんが私が助けた悪魔さんの様な気がして……。やっぱり、私は罠に引っ掛かったのでしょうか……」
「まぁ、そうでしょう。あの悪魔を調べた限り、そうとしか思えませんでしたよ」
泣きそうな顔で、否定して欲しそうに訊いてくるアーシアに対し、柳はあっさりとそう答えた。
とりあえず、ディオドラ、m9(^Д^)9mザマァ
格好付けて語った作戦が読まれていたヴァーリ、(´;ω;`) まぁ、ヨマさん、それで負けたし
意見 感想 誤字指摘お待ちしています
おまけは一気に追加します