時間は悲劇が起こる数分前まで遡る。一人ぼっちで無機質な通路を進んでいたヴァーリは……
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
絶賛、落下中だった。本来空を飛べる筈の彼だったが、何故か飛ぶ事が出来ず、真っ逆さまに落ちている。今まで経験した事のない体験に混乱した彼は、いつもの冷静な顔など忘れ去り、間抜けな声を上げながら落下していった。なお、この様子も観覧席のモニターにて流されており、会場の爆笑を誘っている。
「がはっ!」
数分の落下の後、漸く地面に激突したヴァーリは辺りを見回すが、本来、闇の中でも目が見えるはずなのに、何故か真っ暗で何も見えない。おそらく、先ほどの落下と同じで何らかの術が働いているのだろう、そう判断したヴァーリは手探りで辺りの様子を伺う。すると、なにか柔らかい物が手に触れた。
「きゃあ!?」
「ん? 何か声が聞こえたような。しかし、これは何だ? 触り心地が良いが……」
ヴァーリが空いた手も同じように柔らかい物へと伸ばし、両手で鷲掴みにする。すると、漸く明かりがつき、ヴァーリの目の前には、自分の手で尻を鷲掴みにされているレイヴェルの姿があった。ヴァーリの顔を見た彼女はワナワナと震え、右手を振り上げる。
「キャァァァァァァァァァァァァッ!!」
「ま、待て! これは事故だ!」
レイヴェルはヴァーリの弁解などには聞く耳を持たず、右手を振りかぶる。辺りに平手打ちの音が響き渡った。
「……全く、前ルシファーの末裔ともあろうお方が暗がりで婦女子の、お、お尻を鷲掴みするなんて、恥をお知りなさい! そんな風だからケツ龍皇なんて呼ばれるのですわよ!」
「……既にその呼び名が広まっているのか」
『ふぉっふぉっふぉ、若いもんは世間体を気にしすぎじゃわい。なぁに、歳をとればその程度の事など気にせんで生きていられるぞい』
弁解も虚しく、レイヴェルから誤解されたままのヴァーリであったが、道が一本の為に彼女に同行していた。最も、微妙に距離を開けられていたが。その様子にヴァーリが深く溜息をつき、壁に手を置いたとき、その部分が急に沈み、戻る際にヴァーリの音声が流れた。
『ああ、君を想うだけで俺のハートはビッグバン! 高鳴る鼓動はムネズッキュン』
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? なんで俺の秘密ポエムが流れるんだ!?」
『それは私がご説明します。そのフロアはアザゼル総督と神田様の考案した精神トラップが設置されております。なお罠の内容は、本人音声で他人に知られたくない秘密を暴露するというものです。なお、その様子は大画面で放送されますのでお気を付けください』
「「な、なんて嫌な罠! 絶対に引っかかりたくない」」
二人は心底嫌そうにそう叫ぶ。だが、それはこれから起こる不幸のフラグであった……。
『俺がオネショをしていたのは……』
『私が先生をお母様と呼んだ回数は……』
「「し、死にたい。死んでしまいたい……」」
その後何度も罠に引っかかった二人は次々と秘密を暴露され、どんよりとした顔で先へと進んでいく。そして、その後も罠を発動させ続け、漸く宝の間へとたどり着いた。二人がたどり着いた部屋に入ると、そこは木々が茂る夜の森。空には綺麗な満月が輝いている。二人がその光景に見とれていると、アナウンスが流れ出した。
『さて、ここでボーナスターイム♪ 散々恥辱に塗れさせたお詫びに、ここでは賞品をを一人二個ずつプレゼ~ント! ……ガンバっ!』
「……だそうだ。良い賞品を手に入れて、嫌な事は忘れよう」
「ええ、そうですわね。え~と、敵は……」
二人は宝の番人を探そうと辺りを見回す。すると、空中に操り人形のような姿の男が浮いていた。
「よう、お前らが俺の敵か? 俺はヨマ。死神ヨマだ。行き成りだがよ、死んでくれや」
そう言って男は両腕を二人に向ける。すると、男の腕から無数の光の矢が放たれ、辺りの木々を吹き飛ばした。
「ほれほれ、どうした、どうした。貴様の力はその程度か?」
「くっ! やはり力の差が大きすぎる」
羽衣が尻尾を振るうたびに祐斗の創り出した聖魔剣は砕かれ、祐斗も吹き飛ばされる。その様な光景が先程から何度も繰り返されているが、祐斗自身が負った傷は軽い。だが、それは彼が食らいついているからではなく、弄ばれているからだという事は誰の目にも明らかだった。
「……飽きたのぅ。もう、終わりじゃ。一尾の大弓」
羽衣はどこからか大弓を取り出し、祐斗へと放つ。咄嗟に横に避けた祐斗だったが、まるで意思を持つかのように矢は彼を追尾し、その体を貫き、その部屋の壁を破壊した。
「さて、気配からして妾が一位じゃな。しかし、こう、手応えがなくてはつまらぬのぅ……」
羽衣はそう言って大アクビをすると、椅子に腰掛け、眠りに落ちた。
『悪魔勢力 木場 祐斗様 リタイア』
「あっれ~? 貴方って龍王って呼ばれていたんですよね? なのに、こんな子供に負けて悔しくないんですかぁ?」
「ぐっ!」
「タンニーン様! おのれっ、これでも喰らうが良い!」
「あれ? 今、何かしました?」
ミラとタンニーン、そして、サイラオーグの戦車であり、ドラゴンに変化できる能力を持つラードラ・ブネの戦いは、黒龍の姿を現したミラの圧勝で終わろうとしていた。最上級悪魔であるタンニーンは尻尾のなぎ払い一発で倒れ、ラードラの放った炎もミラには通用しない。そして、ラードラもミラの体当たりによって一撃で沈められてしまった。
「タンニーン様、お気づきになられましたか?」
「ああ、あの小娘、ドラゴンでありながら龍殺しの力を持っている。それも、かなり強力なな……」
『悪魔勢力 タンニーン様 ラードラ様 リタイア』
「くそっ! 現魔王の血筋であるこの僕が、汚らしい人間なんかに!」
「ほらほら、動きが止まっていますよ。はぁ!」
柳は拳に気を纏い、打撃と同時にディオドラの体内へと送り込む。それより、ディオドラの気の流れを乱し、同時に内蔵にダメージを与える。柳の拳をモロに受けたディオドラは吐血しながら吹き飛んでいった。
「くそ、くそ、くそ! 人間ごときが、人間ごときがァァァァァっ!!」
「無茶はしない方が良いですよ。今の一撃を受けては魔力もロクに……ちっ!」
柳は言葉の途中で飛んできた魔力の刃を避ける。その一撃は、柳の仙術により、魔力を上手く練れなくなったにも関わらず、先程までよりも格段に威力が上だった。しかもそれだけではなく、ディオドラの魔力が大幅に高まっている。その高まりに警戒した様子を見せる柳に対し、ディオドラは得意そうに笑った。
「はははははっ! やっぱり、下等な人間ごとき、僕の敵じゃないね。さぁ、痛い目を見たくなかったら土下座して降参するんだな!」
「……ジェノサイドブレイバー」
馬鹿にしたように笑うディオドラに対し、黙り込んだ柳が赤いオーラを纏った剣を振るった瞬間、そこから赤い波動が放たれた……。
「むぅ~、サイラオーグちゃん、ずるい! 私が欲しかったな~。ミカエルちゃんもそう思わない?」
「いえいえ、男性が使うにはキツいものがあるでしょう。おや、宝部屋のようですね」
仲良く会話しながら進んでいるのは、全ペア中、最強と思われる組み合わせの二人、セラフォルーとミカエルだ。二人が入った部屋は荒れ果てた神殿のような部屋。二人がその部屋の中心に来た瞬間、周囲を火柱が囲む。
「……来ましたね。それも、かなり邪悪な気配です……」
火柱の一角をミカエルが警戒した表情で見つめると、火柱を突き破り、怪物が姿を現した。青い龍の鱗に青いコウモリの羽、爪の尖った四本の腕。そして、首から下げた角のある髑髏のペンダントが特徴だろう。怪物は唸るような声を発し、その振動で部屋中が揺れる。
「我が名はシドー。破壊神シドー。貴様らの魂を食らいつくしてやる!」
シドーは口から激しい炎を吐き、その炎は部屋中を埋め尽くした……。
意見 感想 誤字指摘お待ちしています