少年が産まれたのは山奥の小さな村だった。物心ついた時には既に両親はいなかったが、心優しい祖父母に育てられ、少年はスクスクと育つ。他の子供より体格に恵まれ、力も強かった少年は直ぐにガキ大将となり、幸せな日々を過ごしていた。全てを失ったあの日までは……。
夏休みに行く旅行はとても楽しいものだろう。それも友達と一緒に行く旅行なら、移動途中も楽しみの内だ。だが、目的地へ行く為の列車の中で一誠は嫉妬と羨望の篭った視線を友人に向けていた。
「ミラ、ミカン剥けましたよ」
「ありがとうございます、柳さん。はい、柳さんもどうぞ。あーん」
膝の上に黒髪の美少女を乗せてミカンを食べさせてもらい、
「ふむ、最近更に逞しくなったのぅ。感心感心」
「……羽衣さん、当たっています」
黒髪の美女に腕に抱きつかれた時、明らかに腕が谷間に挟まれている。美女はそのまま体を密着させ、耳元で何やら囁き、その途端、友人は顔を真っ赤にして僅かに頷く。その途端、他の女性陣の顔が不機嫌そうになった。
「さて、向こうに着いたら買い物をしなくてはな。柳、貴様は荷物持ちだ」
「……いや、私よりゼノンさんの方が力あるじゃ……」
「さて、この前羽衣にした事を、今度は我も加えて三人でして貰うとするか。荷物持ちもしないのなら、そのくらいの甲斐性は見せて貰わんとな」
「荷物持ちさせていただきますっ! だから、それはさすがにご勘弁をっ!」
「あの、柳さん。私、冥界は初めてなんです。色々ご迷惑おかけすると思いますが宜しくお願いしますね」
「ええ、お任せください。私は何度か行っていますので、自由時間にご案内いたしますよ」
そして、白髪の美女と金髪の美少女とデートの約束をしている友人、柳の姿があった。
そもそも、なぜ柳がリアス達と一緒の列車に乗っているのか。それは数日前まで遡る。
「冥界までの列車がない? 貴方の家は大金持ちでしょう? それに、招待したのはソッチじゃないですか」
夏休みにフェニックス領に招待された柳は、フェニックス家所有の冥界に行きの列車の乗り場をライザーに訊いた所、所有していないとの答えが返ってきた。転移で行くのも味気ないと思っていた柳が友人からの返答に残念そうな声をだすと、慌てた様な声が返ってきた。
「スマン。言葉が足りなかった。お前の住んでいる街の周辺に行く為の列車を持っていないんだ。ウチが所有している列車が行ける乗り場は遠くにしか無い。だから無いって言ったんだ。悪いが、その乗り場まで行くか、直接転移するか、シトリー家かグレモリー家所有の列車で来てくれ。冥界の駅に迎えを寄越すよ」
その後、冥界で行う予定のイベントの打ち合わせをノリノリで行っていたアザゼルの誘いもあり、ヴァーリやアーシアも休暇半分でアザゼルに同行する為、リアス達と一緒に行く事になったのだ。もっとも、一緒に行くといっても、自分達の空間を作ってしまっていたが……。
「……入り込めないわね。一緒に冥界に行く間に少しは朱乃と仲直りできればと思ったのだけど……」
「……ええ、そうですね、部長。さっき話しかけようとしたら、神田君の従者の皆さんが神田くんに笑顔を向けたまま殺気を送ってきました」
柳達の様子を見て、なんとか話しかけようとするリアスと祐斗であったが、会談襲撃犯と戦った時に見せた彼女らの強さを思い出し、話しかけられないでいた。当の朱乃は柳の姿を見て、複雑そうな表情を見せている。それは、楽しそうに笑う幼馴染の姿を見て、昔を懐かしんでいる気持ちと、もう、その笑顔が自分には向けられないのだろうという諦めと哀しみの入り交じった表情だった……。
そんな中、他のメンバーはというと、小猫は一人でお菓子を口に運び、アザゼルはイビキをかいて寝ている。そして、ヴァーリとゼノヴィアだが
「お、おいっ! 俺の手を尻と胸に持っていかないでくれっ!」
「ふふふふ、恥ずかしがらなくたっていいぞ。ほら、私の胸は柔らかいだろ? お前に揉んでもらおうと、今日は付けていないんだ。……上下ともな。それに、感じるだろう? お前に密着した事で私の鼓動が早くなっている事に……。なぁ、今晩君の部屋に行っても良いかい?」
ゼノヴィアがヴァーリに密着し、その手を自分の胸と尻に持って行っている。ヴァーリは耳まで真っ赤にし、簡単に振りほどけるはずの手を振りほどけないでいた。柳やヴァーリの姿を見たリアスは盛大に嘆息を吐いて、呟く。
「二人とも良いわね。……私も早くライザーに会いたいわ。……転移しようかしら?」
美女や美少女に囲まれている友人、柳。美少女に迫られている師匠、ヴァーリ。そして、婚約者の名を愛おしそうに呟く、リアス。今は特定の相手時は居ないが学校では異性から非常にモテている、祐斗、小猫、朱乃。かっては妻子持ちだったアザゼルを除き、彼らの姿を見て、この空間で唯一の非リア充の嘆きは一層強まっていった。なぜ自分はモテないのだろうかと……。
「それは日頃の行いが悪いからですよ」
もっとも、問われれば友人はそう答えただろうが……。
「それでは、私達は此処で失礼させていただきます。機会がありましたらお会いしましょう」
「あ、あの、やな……」
柳達はリアス達が降りる駅より、ひと駅先の駅で降りる。そこには既にフェニックス家からの迎えの馬車が到着していた。朱乃は最後に何か話しかけようとするも、柳達はさっさと歩いて行った。それは、朱乃の声が聞こえなかったのか、もしくは聞こえないふりをしたのか。一つだけ分かっているのは朱乃の表情にさらに影が差した事だけだった……。
「やぁ、よく来たなっ! 柳。……お供の皆様もようこそいらっしゃいました。お部屋をご用意していますので、ごゆっくりお休みください」
「うむ、ご苦労じゃな。あ奴らは元気か?」
フェニックス家で柳達を出迎えたのはライザーだった。友人である柳は笑顔で出迎え、恐怖の対象である従者三人には顔を引きつらせながらも丁重な態度で接する。そんな中、屋敷のドアが勢いよく開き、ライザーの眷属数名が飛び出してきた。
「お姉さまっ! 羽衣お姉様、ようこそいらっしゃいましたっ!」
「ささ、此方へどうぞ」
「お荷物、お持ち致しますっ!」
「うむ、よろしく頼むぞ。柳、今日は妾はこ奴らと過ごす。明日一緒に出かけるとしよう」
ライザーの眷属に囲まれ、満更でもないといった顔をした羽衣はそのまま屋敷へと歩いていった。
「……相変わらずですねぇ。貴方達がボコられた後、眷属の皆さんが特訓という名の調きょ……再教育を受けて、あの道に目覚めたんですよね」
「……まぁ、俺もリアス一筋になったし、結果オーライと思う事にしてるよ。さぁ、案内しよう」
どこか疲れた顔をした二人は残った二人の従者と共に屋敷へと向かっていった。屋敷の客間は本来ならば一人ひと部屋となっていたが、羽衣がライザーの眷属と過ごす事は予想されていた為、家族用の部屋が割り当てられることになったのだが、此処に来て不測の事態が起きていた。
「一人だけ一人部屋? 客間なら沢山あるでしょう?」
「ああ、それなんだが、何部屋かは改装中でな、残った部屋に泊まってもらうつもりだったんだが、今日の朝に急な落雷があってな……」
ライザーが指差した窓からは一部が焼け焦げた別館の姿を見る事ができた。丁度多人数用の部屋のある場所だったらしく、ライザー眷属と一緒に過ごす羽衣の部屋を除き、三人のうち誰か一人が一人部屋に泊まる事になったのだ。それを聞いた途端、ミラとゼノンの間に火花が走った。
「さて、ゼノンさん。今日はお一人で寝るんですよね?」
「何を可笑しな事を言っている? 一人部屋は貴様だろう? 護衛の為、我らのどちらかが柳と一緒になる必要がある。ならば、強い我の方が一緒になるべきであろう?」
二人の声は穏やかだが、放たれるオーラにより調度品は割れ、窓や壁にはヒビが入っていく。あまりの迫力に柳とライザーは見守る事しかできなかった。
「そこまで警戒しなくても、大丈夫ですって。この家のライザーさんは柳さんのご友人ですよ。ご友人には少しは心を許そうって決めたじゃないですか。だから、あの女も列車の中で一緒に座る事を許したわけですし。……この前の兵器のお返しだと思って私に譲ってくださいよ。それに、貴女と決着つけていないのに、従者最強を名乗られてもねぇ」
「……良いだろう。柳、少し外すぞ。何かあったら喚ぶが良い。まぁ、我らならすぐに察知できるから召喚する必要はないがな」
二人はにらみ合ったままどこかの世界に転移していき、ようやく柳たちはプレッシャーから解放され、ほっと一息ついた。
「……普段からああなのか?」
「……いえ、彼処までではなかったのですが、先日、羽衣さんと肉体関係を持ちまして……」
「……そうか。ついに襲われて抵抗できなかったか。まぁ。そんな初体験も良いんじゃないか?」
襲われたという事を否定しようとした柳ではあったが、普段の彼女らの行動から説得力がなく、見栄を張っているだけと友人に思われると判断し、何も言わない事にした……。
とりあえずムカついたのでエクスカリバーで斬りかかりはしたが
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