ラスボスハイスクール 完結   作:ケツアゴ

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たまには過去を語りましょう

「……それで、説明してもらえる? どうして私に承諾を得ずに活動していたのかしら? ここはグレモリーの領地なんだけど」

 

「ハハハハハ、可笑しい事を言いますね。何時から日本は貴方方悪魔の属国になったのでしょうか? そういう貴方方こそ、日本政府に許可を取っていますか? 洗脳やらを使わず、正式な手段で」

 

オカルト研究部の部室では部員全員が集められ、柳との話し合いが行われていた。リアスと柳は対面に座り、眷属達はリアスの後ろに、堕天使側の三人は横から話し合いを眺めている。中でも友人である一誠は状況に改めて戸惑い、柳に好意を抱いているアーシアや朱乃は会談の日から話す機会がなかったので、柳を見てソワソワしている。そして、アザゼルとヴァーリは……。

 

(……頼むから怒らせるなよ。温厚な柳は兎も角、あの三人はやべぇからな)

 

(……普段の柳らしくないな。やはり、悪魔は基本的に嫌いなのか……)

 

どうか揉め事が起きないでくれ、と心の中で祈っていた。しかし、二人の祈りも虚しく、リアスのこめかみがピクピク動き、笑顔が引き釣り出していた。その祈りが通じたのか話し合いは無事に進んで行き、最後の辺りに差し掛かったとき、リアスはある質問を投げかけた。

 

「……まぁ、良いわ。貴方は正規の手段で入学したし、住んでいる土地も家も貴方の所有物ですものね。……最後に聞かせて頂戴。会談の時にも思ったのだけど、貴方は悪魔が嫌いなの?」

 

「ええ、嫌いですよ。ごく一部の友人を除いてね。私の家族を殺したのも悪魔ですし、10年の間に曹操が言っていたような悪魔の犠牲者を見てきましたから。流石に欲望に忠実すぎるんですよ。貴方方悪魔は。まぁ、一番の理由はゼノンさん……貴方方がお会いしていない最後の一人が冥界の悪魔が嫌いだからですけどね」

 

「……最後の一人は何者なの?」

 

「魔王ですよ。異世界のね。まぁ、部下に裏切られて自らの命を絶った過去がありますから元魔王というのが正しいですが。……では、この辺で失礼させていただきます」

 

柳の発言に室内の空気が固まる中、柳はそそくさと立ち上がる。そんな中、朱乃が意を決したように声をかけた。

 

「あ、あの、柳さん。私に対して余所余所しい態度をとっていたのは私が悪魔だからでしょうか……?」

 

「……貴女に心を許していないのは別の理由です。ですが、自分でも理不尽な理由だと思っていますので口にしたくありません。アザゼル先生にでも聞いてください。あ、そうだ、ヴァーリ、アーシアさん。この後、お茶でも行きませんか? 良いお店をお教えしますよ。アザゼル先生。二人を連れて行っても?」

 

「ああ、別に良いぜ。挨拶は済んだしな」

 

「俺は今度で良いよ。アーシアと二人で行ってきたら良いさ」

 

「そうですか? では、行きましょう」

 

柳はアーシアを引き連れ、部室から出ていく。漸く重苦しい空気が払拭され、一誠達は一息つく事ができた。そんな中、一誠がふと思い出した。リアスが柳を眷属に誘った時の事を……。

 

 

 

 

「柳くん。私の下僕にならない?」

 

「スミマセンがそんな趣味ありませんので。いえ、他人の趣味を否定する気はありませんよ?ただ、私には合わないだけで。・・・・・・はっ!まさかオカ研って!」

 

 

あの時は柳が眷属悪魔の事を知らなかったからあのような事を言ったのだと思っていたが,あの様子だと知っていてからかったんだろうなぁ。と思った一誠だったが、不機嫌そうなリアスに今言ったら大変な事になりそうなので口をつぐむ事にした。そんな中、朱乃はおどおどしながらアザゼルに話しかけた。

 

「……あの、アザゼル先生。柳さんが私に心を許さない理由というのは……?」

 

「……お前にとって辛い話になるぞ。あいつの家族の死にはお前の父親、バラキエルが関わっている」

 

 

バラキエル。その名を聞いた途端、朱乃の表情に影が差す。まるで辛い思い出が蘇ったように……。

 

 

 

 

 

「ブラックと紅茶を一つずつお願いします。あと、日替わりケーキを一つ」

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

柳がアーシアを連れてきたのは郊外にある小さな喫茶店。店内ではジャズが流れ、どこか古臭い雰囲気のする店だった。

 

「ここのコーヒーや紅茶は美味しいですよ。店長がこだわり抜いた豆や茶葉を使っているそうですから」

 

「へぇ、そうなのですか。柳さんはケーキを召し上がらないのですか?」

 

「……甘い物は苦手なので。それより、何か訊きたい事があるのでは?」

 

柳の言葉にアーシアはピクリっと反応する。従者三人との関係はアザゼルから聞いていたが、他に気になっている人物が居たのだ。その人物とは朱乃である。一誠達から聞いた話によると、一緒にお昼を取ったりするなど、随分と仲が良い様子が見受けられたからだ。

 

「朱乃さんと仲が良いと聞きましたが、どの様な関係なのでしょうか?」

 

「……あの人との関係? ただの幼馴染ですよ。……そうですね、あれは12年前になるでしょうか……」

 

アーシアの問いに対し、柳は昔を懐かしむ様に語りだした……。

 

 

 

 

 

 

その日、柳は妹にねだられて遊びに行った公園で一人の少女と出会った。年齢は柳と同じくらい。綺麗な黒髪を持つ、活発そうな少女だった。公園には彼女しか子供の姿は見えず、少女は一人でブランコに乗っていた。

 

「ねぇ、あの子も誘う?」

 

「え~、私、お兄ちゃんと二人っきりがいい~」

 

人見知りをしない柳と違い、物心が付き始めたばかりの妹は知らない相手と遊ぶのを嫌がり、柳も仕方ないなとばかりに二人で遊ぶ事にした。少女はそんな二人の様子を話し掛けたそうにじっと見つめていたが、結局、話しかけずに一人で遊んでいた。次の日も、また次の日も……

 

 

その日は妹が熱を出した為、柳は一人で公園に遊びに来ていた。少女もまた、何時もの様に一人で遊んでいる。これまで話しかけなかったのだし、今日も話さなくて良いや、と柳が一人で遊んでいると、何時もは見ているだけだった少女が近づいてきた。

 

「あれ? 今日はあの子は居ないの?」

 

「うん。風邪ひいたんだ。え~と、君は? 僕、柳」

 

「私は朱乃っていうの。ねぇ、一緒に遊びましょ」

 

こうして二人は一緒に遊ぶようになった。ウマが合ったのか、すぐに仲良くなり、友達と呼べる間柄になった。それから柳は妹の風邪が治った後は一緒に遊ぶように提案し、最初は渋っていた妹も次第に心を許すようになっていった。

 

 

 

ある日、柳が朱乃の家に遊びに行った時の事である。柳が玄関のチャイムを鳴らすと、筋骨隆々の大男が彼を出迎えた。

 

「こ、こんにちわ」

 

「おや、あの子の友達か? ……この気配、やはりこの子は。おっと、済まないな。私は朱乃の父親だ」

 

大男は柳の顔をジロジロと見つめると、すぐに仕事に出かけて行った。その事を朱乃とその母親に話した所、母親は何やら考え事をしていたのを当時の柳は気にしていた。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

「柳君と遊んじゃ駄目ってどういう事っ!? 教えてよ、父様っ!」

 

「……教えられん。だが、あの子は危険なのだ。もう近づいては駄目だ」

 

「嫌っ! 柳くんは友達だもんっ!」

 

「朱乃っ! 待ちなさいっ!」

 

急に父親から伝えられた柳とは会うな、という話に納得のいかない朱乃は父が止めるのも聞かず、家を飛び出して行った。

 

 

 

 

 

 

「……父様の馬鹿」

 

「グルルルルルッ」

 

家を飛び出した朱乃は、いつも柳と遊んでいる公園で膝を抱えて泣いていた。その膝には転んだのか痛々しい傷がある。そんな時、一匹の犬が歯を剥き出しにし、唸り声を上げながら近づいてくる。朱乃がただの少女だったのなら命すら危ない状況だろう。だが、彼女はただの少女ではなかった

 

 

 

「野良犬ッ!? あっち行きなさいっ!」

 

「きゃんっ!?」

 

野良犬は朱乃の放った雷光によって簡単に追い払われた。ホッと一息ついた朱乃だったが、この時、周りをよく確認しておらず、その光景を見ている者が居る事に気づかなかった。

 

 

「朱乃……ちゃん?」

 

 

(見られたっ! それも、柳くんに……)

 

柳に雷光を放つ所を見られた事で、朱乃の頭の中は蒼白となる。冷静でなかったとは言え、人前で雷光を使ってしまった。父から、人前では絶対に使うな。使えば化物と呼ばれるから、と厳しく言われていたのに見られてしまった。それも、友達に……。

 

「朱乃ちゃん、大丈夫? 足から血が出ているよ。すぐに手当しないと」

 

「え?」

 

だが、柳の反応は朱乃の予想とは大きく掛け離れていた。手から雷を出す所を見たにも関わらず、彼の口から発せられたのは怪我への心配だった。

 

「……どうして? 私が手から雷を出す所を見たでしょ? 私、化物なんだよっ!?」

 

「朱乃ちゃんは朱乃ちゃんでしょ? 全然化物なんかじゃないよ」

 

そう言いながら柳が見せた笑顔は、朱乃にはとても眩しく見えた。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朱乃ちゃん。本当に、足、大丈夫? 歩けないんだったら大人を呼んだ方が……」

 

「ふふっ、柳くんが運んくれているから大丈夫。それに、もうすぐ歩ける様になると思うから」

 

あれから、朱乃は怪我が痛くて歩けないと嘘をつき、柳に背負ってもらっていた。柳も妹をよく背負っていて、慣れているので了承し、朱乃を背負いながら家を目指していた。その道中で、朱乃は柳に問いかけた。

 

「ねぇ、柳くん。将来、私をお嫁さんにしてくれる?」

 

「う~ん。……いいよ」

 

柳の返事を聞いた朱乃の顔はほころび、抱きつく腕に入る力が強くなった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まぁ、彼女との関係はこの様なものですね。その後、彼女の父親……貴女も知っている、バラキエルによって雷光を見た記憶は消されましたが、それでも約束の辺りは覚えていましたし、それなりに仲良くやっていましたよ」

 

朱乃との思い出を語り終えた柳は運ばれてきたコーヒーに口を付け、乾いた喉を潤した。そして、アーシアが朱乃が思わぬ強敵だった事に不安を覚えた時、脳裏に部室での柳の言った言葉が浮かんできた。

 

「あの、そこまでの仲なら、どうして、心を許していないと言ったのでしょうか? 悪魔にもご友人がいますし、幼馴染ですよね……」

 

「……簡単で理不尽な話ですよ。バラキエルはある日、一人のハグレ悪魔を見逃しました。家族が居るから、自分は無理やり悪魔にされたんだ、という嘘を信じて。見た目が子供だってだけでまんまと信じたんですよっ! 歴戦の戦士とあろう者がっ! ……そして、そのハグレ悪魔が私の家族を殺したんですっ! 分かっていますよ。ええ、分かっています。父は父、娘は娘だと。でも、私の心が叫ぶんです。彼女は家族の仇の娘だとっ!」

 

「柳さん……」

 

 

 

 

 

 

「……それが彼奴がお前に対して壁を作る理由だ。奴もお前はお前、バラキエルはバラキエルだと頭では分かってるんだ。だが、心はそうはいかないんだろうよ。奴にとってお前は幼馴染である以前に、家族の仇とも言える奴の娘なんだ……」

 

「そんな……」

 

柳の言葉を聞き、アーシアは言葉を失い、アザゼルから話を聞いた朱乃は膝から崩れ落ちた……




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