ラスボスハイスクール 完結   作:ケツアゴ

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心の内を話しました

グレンの命懸けの作戦が羽衣の手によって打ち砕かれた少し前、ヴァーリとアナスタシアの攻防は続いていた。戦況はアナスタシアがやや優勢。ヴァーリの白龍皇(ディバイン・ディバイディング・)の鎧(スケイルメイル)には所々にヒビが入り、微かに血が滲んでいる。対するアナスタシアには目立った外傷はなかった。

 

「どうしたのよ、ヴァーリ? 私を止めるんじゃなかったのかしら? 今なら見逃してあげれるから下がってってよぅ」

 

「……やはり君は優しいな。昔のままだ。敵対したっていうのに、まだ本気を出していない。いや、出せないって言うべきかな?」

 

「っ! うるさいっ! まだ戦う気なら本気でぶっ飛ばしてあげるっ!」

 

アナスタシアは戦鎚を振り上げ、ヴァーリに迫ると一気に振り下ろす。アナスタシアが戦を振るった瞬間、鎚が光り、勢いを増した。しかし、ヴァーリはヒラリと体を躱し、その一撃は宙を切る。

 

「……その神器は加重の戦鎚(ブースト・ハンマー)だったね。力を吸わす事で一時的に重さを増加させる神器だ。君の馬鹿力と合わせればその威力は恐ろしい事になる。まぁ、当たればの話だけどね」

 

アナスタシアが攻撃を外した事によって生じた隙を見逃さず、ヴァーリは半減の力を発動させるべく手を伸ばす。しかし、手が触れる瞬間、アナスタシアの体が半透明になり、まるで立体映像に触れようとしたかの様にヴァーリの体はすり抜けた。

 

「しまっ!」

 

「隙有りよっ!」

 

ヴァーリは瞬時に反転しようとしたが、アナスタシアの振るった鎚がヴァーリを捉え、地に叩き落とした。アナスタシアは地に落ちたヴァーリを見つめると鎚を仕舞い、話しかけた。

 

「……ヴァーリ。私を舐めているのかしら? なんで空間全体に半減の力を使わないのかしら? そうすれば私を捕らえれたはずでしょう?」

 

「……そんな隙を見せれば後ろから曹操に突き刺されるさ。それに、あの力を使うと君を傷つけざるを負えない。……それが嫌だったんだ」

 

「……そう。でも、これを喰らって同じ事が言えるかしらっ!」

 

アナスタシアが天に手を向けると空中に無数の光の槍が現れる。その一つ一つがコカビエルが体育館を破壊した物よりも遥かに大きかった。そして、アナスタシアが指を鳴らした瞬間、槍が収縮し、アザゼルの腕を切り落とした物と同じ大きさになった。

 

「私の光力の精密操作と強さがグリゴリでもトップだって事くらいは知っているでしょ? さっきからその鎧の隙間に何度も喰らっているんだから。……最終勧告よ。ヴァーリ、降参して。じゃないと、その手足を切り飛ばすわよ」

 

「……やっぱり君は優しいな。昔のままだ。悪いが、返答はNOだ。俺は諦めないっ!」

 

「……そう。残念よっ!」

 

アナスタシアはそう叫ぶと腕を振り下ろす。それに従うかの様に槍は一気にヴァーリに襲い掛かり

 

 

 

 

 

 

 

「……俺も残念だぜ。お前を殴る日が来るなんてな」

 

「っ! お祖父ちゃ……あぐっ!」

 

アナスタシアの後ろから迫ったアザゼルが彼女を殴り飛ばした事により、集中が切れ槍の軌道が乱れ、ヴァーリに刺さる事はなかった。殴られた時に口の中を切ったのか、口から溢れ落ちた血を拭ったアナスタシアの目の前にいたアザゼルは彼女が見た事のない怒りの表情をしていた。

 

「……まさか祖父ちゃんに顔を殴られる日が来るなんてね。コカビエルお祖父ちゃんにビンタされた事はあっても、貴方には殴られた事すら無かったのに……」

 

「……ああ、俺もお前を殴りたかぁ無かったよ。でもな、テメェのやった事は笑って許す訳にはいかねぇっ! 覚悟しろ、バカ孫っ!」

 

「……覚悟するのはそっちよ、馬鹿爺っ! 嫁入り前の顔を殴るなんて何考えてんのよっ!」

 

アザゼルとアナスタシアは叫ぶと同時に拳を振り上げ、互いに殴りかかる。お互いに防御も回避もせず、ただ血みどろの殴り合いが続き、やがて、アザゼルに勝利の天秤が傾きだす。勝敗を分けたのは体格差と戦闘経験。二人の腕力は同じでも、それに大きな差があったのだ。そして、今、勝負の幕が閉じようとしていた。

 

 

「これで終わりだ。しばらく眠っときやがれっ!」

 

アザゼルが放ったのは全身全霊を込めた渾身の一撃。アナスタシアの意識を刈り取るに十分な、その一撃はアナスタシア目掛けて迫り、もはや避ける力も残っていないアナスタシアはただ目を瞑るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私の恋人に対してやりすぎでは? これ以上やるというなら、アナスタシアの祖父でも許しませんよ」

 

「なっ!?」

 

しかし、その一撃は突如乱入した男によって防がれる事となった。男の発言に驚いたアザゼルだったが、男がアザゼルの拳を防ぐのに使った剣に対し悪寒を感じ、咄嗟に飛び退く。その隙に男はアナスタシアを抱え、その場から飛び退いた。

 

 

「……そりゃ、聖剣か? ……それと、恋人たぁどういう事だ?」

 

「この剣ですか? この剣の名は聖王剣コールブラントです。そして、もう一本の剣は最強のエクスカリバー、支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)です。それと、名乗るのが遅れていましたね。初めまして、アーサー・ペンドラゴンと申します。お孫さんとは一年前に任務で戦い合った事がきっかけで交際をさせていただいています」

 

「……アザゼルが凄い目で睨んでいるな。アーサー、そろそろ時間かい?」

 

「ええ、そうですよ、曹操。さぁ、アナスタシアも行きましょう。グレンさんも死にましたし、作戦は失敗です。早く手当をしなければ美人が台無しです」

 

「……馬鹿。じゃあ、お祖父ちゃん。ここでサヨナラね。……今まで有難う。本当にゴメンね。コカビエルお祖父ちゃんやグリシア達にもそう伝えておいて。アーシアやヴァーリにもね……」

 

「待てっ! アナスタ……」

 

アザゼルの制止も虚しくアナスタシア達は消えていった。最後に涙混じりの声を残し、泣き顔をアザゼルの目に焼き付けて……。

 

「……アザゼル、すまない。俺が最初から本気で戦っていればアナは止められたのに……」

 

「……気にするな。俺もコカビエルも惚れた女と本気で戦うような腐った性根にお前を育てた覚えはねえからよ。……ま、アナも本気を出さなかったけどな。最後まで俺達を殺そうともしなかったし、禁手や彼奴自身の神器を使わなかったからな。……会談に戻るぞ」

 

 

その後話し合いは続き、無事協定は結ばれ舞台となった学校の名をとり、『駒王協定』と名付けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これからどうしましょう? 厄介事の種が増えそうですよ」

 

「だったら、アイツ等皆殺しにしましょうか? 私なら直ぐ出来ますよ」

 

「……辞めて下さい」

 

 

これから起きるであろう問題事に頭を痛めながらも柳は無事に家へと戻り、扉を開けた所で異変に気づく。怪しい煙が家中に立ち込め、異臭がする。敵襲かと判断した柳は咄嗟に口を塞ぎ、その場から飛び退いた。

 

「これは毒でしょうか? 柳さん、体は大丈夫ですか?」

 

「まさか、ゼノンが居るにも関わらず家に襲撃があるとは……。それにしてもゼノンはどうしたのじゃ? 奴が負けるとは思えんが……」

 

従者二人も警戒をあらわにする中、煙でよく見えないが、家の奥から人影が近づいてくる。それに伴い、異臭も強くなった事から、襲撃犯が毒物を持って近づいてきたと判断した三人は身構え、人影の動きに注意する。やがて、煙の奥から現れた人物の姿がハッキリと三人の目に写った……。

 

「やっと、帰ってきたか。学園の方で何か揉め事があった様だな。真逆とは思うが、怪我はないか?」

 

家の奥から現れたのは留守番をしていたゼノンだった。そして、異臭と煙は、彼女が手に持った鍋から湧き出ていた。

 

「怪我はありませんよ。……それはなんでしょうか? 新しいアイテムですか? 主に敵に使う系の……」

 

「何を言っている。我が貴様の為に真心込めて作った料理だ。冷めぬ内に食すが良い。……それとも、我の手料理など食べたくないのか? 貴様の為に折角作ったのだが……」

 

柳の反応を見たゼノンの表情は沈み、瞳には涙が滲んでいた……。それを見た柳は慌てて鍋を持っているゼノンの手に自分の手を重ね、異臭に耐え、笑顔を作った。

 

「食べますよ。せっかくゼノンさんが私の為に作ってくださったのですから。さぁ、涙を拭いてください」

 

「……有難う。柳、我は貴様が好きだ」

 

「ええ、私もゼノンさんが好きですよ」

 

二人は寄り添いながら台所へと向かって行き、羽衣とミラだけがその場に残された。

 

「……なんか不愉快です。あ、でも、死にかけたら急いで悪魔にして、この世界から居なくなりましょう。そうしたら四人きりでの生活が始まりますね♪」

 

「……我らだけの生活。本当にそれが柳の為なのかのぅ? ……ん? オーフィス、何をしておる?」

 

「……我、死にそう。助けて……」

 

羽衣の目の前にオーフィスが這いずりながら現れ、か弱い声で助けを呼んだ時、台所の方から人の倒れる様な音が聞こえてきた。

 

「どうしたのだ、柳? むぅ、食事中に寝るとは行儀の悪い奴だ。仕方ない、残りはミラか羽衣にでも……」

 

「妾は柳を寝室に連れて行くっ! ミラはゼノンの手料理を満喫するが良いっ! では、サラバっ! ……生きていればまた会おうぞ」

 

「えっ? ちょっ!? 羽衣さ……」

 

羽衣は柳を担ぎ上げるとミラが止める間もなく寝室へと入っていった。呆然とするミラに対し死神が耳元で囁く。

 

「ミラ、何をやっている? 冷めぬ内に食うが良い」

 

「……はい。頂きます」 

 

事実上の死刑判決を受けたミラは震えながらゼノンの料理を口に運んだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う、う~ん、ここは? 確か私はゼノンさんの料理を食べて……」

 

「目を覚ましたかっ! ……良かった。本当に良かった……」

 

「羽衣さん……」

 

自分の胸に縋り付いて泣き出した羽衣を抱き寄せた柳は、ふと、今の状況を確認した。今いる場所は自分の部屋のベットの上。そして、気絶した自分を起こす為に効率良く気を送り込む為か、二人共服を着ていない。そして、自分の手は羽衣の腰と肩を抱き抱えていた。何時もの柳だったら慌てて離れただろう。その上で押し倒され、密着された上でキスの一つでもされたかもしれない。

 

だが、今日の彼は違った。そうしているだけで鼓動が高まり、羽衣の甘い香りが鼻に漂って来る。何時の間にか柳は羽衣を強く抱きしめていた。

 

「……柳? ふふ、そうか。ようやく貴様もヤル気になったか。この前の温泉では胸や口で我慢してやったからのぅ。だが、お主が妾を抱くのではない、妾がお主を抱くのじゃ」

 

羽衣がそう言った途端、彼女のお尻の辺りから10本の尻尾が現れ、ユラユラと揺れている。まるで今の上機嫌さを表すかの様に。この時、羽衣は気づいていた。あの料理とは到底言えない物体に大量の媚薬が使われている事に。

 

(どうせ奴が楽しむつもりだったのじゃろうが、そうはいかんぞ、ゼノン。今晩は妾がじっくりと楽しませて貰う)

 

「……男らしいですね。ですが、私にも意地というものが……」

 

柳はそう言いながら羽衣の胸と尻尾へと手を持っていこうとしたが手首を掴まれ、ベットへと押し付けられた。

 

「お主は何もせんで良い。意地? 妾が誘ってもなかなか応えんかったのじゃ、今日は我慢せい。何、安心せい。最高の夜を約束しよう。これまで拒否してきたのを後悔するほどのな……」

 

「……はい」

 

「良い返事じゃ。愛しておるぞ、柳。では、行くぞ」

 

羽衣の妖艶な笑に柳が飲まれる中、羽衣はゆっくりと体を密着させる。それから暫くの間、二人の舌を絡める水音と、ギシギシというベットの軋む音が部屋に響いた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫ですか?」

 

「……お主は何もせんで良いと言ったじゃろう。妾の弱点を直ぐに見抜きおって……」

 

数時間後、部屋の中にはまだ余裕があるといった様子の柳と、荒い息を吐き、腰が抜けて立てそうにない羽衣の姿があった。柳はそんな彼女に近づくと、そっと口づけをし、耳元で囁く。

 

「羽衣さん、私も愛していますよ」

 

その言葉を聞き耳まで真っ赤にした羽衣はようやく落ち着いた頃には夜が明けており、二人には朝会うなり

 

「……昨日はお楽しみでしたね」

 

「して、具合はどうなのだ?」

 

昨日の情事を冷やかされ、再び耳まで真っ赤になってしまった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんで貴方がいらっしゃるんですか? アザゼル総督」

 

数日後、オカルト研究部に呼び出された柳は無視して帰ろうとした所をアザゼルに捕まり、部室まで連れていかれた。不機嫌そうな柳に対し、アザゼルは笑って答える。

 

「いや。総督を辞めさせられる事になっちまってな。んで、グレモリー眷属の教官として派遣されたんだ」

 

「……アナスタシアさんの事が原因で? ……聞くべきではなかったですね。すみませんでした」

 

「……構わねえよ。なぁ、俺達グリゴリの幹部がなんで堕天使になったか聞きたいか? ……興味ねぇって顔だな。良いから聞けよ。……人間に恋しちまったんだ。それで愛し合って、堕天使になって、俺とコカビエルには餓鬼ができた。あいつはその餓鬼共の間に生まれた孫だ。俺のたった一人残った身内だったんだがな……。着いたぜ」

 

アザゼルの話を聞き、二人の間に重い空気が流れる中、二人は部室の前に到着した。その途端、アザゼルは表情を切り替え、急にニヤニヤし出す。

 

「新入部員が二人居るんだ。誰か知ったら驚くぜ」

 

「いや、私が仙術使えるの知っているでしょう? アーシアさんとヴァーリでしょう? まぁ、派遣するには十分な人材ですね」

 

「……つまらねえ奴だな。なぁ、聞きたかったんだが、なんでお前がアーシアを気にかけるんだ? お前にとって大切なのはあの三人だろ? やっぱり、妹に似ているからか?」

 

アザゼルの言葉に柳はしばし考え込み、ポツリと話し始めた。まだ自分でも良く分からないといった様子で……。

 

「……私が家族を失った日、私の中で何かが壊れました。何を見ても誰を見ても価値を感じられなくなったんです。あの三人以外は……。ですが、ヴァーリやライザーと出会い、やがて彼らに少しずつ価値を感じる様になりました。私には価値を感じれる相手は輝いて見えるんですよ。そして、彼女は最初から輝いて見えました。最初は妹に似ているからと思っていましたが、会話を交わすたびに違う様に思えてきまして……」

 

柳はそこで言葉を切り、アザゼルはただ黙ってその言葉を聞いていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「柳さん……」

 

ちなみに、その発言は扉の内側にもばっちり届いており、当然、当の本人の耳にしっかりと聞こえていた。




アナスタシアとヴァーリの戦いは互いに本気を出さずに終了 本気で戦ったらヴァーリが勝ちますが、この作品の彼は好きな相手に本気が出せず終わりました

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