食事も食べ終わり、各自が各々好きな事をする中、ミラはパソコンに向かってメールのチェックをし、柳は武器の手入れをしていた
「柳さん。又、ハグレ悪魔討伐依頼です。今度はバイサーっていう悪魔ですよ。根城は町外れの廃屋だそうです」
「そうですか。それで、特徴は?」
「はい。……獣の胴体に人間の上半身。両手に槍だそうです。お疲れでしょう?今日は私が行きますか?」
柳を気遣い、そう言って寄ってくるミラの頭に手を乗せ、柳は苦笑して答えた
「いえいえ、大丈夫ですよ。それに、ミラが戦ったら町が吹き飛び兼ねませんからね。それにしても、ミラはよく働きますね。……家事もロクにしてくださらない二人と違って」
柳はそう言って羽衣とゼノンをジト目で見るが、二人は気にした様子もなく、我関せずといった感じだ
「手加減しますから、大丈夫ですよ。それに、柳さん以外の人間が絶滅しようが別に構わないじゃないですか。……あの二人に家事を任せる方が大変ですよ。ゼノンさんなんて、私達が料理しなかったら生肉齧ってますよ、きっと」
柳に撫でられて嬉しそうにしている少女が、無邪気な笑顔で恐ろしい事を言い、実際にそれだけの力が有る事を知っているヴァーリは冷や汗を掻いていた。いくら戦闘狂の自分でも、目の前の少女とだけは戦いたくない。そう感じながら……
「そうだ!俺も一緒に行って良いかい?君の仕事を見物したいんだ」
「え~、ヴァーリさんが行くんですか?っというか、何で貴方、未だ居るんですか?」
その時のミラの態度は柳に向けられる物とは違い、路傍の石を見るような目をしていた。さらに、不満そうにしている彼女から殺気が漏れ出している事に気づいた柳は、慌てて宥めにかかる
「まあまあ、良いじゃないですか。堕天使はお得意様ですからね。では、今から行きましょう」
柳はそう言うと仕事着のフード付きのローブをヴァーリにも渡し、武器を手に取った……
「その判断は正しかったわね。友達の記憶を弄りたくないでしょ?それに、シスターと関わらなかったのは正解ね。もし、教会までついて行ったら危険だったわ。覚えておきなさい。教会は神側の領域。近づけば光の槍が飛んでくるわよ」
「は、はい」
昼間の事をリアスに報告した一誠はリアスから教会関係者と関わることの危険さを教えられていた。話がひと段落した頃、それを見計らったかの様に朱乃が話しかけてきた
「あらあら、お話は済みましたか?……討伐の依頼が大公より届いています」
リアスの領地に侵入してきたハグレ悪魔は人を縄張りに誘い込み、食べているらしい。その悪魔の名はバイサー。町外れの廃屋を根城にしている此奴を倒す為、オカルト研究部のメンバーは廃屋を目指した……
時間は深夜、廃屋にたどり着いた一誠が中を歩いていると、リアスが、ふと尋ねてきた
「そういえば、イッセー。シスターを送ったっていう友達てどんな子なの?」
「え~と、神田 柳って奴です。俺が小1の時に転校してきた奴で、勉強やスポーツができて、親切な奴っすよ。……あと、イケメンです。訳あって親戚の家に厄介になっているらしくって、俺は彼奴の家に遊びに行ったことはありませんが、アイツは何度か俺の家に来た事があります」
「……柳。……いえ、まさか」
一誠の口から漏れ出た柳という名に反応した朱乃は少し考え込んだ。まるで、何かを思い出すかのように
「……血の匂い。それと、誰か二人いる」
白い髪の小柄な少女、小猫が制服の袖で鼻を覆う
「不味いわね。既に誰かが誘われて入ったか……最近好き勝手やっている誰かさんか。どっちにしろ急ぐわよ!」
リアスの掛け声と共に走り出した一誠達は開けた場所にたどり着いた。そこで彼等の目に飛び込んで来たのはローブを着た人物に切り刻まれ、息絶えるバイサーらしき悪魔の姿だった。その近くでは、もう一人のローブの人物が腕組をして様子を見ていた
「おや、来てしまいましたか」
リアス達に気づいたローブの人物……柳はローブに仕込まれた魔方陣によって変換された声でそう言うと、剣を振るい、付いた血を払う。もう一人のローブ……ヴァーリは一誠の方を興味深そうに見ていた
「さて、説明をして貰えるかしら?あなたは誰?何が目的で私の領地で好き勝手してくれているのかしら?」
リアスはそう問いながら魔力を練り、他のメンバーも戦闘の構えを取る。その様子を見て柳は肩をすくめ、首を振った
「やれやれ、まるで脅しですね。まず、二つ目の答えですが、ハグレ悪魔には賞金が掛けられていますので、それを目的で狩りました。一つ目の質問の答えですが、私は何でも屋を生業とする者で、本名は申せませんが、
そう言うと柳は恭しく頭を下げる。柳の丁寧な態度に一誠は面食らったが、他のメンバーは警戒を高めた
「そう、貴方が……」
「部長。
一誠の疑問に答えたのは金髪の少年……木場 佑斗だった。彼は柳を見据え、油断なく剣を構えながらも口を開く
「
「従者?」
「ああ、従者さ。彼同様、性別以外は分かっていないんだけど、どうやら女性らしい」
「じょ、女性!?って事は……ハーレム野郎か!?女の従者を侍らせやがって!」
血の涙を流しながら自分を睨みつける一誠に対し、柳は困ったように頬を掻いた
「いや、確かに私の従者は三人共女性ですが……」
その言葉を聞いた一誠はついにブチ切れ、リアスに向かって叫んだ
「部長!彼奴って敵でいいんスよね!?とりあえず捕らえますよね!?」
「え、ええ。……って、ちょっと待ちなさい、イッセー!」
リアスの静止も聞かず、一誠は神器を発動させる
「うおぉぉぉぉぉっ!
一誠の腕に赤い籠手が出現し、
『Boost!!』
っと籠手から音声が発せられた途端、一誠のスピードが上がる。これが、この籠手の能力である、使用者能力の倍加だ
「……まだ目覚めていないか。だが、ここは俺が」
そう言って前に出ようとしたヴァーリだったが、柳はスっと腕を出し、それを制する
「いえ、私が売られた喧嘩ですから。それに……」
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!喰らいやがれ、ハーレム野郎ぉぉぉぉぉっ!!」
一誠が真っ直ぐ突き出してきた拳を最小限の動きで避けた柳は、その腕を掴むと
「それ!」
一誠の動きを利用し、合気道の要領で投げ飛ばす
「へぶっ!」
そのまま床に激突した一誠は情けない言葉を上げて気絶してしまった
「さて、もう帰っても良いですか?そもそも、貴女はバイサーを討伐し評価を得る。私は報酬を得る。言わば、私たちは商売敵。先を越される方が悪いのですよ。……それとも、これ以上やりますか?」
柳はそう言って剣先を一誠に向ける。剣から発せられる邪悪なオーラはリアス達を怯ませるのに十分だった
「これには龍殺しの力が宿っています。彼の神器はドラゴン系。……分かりますね?」
龍殺しの武器はドラゴン系の神器の持ち主にも効果的だ。それを聞いたリアスは歯噛みしながらも柳の提案を飲むしかなかった
「っく!行って良いわ。……覚えておきなさい。私の下僕を痛めつけた礼は、何時かさせてもらうわ!」
「いや、襲いかかってきたのは彼でしょう。ちゃんと躾ておかないと死にますよ?」
柳はそう困ったように言うと、ヴァーリと共に廃屋を後にする
なお、一誠は勝手な行動をしたとして、リアスから尻叩き1000回の刑に処せられた……
その数日後、悪魔の仕事の一つである、人間との契約の為にあるアパートを訪れた一誠の目に飛び込んで来たのは逆十字の格好で貼り付けにされた惨殺死体だった
壁には血文字で何か書かれてる。その光景に呆然とする一誠の背後から声が掛けられた
「『悪い事する人はお仕置きよー』って聖なるお方の言葉を借りたのさ!んーんー。これは、これは悪魔くんではないですかー」
一誠の後ろに居たのは白髪の少年で、神父服を身に纏っていた。この時、一誠の脳裏に浮かんだのは『悪魔祓い』。悪魔の仇敵である
「俺っちの名前はフリード・セルゼン。あ、君は名乗んないでね。耳が腐るから。じゃ、早速だけど死んでくれや!」
フリードはヘラヘラ笑いながら光の剣を振るう。何とか避けた一誠だったが、右足に激痛が走る。見ると、フリードの持つ拳銃から煙が上がっていた。銃声がしなかった事に困惑している一誠の左足が再び撃ち抜かれ、一誠はあまりの痛みにのたうちまわった
「どうだ!光の弾を放つ祓魔弾は!銃声なんざ、しゃしません!じゃ、そろそろ死んでくれない?」
フリードが切れた笑いを浮かべながらトドメを刺そうとした時、突如声が響いた
「やめてください!……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
突如、入ってきたのは先日一誠と柳が出会った少女、アーシア・アルジェントだった。彼女は死体に気づき、悲鳴を上げる
「あらら~、どうしたの、アーシアちゃん。あ、此奴?大丈夫だって。こいつは悪魔と契約を結ぶ常習犯だからお仕置きしてやっただけだよ」
「そ、そんな!」
フリードの言葉にショックを受けたアーシアは一誠に気づき、目を見開いて驚いた
「あ、貴女は柳さんのお友達の……」
「何何~?アーシアちゃん。この悪魔とお知り合い?」
「悪魔!?柳さんのお友達が!?」
アーシアの言葉にフリードは思い出した様に手を叩く
「あ~、言ってたね。教会まで案内してくれた親切な奴の事を。何?コイツって、その柳って奴の友達なの?まぁ、今からこいつ殺すし、関係ないか」
そう言って一誠に剣を振り下ろそうとしたフリードだったが、アーシアがしがみついて来た為に動きを止める
「……アーシアちゃん。何の真似?」
「やめてください!もう、嫌です!悪魔に魅入られたからって人を殺したり、悪魔を殺したりするのは!それに、その人は私に親切にしてくれた方のお友達です。悪い人の訳が……キャッ!」
悪い人の訳が無い。そう言おうとしたアーシアだったが、バキッ!っという音と共に倒れこむ。見るとフリードの腕が振り払われており、アーシアの顔には痣が出来ていた
「あ~、も~。うっぜ~!!上司から殺しちゃダメだって言われているから殺さないけど……レ○プ紛いの事でもしなけりゃ収まらねえよ。ま、先にこいつを殺すけどな」
フリードはそう言って拳銃を一誠に向ける
「にしても、柳って奴も不幸だよな。悪魔なんざ友達にしちまって。まぁ、今から居なくなるから幸せなんじゃねえの?」
そう言って引き金に手をかけ、引こうとし、
「それを決めるのは君ではなく、私ですよ」
「がっ!?」
後ろから忍び寄った柳によって後頭部を強打され、気を失った
「やれやれ、狂人は困りますね。イッセー、アーシアさん、大丈夫ですか?」
「柳?なんで此処に?」
「明日の朝食のパンを買い忘れていまして、コンビニに行った帰りにアパートに入っていく君の姿が見えたので、不審に思って様子を見ていたら、後からアーシアさんが入っていき、彼女の悲鳴が聞こえたので君に何かされたのではないかと思いまして」
「ひでぇなぁ。俺ってそんなに信用ない?」
友人の言葉に、一誠は苦笑した。柳は次にアーシアに近寄って行く
「柳さん……?」
「ええ、お久しぶりですね。アーシアさん。……さて、事情を聞かせて頂けますか?」
柳がそう言って死体に視線を向け、どう答えれば良いか二人が迷っている時、突如魔方陣が現れ、リアス達が現れた
「兵藤くん、助けに……どういう状況だい?」
最初に現れた木場は状況が飲み込めず、疑問を漏らした……
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