ラスボスハイスクール 完結   作:ケツアゴ

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羽衣さん、貴女もか……

グレン・ムールムールはアスモデウス家に三代に渡って仕える老将である。齢9000歳を超えるその肉体は衰えてはいたが、培われた戦闘経験からなる戦闘能力は、主であるクルゼレイが全面的な信頼を寄せる程である。彼の生涯はアスモデスス家と共に有り、家族を全て失った彼にとって、アスモデウス家が自分の全てだった……。

 

 

「えーい☆」

 

「くっ!」

 

彼の目の前に居るのは憎き反逆者の一人、セラフォルー。四大魔王の一つ、レヴィアタンの名を名乗りし、簒奪者である。そんな彼女にグレンは追いつめられていた。体中から血を流し、斧を握る手にも力が入らない。

 

「……はぁ、はぁ。流石に魔王を名乗るだけはあるのぅ。小娘」

 

「も~、私は小娘じゃないよ。ねぇ、もう勝負はついたでしょ? お爺ちゃんじゃ私には勝てないよ?」

 

息を切らしたグレンに掛かられた言葉は挑発ではなく、本心からのものだった。無傷のセラフォルーに対し、グレンは全身ボロボロで息も切れだしている。誰が見ても勝敗は明らかだった。しかし、だからと言って諦める彼ではない。命など主の為に既に捨てているのだから……。

 

「ふんっ! じゃから貴様らは甘いと言うんじゃ。敵の命を勝ち取るまで勝敗は決まらん。その程度も分からんとは……。やはり、貴様らの一族を皆殺しにし、若達に王座に就いて貰わねばっ!」

 

「……そう。幾ら私でも、家族を殺すって言われて落ち着いては居られないよ。本気で行くよっ!!」

 

セラフォルーがそう叫んだ途端、彼女の魔力が膨れ上がり。グレンが最初に割った物よりも遥かに大きい氷の龍が出現する。セラフォルーが腕を振った瞬間、龍は大口を開け、グレンへと襲いかかった。

 

「ぐっ! 此処までとはっ!」

 

グレンは戦斧を振り回し、龍を砕こうとするが、斧は半ばまで減り込んだ所で止まり、どんなに力を入れても抜けない。グレンは逃げる暇もなく氷の龍に飲まれ、脱出した時には全身に凍傷が出来ていた。慌てて近づいてきたクルゼレイもサーゼクスの消滅の魔力にやられたのか片腕がない。もはや、二人の敗北は明らかだろう。

 

「グレン! 余り無茶をするな。貴様にはやって貰わねばならん事が沢山有るっ!」

 

「若……っ! 若っ! 今までお仕えできて、グレンは嬉しゅうございましたっ! できれば王座に就いた後も、若を見守りとう御座いましたが……永遠の暇を頂戴いたしますっ!」

 

その途端、グレンの左胸に魔方陣が浮き上がり、輝き出す。心臓の上に現れた魔方陣から体中に光の線が走り、グレンの魔力が大きく跳ね上がった。

 

「! よせ、グレンっ! 貴様、死ぬ気かっ!? くっ!? 何をする気……」

 

クルゼレイはその様子を見て慌てて手を伸ばすが、突如、彼の足元に転移魔方陣が出現する。本来なら学園に張られた結界により、転移は封じられているのだが、グレンは己の生命力を魔力に変換し、無理やり転移を行った。グレンは消え行く主の姿を見て満足げに微笑むと、懐から小さな蛇の入った小瓶を取り出し、一気に飲み干した。

 

「……くだらんの。このような物、武人が使うべきではないわい。だが、貴様らを殺す為なら儂の誇りなんぞ安いもんじゃっ!!」

 

蛇を飲んだ事により、グレンの魔力が更に跳ね上がる。生命力を削り、魔力へと変換する魔方陣により、彼の魔力は先代魔王を大きく超えていた。だが……。

 

「……グレン殿、貴方は正気ですか? 貴方の歳でそんな無茶をすれば、もう一時間も生きられませんよ」

 

サーゼクスの言葉の通り、グレンの体に描かれた光の線は先端から徐々に消えていっている。これが左胸の魔方陣まで届いた時、グレンの命は尽きてしまう。しかし、グレンは命を削られる反動からくる苦痛が全身を襲っているにも関わらず、その言葉を笑い飛ばした。

 

「ガハハハハハハッ! それがどうした、小僧? 主の為に死ぬならこの命等、惜しくはないわい!」

 

「! しまっ」

 

グレンはそう言ってサーゼクスに腕を向け、何かを唱えると、サーゼクスの周囲を球状の幕が覆った。サーゼクスは膜を破壊しようとするも、放った魔力は膜に触れた途端、あっけなく霧散してしまった。

 

「貴様の相手は後じゃ。先に小娘の方を殺させて貰うぞ」

 

「ふ~んだっ! 私だって負けないよっ!」

 

セラフォルーはそう言って先程放った氷の龍を再び放つ。グレンに向かって放たれた龍は真直ぐに向かっていき、グレンはそれを避けず、龍はグレンに直撃する。体中からおびただしい血が溢れる中、グレンはニヤリっと笑う。その体には別の魔方陣が現れていた。

 

「それは……自爆用魔方陣!?」

 

「そうじゃ。それも、使用者がダメージを受ければ受けるほど威力が上がる特別性。削られた生命力と先ほどのダメージで既に学園を吹き飛ばすだけの威力にはなった。後は儂が死ぬのを待つだけじゃ。礼を言うぞ、小娘。……まぁ、アザゼルや指揮者共は転移して逃がしてやるがの。約束は約束じゃ」

 

 

「……最初から其のつもりだったの?」

 

「……いや、使わないで済むなら使いたくなかったさ。まだ若にはお教えしたい事が沢山有ったからの」

 

グレンはそう言ってセラフォルーに飛びかかる。セラフォルーはすぐに迎撃しようとしたが

 

「良いのか? 儂に攻撃したら被害が増えるぞ」

 

グレンの一言により、一瞬固まる。その瞬間、グレンの戦斧がセラフォルーの目前に迫っていた……。

 

 

 

 

 

 

「お姉さまっ! ……良かった」

 

「ソーナ……ちゃん……?」

 

セラフォルーが目を覚ますと、顔を覗き込んでいたソーナが抱きついてきた。何時もの冷静な姿は何処かに行き、安堵から涙を流している。セラフォルーは黙ってソーナを優しく抱き寄せた……。

 

「! ソーナちゃん。グレンさんはっ!?」

 

「神田さんの従者の方が相手をしています。それより今は動かないでください。アルジェントさんが治してくださったとはいえ、まだ動ける体ではありません」

 

ソーナが指差した先では羽衣に手足をもがれ、瀕死の重傷になったグレンの姿があった。

 

 

 

 

「……つまらぬな。命を代償にしてこの程度か。……もう、飽きた」

 

羽衣はつまらなそうにグレンを投げ捨てる。グレンは手足をもがれた上で床に叩きつけられ、身動きが取れないにも関わらず笑みを浮かべる。自分が死んでもクルゼレイが生き残っていればどうにかなる。その信頼から……

 

 

「幾ら貴様が強くても、命を捨てた最後の攻撃に耐えられるものかっ! くたばれ、化物っ!」

 

そう叫んだ所でグレンの命が尽き、自爆用の魔方陣が一気に輝く。羽衣の力を受けた魔方陣の力は凄まじいものとなり、街全体を吹き飛ばすのに十分なものだった。そして、輝きが頂点に達したその時

 

 

 

「……くだらんの」

 

グレンの体は羽衣の手から発せられた黒い霧に包まれていた。それを見て小猫は呟く。恐怖で顔を引きつらせながら。

 

「……邪気。それも、桁違いに濃厚な……」

 

その途端、ポンっといった軽い音が響き、黒い霧が晴れた時、何も残っていなかった。こうして、グレン・ムールムールの生涯は幕を閉じた。圧倒的な力を持つ化物の前に何も出来ずに……




意見 感想 誤字指摘お待ちしています


おまけ




ヤファエが従者のオマケ ダークな内容しか思いつかなかったので流れだけ

一緒に来たのはアシュタロス レザート

目的はアシュタロスの宇宙処理装置で家族を失った日を改変する事。しかしエネルギー源となる結晶は無く、仕方ないので原因となった悪魔と堕天使の魂で代用。しかし、無理やり奪ったのでは効率が悪い。そこでヤファエを使い、天使勢を操作。再び三すくみの戦争を起こさせる。レザートは兵鬼の製造など、アシュタロスの助手ポジション。それでも、どこかの勢力が全滅するくらいの魂が必要 禍の団ルート

「別に良いでしょう? 私があの日からやり直せば、貴方達の死は無かった事になるのですから」

こちらの柳は完全に精神が崩壊している…… 絶対に書ける気がしない

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