ラスボスハイスクール 完結   作:ケツアゴ

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そろそろ我慢の限界です

柳の家の台所では、普段ならありえない光景が繰り広げられていた。

 

「フンフ~フンフフ~♪」

 

普段なら家事など絶対にしないニート根性丸出しのゼノンが料理を作っているのだ。しかも、鼻歌まで歌う程の上機嫌だ。それだけなら微笑ましい光景だろう。容姿端麗なだけに見惚れてしまうかもしれない。鍋から怪しい煙が立ち込め、中身が紫色でなければの話だが……。

 

「さて、仕上げにイモリの黒焼きにスッポンエキス、我の生き血に全知全能の書の切れ端。後はプリニーの皮の干物に羽衣特製の媚薬を入れて完成だな。……覚悟しろ、柳。今夜は寝かせんぞ」

 

どうやら出かける前に言った、今夜は我の部屋云々に対する柳のスルーを本気にし、その為の準備をしている様だ。ゼノンは完成とばかりに小皿に取り、口に運んだ。

 

「……ソーマを入れておけば大丈夫だな」

 

貴重な霊薬を料理の毒消しに使うという、その価値を知る者が卒倒するような暴挙を平然と行ったゼノンは、今度は別の皿に注いだそれを食卓に座る少女の前に差し出した。

 

「ほれ、オーフィス。我の手料理だ。残さず食べよ」

 

「……分かった」

 

その時、オーフィスの瞳の奥に微かな感情が現れる。その感情の名は恐怖。無限の龍神は目の前の謎の物体に対し、確かに恐怖を感じていた……。

 

 

 

 

 

 

神滅具(ロンギヌス)、それは使い手次第では神をも殺せる程の力を持つ神器の総称である。今のところ判明しているのは13種。その中でも最強とされ、神滅具(ロンギヌス)の名の元になった神器がある。その神器の名は……。

 

 

「……黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)。まさかテロ組織の手に渡っていたなんて……」

 

「渡っていたとは失礼だな。神器は貴方達の神が創り出したシステムによって人間に与えられる物じゃないか。……望む望まないに関わらずね」

 

青年の持つ槍を見て発せられたミカエルの言葉に少年は不快げに眉を寄せ、思い出した様に丁寧に腰を折り曲げる、一見、隙を見せた様に見えるが、そこには一寸の隙もなかった。頭を上げた青年はミカエル達に向かい、恭しく口を開く。最大限の敬意を感じさせながら……。

 

「さて、三勢力の皆様、お初にお目にかかります。私は今代の黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の所有者にて、禍の団(カオス・ブリケード)という組織の派閥の一つである、英雄派を率いています、曹操という者です。以後、お見知りおきを」

 

「曹操! 何を呑気に挨拶しておる。敵前じゃぞっ!」

 

「よせ、グレン。曹操は我々の部下ではない。それに、曹操には曹操の用事があると彼奴が言っていただろう」

 

グレンは曹操の態度が気に入らないのか怒鳴り散らすが、クルゼレイはそれを諌め、曹操はそれに対して頭を軽く下げると再び口を開いた。

 

「さて、クルゼレイが言った様に、我々はそれぞれの派閥に分かれています。彼ら旧魔王派と呼ばれる方々の目的は魔王の座の奪還。我々英雄派の目的は貴方型が人間界に干渉できなくする事です」

 

「なぜ、その様な事を望んでいるんだい? 理由くらい話して貰えるかな?」

 

曹操の言葉に周りが騒然となる中、サーゼクスが代表して曹操に問いかける。その途端、曹操の表情が怒りに歪み、先程までの丁寧な態度は何処かに消え去った。

 

「……理由を聞かせてくれ? まさか、思い当たらないというのかい? ……良いだろう。説明してあげるよ。まず、悪魔達だが、俺達が問題視しているのは転生悪魔だ。自分の意志でなった奴は良いだろう。ちゃんと説明を受けた上でならね。……だがっ! 何も知らない家族は自分達の身内が激しい争いのある世界に入ったと知ったら、どう思う!? そこの彼等は学生だろう? まさか、両親も自分達の子供が悪魔になる事を了承したというのかい? 違うだろう? そして、最大の問題は無理やり悪魔にされたり、騙された上で悪魔になった者達だ。彼らはマトモな扱いを受けているかい? 当然、駒を渡す貴族は問題がないか調査しているんだろう?」

 

曹操は言葉では問いかけているが、そんな事はしていない、とサーゼクスが答えるのを確信している様だった。それを読み取ったのか、口を開いたサーゼクスの言葉は重々しいものだった。

 

「……確かに、反論はできないね。メリットだけ聞かされた者や、強力な神器を持っているからと無理やり悪魔にされた者が居る事は認識しているよ。私もできれば駒の持ち主は選別したいが、そんな事をしていたら冥界の政治は成り立たないんだ」

 

「……馬鹿馬鹿しい言い訳ですね。そんなの拉致と変わりませんよ。彼の味方をする訳ではありませんが、人間として言わせていただきます。自分のケツは自分で拭けっ! わざわざ違う世界の住人に迷惑かけるな! 統率者がそんな事だからハグレ悪魔が減らず、人間の犠牲者が増えるんだ!」

 

「……やっぱり君は良いね。調査書の通りだ。さて、続きだが、そのハグレ悪魔にも悪魔の犠牲者が居るんだよ。君達はハグレ悪魔が出た時、ちゃんと調査しているのかい? していないよね。貴族を殺したんだから、そいつも殺さないと反発が出る。だから、理由があっても討伐対象になるんだ。ちゃんと調査もされずね。俺達はそんな者達の保護も行っている。彼らの話を聞いくたびに反吐が出そうになるよ。さて、ミカエルとアザゼルはもう分かっているね?」

 

「……先程おっしゃった事から考えて、神器を持って生まれた事による迫害ですね?」

 

「……俺の所は危険だからと、所有者を殺している事だろうな。いくら暴走を防ぐ為とは言え、そいつらにも家族が居るからな……」

 

突如割って入った柳の言葉に嬉しそうな顔をした後、曹操はサーゼクスに対し、悪魔への嫌悪をぶちまけた。それに対し、サーゼクスとセラフォルーは居た堪れなさそうな顔をする。分かっててはいても気付かないふりをしていた事を指摘され、言い返せないのだ。続いて話題を振られたミカエルとアザゼルは気まずそうに口を開いた。

 

「そうだ。異能の力を持って生まれた事により周囲から迫害された者達が俺の仲間には沢山居る。だから、俺の目的の一つは今後一切、神器が人に宿らない様にする事だ。まぁ、他の神話体系から敵視されている天界からすれば無理だろうけどね。神器は強力な武器になる。聖剣だけじゃ他所の神には勝てないからな。それと、堕天使だが、貴方達にはそれほど敵意はないさ。危険だからと殺すのでは無く、封印出来る様に頑張って欲しいけどね。神器持ちの保護もしているし、今後に期待って所かな?」

 

「……話は終わったか? 貴様は宣戦布告をしに来たんだろう? もう終わったなら我の要件を果たさせてもらいたいのだが」

 

「ああ、すまないね。次で最後だ。今日は顔見せに来たんだが、もう一つ目的があるんだ。俺達は君達を歓迎する。だから、仲間になって欲しい。ヴァーリと指揮者(コンダクター)。……いや、こう呼ぶべきだろうね。ヴァーリ・ルシファーと神田 柳」

 

『なっ!?』

 

曹操の言葉にサーゼクス達は驚愕の声を上げる。サーゼクスとセラフォルーは、先代魔王の血縁者である事を示す、ルシファーの名に。そして、リアス達はその事と柳の名が出た事に。そして、アザゼルとミカエルは……。

 

 

 

 

 

「……あの馬鹿、バラしやがった! ……やっぱ、お前の所か、俺の所の裏切り者がアイツに関する資料を盗んだんだろうな……」

 

「……怒ってますね。フードの下で確実に怒っていますよ。我々に怒りが向かなければ良いのですが……」

 

柳の正体を知るアザゼルとミカエル、そしてヴァーリは柳の姿を見て青ざめていた。柳は怒りを隠し、曹操に向かって口を開く。後ろの従者達も構え、何時でも曹操を殺せる様にしていた。勿論、肯定と取られぬ様に、巧妙に隠しながら……。

 

「……誰ですか、それ? 私はそんな名前じゃないですよ」

 

「隠したって無駄さ。ヴァーリが頻繁に人間界に行く事を不審に思った内通者が調べた結果、君の名が出たのさ。君は悪魔に恨みがあるだろう?」

 

曹操の言葉にもはや誤魔化しきれないと判断した柳は嘆息を吐き、フードを取ると、不機嫌そうな顔をしてアザゼルを睨み、青ざめるアザゼルに向かって告げた。

 

「……仕方ないですね。もう、此処までですか……。……アザゼル総督。此奴を始末してください。そうしたら今回の件は、今後の依頼料に慰謝料を上乗せするだけで済ませます。外の魔術師は此方で引き受けますよ。……ミラボレアス」

 

「お任せ下さい♪ 全部食べていいんですよね?」

 

「……帰ったら何か作りますから、程々にしてくださいよ?」

 

「はぁ~い♪」

 

ミラは嬉しそうに返事をすると、壁を蹴破って外に出る。ミラのフードが宙を舞い、校庭の魔術師達の目に飛び込んできたのは漆黒の体を持つ巨大な龍。禍々しい漆黒の鱗や甲殻も持ち、長い首や尻尾に四本の角の生えた小さめの頭部、そして背中にはその巨体を包み込めるほどの巨大な一対の翼を有していた。

 

 

「ド、ドラゴン! 黒いドラゴンが出たぞぁぁぁぁっ!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

その姿を見ただけで魔術師達は叫び出し、見境なく魔術を乱発する。彼らが狂ったように叫ぶ中、校庭の中心に龍は降り立ち、その尻尾を振る。ただそれだけで、全ての魔術師達は赤い血を撒き散らし、ただの肉片と化した……。

 

「な、なんだよ、アレ!? おい、柳、何なんだよ、あのドラゴンは!? それに、お前が指揮者ってどういう事だよ!?」

 

「おや、一誠も会った事がありますよ。ゼノヴィアさんに食事を奢っていた時、私の隣に居たでしょう? あの子ですよ」

 

「いや、あの子は人間だろ!? あんなドラゴンじゃなかったぞ!?」

 

「……人に化けれるドラゴンも居るんですよ。あの子の同族は人に化けて自分の討伐依頼を出したりしていたそうですよ。良い暇つぶしになったとか。……それと、正体を隠す理由は前に言いました。そんな事より、囚われた仲間を助けに行ったらどうですか? リアス・グレモリーはキャスリングで未使用の戦車の駒と場所を入れ替えるとして、彼女一人じゃ不安ですね。ヴァーリ、手伝ってあげてください」

 

「了解したよ。行くぞ、一誠!」

 

「は、はい! 先生!」

 

「ああ、もう! 待ちなさい! ギャスパー、今、行くわよ!」

 

リアス達が旧校舎で囚われているギャスパーの元に向かったのを確認した柳はクルゼレイ達の方へ視線を移す。彼らは空中で戦いを繰り広げていた。サーゼクスとクルゼレイの魔力が相殺しあい、セラフォルーの放った氷の龍をグレンが戦斧で叩き割っていた。残っているのは祐斗とゼノヴィア、そして、テロリスト達を逃がさない様に結界を張り続けているミカエルだけだ。

 

「……暇ですね。羽衣さん。シリトリでもしませんか? 絶交(ぜっこう)

 

「……う、裏切り(うらぎり)

 

柳と羽衣の視線の先では宙を泳ぐエイの様な魔獣に乗っている曹操と空中戦を行っているアザゼルの姿があった。正確には、曹操との交戦中に後ろから飛来した光の槍で右手を切り落とされたアザゼルの姿だが……。

 

「グッ! ……どう言う積もりだ、答えろ! アナスタシアァァァァァッ!!」

 

「……」

 

アザゼルは血の吹き出す手を押さえながら、自分の腕を切り落とした孫娘の名を叫ぶ、それに対しアナスタシアは無言で光の槍を投擲した……。




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