「おぅ、来たか親父ィ。魔方陣の準備は出来てるぜ。まぁ、サーゼクス共に気づかれずに転移するには時間が掛かるけどな。ッテェ! なんで殴んだよ!?」
「若の御前じゃ。言葉遣いを正さんか。さぁ、若、こちらへ」
涙目で叩かれた頭を押さえる息子を無視し、グレンはクルゼレイを魔方陣へと連れて行く。残りの家臣も魔方陣の上へと乗った時、砦が大きく揺れた。グレンが崩れた壁の隙間から遠くを見ると、人の形をしたナニカが砦へと向かっていた。
「……あれがサーゼクスの真の姿か。恐ろしいのぅ。……皆の者、儂は砦に残る」
「グレン!? 何言ってるんだ!? お前も一緒に逃げるんだろ!?」
老臣の言葉にクルゼレイは驚愕し、他の者達も止めようとするが、グレンは首を横に振った。
「いえ、そうはいきません。転移には時間が掛かる。誰かがサーゼクスを足止めせねば全滅してしまいます。……なぁに、死ぬのは老いた順。ならば一番年寄りの儂が残らずにどうします」
「……グレン」
歯を見せてそう言いながら笑うグレンにクルゼレイは掛ける言葉が浮かばず、グレンは砦から出ていこうとしていた。その時……
「ガッ!?」
「い~や、死ぬのは俺達だ。アスモデウス家の再興の為にゃ親父の力が必要だからな。俺達には役者不足だぜ。なぁ、皆?」
グレンの息子は持っていた剣でグレンの後頭部を強打し、意識を奪うと魔方陣から出て行った。そして、それに従う様に何人かの者達も魔方陣から出ていく。
「待て、お前等! 僕の命令だ。お前らも一緒に逃げろ」
クルゼレイは必死に彼等を呼び止め様とするが彼等の足が止まる事はない。慌てて追いかけたクルゼレイだったが、不意に突き飛ばされ、尻餅をついてしまった。
「おい、何をっ」
「あらら~、主に手を出したからには俺達は反逆者だな。なら、逃げろっていう命令には従えねえな」
そう言って笑うグレンの息子に賛同するように周りの者達も笑う。クルゼレイは直ぐに立ち上がろうとしたが、残った家臣抱きかかえられてしまった。
「さ~て、さっさと行かねえとな。なぁ、若。俺達が死んでも気に病まねえでくれよ? ……このままだったらどうせ死ぬんだ。なら、主の盾になって死にたいもんさ。じゃあな!」
そう叫ぶと彼らは砦から飛び出していった。その後、サーゼクス達は砦を制圧。しかし、クルゼレイの行方は掴めなかった……。
三勢力会談の会場は何とも言い難い空気に包まれていた。堕天使コカビエルの襲撃が発端で開かれたこの会談に一件場違いな三人組が居る。フードによって顔を隠し、掛けられた魔法によって声を変え、年齢すら不明。三勢力のどこにも属さず、ただ依頼だけを請け負う何でも屋。ただ分かっているのは三人の者が女性で、とてつもない力を持っているという事。そして、その主とされる男、
そんな彼が視線を向けたのは天界のトップであるミカエル。指揮者の正体を知る数少ない相手であるが、どういう訳か疲れの色が見え、目の下にはクマが出来ていた。
「おや、どうしましたか、ミカエル様。お疲れの様ですが……」
「エクソシストの再教育の件で苦労していまして……」
ミカエルが哀愁漂うでそう答える中、最後の出席者が到着した。今度の事件の関係者であり、駒王学園を領地に持つ上級悪魔、リアス・グレモリーだ。彼女とその眷属達はあらかじめ伝えられていたのか柳が居ても特に驚いた顔を見せず、指定された席に着いた。
「全員が揃ったところで、会談の前提条件をひとつ。ここにいる者たちは、最重要禁則事項である、『神の不在』を認知している」
こうして、会談が始まった……
「以上が、私、リアス・グレモリーと、その眷属及が関与した事件の報告です」
事件の顛末を聞き、顔をしかめる者や、ため息を付くもの等、反応は様々だ
「さて、アザゼル。この報告を受けて、堕天使総督の意見が聞きたい」
サーゼクスの問にもアザゼルは不敵な笑みを浮かべて話し出し、会場中の視線は彼に集中した
「今回の件は我が堕天使中枢組織『神の子を見張るものグリゴリ』の幹部コカビエルの独断であり、他の幹部や俺は一切関与していない。コカビエルなら一生牢獄の中で過ごしてもらう事になった。報告書にあっただろ?」
「説明としては最低の部類ですね。ところで、本当に貴方は関係していないのですか? 失礼ですが、コカビエルの動機となった、孫であるグリシアの死ですが、貴方の孫でもありますよね?」
「ああ、本当に俺は知らなかった。……にしても、俺の信用は三すくみ中最低かよ」
アザゼルはバツが悪そうにそう言った。机の下でグリシアの名を聞いた事で強く握り締められたアナスタシアの手を押さえながら……。
その後、話し合いは進み三勢力の間で和平の話が進んだ。その途中でアーシアやゼノヴィアを追放した理由に話が移った時、ゼノヴィアがミカエルに特大の殺気を送った事以外は何事もく進み、階段は佳境へと差し掛かろうとしていた。
「じゃあ、そろそろ俺達以外に世界に影響を及ぼしかねない奴らに話を聞こうぜ。ヴァーリ。お前は世界をどうしたい?」
「俺は強い奴と戦えればいいだけだ。まぁ、恋愛にも少し興味があるがな」
「そうか。……まぁ、お前の恋が叶うには俺をぶっ倒す必要があるがな。赤龍帝、お前はどうなんだ? 何か目的とかねぇのか?」
「お、俺は良く分かりません。目的も少し前まではハーレムを作りたいって思っていましたが、部長とライザー……様の姿を見ていたら、どうなんだろって思い出して……」
「ふ~ん、そうか。じゃあ、最後に……」
一誠がそう歯切れ悪く答えた後、アザゼルの視線は柳に向けられた。ミカエルの視線も柳を捉える中、従者の力を知らない魔王二人だけは首を傾げていた。
「そんなに彼は強いのかい? ゲームを見た所、中級悪魔の上位に入る程度はあると思うんだが……」
「問題は従者達だよ。なぁ、ミカエル」
「えぇ、非常識すぎて信じて貰えないでしょうから説明しませんが、彼の従者の方々の力は絶大です。では、お聞きします。貴方は世界をどうしたいのですか?」
「別にどうもしませんよ。私は家族との団欒と友との語らい。後は少しの娯楽さえあれば良いだけですから」
「……だろうな。分かってはいたが、安心したぜ」
柳の返答にアザゼルが安堵したその時、会議室の時が止まった……。
「動けるのはアザゼル総督にミカエル様。そして、魔王様方、リアス・グレモリー様の眷属数名とヴァーリとアナスタシアさんだけですね」
「眷族で私の他に動けるのは赤龍帝のイッセー、イレギュラーな禁手の祐斗、デュランダルのオーラによって停止の力を相殺させたゼノヴィアだけのようね」
柳が校庭を見ると魔方陣らしきものが現れ、魔術師らしい者達が次々と転移していた。
「……テロですか。欠席していたブランドーの末裔が利用されたようですね」
「ああ、どうやら強制的にハーフヴァンパイアを禁手に至らせたらしいな。……なぁ、お前等なら簡単に制圧できるんじゃねえか」
「私がサーゼクス様から請け負った今日の仕事は会談への出席だけです。それ以外は知りませんよ」
「ちょっと、指揮者。そんな事言ってる場合じゃないでしょ! 応用位利かせれないの!?」
リアスはそう叫ぶが、柳はフードの下で呆れたような顔をし、ミカエルとアザゼルとヴァーリは従者が爆発しないかと思い、リアスから距離をとった。
「……応用ねぇ。利かせたくなる雇い主と、余計な親切は一切したくない雇い主がいますね」
サーゼクスに対する敵意ともとれる言葉に悪魔勢が固まる中、部屋の中に魔方陣が三つ出現する。その二つにサーゼクスが反応した。
「旧アスモデウス。そして、ムールムールの紋章か。まさか、生きていたとはね」
「生きていたとはね、とは無礼だぞ。反逆者めが。我は冥界の正統なる支配者、魔王アスモデウスの後継者、クルゼレイ・アスモデウスであるぞ」
「貴様を殺す為、我々は牙を研いできた。覚悟しろ、偽りの魔王めがっ!」
クルゼレイとグレンがサーゼクスに敵意を向ける中、もう一つの魔方陣からも人影が現れる。歳の頃は一誠達と同じ位の少年。漢服を着て、髪を後ろで括っている。そして、その手には神々しい光を放つ槍が握られていた……。
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