ラスボスハイスクール 完結   作:ケツアゴ

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犬に出番取られました……

一誠の神器の力の一つである『譲渡』。それは、高めた力を他人に渡し、その者の力を引き上げるという強力なものだ。その力をリアスや朱乃に使う。それが今回の作戦において重要な事だった。だが、その目論見は崩れ去っていた……

 

「クソッ! おい、ドライグ! なんで神器が発動しないんだよ!?」

 

『おそらく、最近行っている修行のせいだろう。あの修行により、お前は確実に力をつけた。その為、神器が強化するか、禁手に至るかの境目に居るんだ。後は切っ掛けがあればどちらかに傾くのだが……』

 

修行によりもたらされた進歩の予兆。皮肉な事に、それによって一誠は危機に陥っている事となった。一誠の神器が使えないと知り、リアスは作戦を練り直す

 

「朱乃! まずは手前の一匹から倒すわよ! 三人はサポートをお願い!」

 

翼を出して空に飛び上がったリアスに対し、ケルベロスは牙を剥き出しにし、火球を吐き出す。火球はリアスに迫りその体を燃やし付くさんとしていた

 

「甘いですわ!」

 

しかし、朱乃が間に入り、即座にその炎を凍り尽くした。しかし、既に放たれていた二発目の火球が凍った炎に命中し、蒸発させた。それにより、即座に滅びの魔力を放とうとしていたリアスの視界を大量の水蒸気が覆う

 

「この程度で!」

 

リアスはそれでもケルベロスのいた場所に向かい、魔力を放った。リアスの魔力は水蒸気を簡単にかき消し、ケルベロスが居た場所を消し飛ばす。そう、居た場所だけを……。高く跳ぶ事によってリアスの魔力を避けたケルベロスはそのままの勢いでリアスに迫り、鋭利な爪の生えた前足を振り下ろした

 

「きゃあっ!」

 

「部長!」

 

一誠達は慌ててリアスのもとに向かうが、残った一体が三人の前に立ちふさがり、威嚇の構えをとっていた

 

 

 

 

 

 

 

―――――その兄弟は、群れの嫌われ者だった。大人よりも大きく力強い肉体は二匹を傲慢にするには十分だった。怒りに任せて暴れ、気に入らない者は爪や牙で引き裂いてきた。群れの者たちがそんな二匹を追放したのは数年前。コカビエルの亡き孫、グリシアと出会う数日前……

 

『ガッ……い、痛え。俺達とあろう者が吊り橋から落ちるなんてよ……』

 

『腹…、減ったな…』

 

いくら強くても二匹は子供。ロクに餌も取れない二匹は弱っていき、最後には渡っていた吊り橋が崩れ、崖の下に墜落してしまった。激しく降る雨に血は流れていき、意識は朦朧として来る。二匹が死を覚悟したその時、小さい影が近づいてきた

 

「あれ、どうしたの? 大丈夫?」

 

雨合羽を来た少年は心配そうに二匹へ近づいて来る。その首からは光る首飾りが下げられていた。その首飾りこそが彼が宿した神器。獣の言葉を理解するだけという下級神器だが、この場ではそれが役に立った

 

「! ひどい怪我! 直ぐに誰か……」

 

『近づくなぁっ!!』

 

 

慌てて近寄ろうとした子供に対し、兄は爪を振るう。爪の先端がかすった事により、子供の額からは血が流れ出ていた。二匹は威嚇するように唸り、歯を見せながら叫ぶ

 

『クソガキ!! 俺達を知らねえのか!? 俺達はムカつく奴は誰だろうが引き裂いてきたんだ! チビがムカつく真似をしてんじゃねよ!!』

 

『とっとと向こう行きやがれ!! これ以上近寄りやがるとズタボロにして、ブチ殺すぞぉ!!』

 

「何言ってるの!? ズタボロなのは君達だよ! 早くしないと死んじゃうよ!!」

 

血を吐きながら叫ぶ二匹に対し、子供は震えながらも叫ぶ。真っ直ぐに二匹を見つめながら……

 

 

 

 

 

「今日から君達も家族だよ」

 

その後、無事に保護された二匹は助けられた子供・グリシアの家に住みだした。兄の名はレイン、弟はカイルと名付けられ、二匹はグリシア姉弟の遊び相手として過ごした子供との日々は暖かく、二匹にとってかけがえのない物だった。そして、一年後、グリシアが殺された事を聞かされた……

 

『あの姿を見て俺達は変わった。本当の『強さ』が何かを知る事が出来たんだ……』

 

『でもよ、俺達はやっぱり外道だな。アイツは仇討ちなんて望むような奴じゃないのによ……』

 

 

 

 

      『『だが、グリシアを殺した悪魔共を殺し尽くさんと気が済まんのだっ!!』』

 

 

 

 

 

 

「イッセー君は下がっていてくれ!」

 

「……私達で何とかします」

 

神器が使えず、戦場も本拠地と言える駒王学園の為、プロモーションも使えない。祐斗達の言葉は一誠を気遣っての事だった。それは一誠も理解している。だが、その言葉は深く心に突き刺さり、自分の弱さを噛み締めさせられる結果となった……

 

 

「ガルルルルルルルルルルルルッ!!」

 

「させないよっ!」

 

「……吹き飛べ!」

 

一誠が無力感から拳を握り締めた時、ケルベロス兄弟の弟、カイルが三人に向かって飛びかかって来る。ゆうとはすれ違いざまに脇腹を切り裂き、小猫も強力な一撃を入れる。その一撃は肉を深く切り裂き、骨を軋ませる。だが、カイルは止まらなかった。苦痛に声を上げ、血を吐きながらも目の前の獲物へと向かって行く

 

「イッセー君! 逃げろ!!」

 

「……え?」

 

祐斗が叫ぶが、時既に遅く、カイルは鋭い爪により隙だらけの獲物を引き裂こうと前足を振り上げる。一誠の体を容易に引き裂ける爪が振り下ろされ、思わず目を背けた祐斗が再び視線を向けると、其処には無傷の一誠が居た

 

「……分かる」

 

「!? グルァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

カイルは何度も爪を振り下ろすが、一誠はそれを全て避けて行く。速さでは一誠が負けているのに、カイルの攻撃は全く当たらない。一誠は完全に攻撃を見切っていた

 

『そうだ、相棒。アイツの修行時の攻撃に比べれば、魔獣の攻撃など単純極まりない。今のお前なら全て避けれはずだ。隙を見て反撃をしろ!』

 

「了解! ……今だ!」

 

「グァッ!」

 

横凪に振るった攻撃を避けた時に僅かに生じた隙。それを見逃さず一誠は拳を突き刺す。思わぬ反撃にかいるが怯んだその時、祐斗達も追撃を仕掛ける。三方向から攻撃を喰らい、カイルの意識は朦朧としてきた

 

『ここ…、までか……』

 

カイルが倒れかけた時、視線の先には多少焼け焦げながらも、兄であるレインを追い込むリアス達の姿があった

 

 

「……そろそろか」

 

「これでトドメ! なっ!?」

 

リアスが特大の魔力で二匹纏めて消し去ろうとしたその時、二匹の足元に魔方陣が出現し、何処かへと転移させていった

 

「むざむざ死なせる事もあるまい。それに、時間は充分稼いだ。――完成だ」

 

コカビエルのその声と共に、陣の中の三本のエクスカリバーが光りだし、其処には一本の神々しい聖剣が存在してした。フリードはその剣を手に取り、ニヤニヤしながらコカビエルを見上げる

 

「なぁ、旦那。もうデータはとってあるんだよな?」

 

「……ああ、その通りだ。後は俺だけでも剣を作れる」

 

「おいおい、何、無駄話をしているんだね。私はな。聖剣が好きなのだよ。何度も夢に見た!幼少のころ、エクスカリバーの伝記に心を躍らせながら読み耽ったものだよ。だからこそ自分に聖剣使いの適性が無いと知ったときの絶望といったら……。さぁ! 早く聖剣を使って、儂の長年の夢の成果を……」

 

「聞いてなかったのか? もう、テメェは用済みなんだよ」

 

そう言った所でバルパーの言葉は途切れる。その胸にはエクスカリバーが深々と突き刺さっていた。訳が分からないといった顔でバルパーは絶命し、フリードはその死体からエクスカリバーを引き抜くと、死体を無造作に蹴り上げた。その時、バルパーの死体から光り輝く球体が転がる

 

「……意外と何も感じねぇもんだな。姉さんの仇に復讐したってのによ……」

 

フリードは涙を流しながら球体を拾い上げ、祐斗に掲げて見せた

 

「姉さん達はよ、こんな物の為に殺されたんだ。聖剣を使う因子が少ないから聖剣が使えない。なら、幾つも集めれば良い。その為に大勢を殺して因子を奪ったんだ。……笑えるよな。教会は今でもその研究の成果を使ってんだぜ。神のご加護とか言ってよ。なぁ、どう思うよ? 教会の犬さんよ」

 

フリードの視線の先には何時の間にか学園内に入ってきていたゼノヴィアの姿があった。教会がやっていた行為を知り、彼女は沈痛な表情を浮かべている

 

「……お前、聖剣が使いたかったんだろ? くれてやるよ。こんなん、只の物だ。既に貰っている俺には何の価値もねぇ」

 

フリードが無造作に放り投げた因子の結晶はコロコロ転がり、祐斗の足にぶつかる。因子を拾った祐斗の目からは涙がこぼれ落ちていた。

 

その時、結晶が淡い光を放ち、中から出てきた魂が歌を歌いだす……

 

 

「聖歌」

 

その歌を聴き、誰かが、そう呟いた。天より舞い降りた魂たちは祐斗の下に降り、青白い光を放つ

 

『聖剣を受け入れるんだ――』

 

『怖くなんてない――』

 

『たとえ、神がいなくても――』

 

『神が見てなくても――』

 

『僕たちの心はいつだって――』

 

「――ひとつだ」

 

その光は祐斗を祝福しているかの様だった

 

「僕は剣になる。皆の、仲間たちの剣になる! 今こそ僕の想いに応えてくれ、魔剣創造(ソード・バース)

 

創り出された魔剣は、聖なる因子と融合し――――

 

「――禁手、『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。聖と魔の力を有する剣の力、その身を受けるがいい」

 

 

祐斗が禁手に至った時、フリードの視線は魂に注がれていた。その視線の先にいたのは一人の少女。フリードはその魂に向かって叫ぶ。大粒の涙を流しながら

 

「姉さん! 姉さんだろ!? 俺、約束通り強くなったんだ! だから……」

 

魂たちが天に登っていく中、その少女だけはフリードに近寄り、そっとその体を抱きしめる。魂だけ体の為に触れる事はできず、体温などないが、フリードは幼い頃に感じた姉の暖かさを思い出していた

 

「……姉さん? 待って! 行かないで! 僕を置いて……」

 

少女の体は次第に透けて行き、その体は天へと登っていく。姉の体に縋り付く様に伸ばしたフリードの手は虚しく空を切った。しかし、その耳に最後に声が聞こえてきた

 

「約束守れなくてごめんね、フリード。でも、私は何時までも貴方を見守っているわ」

 

最後に弟に笑を見せ、姉の魂は天へと消えていった……




意見 感想 誤字指摘お待ちしています


二匹の元ネタ……分かります?

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