ラスボスハイスクール 完結   作:ケツアゴ

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聖剣は意外と便利です

この施設の出身者はロクな死に方をしない。それが彼らの共通認識だった。実験によって髪は白く染まり、身体能力は異常なまでに膨れ上がった。中には発狂する者もいたが、それでも彼が耐えられたのは、幼い頃の約束を守る為。その為に彼は命懸けで訓練に励み、神の敵を殺した。そうしていれば神が願いを聞き届けてくれると信じて……

 

「聞いたかね? 聖剣計画が失敗したらしいな。被験者は皆殺しだそうだ」

 

「聞いた、聞いた。結局、バルパーに責任押し付けて終わりだろ。研究成果は頂いたそうだけどな。まっ、被験者共も最後に教会の役に立てたんだ。本望だろうさ」

 

教会の一室で二人の男がそんな話をしていた。とても聖職者とは思えない口ぶりで、犠牲者をあざ笑うかのように……

 

そんな時、部屋のドアがノックもなしに開き、神父服の少年が入って来た。最初は驚いた男達だったが、相手が自分達より下の者だと分かった途端、その顔が不快げに歪む

 

「なんだ貴様! エクソシスト如きが無礼だぞ!」

 

「何だ、我々に向かってその態度は! 神罰が下るぞ!」

 

口々に自分を罵倒する男達に対し、少年は黙って近づいていき、腰に差していた剣で斬りかかる。騒ぎを聞きつけた者達が駆けつけると、血の海となった部屋の中心でヘラヘラ笑っている少年の姿があった。少年は彼らに気づくと、ゆっくりと振り返り、狂気的な目をして斬りかかった

 

 

 

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

叫び声と共に背中から大量の血を吹き出し、あまりの苦痛に祐斗は倒れた。フリードの隙を完全についたはずの先ほどの一撃。本来なら其処で決まっていたのだが、足の痛みによって出来た隙をつかれた事により、傷を負ったのは祐斗だった。フリードには傷一つなく、余裕といった様子でその様子を眺めている

 

「……んじゃ、コレでオサラバってね! バイビー♪」

 

フリードはエクスカリバーを振り上げ、祐斗に切りかかる。一誠達が止めようとするも間に合わず、今まさに祐斗が斬り殺されようとしたその時、高速で飛んできた水がフリードを吹き飛ばす。フリードは数メートル吹き飛んだ後、民家の塀に激突し、塀が音を立てて崩れた

 

「ガハッ!?」

 

なんとか体勢を取り戻したフリードが睨み付けた先には怒り心頭といった様子のリアスとメガネをかけた黒髪の女性が立っていた

 

「部長! それに、会長まで! 何で此処に!?」

 

「……あれだけ大騒ぎしてたら気づくわよ。さて、理由は後で聞かせて貰うとして……私の下僕を随分と可愛がってくれたようね。覚悟は出来ているかしら?」

 

リアスは自分の下僕とフリードの間に立ち、赤いオーラを迸らせる。その瞳に宿った殺気を感じ、フリードが冷や汗を流す中、また近づいてくる影があった。ゼノヴィアとイリナだ

 

「反逆者、フリード・セルゼン! 神の名のもとに断罪してくれる!」

 

「やっほ、イッセー君」

 

「……こりゃ、絶体絶命って奴? イヤン、僕チン、こんな所で死ぬわけには行かないのよ。ってな訳で、バイビー」

 

形勢不利と悟ったフリードは懐から球体を出し、地面に叩きつける。そこから放たれた閃光が消え、視力が戻った時にはフリードの姿は消えていた

 

「追うぞ、イリナ!」

 

「うん!」

 

「僕も追わせて貰おう! グッ!」

 

ゼノヴィア達がフリードを追い、それに続こうとした祐斗だったが、怪我の為にそこに蹲ってしまう。なんとか立ち上がろうとした彼の体をリアスが捕まえる。その顔は明らかに怒っている

 

「……何処に行く気かしら? そんな怪我じゃ死ぬだけよ。……手当しないといけないわね」

 

リアスはそう言って魔方陣を準備しだし、思い出したように一誠の方に振り返った

 

「ところで、イッセー。部室に戻ったら、ちゃ~んと説明してもらうわよ」

 

「サジ。貴方もですよ」

 

一誠と匙はその言葉を聞き、すくみ上がる。その様子を監視していた羽衣がケラケラ笑っているとは気づかずに……

 

 

 

 

 

「全く、無茶しすぎですわ。いくらフェニックスの涙の効果が絶大でも、死んでたら、効果はありませんのよ」

 

オカルト研究部の部室でレイヴェルが呆れ顔でそう呟いた。リアスからの要望により、家の仕事で不在だった兄に変わってフェニックスの涙を届けに来た彼女は治療が終わったのを確認し、出された紅茶を飲んで、ほっと一息ついていた

 

「……それにしても、魔王様方には連絡なさいましたの? コカビエルなんて厄介な相手、貴女方では難しいどころではないでしょう」

 

「……いえ、これは私の領地で起きた問題。私が解決するわ」

 

「意地っ張りですのね。でも、貴女に何かあったらお兄様が悲しみますわよ。お・ね・え・さ・ま♪」

 

「なっ!? 待ちなさい、レイヴェル!」

 

レイヴェルは意地悪気な笑みを浮かべ、転移していった。真っ赤になったリアスを置いて……。部室内に気まずい沈黙が流れる中、一誠が口を開いた

 

「あの~、部長。指揮者(コンダクター)に依頼しないんっすか? 依頼用の魔方陣が書いた札、取ってあるっすよね?」

 

「ええ、私が依頼料を払えば自分達の手で解決したと言えなくもないと思って連絡したんだけど、ほかの依頼の真っ最中ですって。タイミングが悪かったわ。一体、何をしているのかしら……」

 

 

 

 

リアスが嘆息を吐いて呟いた頃、柳は夕食の支度を行っていた。通常の包丁なら潰さずに切るのは難しかったが、柳が今使っている、包丁替わりの刃物だったら話は変わる。もし、教会関係者がこの光景を見れば発狂しただろう

 

「この剣、流石ですね。トマトが潰れず、魚の頭だってスパスパ切れますよ。さすが伝説の聖剣なだけあります」

 

エクスカリバーを包丁替わりにし、柳は料理を続けていた。最後のトマトを切り終えた時、エクスカリバーから果汁が滴り落ちる。それはまるで聖剣が泣いている様だった……

 

 

 

 

 

 

「追い詰めたぞ、フリード! どうやら私達は運が良い様だ。まさか貴様も葬れるとはな。聖剣計画の首謀者、皆殺しの大司教バルパー・ガリレイ!」

 

フリードを廃工場まで追い詰めたゼノヴィアの前には初老の男が立っていた。彼こそが聖剣計画の首謀者であるバルパー・ガリレイだ。追い詰められている状況だというのに、彼等にはどこか余裕があった

 

「今大人しく殺されるのなら、主もご慈悲をお与えになるだろう。降参するなら今の内だぞ」

 

「はっ、神なんざに許して貰おうなんざ思っちゃいねえよ。大体よ~、神が見守っているってんなら、なんで聖剣計画の被験者は死んで、バルパーのジジイは生きてんだよ? ……分かるだろ? 神に祈ったって、助けちゃくれねえんだよ。それなら堕天使の方が良いね。俺がこうして生きてんのはコカビエルの旦那のおかげだからな」

 

「……もう、いい。その減らず口を閉じろ。耳が腐る」

 

フリードの言葉にゼノヴィア達は怒りをあらわにし、聖剣を抜く。一触即発の空気が流れる中、男性の声が響き渡った

 

「やれやれ、ネズミが餌に掛かったか。どうやらお前らにも、主のご加護は無かった様だな」

 

「コカビエル! っち、一旦、逃げ……」

 

突如現れた男が手を翳すと無数の光の槍が現れ、ゼノヴィア達に降り注ぐ。土煙が晴れた時には二人の姿は消え去っていた

 

「おいおい、逃がしたのかよ? しっかりしてくれよ、旦那ぁ」

 

茶化すようにコカビエルに話しかけるフリードだったが、コカビエルは冷や汗を流していた。まるで、とてつもなく怖いものに出会ったような……

 

「(何だ!? 一瞬感じたあの力。敵意は感じなかったが、それは敵としてすら見ていないといった感じだった。計画に支障が出なければ良いのだが。……いや、何を迷っているのだ。たとえ死んでも、サーゼクスの妹だけでも道連れにしてみせる。後はアザゼルが何とかするだろう。あやつにだって、復讐心はあるはずなのだから……)」

 

 

 

 

「……あれ、此処は何処? ゼノヴィア、何処行ったの?」

 

イリナが目を覚ますと見知らぬ場所にいた。辺りには民家一つなく、自然が広がるばかり。少なくても、日本でない事は確かだった

 

「此処、何処なのよぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

イリナの叫び声が響き渡るが、それに答えてくれるものは居ない。それでもイリナは叫び続け、しばらく叫んだ後、疲れが出たのか眠ってしまった

 

 

 

「あ、お帰りなさい、ゼノンさん。冷やし中華出来ていますよ。お仕事はどうなりましたか?」

 

「冷やし中華など、食い物ではない!! ……すまん。なぜか、そう叫びたくなった。謝るから片付けないでくれ。栗色が殺されそうだったから、適当に転移しておいたぞ。……確か、エアーズロックだったな。青色は上手く逃げた。引き続き羽衣が見張っている」

 

「ちっ! 殺されてれば良かったのに!」

 

「こらこら、ミラ。評価に関わりますから、死ぬなら仕事の後にしてもらわないと困りますよ。さぁ、ご飯にしましょう」

 

街中で行われている戦闘と違い、柳達は和やかに食事を始めた……




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