―――次に会う時までに絶対強くなって、二人で皆の仇を討とう。大丈夫、神様が僕たちを守っていてくれるさ
……そう、約束した筈だった。だけど、神様なんて誰も守ってくれないし、あの約束は決して守られる事がない。だから、自分自身に誓った。俺から全てを奪った奴らから、俺が全てを奪ってやるって……
降りしきる雨の中、彼は獲物を見つけ、狂気的な笑をこぼす
「悪魔くん、見っけ~♪」
「君はっ! ……その剣、まさか。いや、間違いない! エクスカリバー!」
自分の持つ剣を見て憎悪を剥き出しにする獲物に対し、白髪頭の彼もまた、憎悪を送る
「あ~ん? 誰だお前? なんでこんなガラクタを睨んでるんだ? お前の目の前の敵は俺だろうがよ。もしかして、聖剣に恨みでもあんの?」
「当然だ! 僕はエクスカリバーに復讐する事だけを目標だったんだ!」
「……馬っ鹿じゃねえの? 聖剣に復讐? こんなもん、ただの道具に過ぎねぇだろうが!」
「……なん、だと? 君に何が分かるって言うんだ!!」
二人は憎悪をぶつけ合い、しばらくの間、殺し合いが続いた……
「聖剣計画ぅ~?」
神田家のリビングにミラの心底興味がないといった声が響く。家族以外に存在価値を感じていない彼女にとって、どこの誰がどんな計画を立てようとも、自分達に影響しなければどうでも良いのだ。たとえ、それで世界が滅ぼうとも……。もっとも、そんな事になったら柳が悲しむので、絶対に阻止するが
ミラの態度に対し、柳は苦笑しながら資料を取り出す。其処には聖剣計画の詳細が書かれていた。その大半は被験者……いや、被害者達のデータであり、名前や年齢、そして、数こそ少ないものの残された家族について書かれていた。最も、被害者達は孤児が多く、一部の例外を除いて兄弟が居た場合は全員計画に参加していたが……
「今回の仕事に関わる事なので聞いておいていてください。……羽衣さんとゼノンさんは聞く気がないので、せめてミラだけはお願いします」
「はい! お任せ下さい!」
柳の頼みは絶対に断れないミラは喜び勇んで彼の前に座り、話を聞く体勢を取った。こうする事で柳は喜び,彼女の予想どうりに頭を撫でてくれる。そう、何時もの様に撫でてもらえる筈だった。実際に、柳の手がゆっくりとミラの頭へ伸びていき
「ふむ、中々悪くないのぅ。今度、精気を吸う時にでも……」
「は、羽衣さん!? 私の至福の時間を!」
横から割り込んできた羽衣の頭を撫でていた。柳も、まぁ、羽衣も満更ではない、といった様子なのでそのまま撫で続けていたが、ミラの顔はそれに伴って不機嫌なものになっていく。それに気づいた柳は空いた手でミラを撫でようとして手を伸ばすが……
「……なかなか良い。柳、もっと撫でろ」
「ゼ、ゼノンさんまで! ……もう、我慢の限界です」
ミラはそう言うと、息を大きく吸い込み
「ま、拙い! ミ、ミラ。少し落ち着いて……」
「お仕置きですー!」
リビングを業火が包み込み、家の壁を貫通して柳の家庭菜園を燃やし尽くし、塀を破壊したところで、遊びに来たヴァーリに直撃し、ようやく炎は消えた
「お……、俺が何をしたって言うんだ……。……最近ついていない」
自分の不幸を嘆きつつ、ヴァーリは意識を手放す。走馬灯に浮かんだのはグリゴリ本部での事だった……
「あら、ヴァーリ。アンタも来てたんだ」
「ア、アナ。何をしてるんだい?」
アザゼルの私室を訪れたヴァーリの目に飛び込んできたのは、部屋の主に膝枕をする、ヴァーリの初恋相手のアナスタシアの姿だった
「見て分からねぇか? アナに耳掃除して貰ってるんだよ。お前もして貰ったらどうだ?」
「えぇ~、嫌よ、面倒くさい。私今からアーシア達と買い物行くんだから。あ、ヴァーリも来る? 女の子ばっかりで、ハーレムよ?」
「いや、今回は遠慮させてもらうよ」
他にメンバーが居るとはいえ、好きな相手からのお誘いに心を動かされたヴァーリだったが、あまりがっつくのも格好悪いと思って断ると、アナスタシアは不満そうに頬を膨らませる。そんな子供っぽい所も素敵だと思い、見とれていたが
「ぶぅ~、昔は私の後ろをちょこちょこついて来ていたのにぃ~。ヴァーリのくせに生意気よ。そんな事だから、ケツ龍皇や裸エプロン皇って呼ばれるのよ」
「『ぐはぁぁぁぁぁっ!!』」
アナスタシアの言葉を聞いた途端、アルビオンと同時に吐血をして倒れてしまった。一瞬、言いすぎたかな?、といった感じの顔をしたアナスタシアだったが、時計を見て慌て出す。アザゼルは、待ち合わせ時間が近いからと急いで出て行こうとした彼女を呼びとめ、財布から幾ばくかの紙幣を渡す
「小遣いだ。あまり無駄遣いすんなよ」
「わーい♪ ありがとう、大好き!」
アナスタシアはアザゼルに抱きつき、礼を言うと満面の笑みで部屋から出て行った。しばらくして、よろめきながらもヴァーリは立ち上がる。見るからにダメージが酷く、今にも倒れそうだ。アザゼルはそんな彼を呆れたような顔で見ていた
「お前、相変わらずアナに弱いんだな」
「……惚れた弱みと言う奴さ。彼女の言葉は他の誰よりも心に刺さる。そういうアザゼルはアナに甘すぎなんじゃないのかい?」
「……るせぇよ、ケツ龍皇」
「『ぐはぁっ!!』」
ヴァーリは再び吐血して倒れた。彼とアルビオンの胃は限界をとっくに超えていたようだ……
「……全く、怪我人がヴァーリだけだったから良かったものの、ゼノンが抱きつき、妾が尻尾で覆わなければ柳が怪我をしておったぞ。少しは反省せい!」
羽衣が不機嫌そうに睨めつけている先では、彼女の拳骨を喰らい、のたうち回っているミラの姿があった。庭で焼け焦げているヴァーリには気づいているが、どうせ大丈夫だからと放置している。その間、ゼノンは家事にならない様に火を凍らせ、外からは何も起きていない様に見える様に右手一本で魔法をかけていた。残る左手は未だに柳に抱きついたままで、座っている状態で抱きついた為、ゼノンの胸に顔を埋めている形になっていた。そして、柳の手は彼女の胸を強く握っている……
「あっ! ……こら、やめろ…、んっ! もっと、優しく……」
次第に柳の手に込められる力は増して行き、ゼノンも顔を紅潮させつつも抱きつく腕に力を込める。そうやって、ゼノンは柳の顔に胸を押し当てて行き、艶めかしい声を上げていった。それを楽しそうに見ていた羽衣だが、横から見える柳の顔が段々青くなっていっているのに気づき……
「……窒息しそうなのではないか?」
そう、呟いた……
「はっ! それは盲点だった」
ゼノンが腕の拘束を説いた途端、柳は彼女から離れ、必死に酸素を補給した。いくら彼女らには温厚な柳でも、胸に挟まれて窒息死など、ごめん被るといった様子で、かなり不機嫌そうだ
「窒息死させるつもりですか!」
「いや、そんなつもりはなかった。その内、悩殺するつもりはあったが……」
「……羽衣さん。説教追加お願いします。ゼノンさん、逃げたら一ヶ月、ネット禁止」
「ひ、卑怯者!」
羽衣に引きずられて行きながら悲痛な叫びを上げるゼノンだったが、悪意がなかっとは言え、反省の欠片が無い事に怒った柳は聞えないふりをし、ヴァーリの元へと向かう
「……貴方も大変ですね。すみません、ミラには私からキチンと言っておきますから」
「……気にしなくて良いよ。……もう、慣れた」
二人はお互いに顔を見合わせ、深い嘆息を吐いた。お互いの不幸を嘆き合うように
柳の家庭菜園の崩壊は今年に入って10回を超えてた……
「……ちなみに、彼女達の胸の感触はどうなんだい?」
「ゼノンさんはスベスベの肌に張りがあって、凄い弾力が。羽衣さんは吸い付くような肌に全てを包み込むような柔らかさが。ミラは・・・・・・流石に知っていたら拙いでしょう?」
「ああ、犯罪の匂いがするね。どっちにしろ、ペッタンコだけどね」
「「ハハハハハハハ、アベシッ!?」」
突如飛来したフライパンは二人の頭に直撃し、意識を刈り取った
「そ、そのうち大きくなるもん!」
消えいく意識の中、胸囲を気にする少女の声を聞きながら……
景色の良い丘の上、そこに墓が二つあった。墓の前にはローブ姿の男性が佇んでおり、腕には赤子、足元には指をくわえた幼子がローブの裾を掴んでいる。一陣の風が吹いた時、辺りを舞う蝶を目で追っていた幼児は丘を上がってくる人物に気がつき、駆け寄って行った
「おっと、転ぶなよ」
「うん! ねぇ、肩車して」
「おっし、任せときな」
丘を上がってきたのは着物を着た中年の男性。彼は強請られるままに肩車をし、ローブの男性に近づいていった
「……俺の息子といい、お前の娘といい、親より先に死ぬなんて、親不孝な餓鬼共だぜ」
そう憎まれ口を叩く男性であったが、その顔は悲痛な面持ちだった。ローブ姿の男性も同じ様な顔つきだったが、幼子に見せない為に墓の方をじっと見つめている。暫くそうしていた二人だったが、ローブの男性がポツリと呟いた
「アザゼル、俺は戦争を求めるのを辞めるぞ……。俺の残りの人生は、此奴等の為に使う。此奴等が幸せなら、俺はもう、何も要らぬ……」
「……そうか」
アザゼルはただ、満足げに微笑んだ……
一巻でフリードは木場とは会っていません すぐに柳に気絶させられたから(笑)
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