深夜11時45分頃
もう直ぐ試合がが始まるという頃、メンバーはそれぞれのリラックスできる方法で待機していた。リアスと朱乃は椅子に座り、お茶を飲んでいる
「
「ええ、一杯いただきます。この時間は人間の私にはキツいですから」
柳はソファーに腰を下ろすと、朱乃の入れた紅茶をストレートで飲み干す。柳が紅茶を飲み終えると、朱乃が話しかけてきた
「あらあら、お砂糖入れないのですね。この紅茶はかなり苦めですのに」
「眠気覚ましの為ですから。それで、何か聞きたい事でも?」
「ええ。なぜフードで顔を隠してらっしゃるのですか? やはり、命を狙われない為ですの?」
柳はカップを皿に置くと、ポツリと漏らし始める
「平穏って良いと思いませんか? 私は従者と共に生きていく為にこんな世界で生きていますが、こんな仕事をしていますと、平穏とは無縁になります。危険視して殺そうとしてくる方や、無理やり眷属にしようとしてくる方。そんな方々から身を守り、一時でも平穏を得るために、このフードは必要なのですよ。私が顔と名前を明かすのは信用できる友人のみ」
「あら、だったらその友人が正体をばらしたらどうするの?」
この時、リアスは何気なく質問しただけだった。特に意図などはない。しかし、それに応える柳の声は冷たく、感情が宿っていなかった
「殺しますよ。私の正体を聞いた者達ごと消し去ります」
「じょ、冗談よね? 友達なんでしょ?」
「それが何か? 私は私の平穏を崩す者には容赦する気はありません。それに、貴方達、悪魔だって裏切り者をハグレ悪魔として討伐しているじゃありませんか」
柳のその言葉にリアスが恐怖を感じた時、部室内の魔方陣が輝き、グレイフィアが姿を現した
「皆様。開始十分前となりました。準備はお済みでしょうか? 開始時間となりましたら、ゲーム用に作られた空間へと転移したします」
説明を一通り終えたグレイフィアは柳に方へ視線を移し、軽く頭を下げた
「今回、お嬢様の助っ人として参加なされます
「了解いたしました。しかし、今回は私のワガママを聞いて下さりありがとうございます。まさか、両家の方々が今回のゲームを見る為の観覧席に、私の従者を招待していただけるとは」
深くお辞儀をする柳だったが、グレイフィアは事務的な態度を崩さずに対応する
「お気になさらずに。貴方の従者が観覧席に入る事に対しては、フェニックス家の当主様のご了承がありましたから」
「フェニックス家の当主の了承!? ちょっと、どういう事!? まさか、フェニックス家と繋がっていたの!?」
柳がフェニックス家の当主と繋がりがある事を今知ったリアスは驚き、柳に食ってかかる。ほかのメンバーも警戒した顔つきで柳の方へ視線を移す。しかし、柳は至極どうでも良い事の様だという態度だ
「フェニックス家は悪魔側のお得意様なのですよ。それに、忘れましたか? それに、私は悪魔だけでなく、天使や堕天使からも依頼を受け持っています。依頼主の敵対相手と付き合いあっても不思議ではないでしょう?」
その言葉を聞いても疑いの眼差しを向けるリアスに向かい、一声がおずおずと話し掛けた
「あの~、部長。信用しても良いんじゃないですか?
「イッセー……」
一誠は他のメンバーと違い、柳と一緒に訓練を行った。リングを使っての擬似的な禁手を会得した後も一緒に修行を行った事により、一誠の中では彼への信頼感が生まれつつあったのだ。その言葉を聞いたリアスは嘆息を吐き、柳に笑顔を向ける。既に彼女から柳への猜疑心が消え去っていた
「そうね。イッセーの言う通りだわ。ごめんなさいね。貴方には散々お世話になったのに」
「いえいえ、お気になさらずに。あらかじめ話していなかった私にも責任が御座います。さぁ、もう直ぐ、ゲーム開始時刻ですね。気合入れて行きましょう!」
「そうね。……私の可愛い下僕達。このゲーム、必ず勝つわよ!」
「「「「はい、部長!」」」
「私は下僕じゃありませんが、頑張りますね」
「そろそろお時間です。皆様、魔方陣の方へ」
グレイフィアに促された一同は魔方陣の上に移動する
「なお、ゲーム終了までは魔方陣での転移はできませんのでご了承ください」
一同を光が包み込み、目を開けると先程まで居た部室の中だった
転移に失敗したのかと一誠が疑問に思っていると、アナウンスが響き渡る
『皆様、審判を勤めさせていただきます事に成りましたグレモリー家の使用人グレイフィアでございます。
今回のゲームの両陣営、転移先が「本陣」になっています。リアス・グレモリー様は旧校舎のオカルト研究部の部室。ライザー・フェニックス様の本拠地は新校舎の生徒会室。なお、「兵士」の方は「プロモーション」する際は相手の本拠地周辺までお越し下さい。なお、リアス・グレモリー様の『
「……もしかしてと思っていたけど、貴方の従者は神器の一つ、
「部長、その『
「ああ、それは私がご説明いたしますよ、簡単に言うと、漫画の主人公のような存在と敵対した存在を従者として呼び出す神器です。まぁ、モブも含みますからハズレが多いのですが。……私の従者は全員当たりですよ」
リアスは従者の事が気になった様だが、気持ちを切り替えて作戦を練りだした。まず、取るべき拠点は体育館。ここは旧校舎と新校舎の間にあり、ここを取れば相手への牽制にもなる
「では、部長、行ってきます!」
「……頑張ります」
体育館を奪取に行くのは一誠と小猫。朱乃と佑斗は他に作戦が有り、柳は佑斗のサポートとして同行する事となった
「さぁ、皆。もう、後戻りはできないわ。ライザーとその眷属を消し飛ばしてあげましょう!」
『はい!』
リアスの掛け声に対し、全員で返事をし、それぞれの方向へ駆け出していった……
一誠と小猫が体育館の裏口から侵入し、こっそりと舞台袖から中の様子を覗こうとした時、体育館に大きな声が響いた
「其処に居るのは分かっているわ! 貴方達が此処に入るのを見てたんだから!」
隠れるのを辞め、舞台袖から出てきた一誠の目に入ったのは2人の女性悪魔。顔の片方を仮面で隠した女性。一誠の記憶が正しければライザーの『戦車』だ。そして、もう一人は
「なんだ、貴方ですか」
「君は……」
部室で一誠を簡単に捻った少女、ライザーの『兵士』のミラだった
「さて、リアス・グレモリーの眷属よ、提案なのだが、此方も其方も『戦車』同士と『兵士』同士、で戦わないか?」
ライザーの『戦車』の突然の提案に二人は顔を見あわせた
「どうする? 俺もあの子にリベンジしたいんだけど」
「……構いません」
「決まった様だな! 申し遅れた。私はライザー・フェニックス様の『戦車』イザベラだ」
「……リアス・グレモリー様の『戦車』搭城小猫です」
名乗り合いと共に二人はお互いに向かった駆け出した
「んじゃ、俺も。リアス・グレモリー様の『兵士』兵藤一誠だ。この前のリベンジをさせてもらうよ」
「ライザー・フェニックス様の『兵士』ミラです」
名乗りと共にミラは棍を構え、一誠は籠手を出現させる
『boost!!』
その音声と共に一誠の力が倍になった。一誠は一気に駆けだし、ミラに殴りかかるも
「甘いです」
ミラは棍を一誠の腕に当て、怯んだ隙に距離を取り、一誠の攻撃が届かない間合いから攻撃してくる
「体運びはマシになりましたね。拳の打ち出し方も中々です。たった十日でここまで成長するとは感心しますね」
「お褒めの言葉どうも。良い先生が居たからな!」
『boost!!』
二回目の声が響き、一誠の力が更に倍化された事に対し、ミラの顔に驚愕の色が浮かんだ
「……貴方の神器は力を一度だけ倍加するだけでは……まさか!」
「気づいたようだな。そうだ、俺の神器は
一誠はミアに接近し、拳を振り抜く。その拳は真っ直ぐミラに向かっていくが、ミラは咄嗟に棍で床を突き、距離をとった
「……想定外でしたね。まぁ、良いです、更に倍化するまでに倒せば良いだけですから」
ミラはそう言うと、棍を構え一気に飛びかかり横薙に振り払ってきた。後ろに飛んで避けた一誠だったが
「なっ!? 仕込み鎖武器!?」
突如、棍の先端が外れ、中から鎖が飛び出す。鎖のついた棍の先端は空中で身動きの取れない一誠に絡みついた
「……捕まえました」
「うわっ!」
何とか体勢を整えようとする一誠だったが、ミラに振り回され足元がふらついた所を狙われ、一本釣りの要領で高く振り上げられる。そして、
「イザベラ!」
「任せろ! おりゃぁぁぁ!」
ミラの合図と共にイザベラに殴り飛ばされた小猫に叩きつけられた
「うわっ!」
「あぐぅ!」
「もう一回!」
ミラは棍を強く握り、再び一誠を小猫に叩きつけようとしたが、その鎖を小猫が掴む
「……調子に乗らないでください」
小猫は鎖を一気に引っ張り、一誠は引き寄せられて体勢が崩れたミラに向かって手を突き出した
「見てみろ、俺の新必殺技『
「きゃっ! ……この程度」
一誠に張り飛ばされ、棍を手放したミラだったが、直ぐ様起き上がり拳を構えるも、突如その服が弾け飛んだ
「え? きゃぁぁぁぁぁぁっ!」
ミラはもわず自分の大切な場所を隠し、その場に蹲る。一誠は鼻血を出しながらも拳を突き上げ高々に叫んだ
「見たか! これが俺の少ない魔力の才能をつぎ込んだ必殺技『
「……変態ですね。近付かないで下さい」
小猫が一誠を軽蔑の眼差しで見つめ、距離を取る中、イザベラは冷静に思案していた
「成程、動機は兎も角、相手の動きを封じるには最適だな。……まてよ、女の子の服を? そうか! それは女にしか効かないな?」
「うげっ! もう弱点がバレてやがる。まぁ、良い! 他の奴に知られる前にアンタを倒せば良いだけだ」
羞恥心からミラは動けないと判断した一誠は、イザベラにも技を掛けるべく接近しようとするが、イザベラは素早く飛び退くと、壁を蹴り抜いて逃走した
「拙い! 神器の事や新技の事も知られちまった。早く追わないと!」
慌てて後を追う一誠だったが、小猫に呼び止められる
「……安心してください、変態先輩。朱乃さんが既に待機しています」
「……その変態先輩ってのをやめてくんない?」
「……さぁ、彼女に止めをさしましょう」
一誠の懇願を無視し、小猫はミラに拳を振り上げた
『ライザー・フェニックス様の『兵士』一名リタイア』
体育館の上空には先程から朱乃が待機していた。本来なら相手の動きを封じた後、一気に体育館ごと吹き飛ばす予定だったのだが、朱乃の視線の先には逃走するイザベラの姿があった
「あらあら、逃しません事よ」
加虐的な笑いを浮かべた朱乃は手に雷を宿し、此方に気づいていないイザベラの無防備な背に向かって放とうとした。しかし、
「貴女の相手は私ですわ」
「なっ!? きゃあっ!?」
突如背後から声が響いたかと思うと、朱乃の右側面で爆発が起きる。その音でイザベラも朱乃に気づいた
「ユーベルーナ様!」
「イザベラ、早くお行きなさい!」
「はっ! どうかご無事で」
イザベラが無事に逃走した事を確認したユーベルーナは朱乃の方へ向き直る。爆煙が晴れた先では力無く垂れ下がった右腕を押さえる朱乃の姿があった
「不意打ちごめんあそばせ。でも、貴女を確実の撃破するにはコレが一番でした」
「朱乃さん! 今すぐ加勢に」
外の様子に気づいた一誠と小猫が加勢を申し出るも朱乃は首を横に振った
「……どうやら読まれていた様ですわね。二人共、此処は私が引き受けますわ!」
朱乃の言葉を聞いた一誠は残ろうとするも、小猫に促されて先に進んだ。それを見たあと、ユーベルーナは朱乃に告げる
「当然ですわ。数の上では此方が上。なら貴方達が取る作戦は此方が予想できないような奇策を取るでしょうからね。もし違っても、体育館ごとそちらメンバーを吹き飛ばせば良いだけでしたし。さぁ、無駄話は此処までですわ!」
ユーベルーナの爆発と朱乃の雷がぶつかり合い、辺りに轟音が響き渡った……
「ふむ、双方共中々やりよるな」
「……下らん。所詮は児戯の範囲内だ」
「そんな事より、や……マスターは何処でしょうか?」
観客席で試合を見守っていた三人だが、真剣に見守る羽衣と違い、残りの二人は暇そうに欠伸をしている。そんな中、二人に近づく者が居た
「いやいや、貴女方と一緒にされては息子の眷属が可哀想ですよ」
「おお、これはフェニックス卿ではないか。久しぶりよのう」
「ええ、あの件では息子がお世話になりましたな」
「気にするでない。アレは我等が主がやった事じゃ。……しかし、この不愉快な視線、思わず殺したくなるのぅ」
羽衣が眉をひそめて見渡した先では、三人を睨みつける悪魔達の姿があった。サーゼクス等の身分の高いものが居るにも関わらずフードを取らない事や、観戦の態度。そして、何よりの原因は彼女等の主が堕天使や天使からの仕事も引き受けている事にあった
その事を理解しているフェニクス卿は羽衣の言葉に冷や汗を掻きながらとりなした
「まぁまぁ、お飲み物でもどうですかな。好きな物を給仕に申し付けるといいですよ。彼らの事は気にしないでくださいませんか? 不戦協定は形ばかりの物ですからな」
その言葉を聞いた羽衣は口元を吊り上げ、皮肉気に言った
「ああ、十数年程前にも一部の悪魔が暴走して堕天使の施設を襲ったのぅ。確か、犠牲者は見学に来ていた子供が殆どだったと聞いたぞ。良く、戦争にならんかったの」
「ええ、首謀者の引渡しと賠償でで何とか事が済みました。堕天使とはいえ幼子が犠牲になるとは、痛ましい事件でしたな……」
フェニックス卿はそう悲しそうに呟く。近い将来、この事件が原因で新たな事件が起きる事を彼は予測していなかった……
意見 感想 誤字指摘お待ちしています
3巻ではコカビエルを改変予定です 原作ではたんなる戦争狂いでしたが、この作品では……
ヴァーリも出番少し増です 2巻が終わったら魔法使いの7巻を終わらせて直ぐに入ります