ではでは、第六十七話をどうぞ。
Side鏡夜
スキマから出てきた皆が、何故こんな所にいるんだと混乱している中、俺は皆の前に立って両手を広げた。
「さぁ、皆様、強制的にお集まり頂き、ありがとうございます」
この屋敷の庭全部に通る大声を上げると、ざわついていた皆は静かになり、全員こちらを見てきた。そんな皆の瞳を見渡した俺は、笑顔で再び大声を出す。
「今回の異変は解決しました。そこで、春を迎えるという事と、異変を解決したという事両方により、今宵、この年最高の花見をしたいと思います!」
言葉を切り、呼吸を整えてから、スキマから大量の酒の類を出していく。ビールから、日本酒。ワインにシャンパン。選り取りみどりだ。
「それでは皆様、ごゆるりとおくつろぎください」
『わあああああああああ!!!!』
右手をそっと胸の所に置き、お辞儀をしたと同時に、皆から歓喜の声が出た。
「……さてっと、後は任せたよ。リリカちゃん、メルランちゃん、そしてルナサちゃん」
そう言って、俺は桜の木を背にしながら言うと、背後にあった巨大な桜の木の上にプリズムリバー三姉妹が飛び出してきた。
「任せて!」
「ふふ、解りましたわ」
「頑張る」
プリズムリバー三姉妹は、互の顔を見て頷くと、それぞれの楽器を鳴らし始めた。
ゆっくりと前奏が入っていき、少し経つと、アップテンポの激しい曲長に変わる。そして、今度はルナサちゃんのバイオリンのソロパートに入っていく。
相変わらず、綺麗なバイオリンの音色だ。
そのままルナサちゃんのソロパートは進んでいき、次にメルランちゃんのトランペットが自然と入ってくる。
最後にリリカちゃんの幻想的な音色を奏でるキーボードが入り、三人の曲は最初より更に音が合わさり、酒を飲んでいた皆の視線を釘付けにしていた。
そして曲は進んでいき、とうとう演奏は終わった。
『わああああああああああ!!!!!!!』
演奏が終わると同時に、皆からの盛大な拍手と歓声が巻き起こった。
「ありがとうございました!!」
リリカちゃんがお礼を言うと、三人は同時に頭を下げる。そして、頭を上げて、ルナサちゃんがこちらを見てきたので、笑顔でウインクしておく。すると、ルナサちゃんは嬉しそうに微笑んで、顔を赤くした。
やはり、女の子には笑顔が一番だよね。
「それでは、次の曲に行きます!」
リリカちゃんの言葉に、三人がそれぞれ楽器を再び構えると、笑顔で新しい曲を始めた。
「ふふ、それじゃあ、そろそろ俺も宴会に混ざりますかな」
そう呟いた俺は、ルナサちゃんに再びウインクして、宴会を行っている皆の所へと歩き始めた。
「よ、レティ」
「あ、鏡夜」
「何!? おい、あたいと勝負……」
「駄目だよチルノちゃん」
まず最初に向かったのは、今回の異変で最初に出会ったレティ達だ。その時にいなかった大妖精ちゃんもいる。
「どう、料理食べてる?」
「食べてるわよ。約束、守ってくれたのね」
「勿論。男に二言は無いんだぜ」
「大ちゃん、離すんだ。あたいは、アイツと戦わなきゃいけないんだ!」
「意味がわからないよ?」
両手に持った皿に料理を山盛りに盛ってムシャムシャと食べるレティ。そして、その横で、大妖精ちゃんに羽交い絞めにされて、ジタバタと暴れているチルノちゃん。
盛り上がってるな~。楽しそうでなによりだ。
「チルノちゃん!」
「ど、どうしたんだよ!?」
俺は羽交い絞めにされているチルノちゃんの肩を掴むと、俺は捲し立てるように言葉を放っていった。
「チルノちゃん、君は未知の組織に付け狙われている重大な人物なんだ! それによって、今この場では、博麗の巫女に君は弾幕ごっこを仕掛けなければならなんだ! 何を言ってるか分からに思っているかもしれないが、取り敢えず、このアイスを食べながら博麗の巫女に酒を掛けに行くんだ!」
「お、おう……?」
俺は、自分でも何を言ってるかわけがわからないが、スキマからアイスを取り出して、チルノちゃんに咥えさせ、右手に酒瓶を持たせて霊夢ちゃんの方向を向かせた。
「さぁ、行くんだ! 妖精最強、チルノちゃんよ!」
「よ、よくわからないけど、わかった!」
「チ、チルノちゃん!」
チルノちゃんは、流されるまま酒瓶を持って、アイスを加えたまま、酒を飲んでいる霊夢ちゃんの元まで走っていった。
大妖精ちゃんは、なんとかチルノちゃんの行動を止めようとするが、チルノちゃんは大妖精ちゃんの制止も聞かずに、走っていく。
「あっはっはっはっは! 面白いわ!」
「チ、チルノちゃん……」
チルノちゃんはお酌を持った霊夢ちゃんの元まで走っていくと、霊夢ちゃんの頭の上に飛び、酒瓶の蓋を取って、盛大に霊夢ちゃんの頭へと掛けて、走ってこちらに戻ってきた。
霊夢ちゃんは、酒を頭からぶっかけられたせいで、動きが少し止まるが、杯に入った酒を一気に飲むと、ゆっくりと立ち上がった。
「や、やったよ!」
「よし、よくやった! それじゃあ、俺はこの場を去る! じゃ!」
「あ! ちょっと、待て」
「それじゃあね、鏡夜」
「きょ、鏡夜さん!」
三人が戸惑ってる中、俺はその場から走って、般若のような顔をした霊夢ちゃんの元まで走っていく。
「れ~いむちゃん!」
そして、霊夢ちゃんの近くに寄った俺は、一瞬で腰を持ち上げて、お姫様抱っこの要領で霊夢ちゃんを持ち上げた。
「きょ、鏡夜!?」
「ほうら、そんな怖い顔をしないの。もっと、楽しく宴会しよう!」
俺はその場でお姫様抱っこのままくるくると回り、霊夢ちゃんの酒で濡れた体を、風と炎の魔法を使って、温風で乾かしていく。
「あは、あはははははは!!!」
段々、回っているのが楽しくなってきたのか、霊夢ちゃんは昔の子供だった頃のように、笑顔で笑い始めた。
「はっはっはっはっは!!!」
俺も笑いながら霊夢ちゃんをお姫様だっこの状態で回し続ける。
いや、なんか楽しい。昔、少しだけ遊んだことがあったが、その時の思い出が鮮明に思い出されていくな~。
そして、しばらく回り続けた俺は、霊夢ちゃんをゆっくりと地面に下ろした。
「あはははは!!! 楽しかった!」
「それは、良かった」
濡れた体と髪を乾かしていた俺は、たった状態のままスキマから櫛を取り出し、霊夢ちゃんの髪の毛を正面から梳かしていく。
「それにしても、霊夢ちゃん、髪さらさらだね~」
「え~そう?」
なんか霊夢ちゃんのノリが軽いが、これは多分、酒が回ってるせいだろう。
「うん、そうそう」
「えへへ~、ありがとう」
霊夢ちゃんの髪を梳かし終わると、霊夢ちゃんは笑顔で俺に抱きついてきた。
「やっぱり、鏡夜は暖かい」
「それは良かった。こんな俺でいいなら、いつでも貸すよ」
「えへへ~」
頭を撫でてあげると、霊夢ちゃんはうっとりした表情で目を細くしたまま俺の胸に抱きついて、頭を擦り付けてきた。
「おっと……ふふ、甘えぼさんなんだから」
「鏡夜だからだよ」
霊夢ちゃんはそのまま頬を擦り付けてくると、段々動かなくなってきた。何事かと思い、霊夢ちゃんの顔を覗くと、眠たそうに目を擦っていた。
「眠いの?」
「う、ん……でも、もう……少し……鏡夜……と…………」
言葉の途中に、霊夢ちゃんは徐々に言葉を小さくして、寝息を立てて眠ってしまった。
まるで猫のように寝てしまった霊夢ちゃんを、俺はそっと抱き上げて、屋敷の縁側に、布団を敷いてそっと寝かせた。
「お休み、霊夢ちゃん」
「おお! 鏡夜! こっちこっち!」
「ん? おう、魔理沙ちゃんにアリス」
霊夢ちゃんを寝かせた俺は、ふらふらと庭を歩いていると、唐突に声を掛けられた。
そちらの方向を向くと、魔理沙ちゃんとアリスが地面にシートみたいな何かを敷いて座り、ちょびちょびと酒を杯に入れて飲んでいた。
「どうしたの?」
「どうしたもないだろう! 宴会なんだから」
「まあね、それとアリス、あの花びらありがとうね」
「別にいいわよ。あれは、勝負して決めたことだし」
「そっか」
俺は二人の正面に座って、空っぽになった二人のお酌に酒をついでいく。
「それじゃあアリス、今度何か一つお願い事を聞くよ」
「あら、なんでよ」
「女の子から、何か渡されっぱなしって訳にもいかないんだよ、男ってのはね。だから、勝負で決めたことだろうが、何かお返しをさせて」
「そうね。それじゃあ、今度の休みの日に、私の家に来てよ。お話でもしましょう」
「あぁ、解ったよ。それじゃあ、また今度休みがあったら行くよ」
「いつでも来て頂戴」
「そろそろ、私も話しに入れてくれ~」
アリスと話していると、酒瓶を持った魔理沙ちゃんが、俺の頭の上から乗っかてきた。
「ごめんごめん。仲間はずれにはしてないから」
「ぶ~私ともお話しようぜ~」
「あっはっは」
頭の上から、今度は肩の上に頭を置いて、もう一方の肩から酒瓶を持った手を俺の前に差し出してきた。
「鏡夜ってさ~」
「何?」
魔理沙ちゃんは、持っている酒瓶をゆらゆらと揺らしながら言ってくる。
「どうしてそんなに強いんだ~?」
「? 強いってのは?」
「鏡夜はさ~何においても強いじゃん~でもさ、私は全然強くなれない」
「……」
少し、落ち込んだように言ってくる魔理沙ちゃんに、俺は無言で黙ってしまった。
確かに、俺はなんでも出来るっちゃあなんでもできる。でも、それは長年の経験のおかげなんだよな。まぁ、能力も関係してるけど。
正直な話し、魔理沙ちゃんは強いと思う。戦闘の類では、俺は勝てるだろうけど、他の分野では、俺は負けるかもしれない。例えば、女子力とかな。男の俺じゃあ、絶対に勝てないね。なんせ、男だから。
「だからさ、どうやったら強くなれるのかな~と思って……」
「ふむ……魔理沙ちゃんはさ、どういう風に強くなりたいの?」
「う~ん、弾幕ごっこで勝てるようになりたい」
「そっか。じゃあ、弾幕ごっこの威力を底上げすればいいと思うよ」
「それができれば苦労しないよ」
「出来ないじゃなくて、するんだよ。俺も手伝うからさ」
俺が肩にのっかてる魔理沙ちゃんの頭を撫でると、魔理沙ちゃんは不満そうな声を上げた。
「ぶ~」
「そう不満そうな声を上げないの」
「だって、私は自分で色々と研究して、あの威力なんだぜ? それを、あれ以上の威力を出すなんて……」
「だからこそ、俺だろう? 自分から見て完璧だと思っても、他人から見れば、まだまだ隙だらけだったりするのさ」
そこまで言って、俺は魔理沙ちゃんを肩から避けて、自分の正面へと座らせた。
「そんなわけで、今度威力の底上げ手伝うよ」
俺は正面に座らさせた魔理沙ちゃんの頭に、ぽんっと手を置いて立ち上がった。
「絶対、手伝ってくれよな」
「あぁ、手伝うさ。それじゃあ、そろそろ他の所を回んなきゃ行けないから行くな」
「また今度、ゆっくりお茶でもしましょうね」
「鏡夜、今日はありがとうな」
「はっはっは。じゃあな、宴会楽しんでってくれな」
俺は二人に背を向けて手を振りながら、次のグループの所に向かった。
「さて、どう? 自分のスキマじゃなくて、他人のスキマで呼び出された気分は?」
「まさか、私の能力持ってるなんて……って気分よ。流石、お師匠様」
「あ、鏡夜さん」
「ふえ……?」
魔理沙ちゃんとアリスと別れた俺は、今度は庭の端っこで、こちらもシートのような物を敷いてその上に座り、酒を優雅に飲んでいる紫ちゃんと藍ちゃん。そして、もう眠いのか、丸くなっている橙ちゃんの元へと向かった。
「や、藍ちゃん、それに橙ちゃんも。宴会は楽しんでくれてるかい?」
「はい、楽しんでます」
「私は……眠いでしゅ」
「子供が起きてる時間ではないからね」
俺はスキマから酒瓶を取り出して、紫ちゃんの隣に座り、紫ちゃんと藍ちゃんにお酌する。
「ありがとうございます」
「ありがとう」
二人は一気に酒を飲むと、ふ~っと息を吐いた。
「それにしても、お師匠様。いつから、私のスキマを持っていたの?」
「あぁ、あれ? ここに来る前に、一回じっくりとスキマを見せてもらったことがあるでしょう? その時にちょろっとね」
俺はスキマから赤ワインとグラスを取り出し、自分で注いで一気に飲む。
甘酸っぱいが、渋みは少なく、上品な味わいだ。だが、如何せんアルコール度数が低い。今度自分で作ってみるか。
なんて感じで、赤ワインの感想を考えていると、藍ちゃんが物欲しそうな目でこちらを見ていた。
「……飲んでみるかい?」
「あ、えっと……いいですか?」
少し気恥かしそうに言ってくる藍ちゃんに、笑顔で頷き、スキマから新しいグラスを取り出し赤ワインを注ぎ、藍ちゃんに渡す。
「はいどうぞ。慣れてない味だと思うから、気に入らなかったら言ってね」
藍ちゃんは俺の言葉を聞くと、少しだけ真剣な表情をして、恐る恐るといった感じで一口飲んだ。
すると、藍ちゃんは一瞬固まると、すぐに動き出して金色の九本の尻尾が、一斉に天に向かって真っ直ぐと伸びた。
何ごとだと思いながら、自分のワインを飲んでいると、藍ちゃんは飲んでいたグラスをそっと降ろした。
「……鏡夜さん、もう一杯お願いします」
「いいよ」
再びグラスにワインを入れると、藍ちゃんは一切の躊躇いもなく飲み干した。
そんな藍ちゃんの姿に、ちょっと疑問を持った俺は、紫ちゃんに酒を注ぎながら聞いてみる。
「ねぇ、紫ちゃん。なんか、藍ちゃんの様子おかしくない?」
「あぁ、あれ? 多分酔ってるだけでしょう」
「そうかな? なんか、段々色っぽくなってきてるんだけど……」
こう、顔を赤くして、なんか段々息を荒げてる。そして、なんか尻尾とか肌とかが煌めいてる。更に更に、こっちをトロンとした目で見てくる。
「鏡夜……さん……」
「ん?」
ワインを飲む手を止めて、藍ちゃんの方を向くと、いつの間に迫っていたのか、俺の目の前に、藍ちゃんの顔があり、がっしりと俺の肩を両手で押さえていた。しかも、顔を真っ赤にして、完全に酔った目で。
これは……色々とマズイ。
「ど、どうしたのかな? 藍ちゃん」
「きょう、やさん。なんか、体が火照って……」
やばいやばい!! これは本格的にまずいやつだぞ!
「そ、そう。……それで、もしかして」
「この火照りを取るために……」
予測してた通り……というか、こんな展開なら、大抵言われるであろうセリフが藍ちゃんの口から出た。
「キスして……くれませんか」
「………………よしわかった。ちょっと目つぶってて」
「はい……」
そう言って、目を瞑った藍ちゃんの両手を肩から避けて、俺は肩をがっしりと掴む。そして、すぐさま俺の体を小さくし、子供の俺に声を掛ける。
(ちょっとお前出てこい!)
(え? え? 何、兄さん!?)
すぐさま、俺を俺の体の背後にオリジナルとして作り出し、分身を藍ちゃんの前に出す。
「え? ちょっと兄さん、何この状況!?」
「それ! 後は任せた!」
「わ、わ!」
俺は、子供の俺の背中を蹴り飛ばし、藍ちゃんへと押し倒す形を作り出す。
「ん!? む―――――!!!!!」
「はむ、鏡夜さん」
押し倒れた子供の俺は、倒れた拍子に藍ちゃんの唇を奪った。そして、離れようと両手で地面を押して、離れようとしたが、藍ちゃんは子供の俺の体を、絶対に離さないといった感じでがっちり抱きしめ、甘い声を出しながら更にキスする。
これは……うん、後は子供の俺に任せよう。
「それじゃあ、紫ちゃん。俺は行くよ」
「えぇ、それじゃあ、また後でね」
紫ちゃんに手を振り、俺は子供の俺を一度見て、笑顔でその場を去っていった。
「後は任せたぞう~。鏡夢~」
「ちょ、ちょっと兄さん!!」
「鏡夜さん……」
「ちょ、ちょっと藍ちゃんどこ触ってるの! って! そこはダメ。あ、あ、いやああああああああ!!!!」
鏡夢、ご愁傷様。
如何だったでしょうか? 後編は近日公開予定。
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