では、第四十九話をどうぞ。
Side鏡夜
チルノちゃんとレティと分かれてから、俺と咲夜ちゃんは空を宛もなくプラプラと飛んでいた。
「さ~てと、どこに向かいましょうかね~」
「とりあえず先ほどの花びらの気配を辿ってみればいいのではないんでしょうか」
「他にいい案もないし、そうしますか」
気配をちょいと巡らして、先ほど貰った桜の花びらと同じような気配を探った。
空の上に膨大な数の桜の花びらの気配。地上には少しだけ、周りより気配が多いところがあった。
「二つあるんだけど、一つは空の上に膨大な気配。二つ目は地上に少しだけ周りより気配が多いところ。どっちに行ってみる?」
「・・・地上の方に行ってみませんか?」
「なんで?」
「多分、膨大な気配を感じるところは、今回の異変の犯人が居ると思うんですよ。でもその前に、もう少しだけ情報収集してみませんか」
「成程ね。それじゃあそうしましょっか」
「はい」
咲夜ちゃんと一通りの事を決めた俺は、地上にある少しだけ周りより多く気配がある、大きな森へと向かった。
「う~寒いぜ」
「おっと、あれは・・・」
「魔理沙・・・ですかね」
森へと向かい、森の上を飛んでいると、厚着でマフラーを巻いた魔理沙ちゃんが、肩を震わせて歩いていた。
「ま~りさちゃん」
「おわ!? ビックリした~」
「ごめんごめん」
何か情報でも持ってるかな~と思い、俺と咲夜ちゃんは、森の中を歩いている魔理沙ちゃんの前へと降りた。
「で、魔理沙ちゃん。こんな雪の中、何してるの?」
「これからアリスって言う、友達の家に向かってるところだぜ」
「アリス?」
「そうだぜ。丁度、この先を真っ直ぐいったところにあるんだぜ」
真っ直ぐと言い、魔理沙ちゃんの指差した方向を見るとそこには、桜の花びらの気配があった。
「・・・ふ~ん、ねえ魔理沙ちゃん。私と咲夜ちゃんも一緒に行っていいかな」
「別にいいけど、どうしたんだぜ?」
「ちょっと魔理沙ちゃんの向かうところに用があってね」
「そうなのか」
「そうだよ、じゃあ行こう?」
「ああ」
そうして、魔理沙ちゃんを先頭にして、アリスと言う人物の家へと向かった。
「着いたぜ」
「ここ?」
しばらく歩き続けていると、森の中に一つだけ、ポツンと一軒家が建っていた。魔理沙ちゃんはその家の玄関に立つと、入口の前であの六角形の八卦炉? を取り出して構えた。
「マースーター・・・」
「何しようとしてんの!?」
八卦炉を取り出して、マスタースパークを射とうと、八卦炉に魔力を貯めていると、家の中から慌てた様子で、青いワンピースのノースリーブに、ロングスカートを履いた、金髪の女性が現れた。
「よ、アリス。遊びに来たぜ」
「遊びに来たのなら、普通に扉をノックしてよね!」
「いや~それじゃあつまらないだろ?」
「いやいや、つまらないとかの問題じゃないでしょう・・・」
は~と呆れたため息を吐いたアリスは、やれやれといった感じで肩を落とした。
「全く・・・ん? そちらの方たちは?」
「初めまして、私、魔理沙ちゃんの友達の時成鏡夜といいます。以後お見知りおきを」
「同じく、魔理沙の親友の、十六夜咲夜と申します。以後お見知りおきを」
「あら、これはご丁寧にありがとう。私は魔理沙の・・・腐れ縁? のアリス・マーガトロイド、以後お見知りおきお」
丁寧に頭を下げて挨拶すると、アリスも丁寧に頭を下げてお辞儀をした。
「ささ、寒いだろうから、中に入って。魔理沙以外」
「私は!?」
「あんたは外にでも突っ立てなさい。ささ、お二人共どうぞ」
「どうも、じゃあね。魔理沙ちゃん」
「それでは失礼します。魔理沙、案内ありがとうね」
「そういうわけだから、じゃね、魔理沙」
そう言って、俺とアリスと咲夜ちゃんは、家の中へと入っていった。俺達三人が入った瞬間、無慈悲にも家の扉が閉められた。
「そ、そんな~・・・」
閉めた扉の向こう側で、魔理沙ちゃんが悲しそうな声を出す。その声に、俺達三人は閉めた扉の内側で、苦笑いを浮かべていた。
「冗談よ」
「アリス!」
苦笑いを顔に浮かべながら、アリスは扉を開けた。
「もう、これにこりたら、二度とあんな扉の開け方をしようとしないでね?」
「それは無理だぜ!」
魔理沙ちゃんの言葉に、アリスは笑顔を浮かべると、再び勢いよく扉を閉めた。
「ちょ、アリス! 冗談だから! 二度としないから! お願いだから中に入らせて!!!」
「さ、鏡夜、咲夜。紅茶でも飲みましょうか」
「そうだね」
「そうですね」
魔理沙ちゃんが扉をドンドンと叩くが、アリスはそれを無視して、キッチンの方へと行ってしまった。
「ちょっと、無視しないでえええええええ!!!!!!」
「で、魔理沙はどうでもいいとして、鏡夜達はどうして家に来たの?」
「どうでもいいって・・・」
あの後、結局根負けしたアリスのおかげで、魔理沙ちゃんは無事アリスの家の中へと入ることができた。
「ちょっと失礼・・・あった。アリス、これについて知ってることない?」
「これは・・・」
俺は内ポケットを探り、例の桜の花びらを取り出し、テーブルの上に乗せる。テーブルの上に桜の花びらをマジマジと見つめると、指を少しだけ動かした。
「確かに知ってるわ。でも、詳しいことまではわからないわよ・・・っと、これね」
アリスが話していると、一体のちっちゃい人形が、小いさな箱を持ってフヨフヨと飛んできた。
「その人形は?」
「私の作った人形・・・上海って言うの」
「そうなんだ、可愛いね」
「ありがとう」
自分の人形が褒められたことが嬉しいのか、アリスは頬を赤らめさせてお礼を言ってきた。それにしても、先ほど説明がなかったが、この人形、アリスが指から見えない糸で操ってるみたいだ。
「さて、先ほどの話しだけど、確かに私は知ってるし、今現在持っているわ」
アリスはそう言うと、先ほど上海が持ってきた小さな箱を開けた。すると、部屋の中に、春のような暖かい風が吹いた。
「暖かい・・・アリス、これは一体なんだぜ?」
「これは・・・春の一部って言えばいいのかしらね。これを大量に集めれば、春が訪れるの」
「へ~そんなことができるのか」
魔理沙ちゃんは、箱一杯に詰め込まれた桜の花びらの一枚を取った。
「ほ~暖かいな。でも、なんでそんなものがこんなふうになってるんだ?」
「それは、私にはわからないわよ・・・鏡夜達は何か知らない?」
「残念ながら、それは私達にもわからない。なんでこんなふうになってるのか、アリスなら知ってると思ってここに来たのだから」
「そうなの・・・」
「ただし、これをやった人物らしきものの居場所ならわかる」
アリスの紅茶を一飲みして、俺はふ~と一息つく。紅茶を飲み、魔理沙ちゃんとアリスを見ると、興味深そうに俺のことを見ていた。
「鏡夜、それはどこ?」
「空の上の上」
「上の上?」
魔理沙ちゃんは首を傾げて、不思議そうにこちらを見てくる。
俺の先ほどの言葉は、正確言えば、空の上の上ではない。別の次元なのだ。ただ、その別の次元への入口らしきものの気配が、空の上の上にあるだけ。
「そ、正確に言えば、その春が多く集まってるところに行くための入口があるの」
「じゃあ、そこに行けば今回の異変の犯人がいるのか?」
「それは、まだわからない」
「そっか」
一通り聞きたいことも聞け、アリスが今回の異変の首謀者ではないこともわかり、もうこれ以上得られる情報がないと思った俺は、カップの中にまだ入っていた紅茶を呑んだ。
「さてっと、聞きたいことも聞けたことだし、そろそろ行こっか、咲夜ちゃん」
「そうですね。そろそろ行きましょうか」
「アリス、話しを聞かせてもらってありがとうね」
「ええ、私も久々に魔理沙以外の人と話せて楽しかったわ」
「・・・もうちょっと外にでようよ?」
久々にってことは、殆ど家に引きこもっているのだろうか? という、わけのわからない疑問が俺の中にふとよぎった。ちょっとカマかけてみるか。
「何を勘違いしてるか知らないけど、私は部屋の外には出てるわよ」
「家の外には?」
「・・・・・・・」
「なぜ黙る?」
部屋の外にはってことは、家の外ではない。自分の部屋から出たとしても、それは部屋の外には出たことになるんだから。
その考えでツッコミをアリスに入れてみると、案の定アリスは黙り込んでしまった。
「・・・出てる・・・わよ?」
「ちょっと、目が泳いでるよ」
アリスは答えるが、目が泳ぎまくっている。その部分を指摘すると、アリスはテーブルに肘をついて俯いた。
「だって、最近魔法の研究で忙しかったし、それに私インドア派だし・・・」
「そうだったんだ。でも、外に出て運動しないとダメだよ? というわけで、アリス。ちょっとスペルカード・・・今は弾幕ごっこだっけ? をやろう?」
「いいわね。最近体も動かしてなかったし、弾幕ごっこてのもやってみたかったし」
意外とノリノリな感じで、頭を上げて言ってくるアリスの瞳を見て、俺は思った。あ、こいつ俺と同種の戦闘狂だってね。いや、流石に俺ほどまでではないけど。
「で、鏡夜。何を賭けるの?」
「賭け?」
「そうよ。仮にも勝負なんだから、何か賭けましょうよ」
「賭けね~」
正直なところ、俺に賭けるもんなんて、この体と金と美味しい料理と俺特性絶対壊れない仕様の手作り品と・・・結構あるな。
「何がいい?」
「そうね~」
アリスは少しの間考えると、いいことを思いついたといった感じの顔をしながら、ぽんと手を叩いた。
「貴方の、一日所有権でどうかしら?」
「「ぶ!?」」
アリスの言った一言で、紅茶を飲んでいて咲夜ちゃんと魔理沙ちゃんが盛大に吹き出した。
「いいよ」
「ちょ、ちょっと鏡夜さん!?」
「鏡夜、待つんだぜ!」
「どうしたの二人共、そんなに慌てて」
二人は慌てた様子で、俺に詰め寄ってきた。
「いや、待ってください、鏡夜さん。もし負けたりしたらどうするんですか!?」
「その時は、アリスに一日借りられるさ」
「そんな・・・じゃあ、その日一日お嬢様たちはどうするんですか?」
「休みを取るさ。でもね、咲夜ちゃん」
「な、なんですか」
俺は詰め寄ってきた咲夜ちゃんの耳元に顔を寄せ、魔理沙ちゃんとアリスに聞こえないように小さな声で話す。
「俺が負けるはずないだろう?」
「っ! ・・・そうでしたね。鏡夜さんが負けるはずありませんよね」
「だろ?」
俺は咲夜ちゃんに微笑みつつ、顔を離してアリスの方を見る。
「で、私は何を賭ければいい?」
「あらら、私が決めてもいいの?」
「別にいいわよ。私が貴方の賭けるものを決めたのに、貴方が私の賭けるものを決めないのは不公平でしょ?」
「ふむ」
ここで、お返しとばかりに、アリスの一日所有権とか言えばいいのだろうけど、別にいらないし。何にしようかな?
「じゃあ、さっきの桜の花びら全部で」
「え、それでいいの?」
「いいけど?」
何故か知らないが、アリスは肩を落としてガクッと項垂れてしまった。何を期待してたかは知らないが、俺は席を立ち、外へと向かった。
「じゃ、外で待ってるから、早く来てね」
そうして、俺と咲夜ちゃんは外に出た。外に出た俺は、紫ちゃんの能力である、境界を操る能力を使い、女性の姿になる。
「あれ、どうしてお姉様の方になるんですか?」
「それは、こっちの姿だけで使えるスペルカードを使ってみるため」
「そうなんですか」
外へと出てから数分ほどで、アリスは上海を三体程連れて、家の中から出てきた。
「お待たせ・・・って、誰あなた?」
「鏡夜だよ」
「は!?」
アリスは俺の言った一言で、固まってしまった。
「いやいや、鏡夜って男でしょう?」
「男だよ。詳しい説明は面倒くさいから省くけど、これは私の能力でこうなってるだけ」
「そうなの・・・」
簡単に説明すると、アリスは納得してくれた。能力というだけで、説明が片付くから楽でいいな。
「それじゃあ、戦いましょうか」
「ええ、お手柔らかにね」
「互いに残機は二、スペルカードは三でいい?」
「それで構わないわ」
一通りルールを決めた私とアリスは、お互い適度に距離を取った。
「それじゃあ咲夜ちゃん。開始の合図をよろしく」
「わかりました」
咲夜ちゃんは、私とアリスの間に立つと、右腕を大きく振り上げた。
「さて、楽しい戦いにしましょうか」
「ふふ、勝つのは私よ」
互いに笑い合うと、咲夜ちゃんの右腕が振り下ろされた。
「始め!」
咲夜ちゃんの言葉共に、私とアリスは互いに弾幕を放ちあった。
次はアリスとの弾幕ごっこからです。ついでに、次回は女性の姿になったとき、女口調にななります。それと、多分次回は、あの三人家族が出ます。三姉妹ではないですよ。
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