では、第三十八話をどうぞ。
Side霊夢
扉を開け中に入ると、仮面を付けた男性と、メイド服を着た女性が頭を下げていた。二人はゆっくりと頭を上げると―――
「「いらっしゃいませ」」
客人を迎えるような声で言った。女性は笑顔でいい、男性は仮面で表情はわからないが、見えている瞳はまるで、娘の成長を喜でいるような瞳だった。
「御二人の目的は承知済みです。異変を解決に来たのでございますよね?」
「ええそうよ。話しが早くて助かるわ」
女性が話しかけてくる。しかし、男性の方は一切しゃべろうとしない。
「ならばここを通すわけには行きません。故に・・・片付けさせていただきます」
女性はそう言うと、懐から何枚かトランプを取り出した。そして、男性の方が腕を上げ指を鳴らすと、
「!?」
いつの間にか正面にいた女性が消えた。しかし、消えたのは女性だけではなく隣にいた魔理沙も消えていた。
「一体どこに・・・?」
部屋の中を見渡すが、二人の姿は見えず、少しすると外から何かがぶつかるような音がした。窓から外を見ると、二人が戦っていた。
「・・・・・・・・・」
魔理沙の姿が確認できたので、そちらから目を外して正面の男性を見る。男性はただその場に悠然と立ち、無言でこちらを見ていた。
「・・・貴方は、誰?」
私は緊張しつつも男性に聞くと、男性はくつくつ笑い出した
「分かっているんだろう? 博麗の巫女・・・いや、霊夢ちゃん」
「やはり、貴方は・・・」
男性はパンっと両手を合わせて鳴らすと、部屋の中に強い風が吹いた。あまりの強風に私は袖で目を隠す。そして、強風が収まり袖をどけるとそこには、十年前と変わらない姿の鏡夜がいた。
「鏡夜」
「やあ、久しぶりだね。霊夢ちゃん」
鏡夜は手を軽く上げると、昔と変わらない笑顔で言ってくる。私はその笑顔を懐かしみたかったが、袖に手を突っ込み、お札と退魔の針を握った。
「ありゃりゃ、話す気はなく、戦う気満々ですか」
鏡夜はふざけた感じで言ってくるが、私は一切油断せず、無言で鏡夜を見続ける。というか、一切油断などできなかったし、喋る余裕すらなかった。
「じゃあ、ご要望に答えて戦おうか・・・いや、遊ぼうか」
ふっと鏡夜は笑うと、体に重りでものっているような圧迫感が部屋を包んだ。多分この圧迫感は、鏡夜が戦闘態勢に入ったせいだろう。
「残機は三、スペルカードは三、いいかな?」
「ええ、いいわ」
そして僅かな沈黙が続き、鏡夜の手が動いた。その瞬間、私は懐からスペルカードを取り出し、スペルカード宣言をしていた。
「スペルカード宣言!」
「早速か」
「霊符『夢想封印』」
宣言が終わると、例の四つの虹色の珠が私の周りに出現し、全て鏡夜に向かって飛んでいった。飛んでいった後、私は四つの球の裏から、手に持っていた全てのお札、退魔の針を投げつけた。
四つの珠は鏡夜の前後左右から迫り、お札は真上から、退魔の針は真っ直ぐと射抜くように向かった。そして、その弾幕の中心で爆発が起こった。だが、私はそれでも更に、再度握ったお札と退魔の針を投げ続けた。
「ハアァァアアアア!!」
気合の言葉と共に、次々と投げつけていく。次々に投げた針とお札は、鏡夜を中心に、まるで吸い込まれるように向かい、当たっているのか爆発している。私は即座に終わらせることだけを考え投げ続けるが―――
「こっちだよ」
突然、背後から鏡夜の声が聞こえた。私は一瞬その声に固まりそうになったが、即座に後ろを向いて退魔の針を投げようとする。しかし、背後には鏡夜の姿はなかった。
「い、いない?」
「上だよ。霊夢ちゃん」
「!?」
今度は上を向くと、天井に両足をつけて苦笑いを浮かべている鏡夜がいた。
「いやはや、まさか一発目からあんなに撃ってくるとは・・・」
「貴方相手に、手加減は無用よ」
「それもそうだ」
私は先ほど放った四つの珠を再び出し、鏡夜に撃っていく。
「同じ手は二度も効かないよ」
鏡夜は天井を、どやっているのか分からないが、走って避けていく。鏡夜は走って避けるが、四つの珠は鏡夜の後を追うように飛んでいく。
「やっぱり、追尾式か」
鏡夜は天井を走るのをやめると、私に向かって跳んできた。
「破!」
気合の言葉と共に、向かってくる鏡夜に針とお札を投げる。しかし、鏡夜は何もない空間を横に蹴って避けた・・・って、何もない空間を蹴った!?
「嘘お!」
「ほら、油断しないの」
私はその光景に驚いていると、背後から鏡夜の声が聞こえた。バッと後ろを向りむくと、鏡夜が私の額の当たりに人差指を置いていた。
「まずは、一つ」
「なにを・・・っ!」
鏡夜に言葉の意味を理解しようとしていると、背後から突然痛みがやってきた。
「ほら、油断しないでって言ったじゃない」
「何を・・・」
「霊夢ちゃん。自分の放った弾幕の特性は?」
「どこまでもいく追尾機能・・・まさか!?」
「そうだよ」
鏡夜の質問によって、私は背中の痛みがなんなのか理解した。
まず、私の放った弾幕は追尾機能が付いてる。これは、鏡夜をどこまでも追うというものだ。つまり、鏡夜と弾幕の間に私という壁が入ってしまい、鏡夜を追っていた弾幕が、私という壁に当たってしまったのだ。
ちなみに、何故この前のカロ戦で被弾しなかった理由は、自分の周りにっ結界を張っていたおかげである。
「流石」
「お褒めの言葉ありがとう」
「でも、鏡夜もまずは一よ」
「何を・・・!?」
私はニヤっと笑い、地面に予め貼っていた御札を起動させ、結界を作る。このお札は攻撃用ではなく、相手を閉じ込める結界だ。
「成程ね」
お札を結界に投げると、そこには何もないかのように結界をすり抜け、鏡夜にぶつかった。
「流石霊夢ちゃん」
「お褒めの言葉ありがとう」
私はすかさずお札を投げようとするが、その前に鏡夜が地面に向かって足を大きく振り下ろした。
「させないよ」
大きく足を振り下ろした衝撃のせいか、私の作っていた結界が破壊されてしまった。私は結界を破壊されると同時に後ろに下がり、鏡夜と距離をとった。
「さて、じゃあちょっとだけ本気を出しますか」
鏡夜は笑顔を浮かべると、スペルカードを取り出した。
「スペルカード宣言」
私は鏡夜のスペルカードに警戒し、いつでも逃げられる体制をとった。
「偽符『嘘つきの炎』
スペルカード宣言が終わると同時に、鏡夜の周りに無数の火の玉が出現した。
「さあ、踊ろうか」
無数の火の玉は私の周りを囲むと、次々と私に向かって飛んできた。
飛んでくるのはいいのだが、厄介な部分があった、それは、一つ一つの火の玉の速度が違うのだ。赤は普通、緑は若干遅い、青は速い、っといったように一つ一つの火の玉の速度が違うのだ。
「でもこれぐらいなら」
一分ほど避け、そろそろ全ての色(大体十色くらい)の火の玉の速度を覚え余裕で避けていると、急に火の玉の速度が変わった。
「く!」
突然速さの変わった火の玉に手こずり、再び避けていると、また速度が変わった。そして、そこから二、三回程速度が変わった後、ようやく火の玉が消えた。
「おお~よく無事で避け切ったね」
「あたり・・・まえよ・・・・・・」
当たり前と言ったが、息は切れ内心とても疲れていた。最後の方は無理やり気合で避けていたくらいだ。
「そう」
「ええ・・・」
何とか呼吸を戻し、再びお札と退魔の針を鏡夜に向かって投げた。だが、鏡夜は軽く横に避けるだけで弾幕を躱す。
「だから、一度見た弾幕は効かないの」
鏡夜はそう言うと、先ほどの火の玉を投げつけてきた。火の玉を躱す時に、僅かにかすった。その時に、普通は服が僅かに燃えると思っていたが、何も起きなかった。
「?」
そのことに疑問を感じつつ、次々と飛んでくる火の玉を避けていると、突然鏡夜が火の玉を投げるのをやめた。
「霊夢ちゃん。周りを見てごらん」
私は鏡夜に警戒しつつ周りを見た瞬間、冷や汗が流れた。
「な、何よこれ」
そこには、先ほど躱した火の玉があったのだ。いや、それは別にいい。問題は、その火の玉が分裂して増えていたのだ。
「スペルカード宣言」
「ここで!?」
私は勢いよく振り向いて鏡夜を見ると、スペルカードを握っていた。
「偽符『火竜の怒り』」
鏡夜のスペルカード宣言が終わると、背後から炎が燃え上がる音が聞こえた。私はその音に驚き振り返るとそこには―――巨大な炎の竜がいた。
「な、なにこれ・・・」
唖然とその竜を見ると、竜は大きく吠えた。
<ギャァァァァアアアアア!!!!>
私は竜の咆哮に一瞬怯んでしまうが、すぐさま龍を睨み、お札と退魔の針を握った。
竜は深く頭を下げると、その巨体に似合わない速度で迫ってきた。私はその予想外の速度驚き、躱せなかった。当たると思い、身構えると・・・
「え?」
竜は私に当たらなかった。いや、正確には竜は私をすり抜けた。
「霊夢ちゃん。戦ってる相手を間違えちゃダメだよ」
竜が通り過ぎてしまったことに戸惑っていると、背中に衝撃が走った。
私はその衝撃で、自分が相手してるのが誰なのか再認識した。そう、戦っているのはあの竜じゃない、鏡夜なのだ。故に、あの竜とは戦わなくてよかったのだ。
私はそこに気づかなかったことに悔しさを感じたが、すぐに気持ちを切り替え、鏡夜に向かって飛び出した。
<ギャァァァァアアアアア!!!!>
「邪魔よ!」
鏡夜に向かう途中、先ほど竜が雄叫びを上げ、邪魔をしてくるが、私はその竜が通り抜けられることが分かっているので、竜に突っ込んだ。竜を通りに抜けると、そこには鏡夜がいたため、私はすぐにお札と退魔の針を投げた。
避けらると思っていたが、その攻撃は以外にも鏡夜へと直撃した。
「臆さずに、よく突っ込んできた。これはそのご褒美だよ」
「そう、だったら早くやられて頂戴」
「もうちょい付き合ってよ」
もう体力の限界も近づいてきた私は、再びお札と退魔の針を投げつけた。当然のように鏡夜は躱すが、私はそれでも構わずに投げ続けた。
「おっと」
徐々に密度を濃くしていき、鏡夜の逃げ道を無くす。徐々に追い詰めていき、鏡夜はその場に止まった。
「そこ!」
鏡夜が止まった瞬間、退魔の針を投げる。
「そろそろかな」
鏡夜は何か呟くと、先ほど鏡夜に投げた針は、鏡夜に当たらず地面へと逸れた。更に、周りにあったお札も地面へと逸れた。
「さて、霊夢ちゃん。そろそろ、終わりにしようか。次の攻撃を避け切れたら霊夢ちゃんの勝ちね」
鏡夜は笑顔で言うと、足元によくわからない魔法陣が出現した。そして魔法陣は鏡夜の足元から頭の頂辺まで行くと、消えた。
魔法陣は消えたのだが、今度は鏡夜がおかしかった。何がおかしかったって、鏡夜の体から電気が流れていたのだ。
「霊夢ちゃん。自分の最も最強だと思う結界を貼りなさい」
「どうして・・・」
「いいから、貼りなさい」
訳がわからないが、取り敢えず、最も強固な結界を五重にも張った。結界が貼り終わると、鏡夜はスペルカードを取り出した。
「これは、パクリだからあまり使いたくなかったんだけどね。スペルカード宣言!」
鏡夜はスペルカードを空高く投げながら、宣言する。
「科符『電撃姫の必殺技
空高く飛んだスペルカードは一瞬光ると、カードの姿から銀のコインへと変わった。
「さあ、これがラストだ」
先ほど鏡夜が纏っていた電気は空高く飛んだコインに集まる。そのコインが鏡夜の前にくると、鏡夜はそのコインを指で弾いた。キンっと高い音が鳴ると、そのコインは・・・
「え・・・」
いつの間にか、私が張った最初の結界に当たった。コインは私が張った結界の一枚を易易壊すと、二枚目に当たった。しかし、二枚目もすぐに壊れ、三枚目、四枚目と壊された。
「ちょちょ、まっ・・・」
あまりの威力戸惑いながらも、最後の結界に霊力を込める。徐々に結界にコインはめり込んでくるが、コインが半分入ってきたところで、何とか止まってくれた。
「ありゃりゃ、やっぱり止められるか」
鏡夜はやれやれといった感じで頭を振ると、両手を大きく広げた。
「さあ、霊夢ちゃん。止めを差していいよ」
「わかったわ」
私は鏡夜の元に近づいた。
「本当にいいのね?」
「ああ、いいよ」
「そう」
鏡夜の言葉を聞いた瞬間、私は笑顔でスペルカードを取り出した。
「スペルカード宣言」
「ちょっ、霊夢ちゃん?」
鏡夜は若干慌てたように言ってくるが、そんなのは無視して、スペルカードを発動した。
「霊符『夢想封印』」
「マジで~」
四つの光の珠は鏡夜にぶつかると、爆発した。これが、十年間放ったらかしにされた、私の寂しさの威力よ!
どうでしょうか? わからないところがありましたら、感想に書いてください。
感想、誤字、批判、アドバイス、お待ちしております