では、第三十三話をどうぞ。
Side鏡夜
「さてさて、では早速練習してみましょう!」
「おー!」
な~んかテンションがおかしいいが、まあそこは気にせずスルーしてくれ。
あの戦闘があった日から一日経った。現在、俺とカロと咲夜ちゃんは庭にいた。
「で、何故、カロさんがいるのですか?」
「それはだね、私は飛び方など教えられないからです!」
「そうなんですか?」
咲夜ちゃんは首を傾げながら聞いてくる。いやね、俺の飛び方って、昔、紫ちゃんに聞いたけど一般の人がやるにはかなり難しいらしい。ちなみに、カロはこれやる前に飛べるか聞いたら、紫ちゃんと旅してた時に、半年で二人共飛べるようになったらしい。
で、今日カロには咲夜ちゃんの飛ぶのを教える手伝いに来てもらったって訳。
「いやね、私の飛び方は特殊だからね。教えても多分できないんだよ」
「そうですか・・・カロさんは飛べるのですか?」
咲夜ちゃんはカロに話しかけるが、カロは立ったまま寝ていた。
「カロ、カロ~」
「んが・・・ああ、うん、聞いてる聞いてるよ~今日の夜ご飯でしょ~?」
「アホ、違う」
寝ぼけているのか知らないが、カロは頭を掻きながら、全然関係なことを言ってくる。俺はそんなカロに呆れつつ、頭にチョップを入れた。
「痛った~冗談だよ~」
カロは涙目で頭を摩りながら言ってくる。
「じゃあなんて言った?」
「卵の・・・」
「てい!」
「痛!」
再びチョップすると、今度はしゃがんで頭を抑えてしまった。
「冗談だよ~」
「次はないよ?」
俺は笑顔になりながら言うと、カロは若干青ざめながら首を振った。
「わかったから~怖い顔しないで~」
「よし、じゃあ何するかわかるよね?」
「咲夜に飛ぶ方法を~教えればいいんでしょう~」
「ハイ正解、よくできました」
ようやくまともな事を言ったので、カロの頭を撫でておいた。何か頭を撫でたらメッチャ笑顔になった。
「じゃあ咲夜~こっち来て~」
「わかりました・・・では鏡夜さん、教わってきます」
「ああ、行ってらっしゃい」
そのまま二人は少し離れた所で何か話し始めた。俺はというと、庭に置いてある椅子に座って二人を眺め続けた。
Side咲夜
「じゃあ始めるよ~」
「はい、お願いします」
先ほどいた場所か少しだけ移動すると、カロさんは話し始めた。何故移動したのだろうかという疑問はあったが、特に気にする必要はないと思い即座に考えるのをやめた。
「では最初に~飛んでみるから~」
「はい」
カロさんはそう言うと、私の身長ぐらいの高さにふわっと浮かび上がった。
「お~」
「こんな感じね~」
「成程」
私が納得すると、カロさんは急に落ちてきた。
「よっと~じゃあ、どうやるか教えるね~」
「お願いします」
そこからのカロさんの説明は簡単だった。本当に、え? それだけ? のような感じ。
「妖力を~体全体に纏って浮かべって思う感じ~」
「・・・物凄い簡単に聞こえるんですが、それって一番難しくないですか?」
私が呆れながら言うと、カロさんはやはは~っと笑って頭の後ろを掻いた。
「いや~教えてと言われても~私は人には教えたことがないから~よくわかんないんだよね~」
「・・・まあ、やってみます」
「頑張って~」
私は自分の霊力? っとこの前鏡夜さんに言われた物を、全身に感覚的に纏っていく。そして、ちょっと息を吐いて浮かべと思う。すると・・・
「わっとと」
ふわっと地面から離れる感覚がした。
「お~早いね~」
カロさんが何か言ってるが、私はそんな事を気にしていられなかった。何故なら・・・
「ちょっ! ドンドン上がっていくんですけど――!!」
私の体はドンドン上がって行き、とうとう紅魔館の屋根上まで来てしまった。
「大丈夫かい?」
突如、肩に誰かの手が置かれ、その手のお陰で私の体は止まった。
「あ、鏡夜さん」
肩の方から後ろを見るとそこには、鏡夜さんが白い羽を生やして飛んでいた。
「やっほ、咲夜ちゃん早速で悪いけど、目を閉じてその場に浮く感じを思い浮かべて」
「はい」
私は言われた通り、目を瞑ってその場に浮く感じを思い浮かべた。
「そうそう、その調子」
目を閉じ、その場に浮く感じを思い浮かべていると、肩から鏡夜さんの手の感触がなくなった。
「よし、目を開けてごらん」
「うわ~!」
目を開けるとそこには、自然豊かな世界が広がっていた。
「綺麗ですね」
「そうだね」
そうして見渡していると、一つ見慣れないものがあった。
「鏡夜さん、あれはなんですか?」
「ん? どれどれ」
私が指差す方を鏡夜さんが見ると、苦笑いを浮かべた。
「ああ、あそこは神社だよ」
「神社ですか?」
「そうだよ・・・この異変が終わったら行ってみようか」
「はい!」
そんな感じで話しをしていると、鏡夜さんは何故か笑い始めた。
「どうしたのですか?」
「ふふ、いやね、咲夜ちゃんが自然と飛べてるな~っと思って」
「え?」
自分でも気づかぬうちに、私はいつの間にか自然と空を飛べていた。
「わ~!」
空中に浮いたまま喜ぶと、そっと鏡夜さんが頭を撫でてくれた。
「よくできました」
「ありがとございます」
私は空にうけた喜びと、鏡夜さんに褒めてもらった喜びで顔を真っ赤にしてしまった。
「じゃあ咲夜ちゃん。手を握って」
「わかりました」
鏡夜さんは私の頭から手を離すと、私の前に手をさし伸ばしてきた。私はもうちょっとだけ撫でてもらいたかったが、言わずに鏡夜さんの手を握った。
「じゃあ、行くよ」
その言葉と同時に、鏡夜さんは私の手を握りながらゆっくりと進みだした。
「どうしたのですか?」
「ん? 飛ぶコツがわかるかな~っと思って」
鏡夜さんはそう言うと、紅魔館をぐるっと一周する形で飛び始めた。
「成程、わかりました」
一周し終わると、私はなんとなく飛ぶ感覚がわかった。
「じゃあ、一人で飛べる?」
「はい」
鏡夜さんが握っていた手を離すと同時に、私は前に進むようにした。表現が曖昧なのは、私も感覚でやっているからだよ。
「こうかな・・・いやこうだ」
そのままゆっくりと進み、徐々に速度を上げていった。そして最終的には、自由に飛べるようになった。
「おお、凄い凄い! よし、じゃあそのまま下に降りよっか」
「はい」
私は足からゆっくりと降りていき、鏡夜さんは翼を消して落ちていった。・・・って、え?
「ちょっ! 何やってるんですか!?」
「ああ、大丈夫」
鏡夜さんはそう言うと、地面に足が着く前に思いっきり足を伸ばした。すると、地面には足の形をした穴があいた。
私はというと、ゆっくりと地面に降りた。
「おお~お帰り~」
「ただいまです・・・じゃなくて、鏡夜さん、何やってるんですか!?」
カロさんが話しかけてくるが、そんなことより鏡夜さんの方が心配だった。
「大丈夫、大丈夫だって」
詰め寄りながら聞くと、鏡夜さんは手を上げて大丈夫だということを表現してくる。それでも私は詰め寄ると、鏡夜さんは~とため息を吐いた。
「は~咲夜ちゃん、これ以上質問すると・・・」
「な、何ですか?」
何故かは知らないが、鏡夜さんがいつもより威圧的になった。私は若干怯むと、その隙に鏡夜さんは顎を持ち上げてきた。
「キスしちゃうぞ」
「え・・・あ・・・ええ!?」
鏡夜さんの言葉を聞いた瞬間、私は変な声を上げて顔を真っ赤にしてしまった。
「そんな、いや別に嫌いむしろ好きですけど、でも、レミリアさんやフランさんが・・・でも、その・・・」
顔を真っ赤にして、頬に手を当てて頭を振りながら、何を言ったかはわからないが取り敢えず色々なことを言ってしまった。
「あの~咲夜ちゃん?」
「ですが、あ、でも、その・・・ああ」
「どうしよう、カロ」
何か鏡夜さんが言ってるが、私は自分の思考を整理するだけで手一杯だったため、何を言っているかわからなかった。
「取り敢えず~叩けば~?」
「そうしますか」
「でも、あの~・・・いた!」
思考を整理していると、急に額に僅かな痛みが走った。
「あ~戻ってきた?」
「あ、はい、すみません」
鏡夜さんを見ると、手をデコピンのままにして聞いてきた。何か不味い事を行った気がするが思い出せない。
「じゃあ・・・」
「あの~」
「どうしたの?」
「キスの方は?」
「三年後ね」
キスの事を聞いてみると、三年後と言われてしまった。今欲しかったのにと内心思いつつ、平然を装った。
「そうですか、絶対忘れませんからね! 楽しみにしてます!」
「楽しみにしててね・・・じゃあ、これから遠距離の修行を始めるよ」
「はい!」
こうして、空を飛ぶ練習は終わり、キスの約束をしてから、遠距離の修行となった。
Side鏡夜
「何か前にもしたけど、どうだった?」
「疲れ・・・ました」
キスの約束をした後、遠距離の修行に移った。ん? 何二人も婚約者がいて別の子とキスしようとしてんだって? まあ、その程度じゃあ俺と二人の関係は変わらないから大丈夫。
でだ、遠距離の修行のことだが、今俺の足元には汗だくの咲夜ちゃんが倒れている。何をしたか簡単に言うと、ひたすら俺の魔力弾を避けさせ続けた。ちなみに、カロは仕事に戻ったよ。
「まあ、あれだけ避ければそうなるよね」
どれくらいかっていうと、同時に五発くらいが一斉に咲夜ちゃんの方に向かって飛んでいく感じ。それに慣れたら、ちょっと速度を遅くしたり早くしたりして、変化をつけて一時間ほどやったよ。
「そうですよ、少し休ませてください」
「いいよ、じゃあ休んだら次はナイフ投げをするよ」
「はい」
ちなみに咲夜ちゃんの遠距離攻撃はナイフにした。ナイフにした理由は、近距離、遠距離を一つの武器でできるし、無駄に霊力使わなくても済むしね。
それと、ただいま咲夜ちゃんのナイフを作成中です。
「じゃあ、三十分後」
「はい」
三十分経った後、咲夜ちゃんは一つの丸太に向かって、ナイフを投げていた。
「ふっ!」
勢いをつけてナイフを投げると、丸太の端っこを掠って地面に落ちた。
「ん~難しいですね」
「まあ、慣れれば楽だよ」
地面に落ちたナイフを取り、俺は咲夜ちゃんのいたところまで戻る。そして、咲夜ちゃんの所まで戻ると、俺は丸太に向かってナイフを投げた。
ナイフは風を切る音を出しながら丸太に刺さった。が、あまりにも勢いが強かったのか、丸太を突き抜けて、後ろの鉄格子に刺さってしまった。
「あらら」
「どうやったらあんなにできるのですか?」
「・・・練習?」
疑問系で答えると、咲夜ちゃんはは~っと息を吐いて呆れられてしまった。
「まあ、頑張ります」
「応! 頑張って」
咲夜ちゃんはナイフを鉄格子から引き抜くと、またナイフ投げを始めた。
さて、二年が経った。現在の咲夜ちゃんはというと・・・
「動かないでくださいよ、鏡夜さん」
笑顔でナイフを投げるようになりました。丸太には百発百中、止まっていたら狙った場所には当たる。何かヤバイ人になりました。
「いや~咲夜ちゃんも逞しくなって、おじさん涙が出ちゃう」
そして俺は、空中で後ろに飛びながら、真っ直ぐ顔面に飛んでくるナイフを指の間で挟んで落としていく。一切の躊躇も投げてくるし、時間を止めてナイフを回収しているため、ナイフがなくなるということがない。
「そんな~まだ若いじゃなですか~」
そんな事を言いながら、三十本近いナイフを時を止めて一気投げてくる。これ、普通の人はキツくね?
「いやいや、もうおじさんだよ?」
そろそろ精神的に疲れてきたため、パチュリー様に使ったあの炎を両手の平に出す。そして、右手の炎を投げる。ちなみにこの炎は熱かったりしないからね。
「うわっと! 危ないですね」
咲夜ちゃんが炎に気が向いている間に、俺は即座に咲夜ちゃんの後ろに回り込み、炎を背中に押し当てる。
「はい、私の勝ち」
負けを認めたのか、咲夜ちゃんは持っていたナイフを下げると、袖の中にしまった。こんなギミックを教えなければよかった。
「は~参りました。流石に強いですね」
「ハハ、年季の違いだよ」
俺と咲夜ちゃんはゆっくりと地面位降りた。
「よいしょっと」
「ふ~楽しかったです」
満足そうに咲夜ちゃんはうんうん頷くと、ナイフを手の中で遊び始めた。
「・・・よし! 決めた!」
「何がですか?」
恍惚とした表情でナイフを見ている咲夜ちゃんに、俺はやらねばいけない事を考えついた。
「え~これで遠距離の練習は終わりです。そして今年から、実践にいこうかと思いましたが、変更します」
「何に変更するのですか?」
ナイフを持ちながら首を傾げる咲夜ちゃんを見ながら、絶対やらねばならいといけないと再度決意した。
「今年から、家事、勉強を教えていきます・・・それと常識」
夜中のテンションって怖いですね。咲夜ちゃんがキャラ崩壊起こしましたよ。・・・本当はこうする予定ではなかったのに。
感想、誤字、アドバイス、お待ちしております