二人の吸血鬼に恋した転生者   作:gbliht

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今回で地霊殿編終わりです! 地霊殿のキャラは永夜抄が終わり次第また出てきます!

では、第百話をどうぞ。


第百話 紫の計画

side鏡夜

 

「……へ~。成程ね。記憶の封印を解いてみたら、これはなんとまあ、言葉では表せられないようなくらい悲惨だこと」

 

スキマの中を歩いていた俺は、厳重な封印が何十にも掛けられていた記憶を、あらかた解いていた。

 

重要な部分――――――俺が創られた理由や創った人物の顔等の記憶は封印されているのではなく、無くなっているので分からないが、それ以外の記憶は大体思い出せた。

 

俺はどうやら、実験的に作られていたらしい。らしいというのは、あくまで俺の憶測であるからだ。

 

開放した記憶の中には、薬物の投与。拷問。その他諸々。言葉で表せない凄惨な記憶が数多くあった。常人ならば狂い出すような記憶の数々。まあ、俺には関係ないね。

 

過去は過去。今は今。どうでもいい。

 

「思い出したはいいけど、至極どうでもよかったな。……しかし、本当にこれは俺の記憶なのか?」

 

創られ、封印されていた俺の記憶。些か、引っかかるところがあるんだよな。

 

「ま、そんなこともどうでもいい。俺は今を生きるだけだ。一年後を楽しみにな」

 

スキマを出てみると、そこは月明かりが差し込む竹林の中だった。この前来た時は中しか見なかったから分からなかったが、意外と大きな診療所だな。

 

「咲夜ちゃんは……お、いたいた……ってあれは誰だ?」

 

竹林を少し歩き、診療所の門まで行くと、そこにはいつものメイド服を着た咲夜ちゃんと、何故だがブレザーを着てうさ耳を生やした紫色のロングストレートヘアーの少女がいた。

 

見たことない。人里にたまに行くが、そこでも見かけないな。誰だ?

 

「咲夜ちゃん、お待たせ」

 

「鏡夜さん。お迎えありがとうございます」

 

「鏡夜……?」

 

咲夜ちゃんに片手を上げながら近づくと、隣の子が首を傾げた。

 

「初めまして……でいいのかな?」

 

うさ耳少女に声を掛けると、ビクッとうさ耳が震え、咲夜ちゃんの後ろに隠れる。あらら? 俺何かしただろうか。

 

「ああ、鏡夜さん。この娘は私の看病をしてくださった鈴仙・優曇華院・イナバさんです。彼女は人見知りらしく、ある程度仲良くないと隠れてしまうらしいんです」

 

人見知りね。だから、人里でも見たことないのか。しかし、人見しりなのに咲夜ちゃんを看病したとは、アレか、仕事はきちんとこなす娘なのかな?

 

「そうなのか……ふむ、名前が長いな。どう呼べばいいものか……」

 

鈴仙・優曇華院・イナバ。

 

流石にこれ程の名前だとフルネームで呼ぶのは辛い。かといって、どこかを区切ってニックネームで呼ぶというのも、人見知りの彼女に対して馴れ馴れしすぎる。名前で呼ぶにも、そもそもどこが名前か分からん。

 

……仕方ない。フルネームで呼ぶか。

 

「えっと、鈴仙・優曇華院・イナバさんでいいかな?」

 

「……鈴仙でいいです」

 

「分かった。鈴仙。今回は咲夜ちゃんを看病していただきありがとう」

 

「別に構いません。お師匠様に言われたからやっただけです」

 

咲夜ちゃんの後ろから少しだけ顔を出して言ってくる鈴仙。

 

お師匠様……つまり、この娘が咲夜ちゃんを治してくれたわけではないのか。出来れば、お師匠様の方にも挨拶したいんだが。

 

そもそも、今回、病気を治してくれたんだから、何か直接お礼をしたいのだが。主にお礼は金か料理だが。

 

「鈴仙。そのお師匠様に今回のお礼をするために会いたいんだが、今は大丈夫か?」

 

「お師匠様は今仕事中なので、私がお礼を受け取っておきます」

 

「そうか……で、お礼は何をすればいい?」

 

「え……?」

 

咲夜ちゃんの後ろで固まってしまう鈴仙。いや、固まられても困るんだが。

 

「お礼を考えてないのですか?」

 

「勿論。そのお礼を、何がいいか聞きたいからお師匠様に会いたかったんだが……」

 

「……」

 

「お礼の候補としては金か料理なんだが……他に何かあるか?」

 

頑張れば他にも色々と出来るが、今はこれくらいしか思いつかない。そもそも、相手の好みなどが分からないので、他のお礼が考えられない。

 

しばらく考えた鈴仙は、何思いだしたのか、ブレザーのポケットから何か取り出した。

 

「お金の方はこちらになっています」

 

差し出された物を見ると、料金が書かれた紙だった。

 

なんだか、桁数が二つくらい多くないですかねえ。払えない料金ではないけど……。

 

取り敢えずスキマを開き、中から金の入った袋取り出す。金なんて特に気にしたことないから、中身がちゃんと入っているかわからないが、まあ、入ってるだろう。

 

「ほいこれ。中身は多くてもこのまんま受け取ってくれ。いらないから」

 

おずおずと手を伸ばしてくる鈴仙の手にお金の入った袋を渡す。

 

「……え! こんなに!?」

 

中を覗いた鈴仙は驚いた表情のまま、俺の方を見て来た。

 

そんなに驚く程入っていたか? たいした額は入っていないと思うんだが。

 

「どれくらい入っていたか分からないが、取り敢えずそのまま受け取ってくれ。多い分はさっき言った通り受け取ってくれ」

 

さて、そろそろ夜も深まってきた。これ以上遅くなると、寝る時間がなくなってしまう。

 

「それじゃあ、咲夜ちゃん。そろそろ帰ろうか」

 

「はい。……それでは、鈴仙さん。私は帰りますね。看病ありがとうございました」

 

鈴仙から離れた咲夜ちゃんは鈴仙に頭を下げると、俺の手を握ってきた。

 

「別にいいよ。それが私の仕事だし……」

 

「ふふ、そうですか。では、また会いましょうね」

 

「それでは、鈴仙。お師匠様によろしく言っておいてくれ」

 

鈴仙に頭を下げた俺は、咲夜ちゃんの手を握り返し、踵を返して歩き始めた。

 

ここから大体一時間もあれば帰れるだろう。いざとなれば、咲夜ちゃんを抱えて飛べばいいし。

 

「鏡夜さん」

 

「ん?」

 

隣を歩いていた咲夜ちゃんが急に俺の腕にくっついてくる。

 

「迎えに来て下さり、ありがとうございます」

 

「何言ってんの。家族なんだから当然でしょう」

 

家族。立ち位置的に言えば俺はお父さんだからな。咲夜ちゃんは娘。父が体調を崩した娘を迎に来ないわけないだろう。

 

「……そうですね」

 

「ああ……それと一言。今度からは無理しないように」

 

「はい、わかりました」

 

 

 

そんな会話をしながら歩くこと一時間くらい。俺と咲夜ちゃんは紅魔館へと帰ってきていた。

 

帰ってきたのはいいんだが、どうしてだろうか。紅魔館の中がメチャクチャだ。あらゆる物がブッ壊れている。一応、壊れている物が直せるもので良かった。

 

壊れているものを直しつつ歩き、紅茶を飲む場所へつき扉を開けると、そこにはスヤスヤと気持ちよさそうに寝ているお嬢様達と鏡華と鏡夢の四人が。

 

「……咲夜ちゃん。帰ってきてそうそう悪いんだけど、料理作るの手伝ってくれない?」

 

「はい、了解しました」

 

四人にスキマから取りだした毛布を掛け、調理場へと向かう。起こすのは食事の時でいいだろう。

 

「この四人にいい夢を」

 

 

 

side紫

 

「だめよ」

 

「どうしてですか!」

 

私は現在、地霊殿へと来ていた。

 

来た理由は簡単。さとりに呼ばれたから。なんでも、重要な話があるということで、この地霊殿へと呼ばれた。

 

本来、地上の妖怪とこの地下の妖怪が交流を持つことは禁じられているのだが、それでも尚さとりは来てくれと頼んできた。

 

ここまで彼女が心を乱すのは珍しい。いつもこちらの感情を読むだけで、自分の感情は表に出さないような人物だ。そんな彼女が、自分の感情をあらわにして取り乱していたのだ。異常すぎる。

 

急いで藍と共に駆けつけてみれば、そこには血に濡れてグッタリとしており、今にも死にそうになっている古明地妹の姿が。

 

どうしてこんな事になったのか気になったが、私と藍は急いで治療に取り掛かった。治療といっても、古明地妹も妖怪である。人間よりは治癒力も高く、妖力を流してあげるだけで、一命は取り留めた。

 

その後、治療を済ませた私は藍を看病に当たらせ、さとりと古明地妹と一緒にいた化け猫を連れて別の部屋へと着ていた。

 

そして別の部屋へと着いた私は、何故古明地妹があのような姿になっていたのか。その理由を化け猫から教えてもらった。

 

なんでもこの化け猫は鏡夜を殺そうとしたらしい。どうして殺そうとしたかを問うと、化け猫は上からの命令でと答えた。……軽くこの化け猫を殺したくなったが、この殺意は四季映姫と戦う時まで取っておこう。

 

地霊殿の上と言えば、閻魔かそれ以上に偉いものだけである。

 

誰に命令されたのかと聞けば、四季映姫だそうだ。先程まで私と話していたはずの四季映姫が何故そんなところにいるのかは疑問ではあったが、化け猫の話はそれで終わらなかった。

 

四季映姫は現れると、古明地妹を挑発したらしい。……いや、正確に言えばそれは挑発でも何でもないと思うのだが、少なくとも古明地妹には挑発に聞こえたらしい。

 

挑発された古明地妹はそのまま怒りに任せツッコミ返り討ち。これが、古明地妹があんな風になっていた理由だ。

 

……さて、では私が何を断ったのか。それは、こういう理由だ、

 

「貴方達を三途の川へは行かせない。少なくとも私は貴方達を連れてはいかない」

 

彼女達は、古明地妹の仇討ちをするために、四季映姫の所まで連れて行ってくれと言ってきたのだ。

 

これは断るしかない。今は四季映姫に会う機でも無いし、ましてや勝てない相手に無謀な仇討ちを挑ませるわけには行かない。

 

「一年後でもいいんです! あたい達を連れて行ってください!」

 

「一年後? 何故一年後なの?」

 

キッと化け猫を睨みながら言うと、化け猫は少し縮こまって小声で話し始めた。

 

「四季映姫様が、そう言ったんです。……約一年後、大きな異変が起こるから、その時にでも幻想郷の賢者にでも連れてきてもらいなさないって……」

 

四季映姫が指定したのは、約一年後。アルレシャが指定したのは、一年以内。

 

どちらとも一年という時間の中である。……この二人は繋がっているのか? ……いや、それよりもこの幻想郷に大きな異変が起こるだと? 何を知っている四季映姫。

 

これは、少し危険を冒してでも三途の川にあった何かを見つけるしかない。

 

「……それでもダメよ。貴方達は連れては行かないわ」

 

「ですが……」

 

「私は無理矢理にでも付いて行くよ」

 

「ッ!?」

 

化け猫が大声を上げてしゃべり始めようとした瞬間、第三者の声が聞こえてくる。

 

声の発生源を辿ってみれば、そこには先ほどまで死にかけていた古明地妹が藍の肩を借りながら、ふらふらと歩いてきていた。

 

「こいし! 無理しちゃダメよ!」

 

「ごめんね。お姉ちゃん。でも、この話は私がしないといけないから」

 

藍の肩を借りつつ歩いてきた古明地妹は、私の前まで歩いてくると、頭を下げた。

 

「お願いします。幻想郷の賢者さん。私を、連れて行ってください」

 

「駄目なものはダメ。貴方達は連れて行かないわ。それに、そもそも貴方は何故あのような事で怒ったのかしら? そして、何故貴方は四季映姫の下へ向いたいのかしら?」

 

いや、怒った原因はわかる。鏡夜と言う自分を大切に思ってくれた初めての他人を殺されかけた事と、自分の家族を弄ばれたからだろう。

 

ならば、何故私がこのような質問をしたのか。それは、あくまであの考えは私の予測でしかないからだ。しっかりと、古明地妹の意思をこの娘自身の言葉で知りたい。そして、この娘は私が信頼するに値するかどうかを見極めたい。

 

古明地妹はギュッと自分のスカートを握ると、ポツポツと話し始めた。

 

「私は、四季映姫に家族を馬鹿にされた。利用された。弄ばれた。大事な大事な私の家族をアイツは! ……だけど、それ以上に怒ってる理由がある」

 

そこで一旦言葉を区切った古明地妹は私を睨むような目で見る。

 

「アイツは! 私の大切な家族だけではなく、私の大切な人をも殺そうとした! 私の事を可愛いとあの人は言ってくれた! 嫌われ、怖がられ続けていた私を怖くないと言ってくれた! そして何より! あの人は、私の事を見つけてくれた! そんな人を! アイツは私の大事な家族を使って、大切なあの人を殺そうとした!」

 

大声で怒鳴るように言ってくる。……この娘はやはり、とてもいい。

 

「だから! 私はアイツの下へ行って! 一発殴らないといけない! なんとしてもアイツだけは殴る! それが! 私がアイツの下へ行く理由であり! 怒ってる理由だ!」

 

はぁはぁと息を切らしながら、肩で息をする古明地妹。

 

「……そう。藍、その娘を化け猫に預けて、私の方に来なさい」

 

「はい」

 

私は一つ頷いてから、藍を自分の下へこさせる。

 

決めた。この娘は信頼できる。何があろうと、この娘ならば絶対に四季映姫の下へと来てくれる。

 

「待って! 結局私を連れて行ってくるれるの!」

 

「いいえ、私は貴方達を連れては行かないわ」

 

「なッ!」

 

化け猫の肩を借りて言ってきた古明地妹は驚きの表情のまま固まる。その間に、私はスキマを開き、家へと直結させる。

 

「理由を聞いたけど、私はやはり、貴方達を連れていく気にはなれないわ」

 

「それじゃあ――――――」

 

「ただし」

 

片足をスキマに入れて、少しだけ振り向いた私は、人差し指を唇に当てながら微笑む。

 

「勝手に来るならいいわよ。来れなくても、どこかの誰かが連れて行ってくれるでしょう。もしかしたら狐とかが連れて行ってくれるかもしれないわ。じゃあ、そういう事で。また逢いましょう」

 

手を振りながら、スキマへと完全に入った私と藍はスキマの入口を閉じる。

 

「……紫様、素直じゃありませんね」

 

スキマを閉じると、苦笑いしながら藍が言ってくる。

 

「違うわよ、藍。あれは素直とかじゃなくて、ごまかしながら言ったのよ。もしかしたら、あの光景を四季映姫はどこかで見ているかもしれない。……まあ、そこまでごまかした言い方はしてないけどね」

 

「成程……それで、何故あのような事を言ったのですか? 紫様が連れていけばわざわざあのようなことは言わなくてよろしいと思うのですが?」

 

「……藍。私はこれから、三途の川に何度か足を踏み入れるわ」

 

「それはつまり、何か仕掛けるのですか?」

 

「仕掛けるのではなく、探し物をしてくるわ。出来るだけバレないようにするけど、もしバレて私が捕まった時は――――――」

 

「私が異変の時に連れていけばよろしいのですね?」

 

「ええ、その通りよ。だから、頼んだわよ」

 

「わかりました。最善を尽くします」

 

さて、これで私が捕まった時の対策は出来た。後は、如何に私が上手く三途の川にあったものを見つけて、取ってこれるか。これだけだ。

 

異変の方だが、そちらにも間に合うようにしたいが、もしかしたら間に合わないかもしれない。だが、幻想郷には最強の巫女と最強の男がいるから安心して任せられる。

 

「――――――お願いよ、霊夢、鏡夜。幻想郷を守ってちょうだいね」

 

 

 

Sideこいし

 

「ねえ、お姉ちゃん。さっきの言葉って……」

 

「ええ、つまりそういうことよ」

 

「だよね。……なら、私は早く体の傷を治して修行に取り掛からないと」

 

「珍しいわね。貴方が修行なんて」

 

「なんてたって、相手は閻魔様だからね。修行くらいしないと、一発殴るなんて夢のまた夢だよ」

 

「そう――――――なら私も手伝うわ」

 

「お姉ちゃんが?」

 

「ええ。私だって、妹が殺されかけたんですもの。怒るに決まってるでしょう。それに――――――」

 

「それに?」

 

「鏡夜を……随分と酷く言ってしまったから。貴方が大切にしている人を貶したのだから、その償いでもあるのよ」

 

「……償う必要はないと思うよ。鏡夜も気にしてなかったし」

 

「え! 聞かれてたの!?」

 

「聞いてたみたいだよ。でも、平気そうだったよ。私言われたし。『さとりがなんて言おうと、俺の気持ちに嘘偽りはないぜ。アレは本心で言ったことだ。例え紛い物だろうと、俺の気持ちには変わりはないからな』ってね」

 

「……そう。彼はそんなこと言ったのね。なら、やはり私は彼を誤解していた償いとして、こいしをの手伝いをするわ」

 

「お兄ちゃんに直接謝ればいいのに」

 

「は、恥ずかしくてそんなこと出来ないわ!」

 

「ふふ、おねえちゃん可愛い! ……じゃあ、燐! お姉ちゃん! 打倒閻魔のため、頑張ろうか!」

 

「はいっす! こいし様! あたいはどこまでもついていきますぜ!」

 

「でも、その前に傷を治しましょうね、こいし」

 

「はーい」

 




色々と中途半端っぽいですが、これで地霊殿編はおわりです。質問があれば、本編に差し支えないところは教えます!
次回より、永夜抄へと移ります!

感想。アドバイス。誤字。お待ちしております。

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