Angel Beats!~ちょ、俺まだ死んでないんだけどオオオオオオオオ!!~   作:日暮れ

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十六話が少なめだったのはこれをすぐに投稿するつもりだったからなんですよね。

まぁ何日か間空いちゃいましたけどww

何はともあれ十七話!

お楽しみください!


第十七訓

★―教員棟3階 空き部屋―

 

 俺はしばらくして、仲村と直井をまた同じ部屋に呼んだ。

 

 今度こそ……俺の死んだ時の記憶を取り戻すために。

 

 俺が真ん中にある机に座ると、直井はその向かいに静かに座った。

 

直井「……銀時さん。どんな過去を見ても、どうか自分を見失わないで……」

 

直井「もし、貴方がどうなっても……僕だけは、味方ですから」

 

「クサい、キモイウザいくどい近づくな変態」

 

仲村「ちょっと銀さんコレ一応原作どおりなんだからあんまりディスらないでよ!!」

 

「お前もこの展開で原作とか言ってんな前の話台無しじゃねぇか」

 

 やがて、『銀さんの一言なら何でも嬉しい!!』と悶えていた直井を何とか普通に持ち直し、催眠術をかけてもらう。

 

直井「では、いきます……」

 

 直井の目がしだいに赤く染まり……意識が海に沈む。記憶という波紋を広がらせる――

 

 

「おにいちゃん学校楽しい?」

 

 ――夏だった。セミがやかましく鳴く夏の日。

 

 その日オレは妹の見舞いに来ていた。

 

「……楽しかねーよ。学校なんか行ってねーから」

 

「行ったら楽しいかもしれないよ?」

 

「頭がよかったらそうかもな、だけどオレ馬鹿だからさ。成績悪い奴には居場所がない所だよ」

 

「勉強は楽しくないの?」

 

「楽しい訳ないだろ? 勉強だぞ?」

 

「友達は? お友達と遊ぶのは?」

 

「一人でテレビ見たり、ゲームしたりするのが楽しい。相手の趣味に強引に付き合わされたり、面白くもない冗談に笑ってやらなきゃいけなかったり……疲れるだけだよ」

 

「そお? ……わたしは勉強、楽しみだなぁ。友達作るのも、スポーツするのも楽しみ」

 

 妹のその言葉に思わず笑いと――少しの罪悪感がよぎる。

 

「……あ、そうだ。コレ」

 

 オレは鞄から包みを取り出すと、妹に渡した。

 

「うわぁ……ありがとうおにいちゃん」

 

 

「バッカヤロウ!!!!」

 

「っ…………」

 

 怒られて、頭を下げる。

 

 非礼を詫びる気なんて無い。ただ、形式として頭を下げる。

 

「……………………」

 

 オレは、生きている意味がわからない。生きがいを知らない。

 

 他人に興味なんか持てない。だから誰とも関わらずに今まで生きてきた、その方が楽だから。

 

 最低限食っていけるだけのアルバイトを惰性で続けて――そんな暮らしで、十分だった。

 

 

 ――それでもオレはずっと、妹にだけは会いに行っていた。

 

 なけなしの金で漫画雑誌を買っていく。いつも適当に、本屋で平積みになってるのを買っていくから同じ雑誌であるかどうかすらわからない。

 

 もしかしたら、違う雑誌になっていて話は繋がってないかもしれない。

 

 でも、

 

「ありがとう、おにいちゃん」

 

 妹は決まってそう言った。

 

 結局、オレからの物なら何でも嬉しいようだった。

 

 ……妹はオレとは違う。

 

 こんな体にも関わらず、生きることに希望を持ってるし生きる意味も……きっと見つけられるだろう。

 

 なのに、この二年ずっと、病気が治らず退院できないまま過ごしている。

 

(……可哀想に、代わってやれたらいいのに)

 

「……どうしたの? おにいちゃん」

 

「ん? あぁなんでもない。……面白いか?」

 

「うん。とってもおもしろいよ?」

 

「……そっか」

 

 ……最近、いつもそんなことを考える。

 

 代わってやれたらいいのに。何の希望もない、生きる意味すらわからない……こんなオレと。

 

 その蓮杖の思いが、オレをここまで通わせていた。

 

 

 ……冬になった。

 

「……髪、伸びてきたな……」

 

 夏もそうだが、冬のバイトはいっそう辛い。寒さで力が抜けていく。指先がかじかんで裂けそうだ。

 

 それでも、生きるために続ける。

 

(――『生きる』? 何のために?)

 

 ……考えちゃダメだ、考えてしまったらこのバイトすらも辞めてしまいそうだから。

 

 これを辞めてしまったら食っていけないし何より……妹に何も買ってやれなくなる。

 

 

「……ふぅ……」

 

 バイト後、オレはベンチに座り、缶コーヒーを両手に掴み一息つく。

 

 缶コーヒーは昔から好きだった。

 

 バイト終わりのかじかんだ手を、温かい缶コーヒーが暖めてくれる。

 

(……そうだ)

 

(クリスマスは、医者に相談して少しだけでも外に出られるようにしてもらおう)

 

(車いすは、雪が積もると使えないのかな……?)

 

(……だったらおんぶでいいや。アイツ一人ぐらい、いくらでもおぶって歩ける!)

 

(それで、好きな店で好きな物を買ってやろう)

 

(できれば、いいお店でケーキも食べさせてやりたい!)

 

(……だったら、もっと稼がないとな……!)

 

 

 クリスマスが近づいてきた十二月のある日。オレは妹に訪ねた。

 

「クリスマス……さ、出歩けるならどんなところに行きたい?」

 

 マスク越しのくぐもった声が俺の耳に刺さる。

 

「? 町の大通り……」

 

「ははっ、あんなところでいいのか?」

 

「だってね? 全部の木に電気がつくんだよ? 知ってる?」

 

「いや……クリスマスにあんなトコ行かねぇし」

 

「すっごくキレイなんだって。……去年からそうなんだって、先生がね? 言ってたの」

 

「へえ……じゃあさ、そこ行くか?」

 

「……行けるの…………?」

 

「行けるように掛け合ってみる。もしダメでも……ナイショで連れてってやるよ」

 

「ホント……?」

 

「あぁ、ホント」

 

「~~やったぁ! ありがとうおにいちゃん!」

 

 これまでで、一番大きな『ありがとう』だった。

 

 

 バイトの掛け持ちを始めた。

 

「……ちょ、何やってんの!」

 

「あぁ! す、すみません!!」

 

 前のようにミスをし、謝った。

 

 このバイトをクビになったら、妹に喜んでもらえない……!

 

 

「…………すぅ…………」

 

 家では、寝るだけになった。

 

 帰っても、ゲームをやる暇もなく布団に倒れこむ。

 

 ……今は、目的があるから働けている気がする。

 

 ただ一つ、心配なのは――

 

 アイツの容態が……悪くなっていることだった。

 

 

 外出の許可は当然出なかった。

 

 だからオレは、面会時間が終わった後、病室に忍び込み……妹を、夜の街に連れ出した。

 

 

 前に言っていた、町の大通りの真ん中を妹を背負いながらゆっくりと歩く。

 

 並木のすべてにライトが飾られており、色とりどりに光り輝いている。

 

 降る雪もあいまってそこは何か、神聖な物を感じさせた。

 

「スゲぇ……おい、見えてるか? スゴいぞ!」

 

「うん……すごくキレイ………………」

 

「だな……! すごくキレイだ! オレも見られてよかったよ……お前のおかげだな!」

 

「さぁて、これから楽しい時間が続くぞぉ! まずはプレゼントだ! 何でも買ってやる! にいちゃんこの日のために実はすげぇ貯金貯めて来たんだぜぇ? だからどんな高いものでも買ってやれる! 何がほしい?」

 

「お、まず店に入ろうか! 宝石店でもいいぜ?」

 

「あ、普通にデパートがいいか?」

 

「……おにいちゃん」

 

「うん?」

 

「……ありがとう、ね」

 

「っ……あぁ!」

 

「買い物の後にもなぁ? いいことが待ってるんだぞ!? 今度は夕飯だ、よくわからないけど……雑誌に載っていたいい店予約してあるんだ!」

 

「コースで決まったものが出てくるんだぞ? コース料理だぞ!? すごいだろ!? オレだって――――」

 

 

 

 ――その後も、オレは()()で喋り続けて……歩き続けた。

 

 

 オレは、一人になった。本当に……

 

 一人になって初めて気付いた。オレは本当に生きがいを持ってちゃんと生きていたんだ……生きる意味は、ちゃんとすぐそばにあったんだ……

 

 気付かなかっただけだ。オレはあいつに喜んでもらえるだけで、笑ってもらえるだけで……ありがとうって言ってもらえるだけで……生きていられたんだ。幸せだったんだ……

 

 ……馬鹿だ、オレっ……今頃気付くなんて。

 

 そんなに大切な存在だったのに、何も……してやれなかった。

 

 もっとたくさん会いに行ってればよかった。

 

 もっとたくさん漫画でも何でも買ってやればよかった。

 

 もっとたくさん……もっとたくさん……もっと、もっと――!!

 

 ずっと、ずっとあんな……

 

 ベッドで寝たきりで適当に買ってきた漫画読んでただけの人生だなんて……

 

 アイツは幸せだったのか……?

 

 

 ……そして、

 

 そんな、唯一の行き所を失ってしまったオレは、どうなってしまうのだろうか……

 

 気付かない幸せに満たされていた日々。

 

 でももうその時間は過ぎ去ってしまった。

 

 もうオレには、何も、何一つ――残されていない……

 

 

 目的もなく街を歩く。バイトをする気も起きない。家に居る気も起きない。何もする気もない。

 

 ふと、声が届いてきた。病院の入口の前で。子供の頭を撫でながら微笑む医者の声が。

 

「退院おめでとうねー!」

 

「うん! ありがとうございました!」

 

(――………………)

 

 その子供はとてもうれしそうに、心から、心の底から微笑んで、特大のありがとうを口にした。

 

 ありがとう……ありがとう、ありがとう――――

 

 ……まだだ。

 

 まだオレは全部失っちゃいない。

 

 オレはもう一度、生きがいを見つけられるかもしれない――!!

 

 

 勝手に足が動きだす。近くの本屋に転がり込む。

 

 財布の中身を全部ひっくり返し、医学関連の本を買いあさった。

 

 平積みになっている漫画雑誌を眼の端で捉えながら――今までで一番大きな一歩を踏み出した。

 

 

 助けるんだ。

 

 妹と同じ境遇に立っている人たちを。理不尽な人生を強いられている人たちを。この手で、オレの手で! オレの命で!!

 

 学校にも行った。勉強もした。バイトも続けた。

 

 絶対になってやる。今度は、今度こそ助けるんだ!

 

 

 ――電車の中だった。

 

 この日がついに来た、オレにとっての最大の試練の日――医大の受験日。

 

 オレは自分の受験票を目にする。

 

 もう少し――あと少しで、

 

 

 

 ――ゴウウウゥゥウゥゥン……

 

(……何だ?)

 

 ……!! ――――――――――

 

 ――大きく揺れた。

 

 ――辺りが暗くなった。

 

 ――悲鳴が聞こえた。

 

 ――オレの受験票がどこかへと舞う。

 

 オレはそれを――音無結弦(おとなしゆずる)はそれを、掴むことはできなかった――

 

 

「――――っっ!?」

 

 しだいに目が開いた。目の前には、数分前に見たツラが二つ。

 

 催眠術が解けた……というより、俺の忘れてた記憶が全て蘇った、ってとこか。

 

 ………………

 

直井「ぎ、ぎぎぎ銀時さん!! 大丈夫ですか!? 悪いところはありませんか!? 僕がわかりますか!? あなたの直井文人です!!」

 

「お前なんか特売されてても買わねぇよ絶対」

 

 もう何年もここにいなかったような感覚が俺を襲う。俺の目には変わり映えのしない教室が映っているはずなのに。

 

直井「な、何を見たんですか銀時さん! 僕でよかったら聞き」

 

仲村「おぉーっとそこまで! 過去は詮索しない。死んだ世界戦線の掟よ? 銀さん、私たちは先に出て行くわ。落ち着いたら私のとこまで来なさい」

 

「おう」

 

 そう返事をすると、仲村とぶーたれながらもそれに続いた直井は教室から出て行こうとした。

 

「……ちょっと待て」

 

直井・仲村「……?」

 

「直井、お前俺にどういう催眠術をかけた?」

 

直井「え? 失われた記憶を思い出すように、と」

 

「……そうかい。サンキュ、んじゃお前帰れ」

 

直井「え!? で、でも銀時さ」

 

「今度一緒に食事でもどうだ?」

 

直井「お疲れ様でした銀時さん!!」

 

 直井がドアが吹っ飛ぶ勢いで部屋を出て行ったことを確認すると、俺は次に仲村に質問をした。

 

「……仲村」

 

仲村「何よ?」

 

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

仲村「――――……知らないわよ」

 

「……そうかい」

 

 

 俺の記憶じゃなかった。

 

 直井によって思いだした記憶は、俺と縁もゆかりもない赤の他人のものだった。

 

 赤毛で、病弱の妹がいて、イケメンで……

 

 何で? 何でそんなやつの記憶が――

 

 

 ……その日、夢を見た。

 

 いや、夢というにはあまりにも鮮明すぎて――まるで、実際の出来事のように語られていた。

 

 

 ――アンタ、万事屋(よろずや)だろ? 何でもやってくれるんだろ!?

 

 ――頼みがある。

 

 ――オレは救えなかった。みんなを救えなかったんだ。

 

 ――みんな、自分の抱えてたものを仕方なく心の底においやって、そうして消えていっちまったんだ……

 

 ――情けないよ。あんなデカい口たたいといて、この手で救えたヤツなんてほんの一握りだ。

 

 ――オレは……生きてた時も、死んだあとも、目の前のヤツを救えずに消えちまったんだ……っ!

 

 ――頼みだ、万事屋さん。

 

 ――オレの代わりに、何も救えなかったオレの代わりに……

 

 ――アイツらを、救ってやってくれ。

 

 ――アイツらのすこし先を生きて、アイツらを導いてやってくれ――

 

 

「……冗談じゃねぇ、何で俺がテメーの尻拭いなんかしねーといけねぇんだ」

 

「しかもそんなくっだらねぇことのためにこんなシケた世界に来させられただと? ふざけんのも大概にしろ」

 

「……だがよ、少しだけ感謝するぜ」

 

「こんな最っ高のクソッタレどもと会わせてくれてよ」

 

 

 ……俺は前を歩く。

 

 意思を受け継ぎ、自分の武士道を通すために。

 

 アイツらのすこし先を生きて、アイツらの道しるべになってやるために。

 

 次回に続く




はい、終了です。ぐだぐだですみません。

この話で
・何故銀さんがこの世界に来たか
・何故先生なのか
などが解消されました。わかりにくくてすみません。

今後どんな展開になっていくのか、ご期待下さい!

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