かつて人里離れた森でクロウとユエが出会ってから数百年が経過していた。
長き年月を世界を巡り続けながら、今もなお若き日の姿であり続けるクロウリードは
母の生まれた大陸より東方にある地、『日本』で魔道の研究をし続けていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「クロウ、眠っているのか?・・・。」
「ん・・・?ユエ・・・。」
「クロウ、何か隠し事をしてないか?何か最近様子がおかしいぞ。」
「隠し事ですか・・・?」
「揉め事はいつもの事だから仕方が無いが、今回はいつもと様子が違う気がしてな・・・。」
「大丈夫ですよ、今は特に揉め事などはありません。」
「・・・ならいいんだが・・・。」
「さあ、もう夜遅いのですから眠りなさい。ユエはしっかりと寝ておかなければ力が発揮できないでしょう。」
「・・・わかった。クロウ・・・お休み・・・。」
「お休みなさい、ユエ・・・。」
寝室へと戻るユエ・・・クロウはその後姿をユエが見えなくなるまで見守り続けていた・・・。
「ユエは勘が鋭いですね・・・。
確かに、私は今、あなた達に隠し事をしています。」
そして、彼は自分の手の平を見つめた・・・。
「・・・やはり、私に残された時間は少ないようですね・・・。
魔力によって若き日の姿を取り続けているこの肉体も、限界が近づいています・・・。」
そう言うと、ゆっくりと椅子へもたれかかり、今までの旅を思い出し始めたのである・・・。
「思えば・・・私の魔術師としての人生は、あの日、ユエと出会った事から始まったのでしたね・・・。」
ユエと初めて会ったときの事を思い出しながら、静かに笑うクロウ。
「あの時ユエに会わなかったら、今の私は無かったでしょうね・・・。
ユエと会って、彼を救う為に東西魔術融合をし、それが元でケルベロスとクロウカード達を創り出した・・・。
・・・ユエとの出会いが無ければ、私は小さな魔法が使えるだけの旅人としての人生を送ってたかもしれません・・・。
もしそうであれば、私の魔力も今ほど成長せず、これほど多くの思い出を作り出す事も出来なかったでしょうね・・・。」
そう言うと、彼は静かに目を瞑った・・・
「最初は・・・小さなきっかけから。
そのきっかけがだんだん大きくなって、
私は世界最大の魔術師の肩書きとたくさんの家族を手に入れることが出来ました・・・。」
ため息をつき、再び椅子へともたれかかる。
「父と母が出会って私が生まれた事、ユエと私が出会った事、私が魔術師として生きた事、全てはあるべき必然・・・。
そして・・・私の死も・・・それから起こるすべての事も・・・。」
その台詞を言い終わって少し後、クロウは再び机に向かったのである。
「さて、それではそろそろ新しい封印の杖を仕上げるとしましょうか・・・。
自分の生まれ変わりである者の娘が使うのだから、可愛いデザインにしたいのですが、これがなかなか曲者で・・・。
李家に残した宝剣も、この前月峰神社の神主さんに預けた鈴も、可愛さとは無縁な形になってしまいましたからね・・・。」
その二週間後・・・クロウリードは様々な遺産を残し、その人生を終えたのである・・・。
初めは自分の命を狙っていた刺客を助け、ユエを言う名前を与えて家族として迎え、
彼を救った事により世界最高の魔術師となったクロウ・リード・・・。
彼がユエと出会った事は、ただの偶然ではだったのだろうか・・・?
「いえ・・・偶然ではありませんよ。
私がユエと出会ってなかったら・・・そんな事は、絶対に分かる事は無いでしょう。
自分にも想像は出来ないし、したくもありませんからね・・・。」
そして・・・クロウが逝ってからそう遠く無い未来。
彼の残した遺産、クロウ・カードを巡って、そして彼の記憶を受け継ぐ少年によって起こる事件。
その事件に少女と少年が巻き込まれることになるのだが・・・それはまた、別のお話・・・。