クロウが東西魔術の融合に成功してから数年後・・・、クロウはユエと共にまだどこかの空の下で旅を続けていた。
彼はユエを救うために編み出した融合魔術を使うことにより、従来の魔術師達よりも遥かに強力な術が扱えるようになっていた。
そして今では世間から最強の魔術師との賛辞を受けるまでに至っている。
しかし、それと同時に彼をねたんだり、彼を倒して名を上げようと目論んだりする
裏社会の住人が頻繁に彼を訪ねてくることになった。
もっとも、大抵の相手はクロウに挑む前にユエに倒されてしまうのだが・・・。
現在はヨーロッパから中国への旅路の途中、とある一軒家でクロウはある物の研究に没頭していた・・・。
「クロウ!これは一体どういうことだ!?」
ユエの大声と共に一軒家が振動する。
この建物、長い年月が経っているので余り頑丈ではない、ここでこれだけの大声を出すのは余りよくないことなのだが・・・。
「クロウは、私だけでは不満だというのか・・・?」
「ユエ・・・その言い方は少しまずいですよ、人が聴いたら誤解をしてしまいます。」
確かに傍から聞いている分には男女間の痴話げんかにも見えるやり取りである。
しかし、クロウに話しかけているユエの表情は真剣そのものであった。
「だったら何故、そんな物を創ろうというのだ・・・?」
「私はただ、家族が多ければユエも淋しくないと思ったので・・・。」
「新しい家族など要らない!私にはクロウがいればそれでいい・・・!」
泣いてクロウに抱きつくユエ、クロウは困惑した表情でユエを見つめている・・・。
「よく聞きなさい、ユエ。私は今の生活に対して不満などこれっぽっちも抱いていません。
むしろ、ユエに出会う前に比べたら、その差は天と地ほどもあるでしょう。
ですが・・・私は不安なのです。」
「不安・・・?」
「今はこの通り、私も元気一杯に生活しています。
ですが、いくら魔術師とは行っても私は人間、あらゆる魔術で命を永らえても、その寿命には限界があります。
・・・私は不安なのです、私が死んでしまえば、ユエは一人ぼっちになってしまう。
そんなユエの姿を想像しただけで、私は悲しくなってしまいます・・・。」
「ならば、私もクロウと一緒に眠る!私の家族はクロウだけだ!だから・・・。」
「ユエ、そんな無茶を言ってはいけませんよ。
あなたは私の大切な子供です、そのあなたが親と一緒に眠り続けるなどと・・・。」
優しく語りかけるクロウ。
「それに私にも自分の生きた証を立てたいという欲がありましてね、この新しい命達はユエと同じ私の大切な子供達です。
だからこそ、私の信用できる一番上のお兄さんに、この子達の行く末を見守って欲しいのですよ・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
クロウ言葉を聞き、沈黙するユエ。
その合間にもクロウは手を動かし続ける・・・。
「さあ、出来ましたよ。まずは魔法の基本となる火、水、風、地、光、闇の属性を持つカードです。」
「カード?」
「東方には式神という使い魔のような術によって作られた擬似生命が存在するそうです。
このカード達はその式神を東西魔術により進化させたもの
一つ一つが自分の意思を持ち、自分の意思で行動することが出来ます。
・・・そしてこの子はユエに最も近い使命を与えたユエのすぐ下の弟。
ユエを手伝い、他の子供達を守る為に創った、私の新しい子供です。」
「・・・?私と形が違うな・・・この形は、獅子か・・・?」
「はい、ユエのような人間の形、そして新たに作るこの子のような獣の形。
それぞれ長所と短所があるので、思い切ってこの形にしました。
名前は・・・そうですね、この本を守る為に作ったので
ギリシア神話で地獄の門を守るという番犬ケルベロスの名はどうでしょうか?
」「・・・ちょっと待て、何故獅子に犬の名前をつけるんだ?」
「すみません、ちょっと他の名前が思い浮かばなくって・・・。
・・・へんですかね?」
「全く、後から文句言われても知らないぞ。私の時と違って、意識を持つ前から名前が決められているのだからな。」
「がぁ~~おぅ!!」
数時間後、クロウとユエの見守る中、翼を持った金色の小さな獣、ケルベロスは元気に羽ばたいたのである。
クロウが新に作ったケルベロスはユエと違い自分で魔力を生み出す事が出来るが、
まだ生まれたばかりであり、あらかじめ様々な事を記憶させられていたユエに比べれば精神は赤ん坊のようなものである。
それが災いし、翌日ケルベロスは食料庫にあった食料を全て平らげてしまった・・・。
「・・・どうやらユエの新しい弟は随分と食いしん坊のようですね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
・・・ちなみに「甘」のカードは、この旅で食料を切らしてしまった為に作り出されたという。