月の舞う夜に   作:(略して)将軍

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第3話:クロウの挑戦

 

 

彼が「月(ユエ)」という名前をもらってから一週間後・・・。

相変わらず状態の良くならないユエに対し、クロウは明らかに焦りの表情を見せ初めていた。

(体には異常は見当たらない・・・。とすると原因はユエを構成している魔法に欠陥が・・・?)

この一週間、クロウはユエを回復させる為に、様々な方法を試した。

しかし、ユエの容態は一向に良くならない・・・。

(ユエを構造しているこの魔法術式のずさんさ・・・。

恐らくユエの創り主は、寿命を削り、戦闘能力だけを高め、殺す為の使い捨ての道具としてユエを創りだしたのでしょうね・・・。

しかし・・・この術式で創られたのならば、もうユエに残された時間は・・・。)

「クロウ・・・まだ起きているのか?」

「ユエ・・・。」

ふと気がつくと、クロウの後ろにはユエが立っていた。

その姿は、最初に会った時に比べ、すっかりやつれてしまっている。

「クロウ、私の体の事などもういいから、少しは休息を取れ。」

「ユエ・・・ありがとう、私の体を心配してくれて。でも私はまだ大丈夫ですよ。」

「そんな事を言って・・・もう一週間もろくに寝ていないじゃないか・・・。

ウッ・・・。」

「ユエ!!」

突如床に倒れかけたユエを抱きとめるクロウリード。

しかし、彼の腕のなかでユエの姿は透けはじめていた・・・。

これは彼を構成する魔力の残量が少なくなり、そして彼の命の灯火がもうすぐで消えることを示していた。

「これは・・・!?」

驚愕の表情でユエを見つめるクロウ。

「くそっ・・・こんな時に、自分の力を役立てる事が出来ないとは・・・。

何か・・・何か方法は無いのか・・・?」

クロウはユエを救うため、彼を再びベッドへと戻し、己の力不足を嘆きながら書棚をあさり続けていた。

・・・その時、彼の目に、一つの本が飛び込んでくる・・・。

「これは・・・お母様の?」

その本は彼の母がイギリスへと渡航する際、ただ一つだけ持って来た東洋魔術の本・・・。

今現在彼の持っている唯一の東洋魔術に関する本である。

「・・・!?ひょっとすると、これを使えば・・・。」

 

 

一時間後・・・クロウはユエの眠るベッドの横で道具を揃えて立っていた。

「お父様の家の西洋魔術とお母様の家に伝わる東洋魔術・・・この二つを組み合わせれば・・・。」

西洋魔術と東洋魔術、二つとも同じ魔術と名がついているが、中身は全く別物である。

西洋魔術は主に魔法陣を使って神や悪魔、精霊などの意思ある存在の力を借り使う術。

対して東洋魔術は護符を使い、そこから生まれるエネルギーや擬似生物を使う術である。

二つの魔術の融合は、極めて困難な物であり、今までにも数こそ少ないがその発想をしたものはいた。

しかし、成功した例は今までに一つも無い・・・。

その今まで誰も成功した事の無い偉業に今、若干18歳の駆け出し魔術士、クロウリードが挑戦しようとしていた。

「これが成功すれば、自分で魔力の供給が出来なくても、私の魔力を常時ユエへと送ることが出来る。

しかし、今まで誰も成功した事の無い二つの魔術の融合を、この私が成功させる事が出来るのでしょうか・・・?」

失敗すればユエを助ける事が出来ないどころか、二つの魔法の融合失敗による影響で自分も命を落としかねない・・・。

不安に陥るクロウリード。

しかし、彼の目の前では、苦しみ続け、今にも消えてしまいそうなユエの姿があった・・・。

「・・・いや、出来る出来ないの問題ではありません。

ユエを救う為には・・・絶対にやらなくてはいけない事なのです!!」

 

 

 

「う・・・?」

窓から差し込む光により、目を覚ましたユエ・・・。

「これは・・・私の体は治ったのか・・・?それに、この服は・・・?」

「おや・・・どうやら成功したようですね・・・。」

「クロウ!」

声のした方を向くと、ユエの横にはクロウが座っていた・・・。

「苦労しましたよ・・・、何しろ時間が無かったものでぶっつけ本番になってしまいましたから・・・。

でも、一度コツを掴んだら、後は楽に行うことが出来ましたよ。

あ、その服は東洋魔術の影響です。今までの服がぼろぼろになってしまったので新調しておきました。」

「・・・クロウ!無理をして・・・お前が死んだら何にもならないじゃないか!!」

泣きながら、クロウを一喝するユエ。

「・・・無理をしてでも助けたかったのですよ。

もはや家族のいない私にとって、あなたはやっと出来た家族なのですから・・・。」

「クロウ・・・。」

「・・・すみませんが、少しここで休ませてくれませんか?山を越えたら、急に眠くなってしまいました・・・。」

「く・・・クロウ!!」

そういうとベッドへと持たれかける様にして、クロウは眠りに落ちた・・・。

その顔には自分の大切な物を守った充実が溢れているようであった・・・。

「・・・・・・・・・・クロウ・・・ありがとう・・・。」

 

 


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