まあ、そんなことですが投稿します。
短いですがお楽しみください。
黒蓮side
誰もいない夜、太陽が沈み、辺りを月の光が朧気に照らす中、自分の執務室に私はいた。
「くっくっくっ」
数日前に鴉からの報告を受けた私はこみ上げてくる笑いを抑えきれずに声を出して笑っていた。
あの武神とも言われる関羽と猛将の張飛が直接武を交わさずにここで消えるのだ。
英雄といえど、暗殺には勝てなかったか。
余りにあっけない結末に私は少し拍子抜けであった。
まあ、劉備はしとめ切れなかったが、あいつの手足たる関羽と張飛は消したんだ。
これであいつは丸裸同然、軍の大黒柱である二人は消え、後は頭脳のみが残ったが、それだけでこの乱世を乗り越えられるほど甘くはない。
後に残った二人がここで何かをやらかすかもしれないが、本拠地であるここ啄郡ではこちらの領分だ。
十分に仕込みはあるし、鴉だって警戒に当たっている。
ここでは絶対に好きにはさせない。
それに残った奴らで警戒すべきは星だけだ。後はただの雑魚、いつでも殺せる。
そう窓から夜空を眺めながら思案していると、扉から、正確には城の中が騒がしくなってきた。
「仲珪様!劉備様たちがお帰りになられました!」
そして不思議に思った私が、そのことを確かめようと扉へ足を向けた瞬間、劉備たちが戻ってきっという知らせが届く。
なぜだ?ここまでくるにはまだ時間があるはず。特に関羽と張飛が毒でまいっているなら動けないはずなのにだ。
「そうか……で?この騒ぎは一体なんだ?」
そのことを一切に顔に出さず、私は騒ぎがなんだと聞く。私はあいつらが毒にやられたなど知らないはずであるから、嘘をつく必要がある。
「これは劉備様の討伐隊が帰還したのですが、負傷者が多数おり、その対応に追われていたので……」
「それほど損害が多いのか?」
「はい、数はわかりませんが、全体の半数以上が損失、帰還兵のほとんどが負傷しています」
うむ、反乱分子とはいえ帰還兵の数が多いな。それほど負傷者がいるのなら毒で死んでるんだが……。
まあ、いい。
「私も現場で指揮をとる。まずは負傷者の治療を最優先とし、彼らを安静させる場所を確保せよ」
「はっ」
そう指示を出すと、伝令はすぐに部屋から駆けだしていった。私もすぐに薄い外套を羽織り、帰還した討伐隊の元へと向かった。
+++++
私が城門につくと、そこには負傷した兵たちが隙間なく横たわっていた。至る所に包帯と思わしき白い布を巻いている兵たちに、それらを治療や看病するものたちが走り回っていた。
「……ひどいな」
そう呟くと、ここの責任者でもある城門の守備隊長が私の元ヘと駆け寄ってきた。
「仲珪様」
「状況は?」
「現在城門に全部の負傷者を運び込んだところで、後は手が空いている者が負傷者の看病に当たっています」
「うむ、いい判断だ。ご苦労、これからは私が引き継ぐ」
「はっ」
この守備隊長はこのような負傷者がでた時の対応をよくわかっている。まあ、何度もこんなことを経験していれば慣れるものか。
「とりあえず、非番の者たちをたたき起こし、治療のための場所を確保させ、重傷者からそこに運ばせろ。後は怪我が軽い者は屋根のある空いている場所でゆっくりと休ませておけ」
「承知しました」
すぐさま城門守備隊長は駆けだしていき、兵が寝ている宿舎へと向かっていった。
その後ろ姿を見ていると、その横をすれ違って劉備たちが駆け足でやってきた。
「仲珪さん!」
「とりあえず報告は後だ、今は時間が惜しいのでな」
「待ってくれ!」
そう言って現場の指揮をとろうとすると北郷の横にいた見覚えのある赤髪の青年に肩を捕まれて呼び止められる。
「なんだ?」
「俺は華佗って言う。これでも医者なんだ、手伝っていいか?」
「それは助かる、華佗殿。礼は後ほどしよう」
頭を下げて感謝の意を表したところで目の前の赤毛のことを思い出す。
ちっ、こいつあのでたらめな医術の華佗か。
「誰かあるっ!」
「はっ」
「この者は医者だそうだ。奥へと案内せよ」
「わかりました。さぁ、こちらへ」
二人はそのまま城の奥へと向かっていき、私は劉備を無視したまま現場の指揮をとり始めた。
++++++
負傷者の治療やその他の対応が終わったのは夜が明ける寸前、東の空が薄らと明るくなってきたときだった。
そしてその後に報告のために劉備たちと手伝ってくれた華佗、変態二人を執務室に城門から移動した。
「私の姓は公孫、名は越、字は仲珪と言う。まずは礼を、我が兵たちを治療してもらい、誠に感謝する」
「いや、俺も多くの人を助けることができてよかったよ」
そうして私たちは握手を交わす。だがその後ろから見たくもないもの……脂肪が一切なく、ムキムキの黄金色に光輝く筋肉が近づいてくる。
「そんなことは気にしなくてもいいわ?いい男が傷ついていたなら助けるのが、お・と・め・の嗜みよ」
「そうだぞ、いい男があんなに死ぬのはもったいないではないか」
そして華佗の後ろから現れた露出狂の変態zがくねくねしながらそう答えた。
それを見て私の体の毛がぞっと逆立ち、生理的に受け入れられなかった。
正直に言おう。
これはキツイ、すごくキツイ。
なにがキツイかだって?
そんなの……。
そんなの…………。
言葉に表せるわけないじゃないか……。
少し……いや、だいぶ現実逃避しながら私は彼らのことを聞く。
「……あなたたちは?」
「私の名は貂蝉よ。よろしくね~、仲珪ちゃん」
「わらわは卑弥呼という。よろしく頼むぞ」
あっはっはっはっと高笑いする二人に私は自己紹介をした後、そいつ等から目を背けながら、劉備たちになにが起こったのかを聞いた。
「……ふむ、それで通りすがりの華佗殿たちに助けてもらったと」
「……はい」
意気消沈した劉備が、小さく返事をする。改めてはっきりと死者の数を聞いたら、いつもはうるさいのが、今だけは静かだった。
「まあいい、お前たちに何も罰がないというのもまずかろう。しばらくは部屋で謹慎してろ、以上だ」
そう言い渡し、私は事後処理を行おうと筆と何も書かれていない竹簡を手に取る。
だがそうしている間も劉備たちがこの部屋をでる気配がまったくない。
「……どうかしたのか?」
「どうして、あなたは何言わないの?」
「何がだ?」
不思議に思って問い返すと彼女は怒ったように顔を赤くして声を上げる。
「兵隊さんたちのことだよ!!」
少し考えると、私は劉備の言いたいことが何か気がついた。
ふむ、そういうことか。
彼女はおそらく責めてほしいのだろう。ここにいる誰もが彼女のことを責めず、慰めた。今回の討伐は全部彼女が悪いのだと言われたいのだろう。
浅はかだな。
「お前の責任ではない、それだけのことだ。わかったならとっとと出ていけ、仕事の邪魔だ」
「でもっ」
私がそうつまらなそうに言うが、彼女はなおも食い下がってくる。
「いいか、お前たちに討伐を任せたのは私だ」
この啄郡のため、そして公孫家のために、死ぬのがわかっていてあいつらを送り出した。
「兵の数を決めたのも、誤った情報を渡したのも私だ」
多くの人のために少ない犠牲を容認した。
その選択をしたのは私だ。そして選択するということは何かを切り捨てることである。同時にその選択をした責任も出てくる。
「確かに現場の指揮に問題があったのかもしれない」
「ならっ!!」
そして今回はその選択が故意であるのならば、悪意があるのならばそれは咎だ。
その咎を生み出したのは私、劉備たちではない。
ならばその咎は私が全てこの身に背負わなければならない。
それを誰かに押しつけたり、捨てたりすることは指揮官として、また選択者として絶対にしない。
それだけは誰かに譲る訳にはいかない。
公孫家の軍を預かる立場としての矜持がそれを許さない。
「だがその最終決定を行ったのは私だ。お前たちではない」
だからこそ私は彼女に言う。
「今回の件の全責任は賊討伐の指示を出した私にある」
今回の討伐は全て私の責任であると、彼らを殺した咎を背負うのはお前ではなく、この私だと。
「それ以上も、それ以下もない」
そう私は彼女たちに戸惑うことなく言い切ると、そのことを理解した彼女たちはすぐさま執務室のを出ていった。
そして私は事後処理に取り掛かった。
誤字脱字等あればよろしくお願いします。