真・恋姫で地味ヒロインの妹してます   作:千仭

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今回は一番文章が長くなりました。

それと供に誤字脱字が多くなっているかもしれないので教えてくれるのなら助かります。

ではお楽しみください。


黄巾の乱
緊急会議


黒蓮side

 

 関羽が負傷してからもう数週間が経った。彼女が怪我をしたことを知った劉備や北郷が私の仕事中に抗議してきたので丁重に退出してもらった。そしてその日から劉備たちは私の執務室に一切来なくなり、だいぶ仕事がはかどるようになったのは言うまでもない。

 

 つかの間の平和を満喫していた私だがその平和は長くは続かなかった。なぜなら大将軍何進率いる官軍が黄巾賊に敗走し、それを深刻にみた帝が各方面の諸侯に対して黄巾賊討伐の勅令を出すのはもはや時間の問題だったからだ。

 

 そしてさらにそこで新たな問題が啄郡内部に発生する。言わずもがな客将として行動している劉備たちと星のことだ。

 まず劉備たちは私たちの仕事を直接手伝うことができないことと私の行動が酷いのであまり私たちに近づかなくなった。だがその代わりに町に繰り出して住民との関係を親密にしており、そこで語る彼女たちの『理想』を聞いた住民が親劉備派となってきているのだ。それに加えて関羽、張飛と言った武人2人も賊討伐や治安維持に積極的なので劉備を後押しすることになった。

 また私たちが内政及び軍拡に忙しくてあまり外に出てないことが親劉備派になっていく住民を住民に歯止めをかけられないことに繋がり、次第にその勢力は増えていくことになっていった。そこから教育を受けていない住民の多くは親劉備派を支持し、一部の知識人と商人たちは非現実的な劉備たちよりも私たちの方を支持するようになった。現在では啄群の世論は親劉備派と中立派、親公孫派の三つに分かれている。

 次に星だが彼女の方は武勇が町の噂となり、彼女がいればよりこの啄郡は安泰であると世論が勝手に形成された。そのため彼女をすぐさま仕官させるような声が多くなり、さらには劉備たちと親しいことから彼女は親劉備派と判断され始めることになった。

 

 このことが原因で劉備たちは啄郡の武官及び一部の兵士、それに女官や政務に関わってくる文官と激しく対立し始めることになったのだ。

 彼ら曰く「私たち公孫家が啄郡を治めているのに彼女らだけがすごく頑張っているように扱われるとは何様なんだ!」ということらしい。そこに彼女らが客将ということが加わって「人様の土地で好き勝手しやがりやがって」と武官と文官の両方の反発を招き、今では挨拶すら碌にしないほどに険悪な仲になっていた。

 

 

 

 そしてこの二つが運悪く重なったことで現在、劉備たちと星を除いた最高責任者たちが会議室に集まって今後の方針を決める緊急会議が開かれることなった。ちなみにこの会議を開くのことを提案したのは私である。

 

「今日集まってもらったのは今後の方針と啄郡の内部問題についてだ」

 

 姉さんがそう言うと席に座っている全員が姉さんの方を向く。今回の会議の出席者は姉さんを上座に絃央と姉さんのもう一人の側近で文官頭である姓が関、名は靖、字が士起、真名は小依(こより)という小さな白髪の子が両隣に座している。

 

「それは緊急に会議を開くほど必要な案件なのですか?」

 

 そう疑問の声をあげた彼女は背が小さく合法ロリであり、姉さん以上に仕事が回って来る啄郡一忙しい役職についている。一時期彼女のストレスと仕事量が膨大すぎるので白髪になったのではないかと噂され、それを聞いた勇者は翌日から三倍にまで仕事の量が増えたという。

 

「そう白ちゃんと黒ちゃんが言ってるからそうなんじゃない?」

 

「誰が黒ちゃんだ?」

 

 そう私たちのことを呼ぶのは従妹の青怜である。青い髪をロングストレートにしていて私達よりも少し大人に見えるがやることは実に子供である。手に持った鉄扇を弄びながら彼女はにやにやと私の方を見てくる。なぜか彼女は啄郡に戻って来ると姉さんではなく、私をいじり始めるのだ。正直何とかしてほしい。

 

「黒ちゃんは黒ちゃんよ?」

 

「喧嘩売ってんのか?この馬鹿は」

 

「あらあら(ニコニコ)」

 

私たちがいつも通りにいがみ合っている様子を見て母親のような笑みを浮かべる大人びた金髪の女性は国境で青怜の副官を務める姓は田、名は楷、字は子鑑、真名は(ふみ)だ。郁は何時いかなる時も微笑んでおり、彼女がその微笑みを崩したところを誰も見たことはない。一部ではというか国境砦の中でその微笑みが癒しを与え、信者ができているほどだ。

 ちなみにこの小依と郁に私は逆らうことはできない。なぜならこいつらに逆らうと何時もよりも仕事が数倍増えることになり、その量はこの世の地獄と言われるほどだ、と経験者は語る。

 

「さっさと先に進めてくれ、黒蓮。今日の仕事を置いてきてるんだから」

 

「わかっている」

 

「まあまあ、落ち着いて(ニコニコ)」

 

 郁はそう言って場を落ち着かせようとする。時間も限られていることだし私はすぐさま目の前の大きな机に華北の大まかな地図を取り出して広げる。そこには大まかな大都市の名前と州の名前以外は載っていなかった。なぜならまだそこは正確に調査していなかったからだ。それでも今回の会議には十分に利用できる。

 

「まず黄巾賊戦についての報告からだ」

 

 私はそう言いつつ黄巾賊と官軍の大きめの木の模型をとりだして冀州に対面するように並べる。左が黄巾賊で右が官軍にする。それを見る全員の目はもはや真剣そのもであり、誰もがさっきまでの浮ついた空気を微塵も感じさせなかった。

 

「何進大将軍率いる官軍、今回は董卓が指揮しているその官軍が黄巾賊に敗走した」

 

「あらあら随分と軟弱なのですね、官軍は」

 

「らしいね。たかが賊に後れを取るなんて官軍もたいしたことない」

 

 小依と青怜が官軍を小馬鹿にする様に言う。事実に負けたのだからそうなのだろうが、今の官軍が本当に弱いのかはわからないので油断はできない。ただ董卓、何進の指揮が悪かったのか、それとも実は黄巾賊が強かったのかの真実は実際に見ていないのでわからない。

 

「そのため帝から黄巾賊討伐の勅令が各有力諸侯に出されると考えられる」

 

「どうしてそのようなことがわかるのですか?」

 

 そのことが分からない小依はここにいる全員を代表して聞いてきた。それはなぜかと聞かれると色々とあるが三国志の外史だからとしか言えないのである。だがそんなことを言えるはずないので私はとりあえずそれらしい理由を自分なりにでっち上げて伝えることにした。

 

「今の官軍に黄巾賊を鎮圧できるだけの力がないことは今回の戦で証明された。ならば鎮圧できる私たちや曹孟徳、袁本初などの有力諸侯が相応しいだろう。だから帝は勅令を出すと思われる」

 

「そうなると遠征は冀州までになるな。まさか私たちが各自でやれってことはないよな?」

 

 姉さんがまさかそれはないだろうという顔をしながら私に問う。当たり前だが高々諸侯や州牧に十数万もの賊を相手にできる兵を持つことはできない。

 

「当たり前だろ、姉さん。相手は十万以上いるんだ、おそらくは各諸侯と協力して討伐に当たることになるだろう」

 

「なら北の監視はどうするの?私たちが呼ばれたってことは関係あるんでしょう?」

 

「ああ、青怜たちにも今回の遠征に来てもらう」

 

「なぜ私たちが?北の守りはどうするのかしら?」

 

「まず今回の遠征では多くの有力諸侯が集まってくる。その有力諸侯の中で戦功を取るのが難しいだろう。ゆえに今回は本気で行かねばただ参戦しただけになる。そうなると遠征する採算が取れない。だがあえてそこで戦力を温存するのも今後を考えるとありだ」

 

 そう黄巾賊討伐戦には多くの名だたる諸侯や州牧がやってくる。私が知っているだけで孫呉に曹孟徳、袁本初に袁公路もおそらく来るだろう。その多くの英傑がそろう中で戦功をあげるとなると本気で行かなければならない。

 逆にそこに参戦しただけで多くはないがそれなりの戦功があがるし、袁本初との対決のために兵と国力を温存するのもいい。いくら精強の兵を連れて行ったとしても数万の黄巾賊を相手にしたらそれなりの損害が出るし、それを補完するのにも資金と時間がかかる。

 そして次に曹孟徳、袁本初、その他の有力諸侯に公孫家の実力を見せつけなければならない。それはさっきも言ったが示威行為が第一の目的であるからだ。なぜなら警戒されることで曹孟徳と袁本初などに結ぶだけの価値があると判断させ、外交交渉をなるべく対等に行いたいのと華北を私たち三勢力で三つに割りたいからだ。

 この華北を三つに割るということはその他の勢力を味方に付けることがそのまま有利につながる。ここでのその他の勢力とは孫呉と袁公路、それに劉璋などの勢力を差す。そことの協力関係が組めれば私たちと袁本初を挟み撃ちにできるしその差を埋められるかもしれないからだ。

 しかし、この華北における勢力三分割は私たちを下手したら追い込みかねない。ありえないとは思うが曹孟徳と袁本初が手を組んで私たちを潰しにくる可能性が低くはあるがあるからだ。だがあの袁本初なら少し煽ってやれば問題はないかと私は思っている。

 以上が私の中での戦略だがこれは今のところ言う必要はない。なぜなら私が姉さんの次に軍の権力を持っているし、これから起こることだからだ。未来で何が起こると知っているからこそ考えることができ、外史だから実行できる。

 

「黒蓮は今後に何か大きな争いが起きるとお考えなのですか?」

 

「ああ、そうだ。今回で官軍の力が衰えてきているのはさっき説明したな?」

 

「ええ」

 

 小依以外の者達も彼女と同じように頷き、誰もが私のことをを真剣な眼差しで見てくる。それと同時に私の次の言葉を待っていた。

 

「そうなると中華全体を統治することが難しくなる。さすがに国の中心である洛陽あたりは今回の影響をうけないが地方の方は違う。中心地から離れれば離れるほどそこを統治する州牧に頼らせざるをえないはずだ。それが徐々に進んでいった先には国が割れる」

 

 官軍が地方や国境での反乱に対応できないとなれば、対応できる人がそれを鎮圧せねばならない。それはその地方を治めている州牧がそれに当たり、そうなれば持てる兵の数や権限が徐々に増えていく。なぜならそうしなければ反乱の鎮圧や根本的な解決ができないからだ。

 広大な中華全域をカバーできなくなった官軍はその役割を力のある者に任せるしかなく、肥大した権限を持つ州牧たちが数多く存在するようになる。そうなればもはや中央の朝廷はただのお飾りであり、国が分裂し始める。つまりそれは群雄割拠の始まりだ。

 

「それは………戦の世が来ると?」

 

 そのことを察した小依が私と同じ考えに至った。否、小依だけではなく、ここにいる全員が同じ答えに行きついただろう。ここにいるメンバーはどっかの誰かたちと違ってそれを理解できないほど馬鹿ではないからだ。

 

「別に今すぐだとは言ってない。だが遠い先でないとだけ言っておこう」

 

まあ、それもすぐに来ると思うけどな。

 

「そうか……。小依、財源の方はまだ大丈夫か?」

 

「この前の戦もありましたし、財政の方は正直に言いますとあまり余裕がありません。ですがやってやれないことはないのでそこは白蓮様のご判断にお任せします」

 

 姉さんが小依にそう聞くと小依は少しだけ困ったように答えた。姉さん以上にこの啄郡の経済事情や財源を知り尽くしている彼女からしてみれば次の遠征での出費は頭が痛いのだろう。今まで確保してきた貯蓄を出すことによってさらに財政が厳しくなり、再び見積もりをしなければならなくなってしまうからだ。だから仕事がまた増えた彼女に何時も私は心の中で合掌をするのである。

 

「青怜、北の様子は?」

 

「今は何も動きがないわ。でも黒ちゃんが言った通りになった場合は補償はできない。北の国境が破られる可能性もありうる。でも今回は大丈夫だと思うわよ」

 

 私が聞いた報告では国境近くの匈奴は今も漢の属国としているようだ。少しだけ不穏な動きがあるが概ねその関係に影響はないらしい。だが漢の権力がなくなればその関係は意味をなさなくなる。なぜなら漢の庇護などの効果がなくなり、属国になっているメリットがなくなる。さらに私たちの関係も協力関係として続ければいいのでさほど問題は起こらない。それどころか武力で属国になったため、反逆で中華に攻めてくることも考えられる。

 

「わかった。それと黒蓮、一応聞くが参戦しないのは?」

 

「今回の場合はなし、だ。帝の勅令だから断ることはできない。例え勅令でなくても相手に力を見せつける示威行為になるから参加するだけで意味がある。さらに有力諸侯との伝手もこの機会に作りたいからな」

 

 特に私が狙っているのは袁公路と孫呉の二つだ。元々袁公路と袁本初は同族嫌悪で仲が悪いし、孫呉は独立したいから袁公路との仲が悪い。それを利用できるにこしたことはないからだ。

 

「そうなると参戦しかないか」

 

「ああ、そうだ。だがそこで戦力を温存するのも、本気で張角の頸を取りに行くのも姉さんの自由だ。後は姉さんの判断任せる」

 

「右に同じく」

 

「私もよ」

 

「異議はありません」

 

「私もそれに賛成です」

 

「そうか………………………」

 

 そう言ってこの場にいる者達は姉さんの方を向く。合計5人の視線が一斉に姉さんに集中し、一方の姉さんはしばらく黙り、目を閉じて考え始めた。それから誰もが音も発さない静寂な時間がしばらく続く。時間にしておそらくは5~6分ぐらいたったころにずっと考え続けていた姉さんの口がやっと開いた。

 

 

「もし黄巾賊討伐の勅令が来たら――――」

 

 

 誰もが姉さんの言葉を固唾を呑んで待っている。今後の啄郡の方針がまだ保守的であり続けるのか、それとも全力を挙げて群雄になるのかが決まるからだ。私としては後者の方がいいが最終的には姉さんの指示には従おうと考えている。

 

 

「本気で張角の頸を取りにいく」

 

 

 どうやらその心配は杞憂に終わるらしい。だが一応聞いておきたいことがあったので姉さんにこの場で聞いておくことにする。

 

「姉さん、それは曹孟徳らと競り合うことになるのはわかってるのか?」

 

「ああ、それも承知の上でだ」

 

 はっきりとそう断言した姉さんの答えを聞いて私は誰にもわからないように本当に小さく笑った。他の者達もそのことを聞いて満足しているようだ。そして決まったからには次の指示は早かった。小依に財政を任せて私には連れて行く兵の選別を、青怜にも遠征準備を手伝わせて郁にも溜まっていた仕事を分担していく。それらの指示を姉さんが全部言い終わるまで10分もかからなかった。

 

 そして次の議題である啄郡の内部問題について話し合われることとなった。姉さんはそのことになってすぐさま顔色が悪くなっていく。なぜなら劉備たちを客将として扱わせることを指示したのは姉さんだからだ。

 

「で?その劉玄徳とかいうよそ者がでかい顔して街中歩いてるって部下から聞いたんだけど」

 

「うっ」

 

 そのことを青怜が言った瞬間に姉さんは彼女から目をそらした。姉さんも悪気があってしたことではないがまさかこうなることは予測していなかったんだろう。私だってこうなることは予測できなかったし、止められなかったのもあるから何も言えない。そんでもって何か言ったら非難の矛先が私に向くのでやっぱり何も言わずにただ傍観に努める。

 

悪いが今回は姉さんに全て押し付けよう。

 

「文官たちもその劉玄徳とおっしゃるよそ者が私たちの邪魔ばかりしてくると。それになにやら気前のいい『理想(こと)』を声高に町中でおっしゃっているとか?」

 

「……………………(ダラダラ)」

 

 青怜の次には小依が姉さんを責めはじめる。微笑を崩すことなく抑揚のない平坦とした声で語られたその言葉にはここにいる誰もがかなりの怒りが溜まっていると気が付いた。普段から彼女は啄郡の一室からあまり出たことがなく、私が知っている限りでは寝るか飯を食べるとき以外は部屋で仕事しているところしか見たことがない。それほどまでに引き籠りである彼女の耳にまで文官たちの不満の声が聞こえるとなると相当文官たちから劉備たちは恨まれているのだろう。

 

軍部の人間もそうだがな。

 

「私も仲の良い方々(しょうにん)から色々とその劉玄徳という人物について聞きましたわ。確か非現実的なことを自信を持って子供たちにまで語っているとかなんとか(ニコニコ)」

 

「……………………(ダラダラダラダラ)」

 

 そして小依の次に流れるような連係プレーで郁にバトンタッチ。姉さんに弁解の余地さえ与えないほどのトリプル責めだった。まるで某機動戦士のジェ〇トストリームアタックを彷彿させるような連携だったとだけ言っておこう。姉さんもその連携を真正面から受けて顔中から脂汗を滝のように流している。

 

間違いなく撃墜(やら)れたか。ご愁傷様。

 

「それで?黒ちゃんは一体何をしていたのかしら?」

 

 私がそう姉さんを心の中で合掌し、無関係なふりをしていたら矛先を次の獲物に三人は向けたようだ。三人の容赦ない視線が私のことを貫くが私はそれに臆したりはしない。

 

「私はちゃんと彼女たちを監視していたし、兵たちにもなるべく距離を置くように指示していた。軍の人間もかなり劉備たちに不満を持っていたからな。それに町に関しては姉さんの領分だ、後は知らん」

 

 なぜならやることはしっかりとしていたからだ。それと町のことは姉さんや文官たちの仕事であって私の管轄じゃない。

 

「そうなの?それじゃあ仕方がないわね」

 

「そのようですね。やることはちゃんとやっていらっしゃったのですし」

 

「良かったわね~(ニコニコニコ)」

 

 そう言って彼女たちからの許しをもらった私は姉さんに向かって勝ち誇った笑みを浮かべる。それを見た瞬間の姉さんはまるで裏切られたかのような絶望的な顔をしていた。そして姉さんはその絶望に浸る中で三人からのお説教という猛口撃を受けることとなった。

 

 

 

 

※しばらくお待ちください。

 

 

 

 

 30分ほど経っただろうか、そこまで経ってやっと姉さんは三人のお説教から解放された。解放された姉さんはもう精も根も尽き果てたように椅子の上で白くなっている。そして日頃のうっぷんを晴らしたかのように青怜、小依、郁の三人は清々しいほどすっきりした顔になっていた。

 

「それで?一体どうするの?」

 

 姉さんが絃央の看病によって復活した後に青怜が私たち全員に聞いてきた。小依や郁もこの対処はどうするか姉さんの判断にまかせるらしい。ただ単に姉さんが招き入れたんだからその責任はお前が取れ、と言っているような気もするけど。

 

「桃香たちに言って自制してもらうしかない」

 

 姉さんがそう言って劉備たちの処遇を決めるがどう見たってここにいる全員は納得していない。特に文官頭である小依はその判断に難渋を示していた。恐らくそれでは文官たちの気が収まらないのだろう。逆にそれだけしかしないとなれば文官たちは上の人間たちに失望する恐れもある。

 

それはまずい、非常にまずい。

 

 そうなったらただでさえ少なく優秀な文官がいないのに失望してやめてしまったら私の日常に大いにかかわるし、これから支配領域を増やしていくのに文官を減らしてどうする。

 それにそれが文官だけだとは限らない。軍の方でも劉備たちに不満を持っている者は多く、それを放置していたら衝突するのも時間の問題だろう。そうなれば市民を味方につけている劉備たちに有利になり、軍の信用とそれを管理している姉さんに不満が向く。それだけは絶対に阻止しなければならない重要なことだ。

 それほどまでに文官と武官たちの不満は大きく、いつその不満が爆発してもおかしくないほどになっているのが今の啄郡の状態だ。

 

はぁ、本当にあいつら使えない。

 

 そう思いながら私は姉さんの判断に異議を唱える。さすがに軍を預かる身としてはそのことをただ黙って見過ごすわけにはいかない。それにあいつらがこの政治的な話を理解しているかどうかは怪しい。現代を生きてきた北郷あたりはもしかしたら少し勘づいているかもしれないが、劉備あたりは無意識でやっている可能性が高い。

 

「姉さんには悪いがそれには反対だ」

 

「その理由は?」

 

「想像以上に兵士たちの不満が高い。いずれは衝突する可能性もありうる」

 

「そこは何とか抑えられないか?」

 

「無理だ。この忙しい状況じゃ兵たち全員を監視できるわけがない」

 

 啄郡にいる兵たちすべてを抑えるのは物理的に不可能である。兵たちを監視し、抑える権限をもつ武官の数が圧倒的に足りないからだ。それにその兵たちを抑えるべき武官も劉備たちに不満を持っているので私の命令を聞かない恐れもある。

 

「青怜たちが手伝ってもか?」

 

「当たり前だろ。兵たちも選別しなくちゃならないし、遠征までに仕事をあらかた終わらせなければならない中でどうやってそんなことをするんだ?」

 

 そして青怜たちが手伝ったとしてもそれは変わらない。彼女たちは武官をまとめる立場であって兵たちをまとめる武官ではない。それにここにいるのは私と姉さんの軍団であって彼女の軍団は国境付近に配置してあるため、勝手が違う可能性もある。さらに彼女たちは私たちの仕事を優先的に手伝うのであって兵をまとめる時間があるかは正直言ってかなり怪しい。

 

「うっ」

 

「それにこっちは遠征の準備で忙しいのに当の本人たちはよほどのことがない限り暇を持て余してる。そうなると町に行くのは当然だろう?」

 

 私の前世の記憶では昼飯なども確か町で食べていたような気がする。それに城の中では彼女たちは嫌われ者であり、居場所がない。そうなると彼女たちは町に行くしかない。

 

「それは…その。いろいろと雑用を押し付けて」

 

「北郷は字が読めないし、姉さんの親友はお節介が随分と過ぎるようだぞ?知らないまま重要案件を勝手に手伝い始めて最後には最重要案件や機密に関係するものまで手を付けそうだがな」

 

 北郷は字が読めないからただの力仕事だけだし、劉備は知らずに平気で書庫を荒らしそうだ。ここからここまでと言っておいても私たちが忙しければ残っている仕事も善意でやろうとするだろう。そうすると自然に機密情報にも関わってくるし、姉さんと近しい劉備は「これはこの方がいいんじゃない?」と姉さんに言う可能性も高い。それではまた姉さんの仕事が増えるし、どう見たってただの客将がいきなり太守に直訴することができる環境は普通の待遇と違うからさらに妬まれる原因になるだろう。

 

「確かにあいつは天然のところがあるけど……。そんなことはしない!……はず」

 

 そして姉さんもそれに心当たりがあるのだろうか苦虫を噛み潰した顔をしている。思っていたことが本気でそうならなおさら手伝わせるわけにはいかない。

 

「はずならする可能性もあるのだろう。なら私たちがとるべき道は一つだ」

 

「それは?」

 

「あいつらにはここから出ていってもらう」

 

 私がそう言うと姉さんは信じられないような目で私を見てくる。私としてはそれが一番手っ取り早いし、金も時間もかからないと思う。それにあいつらは姉さんの計らいで客将となった立場だ。なら姉さんの指示で追い出したって構わないはずだろう。

 

「それは本気か?」

 

「ああ、本気だ。そうすれば問題となっている頭痛の種自体がなくなるんだ。ここに平和が戻る」

 

「でもそれじゃ、桃香たちに何もしてやれないんだが」

 

 姉さんが本気でそう言った瞬間に私はどこまで姉さんはお人よしなんだと思ってしまった。劉備たちに何もしてやれないとかもう十分すぎるほどしてやっただろと正直かなり思う。

 

「義勇軍の指揮もさせたし、隊だって率いさせた。その経験だけでも十分なものだと思うし当分の生活にかかる費用だってこっちが全部出したんだぞ?それに破格の客将扱いで給金もちゃんと出してる。今の世じゃそれだけで充分だ」

 

「おっしゃる通りです」

 

「異議なし」

 

「そうですわね」

 

「弁護の余地なしです」

 

 私が今まで彼女たちにしてきたことを大体あげるとここにいるメンバーは私の言ったことが正しいと賛成してくれた。大体彼女たちは身一つでここまで来たんだ。武の経験しかない関羽と張飛、私塾で学んだとはいえ実務処理経験なしの劉備、後はただの種馬。そいつら全員を客将として扱っただけでもかなりの高待遇だ。それに加えて部隊の率い方や軍のこともレクチャーしてやったし、ちょっとした雑務もさせて実務処理の経験も僅かだが積ませた。どちらかと言うとこっちの方のマイナスにしかなっていない。

 

「………わかった。桃香たちには悪いが出て行ってもらう」

 

 姉さんがそう言うと私はほっとし、静かに胸を撫で下ろした。もし姉さんがそれでも駄々をこねるなら青玲たちと結託して無理やり勢いでもっていくか、他の手段で劉備たちを追い出していただろう。

 

「そうなら手段は姉さんに任せるが、期限は遠征までだ」

 

「ああ」

 

 私が姉さんにその期限を指定する。さすがにあいつらを今回の遠征に連れて行くわけにはいかない。

 

「間違っても遠征軍には入れるなよ?あいつらは私たちに反発して自分たちで動きそうだからな」

 

「そこまではさすがに……」

 

「忘れたのか?姉さん。あいつらは軍議で場を乱すだけではなく、姉さんにいきなり突っかかったんだぞ?」

 

 私がそう言った瞬間にこの場の空気が一気に重くなる。ここにいるメンバー全員の目が細くなり、ブチ切れ寸前のところまでになっていた。なぜならたかが客将如きが太守である姉さんに向かってそこまでの不敬を働いたからだ。それに加え姉さんの部下である私たちを差し置いてそれをやったんだから随分と嘗めたことしてくれたな、と思われても仕方がないだろう。その証拠に青怜の額には青筋が浮かび、小依は笑ってはいるが目が笑っていない。そして郁は笑顔がまぶしすぎるほど輝いているが圧力が半端なく、絃央は終始無言である。

 

「まあ、後は姉さんに任せる。全員それでいいな?」

 

 私がそう言ってこの会議を終わらせようとするが青怜たちには不満が残る結果となった。そのため納得がいかない青怜が反対の声を上げようとする。

 

「私はいy……」

 

「いいな!!」

 

 しかし、私はその声を無理やり遮ってこの会議を終わらせる。そうすると青怜が恨めしそうに私のことを見てくるが、私は彼女にアイコンタクトで合図を送った。そうすると私の意図を理解した彼女はしぶしぶ引き下がった。

 

「では今回の会議はこれで終わりとする。それぞれ指示通りに動き出せ。それと青怜と郁には少し話があるから残ってくれ」

 

「わかったわ」

 

「わかりました」

 

 二人とも私の言うことに素直に頷くとこの会議が終了となり、姉さんたちはすぐさま仕事に戻っていった。そしてこの会議室に残ったのは私と青怜、それに郁の軍上層部だけである。

 

「で?どうして私を止めたのかしら?ことによってはただじゃおかないわよ?」

 

 全員がこの部屋から出ていくことを確認した青怜は手に持っていた鉄扇を弄びながら私に向かってさっきの意図を聞いてくる。その後ろには郁もいてその顔に「邪魔したな?」という意味も込められているのかその笑顔には重圧感が半端ない。

 

「そう怒るな。私はお前の考えていることは大抵理解している」

 

「だからって邪魔するの?」

 

 バシッ!と鉄扇を机に叩きつけて私を睨んでくるその姿は鬼気迫るものがあった。まるで戦場にでもいるような気迫が彼女の目から伝ってきており、ただの一般兵では逃げ出しただろう。それほどまでに彼女は私が止めたことを怒っていたようだ。だが私も彼女たちに邪魔はされたくない。

 

「今回は違う。それの主体は私がやらせてもらうから手を出すなよ?」

 

「へぇ~、あなたがね」

 

「ああ、あいつらは強敵だ。関羽と張飛が特にな。だから今回は『鴉』を使う」

 

「………………本気?」

 

 私が青怜たちにそう言うと彼女は一瞬きょとんとした顔で私を見てくるが、すぐさま真剣な顔つきに戻った。それは私が劉備たちを暗殺(・・)するのに秘密工作部隊『鴉』を使うことにしたからだ。彼らは私が実戦に出てから作った秘密部隊だ。文字通り敵地や様々なところで秘密裏に工作、罠、暗殺等を行うことを専門にしている。言わずもがな少数精鋭であり、この部隊を知っているのはさっきの会議に主席していたメンバーたちだけだ。

 

「本気だ、姉さんには悪いが本気であいつらを消しにいく。今後の邪魔になりそうだからな」

 

特に劉備の人を寄せ付けるというか扇動的な能力はな。

 

 そう言って私は彼女たちが無意味で派手な行動をしない様に忠告しておく。もし姉さんになど見つかったらかなりまずいことになるからだ。下手したら私と姉さんとで内乱にもなりかねない。

 

「だから下手な動きはするな。姉さんたちに勘づかれたくない」

 

「りょ~か~い」

 

「わかりましたわ」

 

 そう言って彼女たちは嬉しそうに出て行った。青怜なんて鼻歌まで歌っていたのでどれだけ嬉しいのかがわかる。会ったこともないのにどんだけ恨まれているんだろうか?あのバカたちは。

 

 

さて、あいつらには早々にこの舞台から降りてもらおうか。

 

 




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