夢を見た後に   作:デラウェア

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第9話 赤く焼け落ちていく村で

 俺は遠くから聞こえた爆発音と、地面を揺るがす振動で意識が覚醒し、眠っていたベッドから飛び起きた。

「な、何だ!? どうしたんだ――!?」

 そう言いながら部屋の窓から外を見て、目の前で起きている出来事に衝撃を受けて言葉を失った……そこから見えたのは、炎に焼かれて燃える村の悲惨な光景だった。

「クッ――なんだ、何が起こっているんだ!?」

 嫌な予感を感じた俺は、刀を持って自分の部屋を飛び出し玄関の扉を開ける。扉を開けた直後から、熱風や血の臭いが家の中に入ってきてむせ返りそうになったが、耐えて外に出る。

「これは……」

 火、火、火。俺の視界に多くの家が炎に包まれた、窓から見たそのままの光景が映し出されている。自分たちが寝ていたこの家も含めて、火が回っていない家もまだ見受けられるが、この調子では時間の問題だろう。アグラバインの家は他の家より離れていて、なおかつ高い場所に建てられているので無事かもしれないが。

そして普段からよく見える村の景色を一望できるせいで、炎に燃える家の他にも目を疑いたくなる様な事まで見えてしまい。その事でも俺は声も出せずに呆然とした状態で眼下を見下ろしたままの姿勢で立ち尽くした。

「イツキ!」

 後ろから俺を呼ぶ声が聞こえて振り返ると、マグナが剣を持って玄関から出てきた。マグナ以外のメンバーも出てきたが、よく見るとアグラバインの姿は見えない――こんな時に寝ているとは考えられない、一体何処に行ったんだ?

「これは、一体どういう事だ!?」

「何で村が?」

「また盗賊の仕業か?」

 ネスティの言葉に椎名や渚も声を上げるが、その声は震えていた。

 無理もない、聖女を人質に取った時とは今回の空気はまるで違う。顔に伝わる火の暑さと血の臭い、治安が良くて平和な国だった日本では、そうそう味わう事の無い未知の恐怖を本能が感じ取ったのだろう。

「いや、賊じゃなさそうだ――見ろよ」

 そんな渚の言葉を否定しながら、フォルテが指さす方を見る。

「お、お願いです命だけは……殺さないでぇ! ――ギャアァ!」

 黒い鎧を着た兵士が、命乞いしている男性に剣を振り下ろし、斬られた男は切り口から血を噴出し、悲鳴を上げながら地面に崩れ落ちた。しばらく痙攣していたようだが、動かなくなった――余り考えたくなかったが、もうあの男は事切れたのだろう。

 それは俺が外に出てから見てしまった衝撃的なこと――正体の知れぬ何者かによる、村人の虐殺現場の一場面であった。

「な、なんだよこれ! ま、マジでこんな――人が……う、うっぷ!」

 椎名が、その状況に耐えられなくなったのか、みんなから少し離れたところに移動して吐きだした。渚が顔を青くしながらも、椎名にすぐ近づいて背中を擦っている。それを見てから、俺はもう一度村の方に視線を移す。簡単に確認できた範囲だけだが、どうやら黒い鎧の兵士たちは、村に火を放ちながら人を見つけ次第、殺している様だ。

 このままでは、村の人間は一溜まりもないだろう。村で唯一武装している、自警団員の姿はここから見える範囲にはいない。夜の見回りに出ていたロッカやリューグの安否も分からない。

 と、そこまで考えて、ロッカたちより優先して心配するべき相手がいた事を思い出した。

 この村の最重要人物にして、俺たちを家族と呼んでくれた村の聖女、アメルである。ここ数日は家に帰れていたが、今日という日に限って仕事場の方に泊まる話だったのだ。もしかしたら、いま見かけられないアグラバインも、すでにアメルのいる所に向かっているのかもしれない。

 こうしてはいられない、急がなければアメルも危ない目に遭う。最悪、聖女を欲しがる何処かの輩が、強硬手段に出た可能性だってある。それだけの力をアメルは秘めているのだから。

 そう考えながら、俺はアメルの仕事場を目指して走り出した。

「イツキ! 何処へ行くの?」

「アメルの所へ! 身を守るすべがない彼女が一番危険だからな!」

 トリスの言葉にそう返しながら俺は走り続ける。後ろでも動き出す気配を感じながら、俺は前を見続けてアメルの下へと向かった。

 

 

 走り続けて数分が経ち、ようやくアメルの仕事をしている家が見えてきた。道中見つからない様に、人が余りいない道を走ってきたが、見つけたのは村人や旅人の死体だけで、黒い鎧の兵士は見つからなかった。別の場所に移動しているのか、偶々出会わなかっただけなのか。判断は付かなかったが、こっちとしては助かる話だ。

 遠くから聞こえる誰かの悲鳴と血の臭い、そしてこの凄惨な光景を見て、つい昔を思い出しそうになるが。今はそれ所じゃ無いと、頭を横に振って外に追い出し、アメルを助ける事に集中する……そうして仕事場まであと少しという所まで来た時、進行方向から男女のやり取りが聞こえてきた。

「聖女を連行しろ!」

「やめて! 近づかないで!?」

 男の方に聞き覚えはなかったが、女性の声はアメルの声だった――取りあえず、まだ生きている事には安堵しながら、アメルの姿が見える所に躍り出る。

 そこには、燃え盛る家を背にして逃げられなくなっているアメルと、アメルを捕まえようと近づく黒い鎧の男が1人、少し離れた所に同じ格好をした数人の兵士が様子を見ている所だった。

「アメル!」

 俺は捕まりそうになっているアメルを見て、即座にアメルを捕まえようとした男に向かって走り出し、刀を抜きながら声を上げた。

「イツキさん!」

「何だ? この辺りにまだ生きている奴がいるとは……」

 アメルは俺を見て目を見開き、アメルを捕まえようとしていた男も、俺に気が付いて剣を抜く。俺は速度を緩めずに男に近づき、上から斬りつけると見せかける為に飛び込む振りをして、直前で姿勢を低くし地面を滑る様にしながら、すれ違い様に足を斬りつけた。

「ぐあぁ!」

 男は飛び込んでくると勘違いしたのだろう、剣を横に振り切った攻撃は空振りに終わり、踏み込んだ足を斬り付けられて、剣を落として膝をつく。

 俺はその隙を見逃さず、すぐさま立ち上がって、こちらに背を向ける男の首を斬り飛ばした。首が無くなった部分から血が噴出し、男の体はゆっくりと倒れた。俺に近づいて来ようとしていた他の連中も、飛んできた首に驚いて足を止める。

 顔や上半身や腕を鎧で守っていても、首元や関節の部分は鎧ではカバーしていないので、簡単に斬り飛ばす事が出来た。これがガッチガチに固めた全身鎧の類であったなら、こう簡単には行かなかっただろう。

「大丈夫だったかアメル、怪我は無いか?」

「イツキさん、私は大丈夫です。でも、おばさんやみんなが――」

 アメルの向けた視線を追うと、今日の昼にアメルの事を心配していたおばさんが、男たちの近くで背中から大量の血を流して倒れていた。他にも、手伝いをしていたと思われる格好をした人が、何人もおばさんの様にどこかを斬られてか、血を流して倒れている。その誰もがもうすでに事切れているのは、誰の目にも明らかだった。

「なんで――みんな、一生懸命頑張りながら、さっきまであんなに楽しそうに笑っていたのに――なんで、こんな酷い事を……」

 そう言いながら、アメルは肩を震わせて涙を流す。

 いくら聖女と呼ばれていても、アメルは争い事とは関係ない所で生きてきた、1人の普通の村娘なのだ。突然やって来た暴力の嵐と知り合いの死に強いショックを受けて、頭や感情が上手く動かず呆然としていたのだろう。そこに俺が助けに来た事による安心感からか、感情が動き出して涙が流れたのだろうと俺は予測して、アメルを抱き寄せて落ち着かせる様に、背中を撫でながら声を掛ける――もちろん、鎧を着た連中を警戒しながらだ。

「遅れて済まなかった、おばさんたちを助けられなくて申し訳ない」

 俺1人で出来る事など、限られているのは解っているが。それでもアメルには、こう言う事で効果がある筈と考えて口を開く。

「イツキさんの……せいじゃないです」

 アメルは抱き寄せられて、1度肩が強く震えたのが分かったが、背中を撫でながら声を掛けた事で、震えが少しずつ小さくなっていった。それを感じてアメルから少し離れ、目を見て話しかける。もちろん落ち着かせる事を念頭に笑みを浮かべ、優しく諭すようにしてだ。

「分かった、今はその事は考えない様にする。だからアメルもおばさんたちの事を考えるのは、後にするんだ。辛いだろうが――今はこの場所から無事に脱出する事を考えよう」

「……はい、分かりました」

 そう言って、小さくだが頷いてくれたアメルの様子から、取りあえずは大丈夫だろうと当たりをつけて、視線をまた周りに向ける。

 仲間の首を飛ばされた事と、村人の思わぬ反撃に驚いて、動きを止めていた黒い鎧の男たちであったが、流石に回復するのも早くこちらを油断せずに、警戒した動きで武器を構えて、こちらの様子を窺っている。

 その動きだけを見ても、よく訓練された者の動きだというのが良く分かる。個人で兜の有無や、服装の細かな違いはあれども、色や装備が統一されているのを見るに、何処かの組織か軍隊なのかもしれない。

 目に見える所に立っているのは、4人。しかし、遠くから聞こえる喧騒を聞くに、相当の人数が村に侵入しているのだろう。そうでなければ、聖女の力に頼ってここにやって来ている冒険者たちに、返り討ちにされていてもおかしくはない。

 実際に蹂躙しているのか返り討ちにされているのかは判断できないが、もしかするとこの辺りや俺が通ってきた道に敵が殆どいなかったのは、冒険者たちを殺す事に力を入れるため、アメルの仕事場からかなり離れた所にある宿泊施設に、兵を向けているからかもしれない。

 その仮説がもし正しいのなら、この目の前にいる4人さえどうにかしてしまえば、上手く逃げられるかもしれない――村人や冒険者たちを犠牲にした上でだが。

「その奇抜な格好といい、刀を使うその動きといい。貴様はシルターンの召喚獣か?」

 4人の内の1人が口を開いて話しかけてきた――様子見のつもりだろうか?

 アグラバインの家で見た本によると、鬼妖界シルターンには侍がまだ健在しているらしい。いま着ている服は、召喚された時に着ていた高校の制服で、似たような服をこちらでは見かけた事がない。リィンバウムに住む者たちには、変わった服装に見えるのだろう。

「シルターンねえ……そうかもしれないし。そうじゃないかもしれないな」

 取りあえず、とぼけてみる事にした。こちらは俺たち2人で向こうは4人、人数の上では不利だ。時間稼ぎをしていれば、俺を追いかけようとしていたマグナたちがここに駆けつけるかもしれない。そうすれば少しの間、この場の形勢は逆転されるだろう。

「ふざけた事を」

「ふざけているのはお前たちだろうが。レルム村をメチャクチャにしやがって……何が目的だ?」

 アメルを背に隠しながら、俺は刀を男たちに突きつけながら問いただす。駆けつける直前の会話から、アメルを連れて行くのは分かったが、他にも何か目的があるかもしれない。

 だが、男たちは口を開く事はなく、それぞれ得物を抜いてこちらを見ているだけに終わった。

 有利になった途端、饒舌になるタイプの人間である事を期待しての発言だったが、そうはいかなかった。規律はしっかりしている集団なのかもしれない。

「アメル、長期戦になるかもしれない。極力、俺から離れるなよ」

 視線は男たちに向けたまま、アメルにだけ聞こえる声量で声を掛ける。

「はい……イツキさん、足を引っ張ってしまってごめんなさい」

「気にするな。こんな事が起きるなんて、誰にも分かる筈がないしな――大変だとは思うが、さっき言ったように今は目の前の危険にだけ、意識を向けた方がいい」

「……はい、わかりました」

 本当はもっと色々声を掛けてやりたかったが、これ以上4人の男から注意を外すのは危ないと感じているため、意識をアメルだけに集中させるのは困難だ。向こうも同じ事を感じているのか、こちらに集中して動かない

 その結果、この場は膠着状態になった。お互いに動かない状態が続きすぎて、何らかの行動に移るタイミングを見失ってしまった。火事での熱や、お互いに殺気や気迫のぶつけ合いで、呼吸は乱れ汗が滴り落ちるも、動かな――いや、動けない。何かキッカケがあればと考えるがいい案が思いつかない。

 何かないかと考えて10分ほど時間が過ぎた頃、そのキッカケが外から訪れた。

「アメル! イツキさん!」

「ロッカ、それにリューグか!」

 襲撃当初から見回りに出ていて、安否が分からなかったロッカとリューグが俺たちに声を掛けながら、村の中心の方からこちらに向かって駆け寄って来たのが見えたからだ。2人の後ろに渚や椎名、マグナたち一行の姿も見える。

「よかった、ロッカたちも無事だったんだな」

「ええ、危ない所を渚さんたちに助けられて何とか――そちらもご無事で良かった」

 そう言うロッカやリューグに渚たちの姿はさっき見た時より、ボロボロになっていた。俺たちが睨みあっている間に、一悶着あったのが分かる。

「イツキ! アメル以外の人間で助かっている奴はいるか!?」

 リューグが怒りの炎をともした瞳を見せながら、こちらに確認してきた。俺は正直に首を横に振る。

「殺されていた。全部を見てきた訳ではないが、道中で見て来た人間はみんな殺されていた」

「やっぱりそうなのかよ畜生! あいつら、子供や病気の老人にまで手を出してやがった!」

 俺の言葉に皆は息を呑み、リューグは手を強く握り締めて悔しがる――僅か一週間ほどしか住んでいなかった俺たちでさえ、ここの村人たちの人の良さは、仕事の手伝いや昼食を共にして実感している。この村で生まれ、育ったリューグが受けた衝撃は計り知れない。

 それにしても、老若男女関係なく殺すという徹底ぶりから、敵の覚悟も相当なものだと言うのが判断できる――それ程の価値が、アメルにはあるということか。

「くそっ、やっぱりあいつら追って来やがったか」

 そんな事を考えていると、フォルテの舌打ちが聞こえてきて視線を向けると、少なくとも10人を超える敵の集団がこちらに向かって近づいて来ている。

「奴らは?」

「ロッカたちを助ける時に戦った連中だな。頑張って撒こうとはしたんだが……すまない樹、やっぱり振り切れなかった」

「気にするなよ椎名。集団で動いているんだ、こればっかりは仕方がない」

 こちらの人数に動揺していた4人も、仲間が駆けつけた事で戦意を取り戻した様に見える。どうやら、ここで一戦交えなくちゃいけない様だ。

「みんな、アメルを守るんだ!」

 マグナの声をキッカケにして、それぞれの武器を構えて俺たちは敵を待ち構える事にした。

 

 

「これで最後だ。ロックマテリアル!」

 マグナが召喚術を使って呼び出した岩を相手に叩き込み、最後まで立っていた敵の男が地面に倒れた……ひとまずではあるが、俺たちは勝利を勝ち取る事に成功した。

 アメルを守りながらの戦いであったため、想像以上に大変であった。ネスティの護衛獣である機械兵士のレオルドが、その硬い装甲を活かして敵の弓兵からアメルを守っていてくれた事が、大きな助けとなった。

 その戦いの間、俺はマグナとトリスの傍でサポートに回る事にした。確認できた限りでだが、俺たちのメンバーの中で一番危なっかしい動きをしていたからである。最初は、こういう死と隣り合わせの戦いの経験が全くない渚と椎名のサポートに回ろうとしたが、召喚師を名乗りながらその力を余り使わず、まだ戦いに慣れているとは思えないぎこちない動きで、最前線で武器を振るうマグナとトリスの方が、護衛獣がいるとはいえ危険で見ていられなかったからだ。渚と椎名の2人には連携して動いてもらい、無理をせず前に出過ぎないように注意して、そのまま2人に加勢した。

 死角から近づく敵と剣を交えたり、偶に使う召喚術を使う時に邪魔をされない様に援護している間に、フォルテを中心に敵を少しずつ倒していき、最後はマグナが仕留めた。みんなそれなりに傷をおったものの、致命傷になるような傷を負わなかったのは喜ばしい事である――まあ、最悪の場合はアメルの力もあったから大丈夫だとは思ったが。

「驚いたな――まさか、冒険者如きに後れを取っているとはな」

 皆の姿を見てそう感じていた時だった。村の北側から漆黒の鎧に骸骨をモチーフとした兜を被った立派な体格の男が、唐突に姿を現し俺たちに話しかけてきた。その男の横には、ピエロが驚かせようとしている様な感じの、センスの無い変な仮面を付けた男が堂々とした動きで後に続き、更にその後ろから10名ほどの敵が続いている。

「……あんたたちは一体何者だ?」

 1度見たら忘れられない様な、奇抜な格好をしている2人だが。姿だけでなく、2人が放つ雰囲気までもが他の者たちと一線を画していて、俺の中で警戒レベルが格段に上がった。周りの男たちの反応からも察するに、隊長とその副官なのかもしれない。

「貴様らに名乗る必要はない。どうせ貴様たちは此処で死ぬのだから」

 骸骨兜の男がそう言って、腰に挿していた剣を抜き、そう言い放ちながら剣先をこちらに向けた――あの野郎、なかなか言うじゃないか。

「ふ……ふざけやがって! テメエ――なめるなぁぁぁー!」

 骸骨男の口上に限界を迎えたリューグが、そう叫びながら骸骨男に突っ込んでいく――が、男は斧を剣で受け止めて寄ってきた虫を払うが如く、そのままリューグごと吹き飛ばした。

「おいおい、冗談じゃないぞ! あいつ、片手だけで吹き飛ばしやがった」

 フォルテの言う通り、怒り狂っているリューグによる斧の一撃を、片手一本で受け止めて吹き飛ばしたのだ。2人の実力差が違いすぎる。

「リューグ!」

「大丈夫か!?」

 こちらに吹き飛ばされたリューグにアメルとロッカが駆け寄り、無理やり引き下がらせた。

「どうする樹、あんな化け物相手にできるのかよ」

 椎名の指摘する通り、あいつを相手にいま戦うのは拙いだろう。横にいるピエロの仮面を被った男の実力も未知数だし、これ以上騒ぎが大きくなれば村に散らばっている敵が、次々と集まってくるかもしれない。

「ここは、撤退するべきだろうな」

 俺の発言に、みんなの視線がこちらを向く。

「ああ、イツキの言う通りだな。俺もここから離れた方がいいと思うぜ」

「確かに、これ以上敵が増える前に行動した方がいいだろうな」

「ふざけんじゃねえ! 村をメチャクチャにしたあいつらに背を向けるって言うのか!」

 フォルテやネスティは俺の発言に賛同してくれたが、リューグは納得がいかずに怒鳴り声を上げる。

「リューグ、いますべき事はアメルを奴らに渡さない事だ。ここで戦いを続けて、出来るかどうか判らない復讐を行うよりも、安全を確保する方が先だ……アメルを含めたみんなの無事と、自分の満足感を満たす事。どちらが大事なんだリューグ?」

 こう言えば、アメルを大事に思っているリューグなら、アメルの無事を優先させる筈である。嫌な言い方だとは分かっているが、時間がもったいない。ここで無駄話を続けるのは、こちらが不利になるだけだからだ。

「グッ――ああ、分かったよ」

 リューグも今の状況は理解できているのだろう、こちらを睨みつけながらも渋々とだが頷いた。俺を怨むだけで、この場が収まるのならいくらでも怨まれてやる。大事なのは、アメルを含めた自分たちの命を守る事なのだから。

「でも、撤退するって言ったってどうする樹?」

 不安げな声で聞いてくる渚に、俺は戦いの最中に思いついた考えを言う事にする。

「幸いにも、俺たちがいま背にしている家はアメルの仕事場だ。この家の裏からすぐに森に入れる。そこから上手く敵を撒ければ生存できる確率は上がるはずだ」

「けどよ、正直ここから逃げ出すのだけでも、相当苦労しそうなんだが」

「ああ、確かにな。だからこの村に盗賊が襲ってきた時の様に、俺が陽動に回る事にする」

「陽動?」

「それは、どういう事?」

 村に現れた盗賊の件を知らないマグナやトリスは首を傾げたが、アメルたちやフォルテはこちらの意図を察してか、驚いた顔をしている。

「俺が囮なって、この場を何とかするから、その間に家の裏手に回ってこの村から脱出しろって事さ」

「でも――それじゃあ、イツキさんはどうするんですか!?」

「俺は隙を見て巧く脱出するさ。ほんの少し、時間を稼げばいいだけだからな」

 骸骨兜の男に視線を向けながら、ロッカの問いに答える。こっちが会話をしていて、絶好の好機だというのに、何故か攻撃する構えを見せずに部下に指示を出している――もしかしたら、こちらを確実に捕まえられる様に、仲間を集めて包囲しようとしているのかもしれない。

 向こうだってこの村の地理を調べているだろう。裏の森の地形も把握していてもおかしくはない。急がなければ……そう思った所で、トリスに腕を掴まれた。

「イツキ一人でなんて無茶だよ!」

「無茶じゃないさ。誰かを仕留める訳でもなく、時間を稼ぐだけだからな。大切なのは一刻も早くアメルを逃がす事だろ?」

「でも、命がけじゃないか」

 マグナもトリスに続けて声を上げる。

「最悪逃げ回っていれば、そうそう死にはしないさ。これでも最低限の実戦は潜り抜けているからな。問題ない」

「それでもダメだよ! イツキだけにやらせるなんて」

 どう言ってもマグナやトリスが反対してくる――まったく、リューグの次はこいつらか。時間がないのだから押し問答は良くないんだがな……。

「こんな状況でも、言い合う余裕があるとはな。そちらから来ないなら、こちらから行くぞ」

 2人の対処に悩んでいる間に向こうの準備が整ったのか、様子を見ているだけで動いてこなかった骸骨兜の男が、こちらを見据えながらゆったりとした歩調で近づいて来た。その動きに連動して、横にいたピエロ仮面の男や他の者まで、包囲を狭める様に近づいてくる。

 こうなったら犠牲が出る可能性もあるが、みんなで強引に突破するべきかと思った矢先に転機が訪れた。

「うおぉぉぉぉ!」

 いままで何処にいるのか分からなかったアグラバインがいきなり現れ、大きな咆哮を上げたながら斧を振るって包囲の一角を蹴散らし、そのまま骸骨兜の男に斬りかかったのだ。

「グウッ!」

 勢いも使ったその余りの力強い攻撃に、片手でリューグを吹き飛ばした男でさえ、両手で剣を構えて斧を受け止めるので精一杯だったようで、アグラバインを吹き飛ばす事も出来ずに、押し返そうとしてそのまま鍔迫り合いの格好になった。

「ワシらの家族を、貴様らみたいな命の重みを知らない輩に――殺されてたまるかぁー!」

 そう言いながらこの辺りの大気が震える程の、鬼気迫る攻撃で骸骨兜の男と打ち合い始めた。その気迫に俺たちだけでなく、敵も足を止めて呆然とした感じで2人の戦いの方に視線を向けている。

 これはチャンスだ。アグラバインの決死の行動が、新たなキッカケを生んだ。このチャンスを見逃す手はない。

「今の内にアメルを連れて逃げろ!」

 俺は敵には聞こえない様に気をつけながら言うと、みんなの硬直は解けたものの、

「イヤです! おじいさんやイツキさんを置いて逃げるなんて!」

 アメルがイヤイヤと子供の様に首を横に振って、俺の提案を拒絶した。

「お前の気持ちは痛いほどに分かる。だが、敵が動けていない今がチャンスなんだ。時間を稼ぐから逃げ切ってくれ」

「でも、私は――」

「聞き分けのない事を言わないで! あなたが逃げなきゃ、イツキやおじいさんのしようとしている事がみんな無駄になるのよ!」

 それでも愚図つくアメルに、俺をフォローしてかケイナが厳しい言葉を投げる。それで言葉を詰まらせたアメルを見て、渚と椎名に声を掛けた。

「渚に椎名、アメルを連れて行け!」

「あ、ああ」

「分かった」

 渚と椎名はそう言ってアメルを強引に担ぐ。

「ナギサさん!? シイナさんも離して下さい!」

「いま、お前が此処に残ったって足手纏いになるだけだ。それにケイナが言った通り、お前が逃げなければこの村の人間の死が、本当に無駄になるんだ! だから行けよ!」

 そう言って、駄々をこねるアメルとの話を無理矢理終わらせて、俺はマグナたちの方を向いて大切な事を聞く。

「もし逃げ切れるとするなら、何処に行くんだ」

「……ここからだったら、ゼラムになるだろうな」

 ネスティが、少し考えてから答えてくれた。どうやら当てがあるらしい。

「そうかゼラムだな、了解した。渚に椎名、後は頼む。アメルを守ってやってくれ」

 2人は無言で頷いた、不安そうな顔はするものの、俺を信頼している事は目を見て分かった。

「イツキさん、僕たちも戦います!」

 ロッカの言葉にリューグも頷く。現状を考えて、その提案は非常にありがたい話であったが、俺はその提案を呑む事が出来ないため、首を横に振った。

「なんでだよ!」

「アメルが心細くなる、1人でゼラムに行かせる気か? 同じ村で一緒に過ごしたお前たちが傍にいてやれよ」

 渚や椎名だっているが、殆ど生まれた時から一緒にいると聞いていたロッカたちがいるのといないのとでは、気持ちを落ち着かせるのに天と地ほどの差があるだろう。ロッカやリューグの存在は、今のアメルには必要なはずだ。

「ですけど――」

「こっちは大丈夫だから、今はアメルを心配してやってくれ、頼む」

「……分かりました」

「クッ――イツキ! 絶対に死ぬんじゃねえぞ!」

「ああ」

 何とか2人を納得させた俺は、最後の難関であるトリスとマグナの方に視線を向ける。2人ともアメルの様に悲痛な顔をしていて、出会ってまだ日が短い俺にもそこまで気にかけてくれている事に感謝したかったが、今はそれを言うべき場所じゃない。

「イツキ――」

「心配するなマグナ、すぐにまた会えるさ」

「でも!」

「じゃあ、それまで――これを持っていてくれよ」

 俺はそう言って今日の朝、首に掛けたペンダントを外してトリスに渡した。強引に約束事を作って、無理やり納得させる作戦である。渡す物は出来るだけ大切な物がいい。だがペンダントは出来れば手放したくはなかったので、次に大切な物が入っている鞄を渡せばいいと思ったが、鞄はアグラバインの家に置いてきてしまっている。手放したくない自分の感情に蓋をして、ペンダントを預ける事にした。

「これって、ペンダント?」

「ああ、俺にとってとても大切な物だ。あとで俺が合流したら返して貰いに行くからさ――それまで持っててくれよ」

「イツキ……」

「約束だ、ちゃんとトリスやマグナの元に戻るから。その時はまたいろいろ話でもしよう、な?」

「うん、分かった」

「約束を守らなかったら承知しないからね」

 2人は上手く納得してくれた様で、力強い表情で頷き返してくれた――作戦は、どうやら上手くいったらしい。

「ああ、分かったよ。肝に銘じておく――よし、それじゃあ行ってくれ!」

 俺がそう言うと、マグナたちは一度頷き合ったあと家の裏側の森に向かって走り出した。俺は打ち合いを一旦止めて、後ろに下がったじいさんの元に駆け寄った。

「その筋肉を見た時から凄いと思っていたが、やはり腕は確かな様だなじいさん!」

「イツキ! 何故一緒に逃げなかった!?」

 アグラバインが俺を見て一瞬目を見開いた後、叱りつける口調で怒鳴ってきた。

「じいさん1人置いて、行く訳にもいかないでしょ。1人より2人の方が生存する確率が上がるってもんです」

 俺は口角だけを上げ、冗談を言う様な口調でそれに答える。

「じゃが――」

「無事に此処を潜り抜けられるように頑張らないと……はぁ!」

 そう言いながら骸骨男の元に近づいて刀を振るう。男は迎え撃って俺の刀を剣で防いで反撃を入れてくるが、俺は避けられる分は無難に避けて、それが無理な場合のみ刀で防ぐ。

 その調子で2、3合と打ち合って実感したが、やはりこの骸骨男は相当強い。攻撃防御共に隙はなく、その中でも特に攻撃は一撃一撃が重く鋭い。防ぐだけでも相当の集中力を要するので、少しでも油断しようものならすぐにあの世に送られてしまう事だろう。その攻撃を掻い潜って反撃しようとも、危なげない剣の捌きで俺の攻勢を凌いで、また苛烈な攻撃を繰り出してくる。

 隙を見て男から1度離れると、周りを牽制していたアグラバインが男に再攻撃を仕掛ける。俺はその打ち合いを見ながら呼吸を整えていると、俺に向かってピエロ仮面の男がこちらに近づいて来るのが視界に映った。

「ちいっ!?」

 俺が対応する前に、ピエロ仮面の男は懐に入り込み拳を腹に叩き込まれ、俺はその衝撃で吹き飛ばされる。

 だが片手を使ってそのまま地面に倒れることなく、俺は直ぐに体勢を立て直した。拳を貰う直前に後ろに飛んで少しでもダメージを減らそうとしたのが上手くいったようだ。

「ごほっ――あんたもやるね」

 もちろん無傷という訳にもいかず口から胃液が少し吐き出してしまったが、動けなくなるほどのダメージでもない、俺は刀を構えて次の攻撃に備える。

 ピエロ仮面の男は、剣を抜いて無言でこちらに向けて構えを取る。その所作を見ても、油断ならない相手だというのが良く分かる――まったく、厄介な奴らだよ本当に。

 焦りが募る。じいさんの方を見ても骸骨男の相手で精一杯だし、実はさっき横目でトリスたちを追っていった連中を確認できたが、目の前のピエロ野郎を相手にしながら阻止するのは無理だと自覚する。

「無事に逃げてくれるのを、祈る事しか出来ないとは――くっ!」

 そうやって内心で悔しがっている間に、またピエロが攻撃を再開し繰り出す斬撃を刀で防ぐ――よそ見をしていればやられる!? 長期戦も覚悟の上で、目の前の戦いに集中するしかない。

 そう考えていた俺だったが。しかしこの戦いは、俺が想像していたよりも長く続かなかった。

「うっ!?」

 何故ならピエロの男と剣を交えてから数分後に、突然南東からの突風が吹いたからだ。俺自身は北側に向いていたため、たいした事はなかったが。対峙していたピエロの男はそういう訳にもいかず、正面からの風に目を守るように手で防ぎながら俺との距離を離した。

「風向きが変わった……のか?」

 北側から攻め込んで来ていたと思われる奴らに向かって、風が吹いている状況になる。風だけならたいした事にはならなかっただろうが、この風で家を焼く為の炎が奴らの方に向かって行くという事態になっている。さすがに骸骨もピエロも一旦下がってこちらを警戒しながら、部隊を纏めるための指示を出し始めた。

「この機会を逃す手はないな」

 そう呟きながら、俺はじいさんの元に駆け寄る。

「運が良い事に、どうやら風が変わった様だ。今が撤退のチャンスだと思う、行こうぜじいさん」

「イツキは先に行け、ワシにはする事がある」

 だが、アグラバインは首を横に振って俺の提案を跳ね除ける。俺はその反応に戸惑いながらも理由を聞いてみた。

「先にって、じいさんはどうするんだ?」

「この炎と風とはいえ、奴らが引き揚げるとは限らぬ。だからワシが殿をしよう」

「しかし、それではじいさんが――」

「イツキよ、偶には年寄りの言う事も聞くものじゃぞ……な?」

 アグラバインはてこでも動かない積もりだ。そう言いながら笑うじいさんの顔を見て俺は、これ以上の追求は諦める事にした。

「……分かった、先に行く。アメルたちが心配するからな、じいさんも無事でいてくれ!」

 俺はそう言って、マグナたちが逃げた方角に向かって走りだした。

 

 

「何とか無事に辿り着けたな」

 レルムの村を脱出した次の日、もう昼の時間帯だからか太陽が真上で輝いている中、俺は何とかゼラムに着く事が出来た。

追っ手の事を考えて後方を意識しながらの撤退は相当に神経を使ったので、隠れる所の多い森の中で一夜を過ごし、日が昇ってからゼラムを目指したため、こんな時間になってしまった。

1度買い物をしにやって来ていたため、道は分かっているゼラムが目的地なのは本当に助かった。まあ知っている場所でなければ、1人で殿などする筈もないのだが。

「……いま思えば、夜は門が閉まっているのだから、どちらにしろ外で一夜を明かすしかなかったか」

 門を潜り抜けてすぐに裏路地に向かいながら、今更ながらに気が付いた事を呟く。

 裏路地を目指したのは、自分の今の状態が他の者たちにどう見られているのかを考えたからである。戦った時に付いた浅い傷や泥に加えて、相手の返り血や灰が付着した学校の制服は悲惨な事になっている。一目見れば厄介事を抱えた男だと誰もが思うだろう。そういう視線に晒されて目立つのは、逃げてきた人間としては良い事ではないので、人の少ない裏路地を目指したのだ。

 そうして無事に裏路地に入り、適当な所で座り込んで刀を抱えたまま壁に寄りかかる。疲労と1日寝ていなかった事もあって横になりたかったが、敵の追っ手が来た時の事も考えて、何時でも動けるようにしていたかったので横になる事は諦めた。

 一旦落ち着けた所で、今度は急浮上した問題に頭を悩ませる事になった。

「あいつら、一体何処にいるんだろうか?」

 その問題とは、先に逃げた連中の場所である。召喚師であるネスティがゼラムと言ったのだから、おそらく召喚師関連の施設か自分の家に逃げ込んだのだろう。それは何となく分かるのだが、俺は土地勘が無いためそれが何処なのか分からない――話をした時は急いでいて、詳しい場所を聞く時間がなかったからな……くそっ、失敗したな。

「人から話を聞こうにも、服がこれじゃ――っ!?」

 自分の服を見ながらそう呟いた所で、こちらに近づいてくる2つの気配を感じて、警戒心を高めた。足音から走って近づいて来ているのが分かる。すぐに対応出来るように、相手を確認するため俺は顔を上げて気配のする方に視線を向ける。

 走ってきている相手との距離は、もう10メートルもないのが確認できた。俺は急いで立ち上がりながら、相手の顔を見て動きを止める。向こうも俺の顔を見て1度動きを止めかけたが、そのまま走り続けてすぐ傍にまで近づき話しかけてきた。

「リ、リラなのか?」

「あーっ! やっぱりイツキだったよ父さん――って酷い怪我! 誰にやられたの? どうしてここにいるの? 大丈夫なの!?」

 そう言って畳み掛けるように声を掛けてきたのは、初めてゼラムに来た時に知り合ったリラと、その父親であるダイコクだった。思ってもみなかった再開に、声が出ない。

「まずお前が落ち着けリラ。事情は治療してからでも出来るだろう?」

「あっ……うん、父さんの言う通りだ。ゴメンねイツキ、取りあえず歩ける?」

「あ、ああ。致命傷になる様な傷は負っていないから、大丈夫だ」

 俺は突然の事態にまだ困惑しながらもそう伝えると、2人は安堵の表情を浮かべる。

「それなら、まずは私の家に寄っていきなさい。その状態で外にいるのは色々と危ないからな」

「事情もしっかり聞かせて貰うからね!」

 どうやら、理由も聞かずに俺を助けてくれるらしい……そんな恩人である2人に迷惑が掛かる事を考えても、本当なら断らなければならない所だったが。現在、八方塞な今の情けない状況では頼るしか選択肢がない。

「分かった、お言葉に甘えさせて貰うよ。申し訳ないですがよろしくお願いします」

 前の部分はリラに、後ろの部分はダイコクに言いながら頭を下げると。

「イツキ、違うよ」

「え?」

 リラの言う事が分からずに頭を上げると、リラが満面の笑みを浮かべながら口を開いた。

「そういう時はね、ありがとうでいいんだよ!」

 何故そこまで温かい言葉を掛けてくれるのだろう。1度会っているといってもそれだって1時間ほどだったはずだ。そんな相手にここまで優しくしてくれるのかと疑問を浮かべる一方で、その笑顔と言葉によって、俺の心は温かいものに包まれて。その感覚がくすぐったかった。

 この世界で出会えた多くの人が向けてくる優しさに感謝しながら、俺はリラに礼を述べる。

「……ありがとう」

 たった5文字の、その言葉に万感の思いを込めて。

「う、うん。どういたしまして……へぇ、イツキってそんな笑顔ができるんだね」

 礼を言った俺の顔を見ていたリラは、何故か目を見張り一瞬間が空いたが、すぐに我に返って笑顔に戻しながら俺にそんな言葉をかける――無意識にやっていて気が付かなかったが、どうやら笑顔を浮かべていたらしい。

「そ、そうか? 自分じゃ自覚してなかったからな――よくわからん」

「そ、そうなんだ。前にあった時は殆ど表情変わらなかったから私もちょっと驚いちゃったよ」

 正直リラの発言はかなり恥ずかしいものであったため、顔が赤くなっている気がする。リラも何だか照れているのか顔が少し赤い。

「おーい、2人揃って何をやっているんだ? 話をするなら、せめて歩きながらにしてくれ。今は早く行こう」

 2人でまごまごしている間に、後ろで呆れた顔をしているダイコクがそう注意してから背を向けて歩き出す。

「ご、ごめんなさい、父さん! イツキ、それじゃあ行きましょ!」

 リラは顔を真っ赤にしながら慌ててダイコクに駆け寄る。その光景に苦笑しながら俺はこれからの行動を頭に思い浮かべる。

 まずは体を休ませ、その後2人から召喚師が住んでいそうな場所を教えて貰う。事情も説明しなければならないだろうから時間が掛かるがそれは仕方がないだろう。

「アメルたちが、無事でいてくれるといいんだが」

 2人との出会いが、早く合流できるキッカケとなる事を祈りながら、俺は遅れないよう2人の背中を追いかけた。

 


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