◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第一位と滝壺

 一方その頃、珱嗄はとある場所で寛いでいた。周囲には誰もおらず、紅茶を飲みながら少し考え事をしていた。その内容は、自身の肉体について。

 最近、というよりこの世界に来てからだが、珱嗄は疲労の所為なのか寝ることが多くなった。まぁ以前に比べてという話だが、確実に睡眠時間が増えている。珱嗄としてはそれでも全然構わないのだが、これまでずっと転生してきて、能力は多種多様に変化したのに対し、衰えを見せなかった身体能力が段々と落ちている気がするのだ。

 

 何故なのかと問われれば、神様がそういう風に弱体化した、としか思いつかないのだが、果たしてそうなのかと思い始めた。

 

 神様が手を加えるとすれば転生する直前の時のみで、今までもそれ以降は問題児の世界でのスキル没収以外は何の干渉もして来なかった筈だ。なのに、今の自分は日に日に身体能力が落ちている気がする。これはどういう訳か、神様の干渉以外にも何か要因がある気がしてならない。

 

「……もしかして、そういうことなのか……?」

 

 だが、珱嗄には一つ思い浮かんだことがあった。それは至極当然で、少し考えればすぐに分かる当然の結論。

 だが、もしもそれがそうだったとしたら、珱嗄はきっと――――

 

「……まぁそれはそれで、面白い」

 

 珱嗄は呟き、その可能性を頭の隅に追いやりながらも享受する。もしも、もしもの話なのだ。そして例えそれが本当にそうなるとしても、珱嗄としては本望。そうなったとしても寧ろ歓迎するべきことだと思った。

 

「さーて……誰が来るのかねぇ、俺の所に」

 

 珱嗄はそう呟いて、ゆらりと笑った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 滝壺理后は、珱嗄を探す上で能力を使うことにした。珱嗄もまた能力者、『逸らす能力』に関してはAIM拡散力場をしっかり放っているのだ。それを捉える事が出来れば、珱嗄を見つける事など簡単だ。

 しかし、こんな場面で『体晶』を使わないと判断する位には、滝壺も無謀では無い。あれは身体に多大な負荷を掛けるのだ。

 

 故に、滝壺はふらふらと歩きながら、普段漂っているAIM拡散力場の流れの中から、珱嗄のAIM拡散力場を探すことにしたのだ。『体晶』を使わずとも彼女はAIM拡散力場を感知する能力者、学園都市に数多く存在するAIM拡散力場を感じ取って、意識的に探る事も出来る。まぁ干渉する事や正確な位置まで分かる訳ではないが、大体こっちの方角? といったふうに、なんとなく感知する程度のことは出来るのだ。

 

「…………こっち……?」

 

 珱嗄の能力がオンリーワンの能力であることが幸いした。今の滝壺は、あまり感じた事のないAIM拡散力場の方へと足を向けている。少しづつ、けれど確実に彼女は珱嗄へと近づいていた。

 

「あ」

「あァ?」

 

 だがそこで、路地裏へと入った滝壺は、真っ白い少年に出会った。

 学園都市第一位、最強のレベル5―――『一方通行(アクセラレータ)』である。彼もまた、オンリーワンの能力者故に、滝壺の感知に引っ掛かった様だ。

 

 しかし流石は路地裏に入ればなにかしら起こることで定評のある学園都市、一方通行は絡んできた不良達をシメている最中だった。

 

「オマエ……あァ、オマエがアイツの言ってたこっち側の奴か」

「……第一位……珱嗄さんの居場所のヒント、持ってる?」

「あァ持ってンぜ、一応アイツからメールが届いたからなァ……まァ俺にも得があることだし、付き合ってやンよ」

「教えてくれる?」

「良いぜ、俺の出す試練を乗り越えたらな」

 

 月詠小萌同様、彼もまた試練を出すことを珱嗄から指示されていた。

 滝壺は彼の言葉に首を傾げ、次の言葉を待つ。

 

「そう身構えンなよ……簡単なことだ。さっきまで居たクソガキがどっか行きやがってなァ、そいつを連れて来てくれりゃ教えてやる」

「……クソガキ?」

「第三位のレベル5をちっさくした様な奴だ……っと、写真がある、赤外線で送ってやンよ」

「うん……分かった」

 

 試練は打ち止めの捜索だった。本当に先程まで一緒に居たのだが、気が付いたら何処かへ行っていたのだ。故に、彼はこの際だから手伝わせてやろうと思っている訳だ。

 

 とはいえ、本来なら何処の誰とも知れない人間に打ち止めの捜索を頼むのは学園都市の闇に関わる意味でも気が引けるのだが、人手はあって困る物ではないし、打ち止めの捜索に使っても良いと思う程には珱嗄の事を信用している証でもあった。

 

「この子、本当にレールガンに似てるね」

「まァ色々あって俺が面倒見てンだよ」

「ロリコン?」

「違ェよ!」

「大丈夫、例え第一位がロリコンでも私はそんな第一位を応援してる」

「ぶっ殺すぞテメェ」

「それじゃ私はこの子を探す、それじゃ」

 

 滝壺は、ギロリと睨んでくる第一位の視線から逃げる様にその場を去る。流石は第一位、殺気も尋常ではない程に濃かった。暗部に居る自分でもあまりお目にかかれないような迫力だった。

 

「……ハァ……やっぱアイツの知り合いだな、めンどくせェ……」

 

 そして去っていく滝壺の背中を見送りながら、第一位はそう呟いた。

 

 


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