◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
月詠小萌は、自分の下へやってきた珱嗄からのメールを見て、少しだけ目を丸くした。何故なら、自分は珱嗄にメールアドレスを教えていないし、またその内容も驚くべきことだったからだ。
メールにはこう書いてあった。
『小萌ちゃん小萌ちゃん、今俺が面倒見ている4人の子供がいるんだけど、その子達とゲームする事になったんだよねー、ちょっと協力者になってくれ』
最初にそう始まり、ゲームの説明を読んでいく。どうやら珱嗄は自分に珱嗄の居場所のヒントを持つ人物になって欲しいらしい事を理解すると、小萌はそのヒントがどういうものなのかも読んだ。どうやら拒否するとは微塵も思っていないらしいところが、珱嗄らしいなぁと思う小萌だった。
そして、アイテムの4人の容姿や特徴を把握すると、最後にこう書いてあった。
『この4人が参加者で、多分小萌ちゃんのことをすぐに見つけると思う。ヒントは何の対価も無く渡さないでね、なにかしらの試練を用意して欲しい。そこはまぁ小萌ちゃんに任せるよ。行動に制限は付けないし、よろしくね。第七学区は出ないで欲しいんだけど、用事があるならそっち優先して貰って構わないよ。ああ、そうだ茶髪のちんちくりんの子は試練があるって言ったら『超なっ……!』って言うと思う(笑)』
なんでこんなゲームをしているんだと思ったけれど、行動に制限が付かないというのなら構わないかと思った。
正直教師として色々と仕事はあるけれど、自分を見つけて来た時だけ相手すればいいのなら別に良いだろうと思う。
「ん?」
と、小萌はメールにまだ続きがあると分かって下にスクロールしていく。すると、
『ちなみに、協力してくれたら報酬として願いを何でも一つ叶えてあげよう。生徒の成績向上から不良更生、欲しい物があれば買ってあげてもいいし、仕事を手伝えというなら手伝おう。何でも叶えてあげるよ。まぁ強制じゃないから、協力してくれるなら空メール送ってくれる?』
小萌は無言で空メールを送り返した。
◇ ◇ ◇
それからしばらくして、本当に茶髪で小柄な子がやってきた。名前は確か絹旗最愛、珱嗄のメールに書いてあったことだ。どうやら先生なのに小学生みたいな容姿だからすぐに分かったらしい。少しだけむっとした。
だから試練はちょっと意地悪にしてやろうと思った。
「ほほお、まぁ良いでしょう……確かに私は珱嗄ちゃんの居場所のヒントを知っています。でも、ただで教えるわけにはいきません!」
「なっ……」
「あれ? 珱嗄ちゃんのメールではこう言ったら『超なっ……!』って返って来るって書いてありましたが、違いましたね」
「何でもかんでも超超付けるわけじゃないです!!」
「超ややこしいですねーふふふっ」
生意気ではあるけれどやはり子供、言い負かして少しすかっとした。大人げない? どうせ私は小学生ですよー。なんて思っていた。
そして、試練はなんだと問われて、内容を説明する。
「うふふ、先生の出す問題を3問答えられたら教えてあげますよー」
「問題……ですか?」
「はいー、私が出す問題に答えるまでの制限時間はありません。そして、私の出した問題の答えを誰かに聞きに行くのもおっけーです。ただし、私はこの場に留まってはいませんので、答えが分かったらもう一度探して下さいねー、先生も忙しいのですよー。あ、もちろんこの場で分かればすぐに答えてもらって構いませんよ?」
3問、問題に答えるだけでいい。
但し、ここで少し意地の悪い言い方をした小萌。答えを探しに行っても良い、でも自分は此処には留まらない、答えが分かったら言いに来る、これだけ言うと、絹旗最愛はどう思うだろうか?
当然、答えを探しに行くゲームだと思うだろう。そう、『正解』を探しに行くゲームだと。
でも小萌は別に『正解』を答えろとは言っていない。問題に対して間違えても良いから『答えられれば』このゲームはクリアなのだ。
しかし、小萌の言い回しと『問題に対する答えは正解である』という先入観から、絹旗最愛はまんまと引っ掛かってしまっていた。
結果、問題を出した小萌に対して、彼女は背を向けて駆け出して行ったのだから。走り去っていく絹旗の背中をニッコリ笑顔で見送る小萌。
「ふふふ、ちょっと意地悪でしたかねー」
クスクスと笑う小萌。このゲームは別にクリアさせてもさせなくてもいい、小萌にとってなんの損得はないからだ。ならば、ちょっと戯れてみるのもいいだろうと思ったのだ。自分の生徒でなくとも、この学園都市の生徒ならば教師として真摯に立ち向かう彼女だが、別に生徒に優しく接するばかりではない。
ちょっと意地悪な性格で、暗部で過ごしている絹旗最愛を煙に巻いた教師、月詠小萌だった。
「あのーちょっと良い?」
「はい?」
「もしかして珱嗄さんのヒント持ってたりする?」
そう言って話し掛けて来たのは、金髪にベレー帽の少女。フレンダだ。
「えっと、なんでそう思ったんですか?」
「いやー知らないんだったら良いんだけど……正直誰がヒント持ってるかなんてわからないから……結局手当たり次第に聞いてる訳よ」
絹旗と違って、フレンダはバカだった。もうレベル5とか探しても見つからないし、いっそ数打てば当たる作戦に出たのだ。行きかう人全てに珱嗄の居所のヒントを持っているかを聞いて回っているらしい。
「……はい、持ってますよー」
「ホント!?」
「ええ、でも先生の出す問題に3問答えられたら教えてあげますー」
「よーし! 頑張って答えちゃうんだから!」
やる気満々で身構えるフレンダ。小萌はこういうちょっとお馬鹿な子は嫌いではない、故に絹旗の様な言い回しはせず、素直に問題を出してあげた。
「第1問、私の名前はなんでしょう?」
「えっ……えーと……分かんない」
「うふふ、じゃあ第2問、この学園都市にはレベル5はどれだけいるでしょうか?」
「あっ! 知ってるよ! 7人!」
「正解です、それじゃあ第3問、珱嗄ちゃんの居場所は屋外でしょうか? 屋内でしょうか?」
「え……っと……屋外?」
小萌は第3問で珱嗄の居場所のヒントを教えてあげた。
「正解ですー」
珱嗄の居場所は、『屋外』。これが彼女の持っている珱嗄の居場所のヒントだった。
「……あっ! 屋外ってこと?」
「はい、そうですよ。珱嗄ちゃんの居場所は第七学区の屋外です」
「で、でも……私3問正解してないよ?」
「私は3問答えたら教えると言ったんですよ? 分からない、も立派な回答ですよー」
「…………あっ! ずるい!」
「うふふ、それでは頑張ってくださいねー」
小萌はそう言うと、その場を去る。フレンダは意地の悪い子供だなぁと思いながら、手に入れたヒントを携帯にメモして、その場を駆けていく。次のヒント保持者を探しに行ったのだろう。
小萌は久々に面白い子に会えたなぁと思いつつ、機嫌良さそうに歩いて行った。
フレンダ、ヒントゲット。絹旗、ざーんねーん!