◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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日常編 変革

 その日はアイテムとしての仕事も無く、暇だったから四人はどこかへ暇潰しに遊びに行こうと画策していたのだ。珱嗄も含めていつものファミレスの一角を占領し、窓際で頬杖を付きながら寝る珱嗄を余所に四人が話し合っていた。珱嗄が寝ているのは、退屈だからだ。

 持ち込み禁止なのも分かっていながら、注文はドリンクバーのみで、麦野沈利は鮭弁を、その隣でフレンダは鯖缶を食べている。所謂お誕生日席に座って映画のパンフレットを開く絹旗は、靴を脱いで椅子の上に体育座りをしており、麦野の対面に座る滝壺はふらふらと今にも眠ってしまいそうに船を漕いでいた。ちなみに珱嗄はその隣、フレンダの正面だ。

 

 話し合いと言っても、出た案は絹旗の映画館しかなく、他のメンバーは特に案を出したわけではない。といっても絹旗以外は映画館で見たい映画は特になく、あまり気乗りしない様子だ。

 

「暇ねぇ……」

「そうだね……花の乙女がこんなファミレスで駄弁ってるだけだなんて……結局退屈は敵な訳よ」

「だから超映画行きましょうよ、今ならC級映画で超気になる作品があるんですって」

「やぁよ、絹旗……アンタがそう言って面白かったことなんてないんだから……」

「…………ふみゅ…」

 

 つくづく退屈そうに話す三人だが、滝壺はついに限界が来たのか横にいた珱嗄の肩に頭を乗せる形で眠ってしまった。その拍子に珱嗄が起きる。

 

「ん……ああ、滝壺ちゃんか……よっと……ふあ……」

 

 珱嗄は肩に乗ってきたのが滝壺だと分かって、頬杖を解いてその背を背もたれに寄り掛からせた。そして滝壺を膝に乗せてぐいーっと伸びをする。ちなみに膝枕にしたのは座っている以上そっちの方が楽であることと、前回枕になっていたことのお返しみたいなものである。

 それを見たフレンダが若干羨ましそうにしていたが、すぐに鯖缶に喰らい付いて意識を逸らしたようだった。麦野はそんなフレンダを見ながら嘆息する。

 

「珱嗄、貴方もなにか案出しなさいよ。このままじゃ暇すぎてそこらへんに一発ぶちかましそうだわー」

「ふーん……アレイスターに悪戯電話するのも飽きたし……そうだなぁ、いっそレベル5何人か呼ぶ?」

「いまサラッととんでもないこと言ったわね。統括理事長と連絡取る伝手があるっての?」

「ほら、番号交換してるし?」

「友達か!」

 

 珱嗄に聞いた私が馬鹿だった、と麦野は溜め息を吐いた。規格外な珱嗄にかかれば少しは面白いことになるんじゃないかと思ったけれど、出て来たのは暗部の自分でもちょっと勇気がいる遊びばかりだったからだ。

 このままじゃいつも通りファミレスで駄弁って終わりそうだ。それも少し遠慮したい。

 

「じゃ、ちょっとしたゲームをしようぜ」

「ゲーム?」

「俺が今からこの第七学区の何処かに隠れるから、一番に見つけた人の勝ち。勝者にはご褒美を、てね」

 

 ゲームと聞いて身構えた物の、以外に面白そうなものを出してきた珱嗄。麦野は少しだけ感心した様な声をあげた。そして、フレンダと絹旗も鯖缶やパンフレットから顔を上げて興味津々といった表情を浮かべた。

 

「ルールは簡単、俺は第七学区の中の何処かにいて、そこからはけして動かない。今が……10時42分だから11時までに隠れるよ、11時になったらゲーム開始、全員俺を探して第七学区内を探してくれ」

「ちゃんと第七学区内よね?」

「ああ、ただなんの手がかりもないってのはフェアじゃない。だから俺の居場所のヒントを持ってる奴を数名用意しておく、誰かは教えないけど俺の知り合いっぽいのを探せば分かるよ。皆大体特徴的な容姿してるから。制限時間は13時までの2時間、それまでに見つけられなかったら俺の勝ち、俺の言うことをなんでも一つ聞いて貰う」

 

 珱嗄の説明を聞いて、うんうんと頷く麦野達。参加する気は満々のようだ。

 

「その代わり、超見つけられたらその人は珱嗄さんになんでも言うことを一つ、超聞いて貰えるってことですか?」

「まぁそれでいいならそれでもいいけど、欲しい物があれば用意してあげても良い」

「そ、それって結局勝ったら珱嗄になんでも要求していいってこと!?」

「その通り、世界が欲しいと言えば世界征服のお手伝いをしよう、恋人が欲しけりゃそれなりに出会いの場を設けてあげよう、俗物的な物が欲しければ買ってあげよう」

 

 それは、彼女達にとってとても豪華な報酬だった。珱嗄を見つけた場合、自分の欲しい物を四つ葉のクローバーから世界まで用意してくれるというのだ、乗らない理由は無かった。

 いつのまにか珱嗄の膝を枕にしていた滝壺も眼を覚まし、膝を枕にしながら珱嗄を見上げている。その眼はぼーっとしているように見えて、やる気に満ち溢れていた。

 

「良いわ、やりましょ」

「超負けません」

「結局、私が一番最初にみつける訳よ!」

「……頑張る」

 

 四人がやる気になった所で、珱嗄は苦笑し立ち上がる。滝壺はその拍子に上体を起こして席を立った。

 珱嗄はテーブルから離れて、隠れ場所に行くべく動き始める。

 

「それじゃ、11時までゆっくり作戦でも練ると良い」

 

 珱嗄はそう言って、ファミレスから出て行った。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 そして11時になったその頃、アイテムの四人が動き出すと同時……数名の人間にゲームの内容が伝達された。

 

 

「あァ? なンだこりゃ……へェ、おもしれェことしてンじゃねェか」

 

 

 白髪赤眼の少年はメールの内容ににやりと笑った。

 

 

「はいはい……珱嗄さんか、嫌な予感がしますよー……なになに……って案の定か……不幸だ……えーと……なっ、まさかそんな……よーし! やる気が出て来た!」

 

 

 ツンツン頭の少年はメールを読みながらガッツポーズを一つ。

 

 

「なによぉ……メール……お、珱嗄さん!? ど、どどどうしよう……えーと……えっ、これって本当? だとしたら……やらない理由はないわぁ☆」

 

 

 金髪をたなびかせ、瞳をキラキラと輝かせる少女はメールを読んで一考し、その瞳に燃えるようなやる気を見せた。

 

 

「はて……誰ですのこのメール……迷惑メールでしょうか……何々……私の名前を知ってる? ただの迷惑メールでは無いようですわね……なっ……これは……! これが本当だとすれば……お姉様が……!!」

 

 

 ツインテールの風紀委員は見知らぬ誰かからのメールを読み、戦々恐々と身体を戦慄かせた。

 

 

 暗部、アイテムを発端としたゲームは、あらゆる人間を巻き込んで……始まろうとしていた。

 

 


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