◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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DTS

 ビアージオと珱嗄は、相変わらず対峙していた。珱嗄の中二病発言が元で、ビアージオは遠い眼をしている。

 

「なんだ中二病とは」

「えーと、いい年こいて痛い発言している人のこと?」

「私は中二病では無い」

「いやいや、中二病だよきっと、刻限のロザリオとかまさにそうじゃん」

「ふざけるな、私は真剣に祈りをささげる司教だ」

 

 ビアージオはそこだけは譲れないのか、首に下げた幾つもの十字架を見せながら珱嗄に言う。だが、珱嗄はそれを嘲笑して切り捨てた。

 

 そんなこんなしている内に、珱嗄の入ってきた壁の大穴は塞がってしまったが、未だに戦闘は開始されていなかった。

 寧ろなんだか分からない言い争いが始まっている。わーわーと言い合う珱嗄とビアージオ、中二病では無い、いや中二病だ、と言い合って、話が段々と脱線してきている。

 

 そうしていると、なんだか中二病ってなんだという感じにゲシュタルト崩壊が起こり始め、神妙な表情で二人は中二病について語りだした。

 

「中二病とはおそらく、敬虔なる信徒が欲に駆られて届かぬ頂きに手を伸ばそうとする病ではないだろうか、私の様に司教になる訳でもなく、ただ己の欲望に呑まれ、蝋で出来た翼で太陽に手を伸ばすかのような愚行を犯す者」

「いや、もしかしたら中二病っていう名前自体に意味があるのかもしれない。今でこそ漢字で表記された名前だけど、学名的な正式名称がある筈だ。多分、中二病っていうのは略称なんだよ」

「なるほど……深いな……だがどうだ、学名も正式名称も分からぬ今、この病の真実を見出すことは不可能になるのではないか?」

「いや、だとしても中二病っていう名前自体はヒントとして成り立つ筈だ……一回英語にしてみるか……」

「ふむ、英語だとするならば……During two sicknessか?」

「そこから何か、ヒントはないか探すんだ……DTS……」

「……DTSか……英語から略してみた訳だな」

「ああ……これをもう一度日本語にすると……童貞少年(DoTeiSyounen)……か」

「つまり、中二病とは性交渉をしたことのない男、ということかね?」

「あくまで可能性の一つだ……とすれば、お前は司教だったか。経験は?」

「……むぅ…………私はこの身を神に捧げた身、そんな行為をするわけには……!」

「やっぱ中二病じゃねぇか!! DTS! DTS!」

「煩い! あくまで可能性だと言ったのはお前の方だろう! DTSというな!!」

 

 議論の結果、DTSという新たな言葉を生み出した珱嗄とビアージオ。その光景はどうにもこうにも、高校の修学旅行就寝時の会話のようだった。

 結論を言えば、男は皆、坊やである内はDTSということさ。

 

「じゃあお前は経験があると言うのか?」

「当然だろうが、とっくの昔に卒業したわ」

 

 おおよそ3兆年程昔に、とは言わない珱嗄である。

 

「つまりこの場においてDTSはお前だけだよDTS」

「くっ……認めるしかないというのか……!!」

「だが、恥じることじゃねぇよ。お前はその年まで自分の大切なものを護り抜いてきたんだろう? だったら誇れよ! それは……誰にでも出来る事じゃねぇんだぜ?」

 

 膝を付き、項垂れるビアージオに、珱嗄は手を指し伸ばす。ビアージオにはそれが救いの手に見えた。

 お前は間違っていない、お前の人生においてDTSであり続けたことは誇っても良いのだと。その時、彼は珱嗄の背中に光差す後光を見た気がした。

 

 自然と、涙が出た。

 

「……良いのか……私は、DTSでも、いいのか?」

「良いに決まってるだろ、世の中にはそういう奴がいっぱいいる……お前が変えてやれよ、切り開いてやれよ、そいつらに教えてやれよ――――DTSを誇れと」

 

 ビアージオは、珱嗄の手を取って涙を拭く事も無く立ち上がる。これから、自分にはやらねばならないことが一つ、増えたようだと思いながら、しかし口端は笑みを浮かべている。

 晴れ晴れとした気分だった。自分は神以外に、新たな光を見つけた気がした。これからは、神と同様に、この男の示した言葉を信じてみようと思った。

 

「ああ……私はやり遂げて見せる……この世の全てのDTSにこの光を届けて見せる!」

「……良い顔になったじゃないか、応援してるぜ」

「ありがとう、もしもそれが出来た時は……必ず報告しよう」

「ああ、その時は俺の奢りで美味い酒でも飲もうぜ」

「ふっ……私は神に仕える身……ワインならば付き合おう」

 

 珱嗄とビアージオは笑みを浮かべて、固い握手をする。そこには、二人にしか分からない奇妙な絆があった、二人にしか分からない光があった。

 

 そして、刻限のロザリオや女王艦隊のことは、すっかり忘れてしまっていた。

 

 


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