◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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氷の部屋の中で

「で、どうするんだ? 珱嗄さん」

「どうするって……俺明日の昼位には日本に帰らないといけないし、日帰り旅行だから」

「日帰り旅行でこんな状況に陥るなんて、珱嗄さんも大概だな……」

「お前の不幸が原因じゃね? うん、絶対そうだよ」

「絶対なの!?」

 

 氷の巨大船の一部屋に隠れた上条当麻達は、呑気にそんな会話をしていた。正直、この船がなんなのか良く分かってはいないけれど、正直敵がどういうものなのかも分かっていないし、とりあえず寛いでいれば良いかなーという雰囲気になっている。

 珱嗄はもともとイタリアに来た時、海中に何か妙は気配を感じていたから正直あまり驚いていない。気配察知能力は正常に働いているようだ。とはいえ、その気配は一つではない。怪訝に思う珱嗄だったが……それはすぐに分かった。

 

 

 外から爆発する様な轟音が轟いたからだ。

 

 

 部屋に付いていた窓から外を見る。すると、そこから見えた外は海になっており、連続して同じ巨大な船が海中から現れてきていた。

 上条達は驚いていたが、珱嗄はあーやっぱり? 的な表情で窓から離れた。

 

「インパクトに欠けるよなぁ……魔術ってのはエンターテイメント性を持つべきだよ。もっとこう……人類が滅亡する的な衝撃が欲しいよなぁ……」

「そんな魔術がほいほい発動したら世界は終わったも同然なんだよ……」

「良いよ別に、世界が滅んでも俺は生きるから」

「凄い自分勝手なんだよ!?」

「ごめんねインデックスちゃん、ほら俺って自分が良ければ他は死んでも良いと思ってる所あるじゃん?」

「知らないんだよ!?」

「分かりやすく言うとあれ……お菓子が一個あって、10人の子供がいるとすんじゃん? 俺はその子供達からお菓子を奪い取って食べるんだ、ほらこれでみんな平等だろう?」

「ただの大人げない奴かも!! そんな平等からは不平不満しか生まれないんだよ!!」

「上手い」

「何が!?」

 

 インデックスをあらかた弄ってゆらゆら笑う珱嗄。多少気が紛れたようだ。

 とはいえ、此処からどうしたものかと考える。この船の中にいる人間の気配は全て把握している。此処に近づいている気配が一つあるのもちゃんと把握している。そこまで強い気配ではないから一撃でカタが付くだろうが、見つかれば他の奴らも集まってくる可能性がある。

 

 それは面倒臭い。

 

「オルソラ、これどういう状況か分かるか?」

「さぁ……私は魔導書や魔術の解析読解が専門なので……」

「インデックスは?」

「……多分この船と他の多くの船は『女王艦隊』、ローマ正教の保有する大規模魔術『聖霊十式』の一つで、同名の旗艦内で発動されるもの。ヴェネツィア、及びそこより齎された文明を破壊する大規模な魔術で、対ヴェネツィア用の切り札の霊装―――『アドリア海の女王』を護る護衛艦……どちらかといえば敵の本拠船は別にあるんだよ」

「ヴェネツィア用の兵器ってことか……でもなんでそんなものをローマ正教の奴らが使うんだ? ヴェネツィアはローマ正教の領土だろう?」

 

 流石は10万3000冊の魔導書を記憶している禁書目録、当然のようにこの状況を作り出している魔術を悠々と看破した。

 だが、看破した所でまた新たな疑問が出てくる。ローマ正教の保有する自分の領地専用の大規模な魔術霊装を、なぜローマ正教が自分の領地で発動しているのか。訳が分からない。

 

「そんなこと考えても仕方ねーだろ。どっちにせよ、俺らはその圧倒的な兵器の銃口が向いた領土にいて、実際その兵器が起動してんだ、止めないと俺のイタリア旅行がおじゃんになるだろう。流石に荒廃したイタリアを観光したいとは思わないぞ俺」

「そういう問題?」

「まぁ……そうなのかもしれないんだよ」

「であれば、必ず止めないといけませんね」

「さし当たって……」

 

 珱嗄は立ち上がり、入口の扉に歩み寄る。どうした? と思う上条当麻達だが、その理由はすぐに分かった。扉のドアノブががちゃっと音を立てて回ったのだ。

 

「「「っ!?」」」

 

 扉が開く。だが、珱嗄は開き掛けた扉を強引に開けて、入ろうとした人物の頭を掴み、壁に叩き付けた。

 

「ふぎゅっ!?」

 

 そしてそのまま動かなくなったその人物、いや少女を珱嗄はアイアンクローのまま持ち上げた。ぶらーんと空中で足が揺れる少女の服装は、ローマ正教の修道服というよりはドレスのようにかなり露出が多い。見てみると、その少女の顔は見たことがあった。

 

「あ、見たことあるぞこの顔。なんだっけ、赤毛のアン?」

「結構掠ってる……アニェーゼだよアニェーゼ!!」

「あー……あのジャンケン選挙の」

「AK○48!?」

「なんでこの子が? ……まぁいいか、上条ちゃんちょっとこの服に触れてみて」

「ん? ああ」

 

 空中にぶら下げたまま珱嗄はアニェーゼを上条の方へと向ける。すると、珱嗄の言う通り上条当麻は黒い手袋を外してそのアニェーゼの服に触れた。

 

 

 ―――甲高い砕けるような音がした。

 

 

 次の瞬間、アニェーゼの服は頭のフード以外がするりとバラバラの布と化した。インデックスの歩く教会を破壊した時と同じだ、彼女の服は霊装だった。だから幻想殺しによって破壊されたのだ。アイアンクローで宙に身体がぶら下がっている彼女の身体は、一糸纏わぬ裸である。

 

「うん、このままその窓から海に捨てよう」

「待って!? それは死ぬ、死んじゃうから!!」

「とうまは早く眼を塞ぐんだよ!! がぶっがぶっ!!」

「うぎゃああああああ!!」

「静かにしろよ、敵に居場所がばれるだろ」

「お前のせいだよね!? 限りなくお前が悪いよね!!?」

 

 裸のアニェーゼを部屋に放り投げながら、珱嗄は責めるような眼で上条当麻を見て、インデックスはそんな上条当麻の頭に噛みつき、上条当麻はひたすら不幸だと内心で叫んでいた。

 

 それからアニェーゼが起きるまで、再度部屋の中で待機することとなったのだった。

 

 

 


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